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今年のトレンドを知るNI Trend Watch 2016

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日本ナショナルインスツルメンツは、毎年技術の流れを表すNI Trend Watchを発表しているが、「NI Trend Watch 2016」では、五つのトレンドを発表した。5G通信、エッジコンピューティング、IIoTの新ネットワーク規格、IoTデバイスのテスト技術、エンジニアリングソフトウエアの大衆化、である。

図1 今年のトレンドを表したNI Trend Watch 出典:National Instruments

図1 今年のトレンドを表したNI Trend Watch 出典:National Instruments


5G通信はコンセプトの段階から試作実験段階に移り、エッジコンピューティングは昨年IoTの大きな動きの技術であることを述べてきた(参考資料1)。IIoT(工業用IoT)の新しい通信規格TSN(Time-Sensitive Networking)と、IoT端末のセンサ・RF技術・バッテリのテスト方法も確立しなければならない。そして、ソフトウエアの大衆化は、素人や学生でもモノづくり起業が可能なMover’s Movementの新しい動きである。

5G通信では、現存するテクノロジーをフル活用しなければ実現できない、非常に挑戦的なテーマである。アンテナを複数束ねて集中的に送信するビームフォーミングを行う、非常に高い周波数領域を使って帯域を上げるミリ波でデータレートを上げる、OFDMに代わる新しいデジタル変調技術、といった試みが2015年、始まった。Samsung ElectronicsとスウェーデンのLund大学は32個のマッシブアンテナを利用して基地局と端末の消費電力を1/10に低減できることを実証した。またNokia Networkは73.5GHzのミリ波を利用して10Gbps以上の速度でデータ通信できることを実証した(図2)。NTTドコモはOFDMに代わるNOMA(Non-Orthogonal Multiple Access)と呼ぶ新しいデジタル変調方式で5Gに向けた実験を行っている。2016年はより多くの実証実験を生み出し、2020年東京オリンピックに向けた実用化の一里塚となるかもしれない。


図2 73GHzで10Gbpsの無線伝送を200m離れて確認 出典:National Instruments

図2 73GHzで10Gbpsの無線伝送を200m離れて確認 出典:National Instruments


IoTが多数設置され、データ爆発と呼ばれるほどデータ量が増えても実際に解析されるのはわずか5%しかないという報告があるという。むやみやたらと多くのデータをクラウドに上げ、整理されていないビッグアナログデータを築き上げても実際の業務に生かさなれないのなら、もっと整理していかせるデータ量を増やそう、という考え方が出てきた。これがエッジコンピューティングであり、IoT端末あるいはゲートウェイである程度、解析しておこうという考えだ。今年は実際にデータを整理した事例が増えるだろう。

IIoTでは、Ethernetをベースにプロトコルを拡張したネットワーク規格TSN規格の実証が進み普及するだろう。TSNは、BroadcomやIntel、Cisco Systems、BMW、GE、Bosch、NIなどが参加しているAVnuアライアンスが規格を提案していく。認証によって相互運用性が確保できるエコシステムの構築を推進していく。TSNでは、時刻同期性が求められ、時刻のズレは1μs以下。さらにGbpsクラスの帯域幅を持ち、レイテンシは固定だが低いことが望まれている。TSNのメリットは、ハードウエアが既存のEthernetであり、プロトコルを拡張するだけでコストを下げられることだ。

IoT端末のテストには、NIのツールは有利だ。というのはIoTのテストには、センサのテスト、電池のテスト、そして無線回路のテストが通常のデジタル機能に加わるが、これを1台のシャーシでテストできるからだ。センサをテストするには、別のセンサやトランスデューサを使って物理的な刺激信号を与える必要がある。また電池のテストには電力のソースやシンクを使ってテストする。さらに無線回路のテストにはRF信号の生成と解析が必要である。これらをそれぞれに合った測定器で性能や機能を測るなら、机の上が測定器だらけになってしまう。NIのモジュール式テストなら1台で済む。さらに加速度センサのようにタブレットに内蔵されたセンサとフィットネスバンドに搭載されたセンサとでも仕様が全く違う。NIのツールはそれぞれのセンサをテストするための刺激信号発生器を揃えなくてもよい。ソフトウエアで条件や仕様を変えればよいからだ。

ソフトウエアの環境も変わりつつある。従来は、高いプログラミング言語のスキルが必要とされ、中には機械語レベルまで手作業で最適化する強者までいたが、今は、C/C++やHTML、JavaScript、LabVIEWなど複数の言語が併存し、しかも親しみやすいツールが求められるようになってきた。エンジニアリングソフトウエアとコンシューマソフトウエアが互いに寄り添ってくる、すなわち収束(コンバージェンス)現象が起きている、とNIは分析している。この現象は、メーカーズムーブメント(Maker’s Movement)、すなわち学生やサラリーマンなど個人でも「モノづくり会社」を起業しやすい環境になってきたことと通じる。

NIが毎年発行している「NI Trend Watch」は、以下のURLから入手可能である。
www.ni.com/trend-watch

参考資料
1. IoT時代の半導体とは? (2015/08/19)

(2016/02/05)

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