チップ設計からサービスまでワンストップで提供し始めたU-blox
GPS(GNSS)チップに強いスイスのU-bloxが、セルラーやBluetooth、Wi-Fiなどの通信規格とのコンビでこのところ積極的な世界展開を始めている。位置検出と無線通信技術はIoT応用に向くが、それだけではクラウドにはつなげない。同社はチップやモジュールからサービスまでのワンストップショッピングでクラウドにつなぐサービスを始めた(図1)。
図1 ファブレス半導体のU-bloxがチップ、モジュールからサービスまで展開 チップとモジュールは位置検出、セルラー通信、BluetoothやWi-Fiなどの短距離通信向け、ここに通信接続サービスが加わる 出典:U-blox
かつてのGPS(Global Positioning System)は、今や位置精度がずっと高いGNSS(Global Navigation Satellite System)に代わり、正確な位置を示す技術として定着した。スイス連邦工科大学発のファブレス半導体である同社の狙いは車載と産業向けだ。自動車向けにはアフターマーケットにも力を入れており、サービス指向がこの辺りから見え始めた。
応用として例えば、新型コロナワクチンの輸送には冷凍庫が欠かせない。しかしワクチンの品質を保証しようとすれば、トラック内の冷凍庫がきちんと-75°Cや-20°Cになっていることをトラッキングしなければならない。こういった用途では、冷凍庫の中に温度センサをいれ、その要求温度が変わらないことを保証するために、スマホやパソコンなどでどこからでも、その冷凍温度を見られるようにしておく必要がある。温度センサのデータを測定した後にAD変換でデジタルデータに変換・処理することで記録やクラウドへの転送などが容易になる。GNSSで輸送トラックの位置を常に把握すると共に、温度データをセルラー経由でクラウドに送ることで、病院関係者はいつでも冷凍トラックの位置とその温度をスマホなどでチェックできる(図2)。
図2 接続サービスの提供に必要な軽い通信プロトコルやクラウドに接続するサーバーのThingstream社をU-bloxが買収した 出典: U-blox
U-bloxは、GNSSと通信チップをコンボとしてモジュールに入れたハードウエアを製品化しているが、上記のワクチン配送車の温度管理はワクチンを無駄にしないためにも欠かせない。こういった応用に最適だ。GNSSは配送トラックの位置を知ることができ、通信モジュールはクラウド上とつなぐことができる。
こういったサービスを実現するために、U-bloxは、サーバーとなるプラットフォームのThingstreamサーバーを持つThingstream社を2020年に買収、温度センサや通信モジュールを備えたITをデータ量の軽いプロトコルMQTT(Message Queuing Telemetry Transport)を使ってクラウド上にあるThingstreamサーバーにデータを送り、そこからユーザーに温度データなどを送ることができる(図3)。ユーザーはMQTTプロトコルを使ってThingstreamサーバーにデータを送るため、その接続サービスとして月々のサービス料金を支払う。ちなみに初期費用が4ドル、SIM1個あたり最低料金はメッセージ重量によるが毎月0.25ドルから、と安い。SIMカードさえあれば世界中どこでも使える。
図3 ユーザーはU-bloxの通信モジュールを搭載したIoTで取得したデータをクラウド上で利用するためのサーバーと接続できるための仕掛け 出典:U-blox
こういったサービスを提供するための万全の半導体として、GNSSチップに加え、セルラーやBLE(Bluetooth Low Energy)やWi-Fiチップなどを含むモジュールがある。例えば、クルマがトンネル内や地下を通過する場合には衛星からの電波が届かないため、位置をトラッキングするための慣性センサ(3軸加速度センサや3軸磁気センサなど)を使って推定する。つまり向きを磁気センサで捉え、前進したり左右に曲がったりする場合は加速度センサで捉える。
屋内や地下街を移動する場合にはこれまで位置の誤差が大きかった。そこで、Bluetooth 5.1から標準化されたAoA(Angle of Arrival)やAoD(Angle of Departure)技術を使うことで(参考資料1)、cm単位のわずかな誤差で位置を知ることができるようになっている。
Wi-Fiチップは、例えばクルマがセルラーとの通信チップで接続されており、車内向けのWi-Fiアクセスポイントとして機能していれば、セルラー回線を増やすよりはWi-Fiを使う方がコストは安いために使われる。
U-bloxはもちろん得意なGNSSチップそのものも進化させている(図4)。昔から場所が特定されている基地局との差分を取って誤差を小さくする方法や、電離層での反射による遅延を補正するために2周波数(L1=1575MHzとL5=1176MHz)を使う方法なども使ってきている。最新チップを使えば、トンネル内走行のようなADR(Automotive Dead Reckoning)技術と組み合わせ、誤差は極めて小さくなるというデータも示している。
図4 現在、U-blox F9までのチップが入手可能で、U-blox M10はこの秋に入手可能になる
U-bloxの持つチップは、例えばセルラー通信モジュール内蔵の製品ポートフォリオを見ると、小型のフォームファクタを持っているという特長がある。もっともサイズの小さなSiP(System in Package)パッケージのALEXシリーズはIoT専用のセルラーネットワークのLTE-MとNB-IoT回線を使う製品だが、その大きさは14mm角と小さい。他にもSARAシリーズや、LARAシリーズ、TOBYシリーズなどがある。全ての各シリーズ内ではピン互換性があるため、上位互換は容易にできるという。
参考資料
1. センチメートルの位置精度で進化を続けるBluetooth (2020/05/13)