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基地局から企業向けローカル5Gへの拡大でIndustry 4.0を推進するEricsson

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5Gで大きく変わる最大のインパクトは、データレートやレイテンシだけではない。ローカル5Gで代表される企業向け用途だ。データレートやレイテンシのような性能指数は目標性能にはまだ遠いが、少しずつ上がってきている。携帯電話以外の多接続という特徴がまだ生かされていない。Ericssonは、産業向けや社会向けに通信機器やAPIを開放し始めた。

グローバル5G市場でリーディングポジション /Ericsson

図1 Ericssonが通信機器市場のシェアを拡大 出典:Ericsson


通信機器メーカーのEricssonは、携帯基地局のRAN(Radio Access Network::携帯電話機に最も近い無線ネットワーク)市場で2017年から2022年までにシェアを32%から39%に拡大させており、全世界の商用5Gサービスネットワークに占めるEricssonの比率は228ネットワークのうち134を占めるという(図1)。5G加入者数は22年末までに12億人に達する見込みで2027年末までに44億人になると期待されている。

Ericssonはモバイルネットワークだけではなく、企業向けの5G無線ネットワーク、いわゆるローカル5G市場も狙っている。空港や港湾、大きな工場やオフィスビル、公園、大きな駅舎、コンサート会場や競技場など広い施設内に限定した移動無線に適した分野がローカル5Gである。5Gの特長の一つである多接続での利用も進んでいる。特に欧州では広い自動車工場でのデータ収集や通信などでIoTセンサとも連携させ、Industry 4.0で使われ始めている。

現実にEricssonの北米工場ではローカル5Gを導入したIndustry 4.0で、エネルギーを24%削減し、屋内での水使用量を75%も削減した。しかも作業員一人当たりの作業効率は2.2倍に向上したという。もちろん100%再生可能エネルギーを使用している。

Ericssonは拡大するセルラーネットワークに対処するため、サブ6GHzから28GHz、39GHzのミリ波帯にかけてマッシブMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナ向けのRFデバイスやモデムLSIなど高性能と低消費電力化を求めて、独自チップ「Ericsson Silicon」を開発してきた(参考資料1)。


独自開発チップEricsson Siliconで軽量化を図る / Ericsson

図2 独自開発チップEricsson Siliconで軽量化を図る 出典:Ericsson


独自半導体チップの威力は、単なる低消費電力という言葉だけではなく、従来20〜30kgもした基地局アンテナ機器をわずか12kgにまで軽量化することができ、女性でも通信基地局の作業ができるようになった(図2)。独自チップの威力は、低消費電力化によって空冷ファンや水冷パイプを不要にしたり、重い放熱フィンを取り除いたりすることができるおかげで軽量化が可能になった。まさに女性の雇用を含むSDGsにも影響を及ぼしている。

基地局ビジネスだけではなくローカル5Gビジネスにも手を広げるとなると、ハードウエアだけではなく、ソフトウエアの面でも支援ツールが必要になる。特にネットワーク事業では、ハードウエアをできるだけ共通化し、ソフトウエアでカスタマイズするソフトウエア定義のネットワーク(Software-Defined Network)へと進展してきている。これに対処するため、特にアプリケーションをユーザーが開発できるようにするためのAPI(Application Programming Interface)をネットワークプラットフォームとして用意した。実はこのAPIを構築するため、通信ネットワーク向けAPI専業メーカーのVonage社を買収した。Vonage社には780名のAPIエンジニアが在籍しており、12万人の顧客を持っている。

Ericssonは、独自設計の半導体チップから、ユーザーが自分でアプリケーションソフトを開発しやすいようなAPIを用意するなど、5Gの普及期に向け着々と事業拡大に踏み出している。


参考資料
1. 「通信機器のEricssonがなぜ自前のチップを開発するのか」、セミコンポータル(2021/07/08)

(2022/12/09)

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