B2B指向が明確になったCEATEC 2018 (1)
CEATEC 2018が10月16日から千葉県幕張メッセで開催されたが、かつてのようにB2B製品やサービスが復活してきた。テレビやパソコンなどの民生製品はもはやすっかり影を潜め、AIは人間の補助として使う、Augmented Intelligenceとして一つの技術分野を確立しつつある。展示会ゆえに未来志向だが、民生機器より半導体・部品が光った。
図1 量子アニーリングのイジングモデルを磁石のS(赤)、N(緑)で表現した富士通のデモ
少し揺すると回転しながらやがて落ち着く位置に来る 揺することはエネルギーを与え、ゆっくり落ち着くことはアニール処理に相当する
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富士通は、量子アニーリングに使われるイジングモデル(Ising Model、図1)を利用して半導体CMOS LSIで量子コンピュータと同様なチップを昨年発表したが、今年はこの「デジタルアニーラ」のスペックを公開した。量子アニーリングは、最適化問題を一瞬で解ける量子コンピューティング技術の一種。量子コンピュータと違い、-273度(厳密には0.001Kレベル)までの冷却するための冷却器の数kWという電力が必要ないため、低消費電力で似たようなことができる技術だ。
富士通は半導体CMOS回路で作製されたデジタルアニーラを5月15日に発売しており、最適化問題のアプリケーションを開発するためトロント大学と医療系で提携、日本の早稲田大学ともそれ以外のアプリケーションで提携している。さらに富士フィルムや三菱トラスト、リクルートコミュニケーション、フィクスターズなどともパートナーシップを結び、ビジネスへつなげようとしている。さらにカナダの1QBIT社ともミドルウエアの開発で提携している。
このデジタルアニーラでは、1024量子ビットで消費電力は10~40WとCPU並み。全ビット同士を結合した65,536の組み合わせを実行するため、量子コンピュータと比べ少し遅いものの、演算時間は1〜2秒しかかからない。量子アニーリング装置は、巡回セールスマン問題に代表される最適化問題を解くのに向き、ディープラーニングと違って学習する必要が全くない。何か突然、最適な方法を見つけなければならない場合に威力を発揮する。普段混まない道路で事故などの交通渋滞が起きた場合に、クルマが集中しにくい、う回路を早く見つけ出すのに向いている。突然の土砂崩れによる道路のう回路の探索にも向く。ほとんどリアルタイムに近い時間で解けるため、その場その場で計算し続けることが可能だ。
ディープラーニングの国内トップメーカーであるプリファードネットワークスは、ディープラーニング用のフレームワークであるChainerに集中してきたが、AIシステムを開発する場合はそれだけでは済まない。特定のAIには特定の前処理と後処理が必要で、意外と面倒な処理に手間がかかる。これまでは顧客と個別対応でChainerを利用したAI構築をサポートしてきた。
今回は、個別対応ではなく、AIを使ったアプリケーションを売り出すことにした。一般に、学習には大量の画像データを入力しなければならないが、学習させたい画像に紐づけするための印を付ける必要がある。最近では大量に学習させる必要がない技術「転移学習」が登場した。これは大量に学習させた従来のデータを転用して、多少の改良で100枚程度の少ない画像データを学習させるだけで済む技術だ。今回、プリファードが発表したアプリケーションは、外観検査装置に使う検査用のソフトウエア。転移学習を利用したもので、良品画像100枚と、不良品画像20枚程度で検査の判別に使えるようになる。金属や傷、異物、汚れなどの異常個所を可視化できる。
図2 CEATECで見せた家庭用ロボットにAIを埋め込み人間と会話する プリファードネットワークスのデモ
ロボットには音声認識と物体を認識するパターン認識機能を学習させている
展示会のデモでは、家庭用のロボットをAIプラットフォームとし、ロボットへの音声認識と目に相当するカメラの画像認識をロボットに埋め込んだ。この結果、ロボットに対して、「ティッシュの箱を箪笥の前の箱に入れてください」、「子供のおもちゃをおもちゃ箱に入れてください」、あるいは突然変更して「いや、あっちの箱に入れてください」と希望の指を指さす(図2)。こういったことが可能になったことをデモした。この音声認識と画像認識を詰めたロボットをベースにさまざまなデータをクラウドに上げる。そうすると将来、「ティッシュがからならECで購入しよう」、というようにデータを次のサービスと連動させることができるようになるという。
参考資料
1. B2B指向が明確になったCEATEC 2018 (2)〜2社からAIのIPコア (2018/10/23)
2. B2B指向が明確になったCEATEC 2018(3)〜IoT/クルマ/健康市場に照準 (2018/10/24)