Nokia、独自シリコンチップReefSharkの将来ロードマップを示す
LTEや5G基地局向けの通信機器メーカーであるNokiaが独自のシリコンチップを開発していることをすでに報じていたが(参考資料1)、独自チップをさらに高集積化・微細化を進めることが明らかになった。通信機器は重く20〜30kgもあるが、独自チップを使うともっと大容量で、もっと軽くなる。独自チップで通信機器を進化させることが同社の狙い。
図1 独自チップReefSharkをこれからも進化させる方針 出典:Nokia
Nokiaは昔の携帯電話メーカーではない。携帯電話部門はMicrosoftに売却し、基地局向けの通信機器に特化している。通信機器業界では、Nokia、Ericsson、華為がビッグスリーである。Ericssonや華為も独自チップを開発しているが、Nokiaもやはり独自チップで他社との差別化を図っている(図1)。
狭い通信機器市場で独自チップを開発する意味があるのか、疑問に思われるかもしれない。Nokiaが独自チップを開発する意味を紹介しよう。
通信機器市場は、これまでCSP(通信サービスプロバイダ)が運営する基地局を中心に形成されていたが、LTE時代の後半ごろからプライベート基地局が広い敷地を持つ企業に採用され始めている。日本ではローカル5Gという名称で、5G時代からそれが本格的に普及しつつある。例えば、オムロンはNokiaと提携し、ローカル5G通信を製造業などの大きな工場を持つ企業に提案している。工場敷地内にある機器同士やロボット、工場のオフィスなどをEthernetなどの有線でつなぐケースがあるが、これが無線になれば工場内の機械のレイアウトを自由自在に変えることができる。いわば変量多品種に対応できる。
これまでもWi-Fiのような無線通信はオフィスでは使われているが、工場内では通信が途切れることが絶えずあるため、ほとんど使えない。しかも工場内の機器はPROFINETやEtherCAT、CC-Linkなどメーカーごとに通信仕様が違っている。ここをローカル5Gで統一できれば、工場の拡張や通信機器の入手可能性なども高まり、将来の新製品の生産ラインを容易に変更や構築ができるようになる。
ローカル5Gだけではない。モバイル通信基地局だけでも5Gやその先のBeyond 5Gや6Gなどの新モバイル通信では、ただ単に周波数を上げるだけではなく、広域、都市部、ホットスポット、と通信端末の密度に応じていろいろな周波数帯が階層構成で共存するようになる(図2)。するとCSP通信業者にとって基地局そのものが増えるため、独自チップの使用量も増えるようになる。
図2 5G以降の基地局は階層構成になる 出典:Nokia
一般にネットワークは、ISOが策定したOSI(Open Systems Interconnection)参照モデルで定義された7つのレイヤー(階層)で出来ている。L1は最下層のLayer 1のことで物理層を指す。物理層とは、半導体やコネクタ、部品などで構成され、データなどの中身には関係しない物理的なモノのレイヤーである。半導体の多くがL1であるが、時にはLayer 2のデータリンク層やLayer 3のネットワーク層、Layer4のトランスポート層のソフトウエアプロトコルをチップに焼き込んだものもある。
逆に半導体側からすると、共通のプロセッサ(CPU+各種メモリ)でハードウエアプラットフォームを構成しておけば、ソフトウエアを変えることで、L2やL3、L4などにも対応できる。
今回示した独自チップNokia Siliconのロードマップ(図1)は進化を表しており、青字の製品が量産中、黄色の製品名が開発中である。さらに将来は白字で示した製品である。ネットワークの物理層チップをはじめ、無線(RF)のデジタルフロントエンド(DFE)、クラウドRAN(Radio Access Network)、ベースバンドチップなどさまざまな独自チップがあり、それぞれを進化させていく。進化とは、これまでの16nmプロセスノードを7nmプロセスノードで実現するようなことを示している、と同社モバイルネットワーク事業部RANプロダクトライン製品管理部門責任者のBrian Cho氏は語る。この先は、マッシブMIMO(Multiple Input Multiple Output)やビームフォーミング、ビームトラッキング、ビームステアリングなどRFに加えてロジックも必要な技術を採り入れることになるだろう。
参考資料
1. 「誰でも半導体チップを持てる時代に」、セミコンポータル (2018/03/08)