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Intelがパソコンの先に何を見ているのか、明らかに

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Intelが1万2000名削減計画を発表した後、その次の未来図を発表した。これまでパソコン用CPUの開発に集中してきたIntelは、パソコンの成長が見込めなくなった今、どのようにして未来を切り拓くのか、同社CEOのBrian Krzanich氏(図1)はその方策を発表した。

図1 Intel社CEOのBrian Krzanich氏 出典:Intel


昨年後半から今年にかけて技術の大きなトレンドが、IoT(Internet of Things)と5G(第5世代のモバイル通信技術)であることは、言うまでもない。Intelの狙いはまさにここにある。IoTデバイスのことは、コネクテッドデバイスとか、スマートコネクテッドデバイスというような言葉で述べられることが多い。IoTシステムに必要な要件は、スマートデバイスだけではなく、エッジコンピューティングを担うゲートウェイ、インターネットとつながったクラウド、IoT端末からのビッグデータ解析、IoT端末へ解析した結果を送り最終ユーザーに見せるためのアプリケーションソフトウエア(通称アプリ)、アプリを作るためのプラットフォーム(PaaS: Platform as a Service)などを全てつなげて、最終ユーザーが目的を達成するための仕組み作りにある。この内のどれが欠けてもIoTシステムにはならない。どれが欠けても最終目的を達成できない。

では、こういったIoTシステムのどこにIntelはチップを投入するのか。Krzanich氏は「クラウドが最も重要なトレンドであり、スマートデバイスの未来の形を作るものであり、Intelの未来そのものである」とニュースリリース(参考資料1)で述べている。パソコンはもちろんなくなることはないが、スマートコネクテッドデバイスの一つになる。時代はもはや大量生産ではなく少量多品種生産がますます進むため、「メモリとFPGAのようなプログラマブルデバイスがデータセンターやIoTの製品に入る」とする。メモリもFPGAもフレキシブルにあらゆるユーザーがそれぞれ自由にカスタマイズするための製品だからである(図2)。そしてスマートコネクテッドデバイスの世界に向かうために必要なインフラこそ、5G通信技術になる。クラウド、IoT、5Gインフラなどを作り込むために必要なICは、やはりムーアの法則の通りに進むことになる。これがIntelの方針の概要である。


図2 Intelの進めるこれからの成長のエンジン 出典:Intel

図2 Intelの進めるこれからの成長のエンジン 出典:Intel


具体的に紹介しよう。まずクラウドとデータセンターでは、仮想化(Virtualization)とソフトウエア化が進んでいる。仮想化とは、1台のコンピュータハードウエア内を仮想的なパーティションで分離して、それぞれOSとCPUを配置し、まるで数台のコンピュータがあるように見せかける技術のこと。仮想化システムにはより高度なCPUが必要であり、もちろんマルチプロセッサシステムは欠かせない。ここにIntelのx86アーキテクチャCPUを搭載した「IAサーバ」の市場がある。実はサーバ市場は、日本でも縮小気味であるが(仮想化によって何台も持つ必要がなくなるため)、IAサーバだけが伸び続けている。Intelはここに、高集積・高機能のマルチコアCPUを投入し、システムの仮想化を進める。サーバのユーザーは、仮想化によってIT投資が少なくて済むため仮想化を歓迎している。

クラウドでの仕事は、データセンターで従来通りのIT情報処理をするのではなく、データ解析能力が問われる。このためIntelは、解析能力を上げその価値を高めるため、HPC(High Performance Computing)とビッグデータ解析、マシンラーニング(機械学習)に注力する。Intelがマシンラーニングの能力を上げるためにニューラルネットワーク用のプロセッサを開発することは間違いない。すでに開発している可能性も高い。それは、データ解析能力を高めるために必要なコンピューティング手段であることをIBMが明らかにしたことが背景にある(参考資料2)。Krzanich氏は「クラウドはマシンラーニング能力を持たなければならない。そして常に最新のアルゴリズムを更新しておき、データセットを持っておく必要がある」と述べている。

IoTという言葉は実際、適切ではない。むしろクラウドに接続するモノ、という方が適している。このスマートコネクテッドデバイスは、小さなものはエネルギーハーベスティングで動く超小型センサ端末であり、さらにスマートフォンやファブレット(5~7インチのスマートフォン)、タブレット、モバイルパソコンなどから、ノートパソコンやデスクトップパソコンなどを含む。IoTは常にインターネットとつながり(Always-on, always-connected)、どこからでもインターネットを通してクラウドとつながっている。

クラウド、IoT端末、どちらにも必要な半導体はメモリとFPGAであり、3D Xpointメモリ(参考資料3)や、Alteraを買収して得たFPGA、接続部分に必要なシリコンフォトニクス、などをまもなく量産化するという。データセンターでは、Intelは「Rack Scale Architecture」と呼ぶアーキテクチャを発表している。これは、データセンターのリソースを、コンピューティング(CPU/メモリ)とストレージ、ネットワークに分け、それぞれのリソースをフレキシブルに変えられるというもの。このアーキテクチャでリソースを管理すれば、データセンターのワークロードに応じて、各構成を動的に変えることができる。

クラウドに接続するモバイルネットワークの5G時代に備えて、接続するシステムやモデム、基地局、などに関してもIntelはリードしていくと述べている。これは、NokiaやEricssonに向けて通信用半導体を納入していくことであり、Qualcommへの挑戦でもある。戦いは通信用ベースバンド半導体でIntel vs Qualcommとなりそうだ。

そしてIntelが最後に重視するのは、ムーアの法則である。元々ムーアの法則は経済法則であり、トランジスタを微細化するにつれ、そのコストが半分に下がるというものだ。Intelは、現在の14nmから10nm、さらに7nm、5nmへと微細化し、トランジスタコストを削減するムーアの法則が生き続けることを示したい、としている。

参考資料
1. Brian Krzanich: Our Strategy and The Future of Intel (2016/04/27)
2. IBM、54億トランジスタのニューロ半導体チップを開発 (2016/03/31)
3. Intel/Micronの新型メモリの正体は? (2015/08/21)

(2016/05/02)

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