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前向きに楽しく仕事するためのツールとサービスをハピネス社が提供

「楽しく仕事をするほど、業績が上がる」、という結果を定量化した日立製作所がハピネスプラネットというグループ会社を設立したのが2020年7月(参考資料1)。ハピネス社は、大企業が陥りやすいサイロ化を防ぎ事業部間で横串を通す「トライアングル手法」を編み出し、それをアプリケーションソフトウエアとして作成した。

ハピネス社は、仕事の幸せ度を測定し定量化することで、個人の業績を上げよう、というコンセプトを掲げた企業である。同社代表取締役CEOの矢野和男氏は、もともと半導体エンジニアであり、日立製作所中央研究所時代からどのようなコミュニケーションをとると業績向上につながるか、を追求してきた。加速度センサや赤外線(IR)センサなどを複数の日立の社員に取り付け長期間のデータをとってきた。その結果、「楽しく仕事するほど業績が上がる」という法則を見出すことができた。

ただし、楽しく仕事をするとは、楽な仕事を選んだり、休みが多く取れたりすることではない。仕事を通じての充実感や、職場での一体感にあふれるやりがいのある職場こそが業績向上につながっている。前向きな気持ちで仕事ができることと、心理的な安心感を持つことだという。前向きな気持ちになれる充実感とは、Hope: 道は見つかると信じる力、Efficiency: 現実を受け入れて行動する力、Resilience: 困難に立ち向かう力、Optimism: 前向きなストーリーを作る力、すなわちHEROである。また、心理的な安心感とは、Flat: つながりが均等、Improvised: 5分間の短い会話が多い、Non-verbal: 会話中に体がよく動く、Equal: 発言権が均等、という職場であれば職場での一体感が生まれる。これをFINEという言葉でまとめている。いわば短い雑談なら大いに勧めるのだ。

こういった職場を推進するために、ハピネス社はスマートフォン向けのアプリケーションソフトウエアを開発した。このアプリを使って、仕事を通じて前向きなつながりを作ろうというプログラムを設けた。2ヵ月間1セットで終わるプログラムとなっている。

このアプリは、LINEなどにみられるように、アプリ上で3人を一組として互いに応援し合うことで、縦、横、斜めの関係が業務の中で自然と生まれるものだという(図1)。1週間の業務を通じて応援し合う。この3人組は毎週、自動的に変わるため、社内の人脈を広げていくことになる。あるいは、これまで関係の薄かった同じ部や課の同僚と組むと、これまでにないつながりが生まれる。


応援でつながる三人組 The Triangle / ハピネスプラネット

図1 3人一組はどのような3人に対しても適用される 出典:ハピネスプラネット


具体的な例として、「私」と「上司」、「同僚」、という3人組(三角形)の場合を挙げている。始業時にアプリ(ハピアドバイザー)から提案が出される。例えば、「今の一歩に集中しよう」というお題が出されれば、「私」はまず自分の仕事に対する思いをアプリの中で、「今日開始する新バージョンのテスト項目の整理を、集中して進めます」として表明する(図2)。「上司」は例えば「安心してサービス提供できるのは。地道なテストのおかげです」と書き込んで「私」を応援する。同僚も「地味な作業で大変だと思いますので、頑張ってください」と応援する。それぞれのやり取りは、1日1往復のみに留める。何度もやり取りすると時間をとられるうえに炎上することもありうるからだ。


Happiness Planet Gym プログラム / ハピネスプラネット

図2 3人一組で応援し合うことでつながりが生まれる事例 出典:ハピネスプラネット


図2では「私」と上司、同僚の一つの職場内の事例だが、上司の人間が「私」となることもある。その場合は部下が応援することになる。こういった三角形の関係は、フラットな関係になっており、用事がなくても応援でつながることになる。「他人から応援をもらえると、さらに背中を押してもらえることになる」とハピネスプラネット社の松田裕己氏は言う。

この三角形で重要なことは、横同士のつながりを強化できるという点だ。部門が違う3人組に対しても導入するため、サイロ的な組織に横串を指すことができるというメリットもある。

このアプリを活用した社員とそうではない社員との違いを、ハピネス社は新入社員で試してみた。情報技術者向けの中級レベルの試験で比較してみたところ、アプリ活用前の事前テストではほぼみんな同じレベルであったが、事後のテストでの成績はアプリを活用したグループとアプリを使わないグループでは平均で9.4ポイントの差が生まれた(図3)。


アプリを活用した社員の方が、事後テストの結果が大きく向上(新入社員の横のつながり向上施策) / ハピネスプラネット

図3 アプリを活用した社員としない社員とのテストの点数に有意差 出典:ハピネスプラネット


実験に参加した多くの新入社員から「研修受講だけでは交流できなかった同期との関係を広げることができた」と感じた社員は270名中220名いたという結果を得た。また、「同期から刺激を受けてモチベーションを向上させることができた」と実感した社員は同様に210名いた。

このビジネスモデルは、アプリを提供するだけではなく、サービスも提供する。このサービスを含めた仕組みを「ハピネスプラネットジム」と呼んでおり、思想を鍛えるという意味でジム(Gym)という言葉を使ったという。このジムへの入会を6名以上20名以下のチームとして促している。それ以上の人数では別チームとして扱い、実質的に人数の上限はない。年会費はチームの数で決まり、1チームだと3万円で、さらに1人当たり3万円を徴収するとしている。例えば、10チームで合計150名に提供する場合、年会費は10×3+150×3=480万円となる。

参考資料
1. 「日立製作所、幸せの可視化アプリ提供の新会社を設立する」、セミコンポータル (2020/07/08)

(2023/08/02)
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