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半導体の微細化はいつ止まるのか、意識調査を世界中で実施(1)

湯之上隆(ゆのがみたかし)

長岡技術科学大学 極限エネルギー密度工学研究センター 客員教授


ムーアの法則はいつまでも続く、という意見があれば、ムーアの法則の勢いは鈍ってきた、という意見もある。ムーアの法則に従って、半導体デバイスの微細化はいったいいつまで続くのか、長岡技術科学大学の湯之上隆客員教授は、リソグラフィ専門の研究者や半導体デバイス研究者、SPIE参加者にアンケート調査を行った。このレポートは専門の研究者によって微細化の意識が違うことを伝えている。                                   (セミコンポータル編集室)

1970年、インテルが1KビットDRAMと4004マイクロプロセッサを発売し、LSI時代の幕が切って落とされた。10μm からスタートした微細加工技術は、幾度となく“もう限界だ”という壁に突き当たった。しかし、その都度、歴代の半導体技術者たちは、その壁を乗り越えてきた。

そして、2007年11月13日、インテルが、45nmの微細加工技術、ハフニウム・ベースの High-k絶縁膜とメタルゲートを使用した新製品Core™2 ExtremeおよびXeonプロセッサを、発表した。“ムーアの法則”の提唱者であるゴードン・ムーア氏は、これを、「この 40 年間で、トランジスタにおける最大の進歩」と称した。

LSIの微細化はどこまで続くのか? その限界は、何nmなのだろうか?微細化のカギを握るのは、言わずと知れたリソグラフィ技術である。 “リソができればLSIが量産できる”と言うわけでは、もちろん、ない。しかし、リソができなければ、何も始まらないのも事実である。果たして、世界中のリソグラフィ技術者達は、どこまで微細化できると考えているのだろうか?本稿では、2007年の一年間に渡って、世界のリソグラフィ関係者にヒアリングした結果を紹介する。その結果から、LSIの微細化の限界がどの辺りになりそうなのかを予測する。


第一次調査方法
まず、2007年2月、ASET(超先端電子技術開発機構)でEUVLのリーダーであった岡崎信次氏(現職、日立製作所・中央研究所)に、世界中のリソ・キーパーソンをリストアップして頂いた。リストには、日米欧アジアのデバイスメーカー、装置メーカー、材料メーカー、および大学やコンソーシアムなどに所属する実力者たちがラインナップされていた。

次に、2007年2月、サンフランシスコで開催されたリソグラフィ業界最大の国際会議・SPIEにて、上記リソ・キーパーソンへの突撃インタビューを試みた。講演の休憩中やポスターセッションの際、岡崎氏にぴったり張り付き、岡崎氏に近寄ってくる世界中のリソ・キーパーソンへ、素早くアンケート用紙を渡す、“岡崎コバンザメ作戦”を、SPIEの期間中、続行した。

第一次調査結果
その場で回答を得られない場合は、電子メールでアンケート用紙を送付し、回答して頂いた。2007年5月頃までに回収した結果を以下に紹介する。また、セミコンポータルのウエブサイトにおいても、日本の半導体技術者を対象に、同じアンケートを実施した。その結果も、合わせて以下に示す。


ロジックLSIの限界はどこか?


図1の横軸のa、b、c、・・・はリストアップされたリソ・キーパーソンを示す。赤いバーが米国のリソ・キーパーソン、青いバーが日本のリソ・キーパーソン、黄色いバーがセミコンポータルの回答者(半導体技術者)である。また、回答者には、“量産可能なLSIの限界をhp(nm)で”答えて頂いた。2007年2〜5月時点で、世界のリソ・キーパーソンは、ロジックLSIの限界を、45nm、32nm、最もチャレンジングな回答でも22nmと考えていた。

また、日本人の全てが、45nm、32nm、22nmと、ITRSのロードマップに記載されている値を回答したのに対して、米国人の中には、36nmや34nmと、ロードマップにない値を答える技術者がいた。自分でソロバンをはじいて回答しているようであり、このような所に、米国人気質が表れているように感じられた。


メモリLSIの限界はどこか?


