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superMHLの台頭でビデオ伝送の新規格争い開始か

ビデオ映像の送受信に使う高速インターフェース規格争いがまた一段と激しくなりそうだ。MHLが、我こそは次世代高速ビデオ通信規格なり、と主張するsuperMHLという仕様がそれである。最大8K、120fpsと超高速のビデオ映像をサポートする。

図1 MHLのプレジデントであるRob Tobias氏

図1 MHLのプレジデントであるRob Tobias氏


テレビ向けなどのビデオ伝送の規格は、これまでHDMIがほぼ支配的で、DisplayPortがAppleなどわずかの企業がサポートしていた。テレビやディスプレイでは、HDMI、それと互換性のあるモバイル製品の規格としてMHLが存在していた。同様にDisplayPortに対してSlimPortが存在していた(参考資料1)。スマートフォンに蓄えたビデオを、microUSB端子を通してMHLに変換され、テレビではHDMIに変換されて大型テレビでスマホのビデオ映像を楽しむことができた。

ここにきてビデオ規格の争いが明確になってきたのには二つの理由がある。一つは、テレビ画像を今のHDよりもさらに解像度の高い4K、さらに8Kへと高精細化する動きに対応することである。2020年の東京オリンピックに向けテレビ業界はテレビの高精細化の期待に胸を膨らませている、とMHLのプレジデントであるRob Tobias氏(図1)は語る。もう一つは、パソコンがこれまでのウルトラブックよりもさらに薄くなることだ。Apple MacBookは厚さ13.1mmという薄さであり、しかも新しいUSB Type Cというやはり薄い規格に準拠している。つまりパソコンもスマホ並みに薄くなってきているため、従来の規格ではコネクタ部分が厚すぎて使えなくなってきた。

MHLコンソーシアムがまとめた新しい規格superMHLは、最大8Kの解像度、120fpsのフレームレートという画像の美しさに加え、色の広がりも増えている。まず、図2の色度図のカバー範囲を広げた。RGBデジタルの分解能で言えば、3色で36ビットとし、将来は48ビットに上げるとしている。陰影のダイナミックレンジも広げた(図3)。これも暗い部分と明るい部分の両方ともきれいに見えるように色のダイナミックレンジをHDR(High Dynamic Range)レベルに上げている。オーディオに関してもDolby Atmosという映画館レベルの音質や8チャンネルの3Dオーディオなどにも対応している。いわば、大きなテレビ映像画面をより豊かな画質で見るための規格ともいえる。


図2 色度図の範囲を広げた superMHLでは従来のREC709からB.T.2020に広がった 出典:MHL

図2 色度図の範囲を広げた superMHLでは従来のREC709からB.T.2020に広がった 出典:MHL


図3 ハイダイナミックレンジ(HDR)技術で暗い画像もくっきり 出典:MHL

図3 ハイダイナミックレンジ(HDR)技術で暗い画像もくっきり 出典:MHL


加えて、このビデオインターフェース規格にはこれまで同様、電源ラインも含まれている。その充電能力を上げている。最初のMHL 2では4.5Wまでだったが、MHL 3では10W、superMHLでは40Wの充電にも対応する。つまり、大容量のバッテリにも対応する。新しい機能だけではなく、古いMHL 1〜3の仕様とも互換性がある。一つのデバイスに複数のディスプレイをつなぐためのポートを用意している。

superMHL仕様では、TMDS(Transition Minimized Data Signaling)と呼ぶ最大6本の信号線対、1本の制御バス(CBUS)と電源バス(VBUS)、拡張制御バス(eCBUS)がある。信号線1本当たりのデータレートは6Gbpsであり、6本束ねて最大36Gbpsのデータレートが得られる。ただし、DSC(Display Stream Compression)圧縮方式で伝送すれば108Gbpsのスループットになるという。


図4 superMHLに準拠した32ピンコネクタ

図4 superMHLに準拠した32ピンコネクタ


実際にこのチップを使ってビデオ映像を大画面のテレビモニターに送るデモも見せた。ここで利用するコネクタもすでに入手可能になっている。superMHLのコネクタの特長は、USB Type Cと同様、上下を逆にしても使えるリバーシブルなことである。これまでのUSBコネクタは上下を逆にできなかった。図4のコネクタは32ピンで、6本のTMDSレーンを持ち、3Aの電流容量で最大40Wの充電能力を持つ。

superMHLの仕様を推進する半導体チップメーカーSilicon Image社はsuperMHL仕様に準拠したSil9779をこのほどリリースし、それを使ったビデオ伝送をデモした。このチップは、superMHL入力を1ポート、HDMI2.0入力を3ポート、superMHL出力を1ポート備えており、ビデオ解像度は8Kで60fpsまでカバーしている。32ピンのリバーシブルsuperMHLコネクタにはこのチップを使っている。ただし、Silicon ImageはLattice Semiconductorに買収提案されており、今後はLattice となる可能性がある。

superMHLの仕様は極めて高い。これまでのHDMIもDisplayPortもMHLもSlimPortも全てかすんでしまうようなハイスペックだ。これまでMHLにとってHDMIは互換性を保つ「仲間」であったが、この仕様では、もはやダントツのスペックとなっている。実際、Rob Tobias氏は、「(superMHLが登場してきたため)HDMIはコンペティタになった」と語っている。

参考資料
1. モバイルビデオ規格、MHLかSlimPortか (2014/05/20)

(2015/03/18)
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