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海中100mの距離を1Gbpsで通信可能に、ALANコンソが実験に成功

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通信ネットワークを都市や人間のいる従来の範囲内だけにとどまらず、無人の山中や海上・海中、空間でも宇宙までへと拡大していく様相を見せ始めた。携帯通信が5G時代から携帯電話だけではなくIoTなどさまざまなモノがつながる時代になってきたからだ。その一つ、海中通信を確立しようとALANコンソーシアムが海中で1Gbpsの無線通信を成功させた。

図1 水中通信の利用シーン 出典:ALANコンソーシアム

図1 水中通信の利用シーン 出典:ALANコンソーシアム


海中、水中では電磁波は減衰が激しく、ほとんど通らない。このため超音波を使って潜水艦との通信を行っていた。デジタル通信として超音波通信でも1Mbpsのデータレート程度までは高速転送できるレベルにまでやってきたが、それ以上の高速データレートは今の所、超音波ではメドが立っていない。そこで、光、それも青い光はかなりの距離まで届くと期待されており、ALAN(Aqua Local Area Network)コンソーシアムが2018年に立ち上がった(参考資料1)。

海中通信と言っても、決して研究のための研究ではない。NTT東日本やKDDI総合研究所などの通信業者に加え、五洋建設や東洋建設などの建設業者、浜松フォトニクスや日亜化学工業などのデバイス業者、日本アンテナや古野電機などの通信アンテナ業者もALANコンソーシアムに加わっている。5Gから多接続として携帯通信以外のIoTをはじめとしてさまざまな業者が参加してきたが、実は6Gでは通信ネットワーク空間をもっと広げようという発想がある。海中通信はその一つである。

港湾や海中での建造物がすでに設置されている。洋上風力発電所や資源探査、海底油田設備など海中での設備の劣化状態や港湾の状況などの検査、地震調査などのニーズもある。これまで海中での通信が貧弱だったために超音波通信以外の通信はほとんど足踏み状態だった。そこで実証実験を行い、通信できることを示すため、ALANコンソーシアム内では三つのワーキンググループ(WG)が設立された;水中光無線通信WGと水中LiDAR WG、水中光無線給電WGである。

今回の1Gbpsのデータレートは水中光無線通信WGの中の実験例である。青色レーザーを用いて、100mの距離を1Gbpsのデータレートで通信することに成功した(図2)。データレートを上げるため高出力のマルチビームのレーザーを使い、データの減少を抑えた。誤り訂正技術も使っている。発光だけではなく受光側もアレイ化による受光系を拡大した。


図2 水中でのレーザー光による1Gbpsの実証実験 出典:ALANコンソーシアム

図2 水中でのレーザー光による1Gbpsの実証実験 出典:ALANコンソーシアム


実験を行ったのは、レーザーを使った高速計測機器メーカーのトリマティス社と国立の海洋研究開発機構(JAMSTEC)。まず最初に、JAMSTEC内の水を張った多目的プール内で行った(図3)。距離を伸ばすためにミラーを数カ所設置し発光から受光までの距離を最大108m確保できるようにした。ここで1Gbpsの伝送実験に成功し、さらに相模湾の水深1000mの海中でも、2021年11月27~29日に渡り実験を行い、受信距離100mで1Gbpsの信号伝送を達成した。


図3 海中でも1Gbpsのデータ伝送を100m通信できることを実証 出典:ALANコンソーシアム

図3 海中でも1Gbpsのデータ伝送を100m通信できることを実証 出典:ALANコンソーシアム


トリマティスは、海中での作業には単なるデータ通信だけではなく、光を使ったイメージング技術であるLiDAR(Light Detection and Ranging)も使えるという実証実験も進めている。LiDARは、赤外レーザーを使った光パルスを発射して物体からの反射光を検出し、一定の光速度から物体までの距離を算出するToF(Time of Flight)技術を使って、空間的にスキャンして奥行きを含めたイメージングを行う技術である。暗闇でもイメージングできる。トリマティスは、2019年の初期モデルでは水圧に耐える容器容量が14.5リットルで4000点/秒のスキャン速度のLiDARを試作したが、22年に開発するモデルは、同容量6.6リットルと小型にし、さらにMEMSスキャン方式にして8万ポイント/秒のスキャン速度を達成している。距離分解能5mmという新型LiDARモデルによる画像は間もなく発表するとしている。

LiDARと光無線技術をセットにすれば、暗闇の深海に何があるかを見出すことができるため、資源探査や地震などによる海底の亀裂や、海底まで建設する構造物の劣化状況などこれまで難しかった実験を手軽にできるようになる。ALANコンソーシアムは、ほとんど動かない有線の水中ブイと、自由に動ける水中ドローンを用いて、さまざまな検査を行う利用シーンを描いている。海中の構造物の点検や、養殖場の管理や監視、水質検査、災害調査など海洋開発の新たな段階に持ち上げることができそうだ。

参考資料
1. 「水中通信に青色LEDやレーザーが浮上、LiDARで海底地形を自動計測に」、セミコンポータル (2019/03/14)

(2022/04/06)

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