2007年2〜5月時点で、世界のリソ・キーパーソンは、メモリーLSIの限界を、32nm〜22nmと考えていた(図2)。平均的に、ロジックより、メモリーの方が、微細化の限界が一世代先にあると思われていたようだ。また、ロジックと同様、メモリーにおいても、米国人の中には、30nmや28nmと、ITRSのロードマップにない値を答える技術者がいた。

この二つに質問について、特筆すべき回答として、「ロジックLSIでhp32nm、メモリーLSIでhp22nmの量産技術が、既に存在する」と断言した技術者がいた。恐らく、ArF&ダブルパターニングの技術を、ほぼ完成させていたと推測できる。


高屈折率液浸の量産適用は不可能ではないか?


2007年2月、SPIE講演会の時点では、ArF液浸リソグラフィの量産適用が秒読み段階に入っていた。次世代の露光装置として、ArF高屈折率液浸が一つの候補になっていた。しかし、その技術開発の状況は悲観的に思えたため、「量産適用は不可能ではないか?」と質問した。その結果、2007年2〜5月時点で、世界のリソ・キーパーソンたちの見解は、“Yes(できない)”6人、“No(できる)”7人、“Other(わからない)”5人と、割れていた。

一方、リソ以外の技術者たちは、10人中9人が、“No(できる)”と答えた。そのコメントの多くは、「リソ屋は、いつも、できない、できないと大騒ぎをする。しかし、これまでの歴史を見れば明らかなように、いつもできているじゃないか」と言うものであった。


EUVLの量産適用は不可能ではないか?


EUVLの技術開発は、高屈折率液浸以上に、困難を極めているように見えた。例えば米AMD社のHarry Levinson氏が、銀河系のスライドを用いて、「ここに地球がある。EUVLの量産装置は、地球から数十光年離れた銀河系の隅っこにある」と述べ大爆笑を誘っていた。それほど、EUVLは、困難だと思われていたのである。したがって、アンケートでも「EUVLの量産適用は不可能ではないか?」と問うた。

その結果、2007年2〜5月時点で、世界のリソ・キーパーソンたちの見解は、“Yes(できない)”10人、“No(できる)”5人、“Other(わからない)”3人と、悲観的な意見が優勢な結果となった。一方、リソ以外の技術者たちは、10人中7人が、“No(できる)”と答えた。高屈折率液浸と同様なコメントが寄せられた。「常に、リソ屋は、できない、できないと騒ぐ。リソ屋は心配性すぎる」。どうやら、業界内では、最先端リソ屋の評判は、芳しくない。


LSI産業は、成熟産業になる?


LSIの微細化が止まり、技術革新がなくなり、例えて言うなら、鉄鋼業のように、成熟産業になるのか?と問うてみた。その結果、2007年2〜5月時点で、世界のリソ・キーパーソンたちの見解は、“Yes”7人、“No”7人、“Other”4人と、割れていた。一方、リソ以外の技術者たちは、10人中9人が、“Yes”と答えた。

この対比は、とても面白い。リソ・キーパーソン達は、高屈折率液浸やEUVLについて悲観的であったにもかかわらず、「LSIは成熟産業になる、つまり、技術革新はなくなる」と言われると、“No!”と反抗する技術者がいるのである。一方、「高屈折率液浸もEUVLもできるんじゃないの?」と呑気に答えていたリソではない技術者たちのほとんどが、「LSIは成熟産業になるのでしょ」と答えている。この辺りに、リソ屋と、リソ以外の技術者の、心理的葛藤(矛盾?)が見え隠れして、大変に面白い。


もし、イノベーションがおきるとしたら、どんな技術がキーになるのか?


2007年2〜5月時点では、MEMSとの融合が8人、カーボンナノチューブの適用が5人、バイオとの融合が4人、何か良くわからないけれどSiベースの革新技術が4人、という結果であった。

(続く)
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