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17mも飛ばせるワイヤレス給電のIoTセンサ、空調の電力代を26%削減

エネルギーハーベスティングなIoT(Internet of Things)センサを使ってビルやオフィスの空調電力の料金を年間26%削減させたという実例が出てきた。これまでIoTや、電池を使わないエネルギーハーベスティングは実証実験が多かったが、IoTシステムを開発したスタートアップのエイターリンクは、社会実装を目的としビジネスにつなげた。

AirPlug

図1 エイターリンクが発売したワイヤレス給電機器AirPlug 左2つが電波を送る送信機、右がそれを受け取りBLEでデータを送るIoT受信機


IoTセンサの電子回路に供給する電源は、920MHzの電磁波。出力1Wの電磁波を室内に飛ばすことで最大17メートル以内に配置したセンサに給電できる。マイクロ波による給電は、これまでも商品タグや交通カードなどのICカードなどに使われている非接触カードと同じである。すなわち電磁波を送りIoTセンサ内部の受信機のアンテナで受け共振させ増幅した交流の電磁波を、直流に整流し電子回路を動かす。その電源となるエネルギーはキャパシタに蓄えておくので、比較的長時間通信できる。IoTの電子回路ではBLE(Bluetooth Low Energy)の2.45GHzの電波を飛ばし、IoTに搭載した温度や湿度、照度などのデータを送信する。

この920MHzの電波を飛ばす送信機はブロードキャスティング用途だと100台程度まで一斉送信できる。しかし、IoTセンサからのデータを収集するため、送信機も複数台用意する。エイターリンクの錦糸町の実証実験会場では、550平方メートルの室内に21台の送信機と36台の受信機を配置した。このシステムでは送信機が受け取るセンサデータを収集・解析・制御するためのゲートウェイも設置している。

電池不要で、しかも100Vのコンセントも要らずにBLE回路を動かせるため、電池交換や充電の手間はない。ただ、これだけで空調の電力代が減るわけではない。

電力コストが減る理由は、空調に使っている温度センサを従来のように空調側に取り付けるのではなく、人間が仕事をするそばに置く。従来の空調側の温度は、人間の近くの温度とは違うため、空調機は室内の正確な温度を測っているわけではない。そこで実際に1年かけて、竹中工務店や三菱地所、三菱電機の4社で測定してみた(図2。


Building Management 領域の効果 CO2 約26%削減 / Aeterlink

図2 ビルの空調にセンサがある場合と人のそばにある場合で電力の差で電力コストが26%削減できる


図2の左上の図は従来の空調機に内蔵しているセンサ、左下の図はワイヤレスセンサで測定した温度を示している。ワイヤレスセンサの温度計は設定温度により近いため、空調機で消費する電力は少なくて済む。この実験では約150平方メートルの部屋内に10台のセンサを置いた。これを1年間続けると空調の負荷量すなわち空調による電力コストは26%削減した。

ワイヤレス給電を使ってこれだけの電力を削減することになれば、約4年で回収できると顧客に提案しているとエイターリンク代表取締役CEOの岩佐凌氏は言う。すでに竹中工務店はこのIoTシステムAirPlugを導入している。

エイターリンクは、2020年8月に設立、大手町と錦糸町にオフィスを置く、スタートアップだが、ビルマネジメントを手始めにFAや医療向けのインプラントへの給電ビジネスも狙っている。もう一人の共同創業者である田邉勇二氏は、かつて米スタンフォード大学で超小型のカプセル型心臓ペースメーカーを開発しているAda Poon准教授の下で研究開発していた(参考資料1)人物。人体に埋め込む超小型のカプセルをワイヤレス給電するための技術である。

エイターリンクの岩佐氏は、「グローバルに勝てるビジネスにしたい。5月には米国での実証実験をはじめ、来年には欧州、さらにインドやアジアへ広げていきたい」と抱負を語る。さらに将来は世界各地にワイヤレス送受信機を配置するのではなく、例えば1200基の低軌道衛星からの送電モジュールを地球規模で配置することでワイヤレス給電ビジネスを拡大していきたいという夢を語っている。実は2030年ころの6G時代には低軌道衛星を活用する時代に入ることをKDDIやNTTドコモなども表明している。

日本政府は電波の規制を解除する方向で準備していかなければ、日本だけが置いてきぼりになる恐れがある。このため、世界の動向とスタートアップにも耳を傾けていく必要があろう。

参考資料
1. 「『ミクロの決死圏』を半導体技術で再現−Stanford大の試み」、セミコンポータル、(2014/06/25)

(2024/05/02)
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