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第3回SEMI太陽光発電技術シンポジウムから見る現状と将来展望(1)

セミコンジャパン2008に併せ、第3回SEMI太陽光発電シンポジウムが幕張で開催された。太陽光発電は、長期的な展望に立った技術であるため、現状と将来への展望について、業界を代表し、研究開発的な立場から産業総合研究所太陽光発電研究センター、セルやモジュールを生産するメーカーとして三洋電機、セルの鍵となる材料のシリコン立場からスペースエナジーからの発表をまとめた。まず、産総研の講演から紹介する。

薄膜シリコン太陽電池の開発ロードマップ


「太陽光発電技術開発の現状と将来展望」産業総合研究所太陽光発電研究センター
 二木 栄氏の講演

1.太陽光発電研究センターの概要
 再生化のエネルギーの中で太陽光が占める割合は、まだまだ小さいが、2030年では累積発電量102GWが想定され、太陽光への期待は大きい。
 世界の太陽光発電生産量は年率40%近く増加しているが、現在日本では停滞しており、今後は日本の生産量を増やす努力が必要である。2005年までは、日本が生産量シェアの50%を占めていたが、今はドイツのQ-Cells社等海外勢が伸び、日本のシェアは低下している。特殊なメーカーとして米国のSunsolar社は、CdTeを用いた太陽光モジュールでシェアを一気に伸ばしてきた結果、薄膜の生産量も伸び出している。

 PV2030のロードマップは、今見直し段階に来ている。このロードマップによれば、2030年には、日本の総電力量の10%を太陽光発電で賄う計画である。現在は、まだ2GWだが、2050年には50倍にする計画である。また現在の発電コストは、43円/kWhであるが、他の発電コストを考慮すると、2030年までにはこのコストを1/6〜1/7にしなければならない。さらなる技術革新と、性能の向上が必要だが、現状技術の改良では達成できないことがわかっている。これを達成するためには、革新的な技術が必要であり、現在産総研ではそのような革新的な技術の開発と研究を進めている。

 産総研は、2001年に行われた通産省の機構改革で、複数の国家研究所が1つの産総研になった。現在の研究者は、約2,700名で事務職員を合わせると3,000名を超える職員が勤務している。さらに、海外人員を含めると職員数は、5000人に上る。研究開発の組織としては、大きく研究部門と研究開発センターの2つがある。研究部門は、シーズを研究する役割を担い、開発センターは、目標を持って短期間に研究を行うことがミッションになっており、太陽光発電の研究部門は、この研究センターに所属する。

太陽電池研究部門のミッションは、下記である。
1)新規太陽電池材料及びデバイスの開発、評価
  →コスト低減、環境負荷低減
2)太陽電池の標準化と評価技術の開発
  →産業基盤の確立(国際競争力の強化)
3)太陽光発電システム運用、評価技術の開発
  →エネルギー源としての基盤強化
4)太陽光発電を通じた国際協力
  →国際貢献、競争力強化

 また、ポリシーとしては、「技術統合のためのプラットフォームを利用した迅速な産業化移転と中立立場での評価、政策策定への貢献」である。
 研究は、6のチームに分かれている。1)シリコン新材料チーム、2)結晶シリコンチーム、3)化合物薄膜チーム、4)評価・システムチーム、5)有機薄膜チーム、6)産業化戦略チーム

2.各種太陽電池の開発課題と産総研の取り組み
 太陽電池の種類は、大きく、1)シリコン、2)化合物系、3)有機系に大別できる。基本は、単結晶、多結晶のシリコン系の太陽電池であるが、シリコン原料不足から、薄膜系の太陽電池も伸びている。有機系は、色素増感と有機薄膜の2つの要素からなり、産総研では、要素技術の開発をやっている。有機系は、まだ先の太陽電池である。

2.1 結晶シリコン太陽電池
□現状と課題
 結晶系の太陽電池は、市場の9割をしめているが、シリコンの原料不足で、生産計画に影響が出ている。結晶系の太陽電池は、ウェーハ厚200μmの厚いSi結晶を使うため、低コスト化が必要になる。産総研では、低コスト化のために、下記の研究をおこなっている。
1)シリコン原料の使用量低減(50〜100μmの薄膜化、スライス技術、球状シリコン、光閉じ込め)
2)原料シリコンの開発
3)鉛フリーペースト
4)新構造(HIT等)

□多結晶の製造過程
 シリコンを高温で溶かし、固めて多結晶インゴットを製造し、切って基板を作る。現状の課題としては、薄く切れない、キリコのロス等があり、スライス技術は産総研でも重要な研究テーマである。現在の多結晶の実力は、小面積で19%、セルで18.5%、モジュールでは15%である。

