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半導体の微細化はいつ止まるのか、意識調査を世界中で実施(2)

湯之上隆(ゆのがみたかし) 長岡技術科学大学 極限エネルギー密度工学研究センター 客員教授

半導体デバイスの微細化はいったいいつまで続くのか、長岡技術科学大学の湯之上隆客員教授は、日本を飛び出し、世界中の半導体研究者やリソグラフィ専門の研究者を中心にアンケート調査を1年以上かけて行った。このレポートはわずか1年間の間に実施時期によって研究者の意識が大きく変わっていることを伝えている。

(セミコンポータル編集室)

第二次調査方法
研究テーマ「LSIの微細化はいつ止まるのか?」と、世界のリソ・キーパーソンのリストを携えて、筆者は、2007年7月16日から、世界一周調査旅行に出発した。全行程48日間、日本を出発した後、カナダ→米国→ブラジル→欧州→インド→東南アジア→中国→台湾と調査を続け、9月2日に帰国した(図7)。この間、13カ国で、合計40社を訪問し、ヒアリングを続行した。


7月16日〜9月2日まで世界一周した


第二次調査結果
図8〜11に示す質問について、2007年2月SPIEから世界一周終了の9月まで、ヒアリングで得た回答を時系列的にグラフ化して見た。図8の横軸は、ある一人のリソ・キーパソン(一部、デバイス技術者も含まれる)が回答した日付を示す。また、赤いバーが米国人、青いバーが日本人、黄色いバーが欧州人、緑色のバーがアジア人を示す。


ロジックLSIの限界はどこか?


2007年2月のSPIE時点に対して、そこから半年経過した2007年7−9月時点では微細化の限界が大きく伸展していることがわかる。ロジックLSIの限界は、2007年2月時点で45‐32nmだったが、2007年7-9月時点では22‐10nmになった。


メモリーLSIの限界はどこか?


メモリーLSIの限界(図9)も同様に、2007年2月のSPIE時点で32‐22nmだったが、2007年7−9月時点では22‐10nmになった。図8と9の二つに質問に対して、特筆すべき回答としては、ファンドリーの最大手メーカーで、「既にhp22nmの技術開発は済んでいる。現在hp16nmを開発している。限界はhp10nmぐらいになるのではないか?」と発言した技術者達がいた。また、彼等に、第一次調査結果の図1および図2を見せると、「LSIの限界が45nmとか32nmとか、どこの誰が、そんな(間抜けな)答えをしているのか?」と大笑いされた。

このコメントからもわかるように、このファンドリーの微細加工技術は、他国および他社と比較しても、非常に進んでいるように感じられた。また、ファンドリー技術者達の、「22nm〜16nmの微細加工技術を開発している」という発言は、意味深長であり、重い。なぜなら、彼らファンドリーは、ファブレスからの依頼がなければ闇雲に微細加工技術を進める必要がないからである。その彼らが、22nmを完了し、今や16nmに取り組んでいるという。つまり、16nmの微細加工を必要とするLSIのビジネスが、既に存在している可能性があるということだ。

では、彼らファンドリーは、22nm〜16nmの微細加工を行うための露光装置としては、何を想定しているのだろうか?


高屈折率液浸の量産適用は可能か?


2007年2月のSPIE時点では、リソ・キーパーソン達の意見は割れていた。そこから半年経過した2007年7−9月時点では、ほとんどの意見がOtherになった。具体的には、「技術的にできるかもしれないが、タイミングが間に合わない」、または、「できたとしても、1世代しか使えない。そんな装置や技術を開発する意味がない」と言うコメントであった。


EUVLの量産適用は可能か?


2007年2月のSPIE時点では、リソ・キーパーソン達の意見は悲観的(Impossible)であった。そこから半年経過した2007年7−9月時点では、ほとんどの意見が”できる(Possible)“に変わった。図8および図9に示したように、わずか半年間で、ロジックLSIとメモリーLSIの限界が伸展したのは、EUVLの量産可能性に期待が持てるようになったからだと推測できる。この半年間に何が起きたのだろうか?

前出の岡崎氏によれば、次の三つのトピックスがあったとのことである。
1)2007年7月、日本で開催されたEUVLの国際シンポジウムで、サイマーが、LPP(Laser Produced Plasma)方式の光源で、実用化レベルに近い100Wの出力を達成した(注1) 。
2)米国AMDが、米国AlbanyのCNSE(College of Nanoscale Science and Engineering)に設置してあるASMLのEUVL露光装置(ADT:アルファ・デモ・ツール)を使って、LSIの試作に成功した(注2)。
3)日本のコンソーシアムである半導体先端テクノロジーズ(Selete)が、ニコンのEUVL露光装置EUV1を使って、hp30nm以下のパターンを実現した。

これらのトピックスから、EUVLの量産適用に対する期待感が膨らみ、微細化の限界が一挙に進展した。その結果、世界のリソ・キーパーソン達の集合意識が、EUVLの性能限界まで(hp10nm辺りか?)微細化できるというものに変化しつつある。

経済的な限界は?
技術的なブレークスルーが連続的に発表されるようになり、明るい展望が見えてきたEUVLであるが、経済的な問題が存在する。EUVLの量産機が実現したとしても、その価格は100億円近くなると噂されている。果たして、100億円の露光装置をずらりと並べたLSI工場で、ビジネスの採算が合うのだろうか?技術的に可能になったが、価格が高すぎて使えない、つまり、経済的な問題が、微細化の限界を決定することにはならないのだろうか?

この問題の答えの一つは、前出の世界最大手のファンドリーの技術者が示してくれた。「EUVLが1台100億円? 問題ない。その答えはギガファブだよ。月産数10万枚のギガファブならば、1台100億円のEUVLであっても、ノープロブレムだ」。

こうして、世界の半導体産業は、EUVL &ギガファブの時代に突入するのであろうか?日本半導体産業はどう対応するのか?半導体先端テクノロジーズ(Selete)およびニコンが開発しているEUVL露光装置を、実際に導入して、LSIを量産する日本半導体メーカーは、本当に存在するのだろうか?今後も、微細化の行方から目が離せない。


注1:実際には、Cymerのデータは、バーストモードと呼ばれる短時間(1ms)の結果であった。運転時間に占める発光時間の割合は僅か5%であり、従って、平均出力に換算すると5Wにしかならなかった。しかし、それでも、大きな進展であった。

注2:hp45nmで設計されたLSIのメタル第一層(M1)を、EUVLで露光しただけであるが、“実際に使った”ことが大きなインパクトとなった。

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