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新工場の立ち上げを支援するXceleratorの事例をSiemensが公開

半導体や製造装置、材料など全ての工場でのデジタル化を推進するための統合ソフトウエアSiemens Xceleratorをバッテリ工場に適用した事例をSiemensが明らかにした。かつての3D-CADソフトは今や半導体の世界、特に先端パッケージでは欠かせない存在となりつつある。Siemensだけではなく、仏Dassault Systemesや米PTCなども半導体産業にやってきている。

3D-CADで描いた製品の図形にシミュレーションを重ねることで、どの場所に不具合が発生しやすいかがわかる。特にこれまでのモノリシックICから先端パッケージを使ったSiP(システムインパッケージ)へと変化する場合、チップやチップレットを重ねたり、近くに配置してから電流分布や熱分布、電磁波発生分布などを見て、不具合があっても使ったチップはもとに戻せない。このためシミュレーションで先に評価しておかなければ、材料や時間が無駄になる。もはや3D-CADとシミュレーションはセットとして使われるようになっている。

シミュレーション(CAE)企業としてAnsysやMathWorksなどがある。TSMCはソフトベンダーのエコシステムとして、トップ3社のEDAベンター(Synopsys、Cadence、Siemens EDA)に、シミュレーションメーカーのAnsysも加えたコンソーシアムを形成している(参考資料1)。

SiemensのXceleratorはもともと産業用の3D-CADとして出発したソフトウエアだったが、シミュレーション機能などを取り込み統合的なソフトウエアとなっただけではなく、クラウドベースで提供することでサービス、アプリケーション開発のプラットフォームとなった。クラウドベースだとどこからでもどのようなデバイスからでもアクセスできるうえに、常に最新のソフトウエアを使える、などのメリットがある。

先端パッケージのように3D-ICや2.5D-ICでは、CADで外見の形状を設計し、その形状のどこに熱や電流が集中するのかを知るために、動作状態をシミュレーションで表現する。現実の半導体ICと全く同じような構造をシミュレーションで実現すること(図1)をデジタルツインと呼ばれている。この手法を工場の作り方にも応用すると、現実の工場と全く瓜二つの同じ工場を3D-CADとシミュレーションで実現することになる。


デジタルエンタープライズ / Siemens

図1 製品と生産ラインのデジタルツインを作り出す 出典:Siemens


SiemensはXceleratorを電池の工場に当てはめるサービスを展開している。新規建設が多いからだ。電池工場では、電池セルの設計・製造からバッテリモジュール、バッテリパックまで製造し、それに向けたシミュレーションを適用する。こういった工程をデジタルで表現する。例えば、セル設計では、化学変化のシミュレーションや、電極の巻き数やスラリの濃度などのパラメータ情報などをデジタル化しておく。

欧州では、「バッテリパスポート」と呼ぶドキュメントがある。これは、個々のバッテリをデジタル記録し、原材料の調達から再生、リサイクルに至るまで、そのライフサイクル全体を文書化したものである。 バッテリの組成、製造、性能、環境への影響に関する情報が含まれている。バッテリパスポートは、バッテリのサステナブルな利用とリサイクルを促進する。


シーメンスバッテリーアクセラレーター / Siemens

図2 バッテリの原材料からバッテリパックの二次利用までの流れを管理 出典:Siemens


このバッテリパスポートに沿って、バリューチェン全体をデジタル化する(図2)。バッテリの原材料から材料加工、バッテリ設計、セル生産、モジュールパック生産、出荷後のバッテリ使用、二次利用リサイクルなどの一連の流れに通じて、ソリューション開発を支援する。
バッテリのセル生産では、ロール-ツー-ロール(R2R)方式で生産されるため、問題が起きた場合どのシートが不良品を生じたのか、トレースすることが難しい。従来は、いつR2R装置を通ったのかというタイムスタンプで目印としていたが、Siemensは場所を示すスペース(エリア)スタンプ方式に変えた。タイムスタンプ方式だとどのフィルムが不良を発生したのかわかりにくく、かなり多くの面積を廃棄していた。さらに目視検査をコンピュータビジョンに切り替えたために目視検査時間が3時間から5分に短縮した。そして、AIを使って予防制御コマンドを最適化し、立ち上げ時間を短縮したことに加え、運用データからAIによって塗布量を予測し、一定の品質を維持したという。

Siemensは全ての工程でバッテリメーカーと共同で作業し、開発とライン稼働をサポートしている。現在、顧客との間で工場全他の試作段階に移行しているという。

参考資料
1. 「TSMC、先端パッケージ技術エコシステム3DFabric Allianceの詳細を明らかに」、セミコンポータル (2023/10/31)

(2024/02/22)
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