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日台相互協力が今後の半導体の鍵に〜2024年台湾半導体デーから

台湾地震に遭われた方々にお見舞い申し上げます。
その前日(4月2日)、東京で「2024年台湾半導体デー」が開催された。台湾のPSMC(Powerchip Semiconductor Manufacturing Corp.)は宮城県に日本のSBIと共同でファウンドリ工場を建設する予定であり、そのPSMCの会長兼CEOのFrank Huang氏がこのイベントで講演した。

2024 Taiwan Semiconductor Day

図1 2024年台湾半導体デーの関係者たち 左から3人目がPSMCのFrank Huang氏


Frank Huang氏はまたTADA(Taiwan Advance Automotive Technology Development Association)という台湾先進自動車開発協会の会長でもある。同氏は講演の中で、大事なことを三つ挙げた。Global LinkとFab IP、そしてAI Applicationsである。それぞれ海外人材を活用すること、イノベーションを具現化すること、AI応用だ。特に3番目のAI応用の狙いについて詳細を語った。

PSMCが狙うAIは、Nvidiaとは全く違う用途である。NvidiaのGPUやAIチップはデータを合成する複雑なチップで大変高価であるが、IntelやAMD、Appleなどはもっと安価なエッジAIを狙っており、PSMCも狙うのはエッジAIだとの認識を示した。


「HPCの課題と機会」というテーマについて講演したAP Memory Technologyの陳文良会長(図1の左から2人目)が講演の中で語ったように、ニューラルネットワークのモデルでは、入力データ×重みという演算を多数のニューロンに渡って計算、その合計を足している。その合計がニューロン(神経細胞)1個の演算になるが、入力は5〜10程度の数しか入ってこないが同時に入るニューロンの数は桁違いに多い。

この計算こそ積和演算であり、数値演算の基礎である。多数のニューロン同士がつながっているニューラルネットワークという人間の脳のモデルを表現している訳だが、積和演算を行った後ニューロンは、1か0を出力してまた次のニューロンへと入力される。この時、計算結果をいったんメモリに溜め、次のニューロンへの入力に使われる。メモリには重みデータも保存してくことも可能だ。ニューロンの数は巨大であるため保存すべきメモリも大容量にしたい。しかも演算は同時に大量に出力したりストアしたりしたい。だからHBM(High Bandwidth Memory)が求められる。

PSMCの関連会社であるPowerchip Technology社はDRAMを生産している。PSMCは、HBMも作る計画だ。これまでのNvidiaなどのHBMでは、SoCをHBMの横に並べる方式の2.5Dパッケージが使われてきた。SoCは、積和演算や制御を担うGPUやCPUなどを集積している。キャッシュメモリも内蔵しているが、大きなメモリ内容はHBMに格納しており、キャッシュミスがあるとCPUからHBMへとアクセスしなければならない。このため「DRAMのI/Oでの消費電力が問題に浮上してきた」(Huang氏)。そこで、PSMCはHBMの最下層にSoCを配置する方式でDRAMのI/O問題を解決していく方針だ。

DRAMチップの積層にはもちろんTSVを使うことは言うまでもないが、DRAMダイを4枚積層するメモリとSoCをWoW(Wafer on Wafer)で接続する方法を採用することで消費電力の削減を目指している。ビット当たりのアクセスエネルギーを1/10に削減できると見ている。このためインターポーザを使わない。

エッジAIではDRAM1枚とのSoCスタックになるが、用途に応じて4枚スタックへとつなげていく。このスタック技術を確立しなければエッジAIは無理だろうとHuang氏は見ている。


講演は地震の前日だったが、このコンファレンスでは、日台の協力を推進しようという声も強かった。そのためのコンファレンスでもある。元TSMCのエンジニアで、現在国立精華大学の教授であるBurn-Jeng Lin氏(図1の右から2人目)は、「日本はフォトレジストやフォトマスク、マスクライター、マスクブランクス、パターンマスク、ウェーハプロセストラック、測長SEM、露光・現像装置、サブストレートなどが強い国である。半導体人材はまだまだ足りない。物理学や化学、電気・電子工学、コンピュータ科学、光学、材料、統計学メーケティング、政治など幅広い人材が必要となる」、と日本との人材協力を呼び掛けている。

今後の半導体の鍵を握るのはやはり人材である、という認識は講演者全員が一致した。「TSMC 世界を動かすヒミツ」の著者であるジャーナリストの林宏文氏(図1の一番右)は「JASMはTSMCの海外工場の中で最も成功しそうな工場だ」と述べており、それは「Chip4連携(米、日、台、韓)の中で日台が最も相互補完関係にあるからだ」と言う。JASMに対しても日本に「トヨタや本田というユーザーがいるだけではなく、台湾は製造代行がメインだが、日本では自社ブランドが多く、研究開発が強い」と語っている。

林氏は「TSMCのアリゾナ工場はうまくいっていない。補助金はまだ出ていない上に労働組合の問題もある。さらに米国の労働者は残業しない。台湾は日本と同様、残業も受け入れている。TSMCのアリゾナ工場は独自資本だが、日本や欧州(ドイツ)の工場は現地のパートナーも出資している」と言う。事実、日本はデンソーやトヨタ、ソニーセミコンダクタソリューションズが出資しており、ドイツ工場はBoschとInfineon Technologies、NXP Semiconductorが出資している。


4月3日には不運にも台湾大地震が発生、日本では「今こそ、台湾へ恩返しを」というキャンペーンが登場した。東日本大震災や熊本、能登の震災でも台湾から大きな寄付金が集まり復興に生かすことができたことは周知のとおりだ。もともと日本と台湾は助け合いの精神が強い。この絆は今後の半導体ビジネスでも生かすことができるに違いない。

(2024/04/05)
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