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AIST Solutions、半導体ICの民主化を進めるOpenSUSIを設立

産業技術総合研究所が日本版「半導体ICの民主化」プロジェクトを進めていることがわかった。産総研の総責任者である理事長の石村和彦氏(図1)は、産総研が開発した技術を社会実装して世の中の役に立たせようという石村改革を就任以来進めてきた。2023年設立したAIST Solutionsは社会実装の先頭部隊。2024年4月には半導体ICの開発に向けて「OpenSUSI」を設立した。これこそ半導体の民主化を狙った組織である。

産業技術総合研究所 石村和彦理事長

図1 産業技術総合研究所の理事長兼CEOの石村和彦氏


半導体IC技術は微細化がほぼ止まっている。最小線幅は12nm程度まで来た。高NA EUV装置(参考資料1)をもってしても10nm程度がやっと。これが2nmプロセスノードと称されている。すなわち、3nm、2nmといっても実際の配線幅は12nm、10nmで止まっているのである。実際の寸法と、プロセスノードの呼び名は完全に乖離しているため、プロセスノードは誤解を呼びやすい名称となっている。

3nmや2nmのプロセスノードという先端ICは、配線構造やトランジスタ構造をフルに3次元活用することで、配線幅と間隔をさほど微細にしなくても集積度、つまり単位面積当たりのトランジスタ数を増やすことができる。これがDTCO(Design Technology Co-Optimization)、あるいはエリアスケーリング、デンシティスケーリングと呼ばれる技術だ。配線幅と間隔がほぼ実寸法と同じである技術をレガシープロセスと呼んでいるが、配線幅/間隔を見る限り先端プロセスノードのICと比べて、さほど大きな差はない。

ただし、DTCOの必要のない技術を仮にレガシープロセスと呼ぶことにして話を続けると、4月に設立されたOpenSUSIが扱うのは、マーケットが豊富なレガシープロセスの半導体であり、ロングテール製品向けにASIC(アナログやデジタル回路を中心に設計されたハードウエアIC)やSoC(CPUなどのプロセッサを中心にソフトウエアも含めたIC)などを開発するためのサポートを行う。

しかも半導体ビジネスで重要なマーケティングが弱い日本企業を支援するという役割も持つ。このため実際には、半導体ユーザーと共同で製品仕様を議論、ASICやSoCを設計しPoC(実証実験)までを支援する。ASICやSoCは、半導体ユーザーがライバル企業と差別化するための半導体ICであるため、世界を相手に戦うシステム顧客には欠かせないコア技術となる。だからこそGoogleやAmazon、Meta、Apple、Nokia、Ericsson、Keysightなどはライバルと差をつけるために自社設計しているのだ。

Googleは、自らが手配師となり、半導体ユーザーの欲しいチップを設計するファブレスのefabless社、それを製造するファウンドリSkywater社(130nmと90nmプロセス)を紹介するという仕組みを作っている。OpenSUSIはこれとよく似た仕組みを使い、AIST Solutionsがユーザー企業の求めるICの設計を支援する。設計を依頼するのは、東京大学のシステムデザイン研究センター(旧VDEC:大規模集積システム設計教育研究センター)。オープンソースの設計環境を持っているからだという。製造は国内のレガシー半導体を製造するファブを使う。産総研の先端半導体研究センターが運営する300mmウェーハ処理のクリーンルームも使える。

Googleは、サポートする顧客のICの実現にMPW(Multi-Project Wafer)を使い、複数の顧客のICチップを一つのウェーハで処理している。顧客はICチップを安価で手に入れることができる。東大でもMPWサービスをさらに進め、異なる顧客ではなく異なるIPを集積したMPWウェーハを設計してきた実績がある。

日本ではITが極めて遅れているため、ITを手掛ける企業の多くは世界と競争せず日本の顧客にサービスを提供するだけにとどまっており、半導体ICを自社開発したいという総合電機メーカーはほぼいない。多くが市販品で間に合うと見ている。しかし、これでは日本語ベースのITシステムを日本でも作ったことにすぎず、世界に追いつくだけであり、追い越すことはできない。

一方で、世界と競争したいという技術を持つスタートアップが出現していることも事実である。このようなスタートアップ企業は世界との差別化に独自チップが欲しいはず。しかし、2nmや3nmといったプロセスノードは必要ない、という顧客は確実にいる。AIST Solutionsはこういった顧客開拓に乗り出し支援する。OpenSUSIは、「レガシーファブを利活用するユーザーとデマンドの発掘」を標榜している。

参考資料
1. 「高NA EUVリソグラフィ装置第1号をIntelオレゴン工場に導入、組み立てた」、セミコンポータル (2024/04/19)

(2024/04/23)
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