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TSMC、先端パッケージ技術エコシステム3DFabric Allianceの詳細を明らかに

TSMCがこれまでのプロセスサービスで行ってきたオープンイノベーションプラットフォーム(OIP)戦略を先端パッケージ技術でも打ち出し、そのプラットフォームである3DFabric Allianceと、そのツールである3Dblox2.0を日本にも紹介するとともに日本でのユーザーに向け明らかにした。ツールはプロセスのPDK(プロセス開発キット)のようにTSMC内で標準化する。

TSMC 3Dfabric Alliance / TSMC

図1 TSMCの3Dfabric Allianceメンバー(右の22社) 出典:TSMC


オープンイノベーションとは技術を公開することではない。日本語では門戸開放、という言葉が最もふさわしい。要するに「誰でも参加できる」コンソーシアムである場合に「オープンイノベーション」という言葉を使う。imecしかり、アルバニーしかり、Armしかり、である。参加したければ費用を支払い参加する。門前払いはない。OIPのコンセプトは15年前に当時CEO兼創業者のMorris Chang氏が打ち出した概念で、OIPエコシステムは、「収益までの時間短縮を狙ったもの」(TSMCジャパンの小野寺誠社長)である。

TSMCがなぜ日本で今回、「OIP Ecosystem Forum」を開催したか。3D-ICや半導体ICパッケージ技術、特にプリント回路基板を使ったサブストレート技術では日本に一日の長があるからだ。イビデンや新光電気工業などCPUパッケージを手掛けてきた材料メーカーが日本は強い。さらにレゾナックという素材とコンパウンドの両方を手掛ける化学メーカーもいて、しかも3D-ICそのものを作れる程度の設備も持ち、独自のコンソーシアムを形成している(参考資料1)。

加えて、回路設計のデザインハウス兼ファブレス半導体としてソシオネクストも強い。3nmプロセスに相当する性能・消費電力を持つN3プロセスに向いたTSMC向けマスクを出力できる設計技術を行う。横浜みなとみらいにあるTSMCデザインセンターでは7nm以降の5nm、4nm相当のプロセスに合う設計を行ってきたが、ここではソシオネクスト出身者も多い。

ソシオネクストは、「OIP Ecosystem Forum」の前日、「TSMC の最新の 3nm 車載プロセス 『N3A』を採用した ADAS (先進運転支援システム) および 自動運転向けのカスタム SoC (System-on-Chip) 開発に着手した」、と発表した(参考資料2)。これからのクルマはSDV(Software-Defined Vehicle)となる、とトヨタ自動車は認識しており、クルマの高性能なコンピュータにはN3などの微細なプロセス相当の技術が必要になってくる。ただ、当日のコンファレンスでは、ソシオネクストのコーポレート上級VPの吉田久人取締役は、自動車、ネットワーキング、データセンター向けの3nm相当プロセスだと述べている。しかもそれぞれの用途ごとに基本プラットフォームとなるSoCを設計していくと述べている。

現在、3DFabric Allianceには22社が参加している。このエコシステムは部会のような組織に分かれ、例えばメモリに関しては3DFanric Memory Allianceが担当しHBMメモリを実装するための組織となり、Samsung、SK Hynix、Micron Technologyが参加している。サブストレートでは、3DFabric Substrate Allianceを組織化し、日本のイビデンとTOPPAN、ユニマイクロンジャパン(旧クローバー電子工業)が参加している。テストも重要な項目だが、3DFabric Test AllianceにはアドバンテストとTeradyneが参加している。いずれも先端パッケージで強いところばかりだ。

設計では、3Dblox2.0と呼ぶモジュラー方式のパッケージング設計ツールを使い、3DFabric Allianceと共に仲間を構成している(参考資料3)。ここでもEDAツールのトップスリー(Synopsys、Cadence、Siemens EDA(旧Mentor Graphics))に加え、シミュレーションのAnsysの4社が参加している。残念ながら日本の図研は入っていない。

なぜ3D-ICのような先端パッケージをやるのか。プロセスではFinFETの採用が始まった14/16nmプロセス以降、単純な比例縮小側であるリニアスケーリングから、世代ごとの微細化を1nm~2nmずつしかしない代わりに3次元化をフル活用するエリアスケーリング(DTCO:Design Technology Co-Optimization)を進めてきた。しかし、これ以上のDTCOはもはや難しくなってきたため、STCO(System Technology Co-Optimization)と呼ぶ手法に移行することになる。ここではパッケージング、ソフトウエア化も含めてシステムとしての最適な高集積化を意味する。逆に言えば、これまでのモノリシックな高集積化から、マルチチップモジュールでの高集積化に変わることを示唆している。

参考資料
1. 「レゾナックが自らコンソーシアムを組織化する理由とは」、セミコンポータル (2023/05/25)
2. 「ソシオネクスト、3nm 車載プロセス採用 ADAS および 自動運転向け SoC の開発に着手」、ソシオネクスト (2023/10/23)
3. 「Intelが4nmプロセス生産開始、TSMCは3D・先端パッケージの設計ツール開発」、セミコンポータル (2023/10/02)

(2023/10/31)
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