□結晶シリコンの戦略
<薄膜化>
 産総研では、薄くても効率が出る太陽光セル開発をしている。従来の遊離砥粒と異なり、固定砥粒を用いて薄膜化を行っている。固定型の砥粒ワイヤーソーは、ピアノ線に砥粒を固定させて切る技術である。固定砥粒で切削したウェーハのキャリアライフタイムを比較すると、遊離砥粒に比べライフタイムが長い。これは、表面のダメージに起因しており、ライフタイムが短いと表面にシリコンにダメージがはっていることになる。恐らく、固定砥粒では、数μmのダメージであるが、遊離では10μmのダメージが入っているということが分かる。
<球状シリコン>
 スライスレス技術として、球状シリコンの研究を行っている。溶融したシリコンを油に落とし粒を固め、球状のシリコンを作る。2伉度の大きさでpn接合を作り、19の球を集めて変換効率11%程度が出ている。
<HIT型>
 HITの特徴は、製造プロセス温度が低いことである。HITは、単結晶シリコンの上にアモルファスシリコンを付ける構造をしている。アモルファスの膜厚の制御が重要なポイントであり、この薄膜制御技術を研究している。

2.2 薄膜シリコン太陽電池
 薄膜シリコン太陽電池の特徴は、下記のとおりである。
1)低温で形成可能、製造に要するエネルギーが少ない
2)使用原料を低減可能、低コスト
3)優れた温度係数(高温での性能低下は少ない)
4)デザインの自由度大
5)光照射下で性能低下(Stebler-Wronski効果)

産総研では、結晶シリコンを薄くして、54μmの両面ヘテロ構造の太陽電池を開発した。分光感度は、それなりにカバーできており、変換効率12%を達成した。光閉じ込め構造を導入すると、さらに効率は上がると予想される。

<研究の経緯>
 薄膜は、タンデム化が主流である。1976年にヌシャテル大でアモルファスの単接合が開発され、その時の変換効率は9.5%であった。1997年にはカネカが単結晶とアモルファスを組み合わせた2接合の薄膜を開発し、11.7%を実現した。これ以降、微結晶シリコンを用いた2接合が主流になり変換効率10%以上である。産総研では、もう一つ層を足して3接合の研究を行っており、目標は2010年に15%を目指している。

<トリプルタンデム型新構造太陽電池>
 トリプルタンデム型は、バンドの異なる物質を重ね、光吸収波長帯の異なる物質を使って、効率よく光を吸収する構造である。アモルファスSi(a-Si)と微結晶Si-Geを用いており、変換効率16%を実現した。今後は、ナローギャップ化により、高い赤外感度を得ることを目指す。

<薄膜シリコン太陽電池の技術課題>
 技術課題は、以下である。
 ・アモルファスシリコンの光劣化
 ・微結晶シリコンの高速堆積(微結晶シリコンは成長レートが1桁遅い)
 ・大面積堆積
 ・タンデム化
 ・透明電極、光閉じ込め
 ・フレキシブル化

<薄膜シリコン太陽電池の開発ロードマップ>
 産総研では、下記の4つの研究テーマを進め、CO2削減持続可能社会の実現を図る
1)高効率化技術の開発(多接合型太陽電池)2)高生産性技術の開発(高速成膜技術)3)高性能透明導電膜の開発(高移動度型材料)4)ヘテロ構造デバイスの開発(a-SiH/c-Si太陽電池)

□薄膜シリコンの戦略
<多接合化(微結晶SiGe)>
例えば、微結晶にGeを加えた微結晶SiGe薄膜太陽電池の開発を行っている。Geの濃度を変えることにより、光吸収を増加させ効率向上を図る。

<a-Si:H光照射効果の抑制>
 光照射によりa-SiH層内に欠陥が生成し、太陽電池の変換効率が大きく低下する現象がわかっている。これは、シランプラズマ中で形成した高次シランがa-SiHに取り込まれ光劣化を引き起こす現象である。トライオード法を使えば、高次のシランの混入を避けることができる。トライオード法とは、アノードとカソードの間に金属メッシュ電極を挿入し、プラズマを空間的に閉じ込める方法である。

<高生産性(高速成膜、大面積化)>
 超高速かつ大面積のマイクロ波表面波プラズマCVDの開発を名古屋大学と共同で進めている。

<高移動度電極膜/透明膜の開発>
 アモルファスは、1層だが、3接合は、間に透明電極膜が必要になる。従来のITOに対して、H2を導入した。抵抗率自体は変わらないが、移動度とキャリア濃度が違う。抵抗率を下げ、移動度を下げる、つまりキャリア濃度が高いことでキャリアの吸収が可能となる。移動度の高いのは、禁制帯でも透明になる。

2.3 化合物系薄膜太陽電池
<CIGSとは>
 CIGSは、昭和シェル等で開発を行っている化合物薄膜太陽電池である。-III-困離ルコパイライト半導体であり、禁制帯幅は、GaとInの濃度で制御できるという特徴がある。通常の化合物に比べ、ブレンドを2種類持つということで、カルコパイライトと呼ばれている。

<CIGSの特徴>
 構造としては、ガラス基板+金属電極+p-Cu(InGa)Se+CdS+iZnOから構成されている。特徴は、以下である
1)変換効率が高い(フィルファクタFF=19.5%)
2)吸収係数が大きく薄膜化可能(αから10の5乗/cm:Siの100倍/吸収層約2μm、全体で3μm)
3)経年劣化が無い
4)優れた耐放射線性(NASDA人工衛星で実証)
5)低コスト基板を使用可能

