Bluetoothの進化は続く
Bluetoothの進化は止まらない。このほど来日した、Bluetooth SIG(Special interest Group)Director of Developer ProgramsのSteve Hegenderfer氏は、今Bluetoothは通信範囲の拡大、通信速度の向上、メッシュネットワークという三つの方向に向けて進化しているという。さらにビーコンもBluetoothの大きなトレンドになる。
図1 Bluetooth SIG Director of Developer ProgramsのSteve Hegenderfer氏
Bluetooth規格は、Wi-Fiと比べて通信速度は遅いが消費電力は少ない、というメリットがある。通信範囲に関しては両者の差はさほど大きくなかったが、Silicon Labs社は200mまで電波が届くBluetoothチップセットをリリースしている。送信機の出力を大きくすれば当然、到達距離は長くなるが、消費電力が増加する。Hegenderfer氏は、今後1km〜2kmという到達範囲の仕様が出てくる可能性もあるとしている。
Bluetoothの3大トレンド
高速性に関しては、消費電力とのトレードオフの関係にあるため、大きく増加することはないが、最新のBluetooth 4.2ではデータレート2.1Mbpsまで上がっている。Bluetooth 4.3は現在策定中で、今年中に固まるだろうと見ている。最大24Mbpsという案がある。
Bluetoothのプロトコルでメッシュネットワークを構成するBluetooth Meshの規格も今年中に決まりそうだ。メッシュネットワークにすると、ZigBeeネットワークのようにセンサ端末からセンサ端末へとつながっていき、最終的にゲートウェイからインターネットにつながるようになる。メッシュネットワークのメリットはセンサを数千台から1万台以上もつなげられるようになることだ。Bluetooth Meshの原型となっているCSR Meshでは6万4000台まで接続できる。英国本拠のCSR社をQualcommが買収したことで、Qualcommも今やBluetoothを熱心に推進している。
セキュリティに関しても検討していく。Bluetoothは、もともとチャンネルホッピングや周波数ホッピング方式を採っているため、ZigBeeなどの他のメッシュネットワークと比べて、Bluetooth Meshはデータを盗まれにくいが、セキュリティを強化する方向にある。「応用によってセキュリティレベルが違うため、今後はセキュリティレベルを定義するような規格策定が必要になるだろう」とHegenderfer氏は見ている。
ビーコンの応用広がる
Bluetoothの有力な応用になりつつあるBluetoothビーコンは、北米の小売業者の80%が強い関心を持っているようだという。ビーコンは、携帯電話よりも小さな装置で、Bluetoothの2.45GHz電波を常に発射している。常にとっても、電池で動作するデバイスなので100msの短いパルス幅で600ms〜700msごとに電波を飛ばす程度に消費電力を抑えている。つまり電波を発射していない時間の方が圧倒的に長い。1個数千円(40〜80ドル)で市販されている。
小売業や商店街への応用は、各商店に1個据え付けておく。iPhoneやBluetooth受信デバイスを持つ客が15〜30m以内に近づくと、特売情報やクーポン券情報などが自動的にスマートフォンに送られるというもの。ビーコンは約450平方メートルないに1台設置する。昨年、米国の百貨店Macy’sやTargetなどでビーコンの実証実験を始めており、普及の兆しを見せている。
ビーコンは到達距離の関係から、屋内に配置することが中心的な応用になると見られている。特に衛星からのGPS(Global Positioning System)信号の入らない地下街やビル内のナビゲーションシステムにも使う検討が始まっている(参考資料1)。数十mおきにビーコンを設置している地下街を、スマホを持った人が歩くと、その人の通り道を検出することができる。一つのビーコンからの電波が強ければ近くにいる、弱くなれば遠ざかっていることを検出する。通りに面した自動販売機に設置する手もある。
ビーコンは美術館の案内にも使われる。有名な各絵画のそばにビーコンを設置していれば、Bluetoothスマホを持つ人が近づくと、その絵に関する情報をスマホに流す、という利用シーンである。さらに大きな自動車工場や飛行機工場で製品に付けていると、その工程の情報を作業者がタブレットやスマホで読み取ることができ、手順ミスを防ぐことができる。
今年のInternational CESでは、ビーコンの農業への応用が示された。米国のような広大な土地での作物の刈り取り作業では、トラクターやトラックにBluetoothビーコンと重量センサを付けておく。畑の境界にもビーコンを設置しておく。トラックが畑の境界まで来ると、それを検出し、同時に刈り取った穀物の重量を測定する。その時のデータをクラウドや自分のコンピュータに上げておく。特に、本部や自宅から見えないほどの距離で作業していても、その重量データから刈り取った穀物の量を畑から戻る前に確認できる。
Bluetooth SIGの会員は毎年増え続け、今は総勢2万8500社/団体に上る。日本だけでも1418社参加しており、この発表会では、在京法人9社が参加した;ルネサスエレクトロニクス、STマイクロエレクトロニクス、ダイアログ・セミコンダクター、シリコンラボラトリーズ、クアルコム、マクニカ、Hotone、ASWY Electronics、ノルディック・セミコンダクターなど。展示物としては、各半導体メーカーともチップを使ったモジュールを作製、開発キットと、ソフトウエアなどがある。例えば、STマイクロエレクトロニクスは、ARM Cortex-M0コアのマイコンにBluetooth Low Energy機能を集積したBlueNRG-1アプリケーションプロセッサの開発キットを展示した。車載向けに個人別のシート移動や、子供の着席によるエアバッグ停止など、ミッションクリティカルではない機能にBluetoothを使うことを提案している。ルネサスは、RL78/G1Dマイコンを使った開発ボードを展示、設計を簡単にできるGUIツールも見せた。半導体メーカーはもはやモジュール作製とソフトウエア提供が当たり前の時代に入った。
参考資料
1. 地下街など衛星からの電波が届かない場所の測位実験にCSRが参加 (2015/02/18)