台湾のファウンドリ、米中半導体戦争をしり目に漁夫の利狙う
米中半導体戦争は、台湾に恩恵を及ぼしそうだ。米国政府は中国製半導体(中国でアセンブリされた米国製品を含む)の輸入に50%の関税をかけることを発表したが、これが台湾のファウンドリにとって有利に働く、と台湾系の市場調査会社TrendForceは見ている。4月に東京で開催された「2024年台湾半導体デー」(参考資料1)でも台湾のジャーナリストが述べていた言葉がそれを示唆していた。

図1 台湾の新竹にあるVanguard International Semiconductor本社工場
台湾のジャーナリスト、林宏文氏は「2024年台湾半導体デー」において「米中争いをしているときに台湾は漁夫の利が得られるように動くべきだろう。日米半導体戦争のときにTSMCが成長したように」と述べている。このコメントを聞いたとき、具体的な行動が今後どうなるのか、予想できなかった。今回の関税50%によって、これまで中国のファウンドリで製造していた米国ファブレスからの半導体製品はほとんど台湾へシフトすることになりそうだ、とTrendForceは見ているのだ。台湾にはTSMCのような巨大なファウンドリだけではなく、Vanguard International SemiconductorやPSMC(Powerchip Semiconductor Manufacturing Co.)、UMC(United Microelectronics Corp)といったファウンドリも健在である。
TrendForceは、Vanguardのファブ稼働率が75%強まで上がり、PCMCの300mmラインの稼働率は85~90%に上がると見る(参考資料2)。UMCの稼働率も70~75%に上昇するとしている。世界のファウンドリビジネスは2022年後半から下降局面を迎えてきた。TSMCだけが生成AI向けチップの製造で大きく潤っていたが、それ以外のファウンドリはマイナス成長、あるいはせいぜい1桁成長にとどまっていた。ファブレスは在庫調整と中国ファウンドリを利用してコストを下げようとしてきたため、台湾のファウンドリは回復が遅れていた。
米中貿易競争の激化で、米国側が中国製の半導体製品に関税をかけるという動きが出始めてきた2021年から、例えばQualcommは台湾のVanguardと話し合い交渉を始めていた。この結果Vanguardは、2024年第3四半期までに新工場Fab5の拡張工事を終える計画をしている。Qualcommは新規需要のPMIC(Power management IC)の製造を台湾メーカー重視に動いているためだ。また同じく電源ICに強い米MPSはVanguardとPSMCにシフトしているという。
また米Cypress(現Infineon)と中国のGiga Devicesは、NORフラッシュの生産についてPSMCと交渉中で、24年第2四半期から25年にかけてファウンドリサービスを受けられると期待している。どうやら中国のファブレスも中国のファウンドリから台湾のファウンドリへとシフトしていくようだ。台湾Raydium Semiconductorと中国OmniVisionもそれぞれパソコン用ディスプレイドライバICとCIS(CMOSイメージセンサ)をVanguardとPSMCにシフトする計画だ。さらにUMCもTexas InstrumentsとInfineon、Microchipからの長期注文計画を推進しているという。
日本ではラピダスがFinFETプロセスをスキップして、いきなり新しいGAA(Gate All Around)トランジスタを使う2nm相当のプロセス技術を提供することを表明しているが、これまで40nm以下のロジックを製造するファウンドリが日本にはない。産業技術総合研究所が日本で抜けている10~20nmプロセスノードを開発するという検討をしており、この分野での企業が出てくれば、日本も漁夫の利の恩恵を受けられることになりそうだ。またPMICやドライバICなどは、JSファンダリにも受注獲得のチャンスが広がってくる。
参考資料
1. 「日台相互協力が今後の半導体の鍵に〜2024年台湾半導体デーから」、セミコンポータル、 (2024/04/05)
2. "Accelerated Order Shift Effect from U.S. Tariff Barriers Boosts Utilization Rates at Taiwanese Semiconductor Foundries Beyond Expectations, Says TrendForce", TrendForce, (2024/05/22)