CIGSは、全材料250gで1軒分の太陽電池ができることも大きな特徴であり、省資源で少ない量で太陽電池ができる。量産化は、2007年から、昭和セルが20MWの製造を開始した。今後、80MW@2009、1GW@2010を目指している。他のメーカーとしては、ホンダとWuerth Solar、AVANCIS(サンゴバンの子会社)等、ベンチャーも含め20社以上が開発している。

CIGSは、効率が良いという特徴があるが、一方では、大面積では効率が下がるという問題がある。1平方cmの小面積では、20%弱の高効率だが、市販モジュールのような大面積では、10%程度の効率となってしまう。

現在約20%の高効率が得られたが,これ以上伸びるのか?理論的に言うと、変換効率は、禁制帯幅1.4〜1.5eVのバンドギャップが高い。CIGSは、Gaを増やすとEg=1.25eVで変換効率は最大になるが、それ以上のEgでは効率はそれから下がることが知られている。このため、産総研では1.3eV以上のワイドギャップの太陽電池の開発を進めている。これは、界面の問題が重要で、評価技術も合わせて開発している。

<大面積化>
 研究室レベルでは、3×3平方cmの小面積のガラス基板であるが、量産では、60×120平方cmの大面積が必要となる。産総研では、研究室レベルからさらに一歩踏み込んで、10×10平方cmまで実証する予定である。この実現には、従来の研究室レベルのプロセスに比べ、プロセスが大きく異なる。大面積モジュールは、Moのバックコンタクト形成後にパターニング工程が入り、さらにバッファを付けた後に2回目のパターニング、導電膜を付けた後3回目のパターニングが入る。このようなプロセスでは、太陽電池で動かない部分ができてしまう。

通常のCellは縦に電流が流れるが、新プロセスでは、透明導電膜Mo中の長い距離を電流が流れてしまい、このことにより抵抗が効くので、層が厚くならざるをえなくなる。層が厚いと光ロスが発生してしまう。これでは、さらなる大面積化は難しいのが現状である。また、結晶性がまだ良くなく、さらなる高品質化が重要であり、15.9%までは実現できる見通しである。さらに、生産技術では、固定の蒸着装置では事業化には遠いため、多元蒸着法を用いてインラインでプロセス化し、現在14.2%くらいまでの試作ができた。

また、CIGS吸収層への新しい添加制御技術(ASTL法)の開発により、さまざまなフレキシブル基板による高効率化にも成功した。基板材料には、セラミックスやチタン箔を選定し、最高効率17.7%を達成した。

2.4 有機系太陽電池
有機系太陽電池は、安くて、簡単にできるのが大きなメリットである。有機系には、下記の2種類がある。
 1:色素増感太陽電池(DSSC):光化学反応と液体の中をイオンが流れる現象を利用。液漏れなどの対策が必要。
 2:固体型薄膜太陽電池:シリコンと同様にpn接合が発電。有機ELと類似した有機半導体デバイスの一種。
 有機薄膜太陽電池の低分子は、蒸着法が一般的である。一方、ポリマー塗布系は、スピンコートで溶液を塗布して製造する。
 有機系太陽電池の特徴は、無機系に比べ電圧はやや劣るが、電流も非常に少ない。今後は、この電流量を多くするのが重要な研究課題である。現在の変換効率は、5.3%が世界最高であり、10%を目指している。
電流を増やすためには、光の吸収領域を拡大することが必要である。現状のp型有機半導体は、n層とp層の間だけが吸収層となっているが、このpとn層の間に共蒸着層(i層)を導入することにより、pn接合面積を増大させている。i層の膜厚と変換効率の間には厚さ依存性が存在する。i層を厚くすると、欠陥の中をトラップしてしまうため、キャリアが多く発生するが、途中でこの欠陥にトラップされキャリアが死んでしまう。今後は、i層の品質を上げることが重要である。

<高分子系太陽電池(P3HT:PCBM)>
 現状は、耐久性が問題である。スピン50時間で、変換効率は低下するが、もう一度熱処理を施すと変換効率は元に戻る性質がある。変換効率の低下は分子の劣化ではなく、トラップの影響ではないかと言われている。

<有機系太陽電池のまとめ>
 有機系太陽電池は、さらなる高効率化と耐久性の向上が課題である。これらを解決する方法としては、タンデム化が一つの方向性として、効率は低いが進めている。また、セルの特性は、デバイス構造に大きく依存するため、有機分子ごとに最適なデバイス構造を開発することが重要である。有機ELの作製技術が利用可能なため、サブモジュール化等も進めていく。

<色素増感太陽電池>
 色素増感太陽電池は、スペクトル領域を増やし性能を上げている。シャープで変換効率11.1%を出している。問題は、大面積化のモジュール形成技術や、ルテニウムの資源的な問題、セルの長期信頼性の向上である。

3.まとめ
太陽光発電の一層の普及のためには、現在主流である結晶シリコン太陽電池の技術革新はもとより、各種新型太陽電池の市場への投入が不可欠である。また、電池メーカーのみならず、装置メーカー、材料メーカーなどの幅広い業界のサポートが不可欠である。


(2008/12/11 セミコンポータル編集室)

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