絶好調アナデバの2016年戦略、やはりIoTと5G
Analog Devices Inc.が工業用IoTと5Gに成長テーマを定め、実用化を加速している。ADIの日本法人アナログ・デバイセズは17日、今年の説明会を都内で開催、業績の詳細と戦略について発表した。2015年度は売上額20%成長した。特にIoTの実用化に向けた動きは速い。
図1 アナログ・デバイセズ代表取締役社長の馬渡修氏
ADIは2015年度(期末は10月末)の業績では前年比20%の34億ドルを売り上げ、経常利益率に相当するOPBTが33.9%と絶好調であった。粗利は66%と好調さを表している。民生向けから工業向けへのシフトが実り、さらに高周波技術(RF)専門のHittite (ヒッタイト)Microwaveを2014年第4四半期に買収を完了し、15年度の業績をけん引した。アナデバ代表取締役社長の馬渡修氏(図1)によると、Hittiteの分を差し引いても10%以上は成長したという。世界の半導体市場が2015年に0.2%減のマイナス成長だったからADIの成長は別格といえる。
ADIは過去が良かったからと言って安穏とせず、攻め続ける。特に将来性が見込めるIoT(Internet of Things)のビジネスをいち早く取ろうと、昨年10月PTC社の子会社であるThingWorx社と提携、IoTクラウドプラットフォームThingWorxを利用可能にした。IoTは単にセンサを賢くしてインターネットとつなげるのではなく、工場の生産性を上げ、店舗の売り上げを増やし、新規顧客の獲得につなげ、社会インフラの業務効率・管理効率を上げるために使うものだ。だからこそ、インターネットにつなげればよいというスタンスではビジネスできない。
ThingWorxは、PTC社が得意とするCMS(Content Management System)ソフトウエアの製造業版であるPLM(Product Lifecycle Management)システムをIoT向けに展開している企業だ。ThingWorx IoTクラウドプラットフォームは、IoTをクラウド上で管理・データ解析・システムインテグレーションなどを容易に行えるようにするためのソフトウエアプラットフォームである。このプラットフォーム上にアプリケーションを開発・実行できるだけではなく、接続性やデータ解析、モバイル利用、遠隔サービスなどのアプリケーションを含むIoTテクノロジースタックも備えている。クラウド上でIoT向けのさまざまなアプリケーションソフトを使い、ADIのリアルタイムでのダッシュボード画面やモバイルインタフェースを使うことで、エンドユーザーはIoTビジネスの最終目的である業務改善や生産性の向上を果たせるようになる。
ADIは、IoTシステムの中で(図2)、インターネットまでつなげることは得意だが、データ分析に関しては全く不得意。だからこそ、クラウド上でIoT専用のプラットフォームを築き、分析や可視化に必要なアプリケーション開発をできるようにThingWorxと組んだ。これにより、センサからクラウドまでのビジネスは6割がた用意できた。
図2 IoTシステムに必要な半導体を揃え、クラウド上でのデータ分析用にThingWorxと提携し補った 出典:アナログ・デバイセズ
同様に、この2月に入り、日本マイクロソフトと東京エレクトロンデバイスが提携し、「IoTビジネス共創ラボ」という名称のコンソーシアムを設立した。これはMicrosoftのクラウドプラットフォームであるMicrosoft Azureを使い、IoT向けのアプリケーション開発促進やサービスプロバイダ、ソフトウエア開発ツール、データ解析などを行う仲間企業を集め、IoTを促進しようというもの。ソフトウエアベンダーやサービスプロバイダ、データ解析ベンダーなど10社が参加している。半導体メーカーはこういったアライアンスに参加することで、ハードウエアの提供だけではなく、それを使ったエンドユーザーの最終目的達成を支援できるようになる。
ADIのもう一つの成長けん引分野である5Gは、第5世代(Fifth Generation)のモバイル通信の略称で、最大データレート10Gbps、機器間遅延(レイテンシ)が1ms以下、そして低消費電力、を特長とする。5G技術は、NTTドコモが海外の通信機器メーカーであるEricssonやNokia Network Systems、計測器メーカーのNational Instrumentsをはじめさまざまな企業と共同開発している。もちろん、日本だけではなく、米国の通信オペレータのAT&TやVerizon、韓国の通信オペレータKorea TelecomやSK Telecomも共同開発中だ。特に超高速ブロードバンド通信は韓国が得意とする分野だけに、5Gは韓国が最初に実用化する可能性も高い。馬渡氏も同様に見ている。ADIがIoTと5Gをこれからの成長分野と位置付けるのはNational Instrumentsと同様の見方である(参考資料1)。
5Gはデータレートだけを問題にする通信技術ではない。IoTデバイスのように、データレートは遅くてもよいが、レイテンシは1ms以下を保証してほしいといった用途でも使われる。今でもLTEでさえ、速いデータレートだけの通信規格ではない。IoT用のLTE規格もある。LTE Cat-Mは、データレートが300kbpsと遅いが、消費電力の低さを売り物にする。最近、フランスのファブレス半導体Sequansが、LTE Cat-Mのモデムチップを開発、RF回路も搭載した通信モジュールを1個8ドルで売り出したというニュースが発表された(参考資料2)。こういった遅い規格も5Gへ展開する。
ADIはMIT(Massachusetts Institute of Technology:マサチューセッツ工科大学)がすぐそばにある恵まれた企業だ。Hittiteを買収したため、RF技術が確立し、「アンテナからビットまで」を標榜できる企業となった(参考資料3)。5Gでは、アンテナを多数利用するマッシブMIMO(Multiple Input Multiple Output)や77GHzや60GHzのミリ波通信、ODFMに代わる新しいデジタル変調方式など、さまざまな新技術が使われる。韓国チームはマッシブMIMOのデモを、NokiaとNIのチームは10Gbpsを実証している。NTTドコモは新変調方式NOMA(Non-Orthogonal Multiple Access)で5Gの実験を行っている。ADIの製品は、すでに5Gの実験にも使われているという。
参考資料
1. 今年のトレンドを知るNI Trend Watch 2016 (2016/02/09)
2. Verizon chip partner first to announce lower cost Cat-M solution for IoT (2016/02/16)
3. RF強化で「アンテナからビットまで」戦略を実現するADI (2016/01/08)