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Agナノワイヤー透明電極をプラスチック基板に形成、CEATECに見る新トレンド

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Agナノワイヤーが早くもガラス基板だけではなく、プラスチック基板でも形成でき、しかもタッチパネルデバイス用に製品に使われるようになってきた。米国のベンチャーCambrios(カンブリオス)社は、世界大手のパソコンメーカー、LenovoにAgナノワイヤーのプラスチック製品ClearOhmを提供すると発表した。

図1 Agナノワイヤー(青い丸印の曲線)の透明度は高い 出典:Cambrios

図1 Agナノワイヤー(青い丸印の曲線)の透明度は高い 出典:Cambrios


Cambrios社は、Agナノワイヤーを開発してきた企業(参考資料1)であるが、そのビジネスはAgナノワイヤー材料だけを提供するのではなく、それを溶かした有機インクやバインダー剤なども混ぜて販売する。混合比率や材料そのものがノウハウとなり、顧客密着型のビジネスである。Agナノワイヤーそのものは、透明な導電体であるため、タッチパネルの透明電極として使われる。

同社のAgナノワイヤーの優位な点は、シート抵抗が低く、透明度が高いという点である(図1)。15〜100Ω/□の範囲内では透明度は95%以上とITO並みの数字を示している。ITOは高温プロセスが必要だが、Agナノワイヤーは有機インクに溶かして基板のガラスやプラスチックに直接塗りこむだけなので、室温での作業が可能だ。同社CEOのJohn LeMoncheck氏は、最近のタッチパネルはプラスチックの要求が強くなっている、と述べる(図2)。サムスンはクルマのダッシュボードへの応用を狙い、曲面ディスプレイのタッチパネルを欲しているという。


図2 Cambrios社CEOのJohn LeMoncheck氏

図2 Cambrios社CEOのJohn LeMoncheck氏


タッチパネル市場は2013年に18億枚、2016年には27億枚に成長すると予想されており、13年の18億枚のうち2/3はガラス基板がまだ多いが、いずれプラスチックが逆転すると同氏は見ている。2013年は1/3から4割に増えると予想する。Lenovoのようなパソコンメーカーもガラス基板より薄く軽くなるということでプラスチック基板を好むとしている。つまりプラスチック基板上にタッチパネル用の透明電極が形成されていく。

実際の工程では、Agナノワイヤーは有機インクに溶かした溶剤をプラスチック基板に「べた」で被覆し、レーザーによって配線を形成する。Cambriosの業務はこのインクまで。日立化成をはじめとするプラスチックメーカーが、このインクをプラスチック基板に塗ってロール状に加工し、タッチパネルメーカーに提供する。

最近ではCuの細いワイヤーをマトリクス上に並べたメタルメッシュという材料も登場しているが、このメタルと比べるとAgナノワイヤーは15Ω/□以下の低いシート抵抗の範囲で透明度は若干劣る(図1)。しかし、Cuのメタルメッシュは、液晶パネルの解像度によってはモアレ現象が生じるため、解像度ごとに設計し直す必要がある。Agナノワイヤーは細かい針をランダムにからめた構造をしているため、モアレは出ないとしている。

Agワイヤーはデンドライトと呼ばれる樹枝状のAgが成長しやすく、電気的なショート不良を起こす危険性がある。これに対して、LeMoncheck氏は、「デンドライトの形成には二つの条件が必要だ。一つはDCバイアスであり、もう一つは水分だ。バイアスはAC電圧で動作させている上に、水分に対してはAg配線が大気中に露出していないため影響が少ない。パネルにした状態で信頼性試験を行うことが適切だろう」と語る。

パソコン産業は、LenovoのFlex 20新製品に見られるように、ノートパソコンのディスプレイを180度完全に折り曲げることのできる構造にしており、タブレットとしても使えるようにしている。CEATEC 2013 の基調講演で、Intel社PCクライアント事業本部上席副社長のカーク・スカウゲン氏は、「2 in 1 device」と呼び、パソコンがタブレットにもなるような構造のUltrabookを提唱している。こういった用途ではまず軽量・薄型がマストになり、タッチパネルの透明電極基板はプラスチックへの要求が強まっている。

また、CEATECでは、液晶ではなくリアプロジェクタであるが、三菱電機が凸面のクルマのダッシュボードをデモで見せており(図3)、曲面形状のダッシュボードへの要求も高まる傾向も見られた。これらのトレンドは、LeMoncheck氏の見通しを裏付けている。


図3 三菱電機の曲面ダッシュボードのデモ 全体を凹面状、真ん中だけを凸面にしたディスプレイ ただし、液晶ではなくリアプロジェクタ

図3 三菱電機の曲面ダッシュボードのデモ 全体を凹面状、真ん中だけを凸面にしたディスプレイ ただし、液晶ではなくリアプロジェクタ


参考資料
1. Agナノワイヤーの透明電極膜がなぜ商用化できたか、CEOが語る (2013/04/11)

(2013/10/02)

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