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SICASの第1四半期データ分析から見えてくる、半導体産業の大きな流れ(2)

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2011年第1四半期におけるシリコンICの生産能力・実投入枚数のデータにおいて、MOS ICのμm別のデータが面白い傾向を示していることに気が付いた。それは、MOS ICの生産能力も投入数も0.12μm以上だとほぼ横ばいで推移しているのに対して、0.06μmから0.12μm未満までのウェーハは減衰、0.06μm未満のウェーハは増加傾向を示していることだ。

図1 μm別MOS ICの生産能力と稼働率 出典:SICAS

図1 μm別MOS ICの生産能力と稼働率 出典:SICAS

図1 μm別MOS ICの生産能力と稼働率 出典:SICAS


図2 MOS ICのμm別の生産能力と実投入枚数

図2 MOS ICのμm別の生産能力と実投入枚数

図2 MOS ICのμm別の生産能力と実投入枚数

図2 MOS ICのμm別の生産能力と実投入枚数

図2 MOS ICのμm別の生産能力と実投入枚数

図2 MOS ICのμm別の生産能力と実投入枚数

図2 MOS ICのμm別の生産能力と実投入枚数

図2 MOS ICのμm別の生産能力と実投入枚数(上から、最も微細な60nm未満、60〜80nm、80〜120nm、0.12〜0.2μm、0.2〜0.4μm、0.4〜0.7μm、0.7μm以上の推移) 出典:SICAS


図1はMOS IC全体の動向をμm別に生産能力と実投入枚数でみたものだが、全体的には0.06μm(60nm)未満のICは生産能力も実投入枚数も伸びている様子がわかる。また、60nm未満ではないウェーハプロセスのICは共存し続けているように見える。

しかし、μm別データをそれぞれ見ると(図2)、最初に述べた傾向があることが読みとれる。リーマンショック後の2009年第3四半期以降では60nm未満のプロセスウェーハだけが着実に伸びているが、60nm〜80nmプロセス、80nm〜120nmプロセスのウェーハは生産能力、実投入枚数共に次第に減っている。ところが、0.12μm〜0.2μm、0.2〜0.4μm、0.4〜0.7μm、0.7μm以上のプロセスのウェーハはリーマンショックから回復した後は生産能力、実投入数ともに維持しているのである。

カギはArFレーザーの波長
なぜか。その境目を左右するのがリソグラフィ技術である。ArFレーザーの波長は193nm、すなわち0.193μm。波長よりも細いレジストパターンを加工する場合には、パターンの幅方向の光はマスクの開口部に入りにくく、パターンの長さ方向は入りやすい。このため、パターンが常に一定方向に向いていれば加工しやすいことになる。130nm辺りから波長の影響が出始め、90nmになるとマスクパターンを修正して望むようなレジストパターンが描けるように、いわゆるOPC(optical proximity correction)補正処理を行う。

さらに65nm、40nmと微細化され回路が複雑になると、プロセスバラつきと、温度や電圧などの変動が相まって正常に動作しなくなる恐れも増してくる。このため、マスクパターンの修正はEDAの段階から行い、いわゆるDFM(design for manufacturing)としてレジストパターンがブリッジを起こしやすい個所など不良になりやすい個所をホットスポットとして予め設定しておき、パターンを修正しておく必要がある。このマスクパターンの修正作業は気の遠くなるほどの複雑で膨大にあり、微細化と共にコストや作業量が大きくかかりすぎるようになる。このためEDAツールは欠かせない。

40nm、32nm、28nm、20nmとさらに微細化が進むと、DFMの作業はとてつもなく大変になる。しかし、28nmや20nmといった最先端の微細加工技術は他社には実現できないため大きな差別化技術となりうる。このため最先端のプロセスを開発しているIDMのインテルやサムスン、東芝などとファウンドリのTSMCやグローバルファウンドリーズは惜しげもなく1000億円単位の投資を行い、他社との優位性を保とうとしている。

一方、0.2μm以上のArFレーザーの波長よりも長いパターンは、このような面倒なことは行わなくても意図した通りのマスクパターンで設計図ができる。マスク設計の改善に次ぐ改善に工数を取られることはない。その代わり、こういった緩いパターンで勝負できる半導体メーカーは付加価値の高い機能や企画力、独自のアルゴリズムといった技術マーケティング力を売り物にしている。

つまり最先端の微細化でリードするか、微細化とは無縁の緩いプロセスを使い機能や企画力(マーケティング力)で勝負するか、いずれかの時代になってきたということだ。中途半端なプロセスこそ、65nm、90nmなどである。だからウェーハ投入量が下がりつつあるといえる。40nmは間もなくこの仲間になり下がる。

また微細化プロセスは、かつての「世代」とは違う。90nm、65nm、45nm、32nm、などへと進むはずだったが、今や中途半端なプロセスをスキップして、いきなり微細化へと飛ぶことが多い。3〜4年前最初にインテルがAtomプロセッサを出してきた時、Atomは45nmプロセスで設計されたが、そのコンパニオンチップは130nmプロセスで作られていた。もちろんこのコンパニオンチップは90nm、65nmをスキップした。FPGAメーカーのラティスセミコンダクターは65nmチップの次には28nmチップへと飛ぶ予定だ(参考資料1)。

ファブライト戦略が危ういのは、この中途半端なプロセスに固執していることだ。微細化を進めるか、技術マーケティング力を高めるか、どちらかしか半導体メーカーの生きる道はあり得ないことをSICASの統計は教えている。

参考資料
1. 65nmの次は28nmデザインを推進するラティス、日本のファウンドリは市場喪失 (2011/05/25)

(2011/07/15)

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