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レゾナックのエコシステムが生成AI向け先端ICパッケージを可能にする理由

レゾナックは自社が開発を進めている先端パッケージの工程に使う材料を評価するためのエコシステムを構築している。このコンソーシアムに後工程リソグラフィのオーク製作所が参加した。これによって、先端パッケージ工程に必要なプロセスは完成する。全体の工程を理解することによって、将来必要な材料を知ることができるようになる。

レゾナックのエコシステムにオーク製作所が参加

図1 レゾナックのエコシステムにオーク製作所が参加、先端パッケージ工程が完成(左3名がオーク、右2名がレゾナックの各チーム


レゾナックは、素材メーカーの昭和電工とコンパウンドメーカーの日立化成工業が合併してできた会社(参考資料1)。素材メーカーだけでは、半導体パッケージのある工程に使われるとしてもその前後の工程でどのような特性が要求されるのかが見えない。このため、素材プラスコンパウンドメーカーが合併して、次の工程までは見えるようにした。しかし、それでもパッケージの全工程への要求が見えないため、材料・化学メーカーを中心に全工程のエコシステムを構築した。これがJointプログラムである。

Joint 1は、レゾナックの投資だけで賄い、主にFO-WLP(Fan-out Wafer Level Packaging)やPLP(Panel Level Packaging)を開発していたが、Joint 2では2.5Dや3D、チップレットを利用した先端パッケージを開発できるような体制になっている。Joint 2ではNEDOの資金も活用している。ただ、先端パッケージに必要な2µm、3µm配線を加工できるリソグラフィメーカーが参加していなかった。

今回参加したオーク製作所は、プリント回路基板向けのリソグラフィ装置を開発してきた。その光源となる産業用ランプやエキシマランプなどを扱うランプ事業部もある。ここではステッパや直接描画装置も製造している。

2.5Dや3Dパッケージとなると、シリコンや有機材料のインターポーザが求められる。その場合のサブストレート基板やインターポーザには2µm、3µm線幅の安定したリソグラフィが必要になる。ICパッケージに使うプリント回路基板はもはや、かつてのような100µmレベルでスクリーン印刷を利用したパターニングではない。半導体前工程で使われてきたフォトリソグラフィ工程でのパターニングが必要になってくる。

先端パッケージ技術で最も大きな変化は、基板のサブストレートの大きさに関係なく製造できることだ。これまでのステッパでは、レチクルサイズと歩留まりの影響で、サイズが決まり、それ以上大きくできなかった。しかし、今は例えばニューラルネットワークモデルを利用するAIチップで見られるように、チップの大きさには制限がなくなってきた。

しかもAIは、これまでの専用AIから汎用AIへと移行しており、汎用AIに近い生成AIへの要求が殺到している。生成AIは大規模言語モデルという巨大なソフトウエアモデルを利用しており、それを短時間で処理するために、できるだけコンピューティング能力を上げることが求められている。例えば、従来のコンピューティング能力なら学習演算に300日もかかる巨大なソフトウエアモデルはあきらめてきたソフトウエアエンジニアが多い。しかし、汎用AIを目指すエンジニアはもっとコンピューティング能力が欲しい。

今年になってAMDが発表したMI300という製品は、2.5D/3Dを利用した先端パッケージ技術で製作されている。その大きさは7cm角ほどもある。しかし現在のリソグラフィでは、そのパターン配線を加工することが難しかった。

オークが提供する直接描画のリソグラフィ装置を使えば、AMDのMI300よりももっと大きなIC製品でさえも製造できる。しかもAIで使うニューラルネットワークモデルでは、歩留まりという概念がない。例えばウェーハスケール集積回路を製造し、その21.5cm角(300mmウェーハから1個取り)のチップを設計しているファブレスのCerebras社は、そのチップを歩留まり100%だ、と表現する。ニューラルネットワークではそのネットワーク内の配線が数本切れようが結果にそう大差はない。しかも制御回路部分の配線が切れたり不良だったりする場合に備えて、冗長的に配線のリペア回路を集積している。

オークの提供する直描システムは、配線パターンのCADデータからフォトマスクを経ずに直接露光する。マスクレスである。装置は、光源を固定しており、プロジェクタDMD(Digital Mirror Device)デバイスに使われているような複数のデジタルマイクロミラーを利用することで光の向きを変える。エリアごとに複数のマイクロミラーの向きを変えることで描画される光の露光面積と場所を変えることができる。シリコンインターポーザの配線パターンを形成する。

生成AIは高いコンピューティング能力を要求するため、AIチップはますます大型化する。2.5D/3D-ICパッケージは生成AIに向いた技術でもある。生成AIチップに向け、オーク製作所の先端パッケージ用の露光装置は大化けする可能性はある。今後、面積の制約のないパッケージが可能になり、生成AIチップの開発が加速しそうである。

参考資料
1. 「レゾナックが自らコンソーシアムを組織化する理由とは」、セミコンポータル(2023/05/25)

(2023/07/06)
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