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インド政府、半導体ウェーハ工場を2棟計画、今年の10月までに建設着手へ

インド政府の通信IT大臣のShri Kapil Sibal氏が来日し、インドが今年の10月までに二つの半導体ウェーハ工場の建設に着手する計画を明らかにした。2015〜16年ころの製造開始を目指す。インドが半導体ウェーハのプロセス工場を持つ狙いは何か。

図1 インドのShri Kapil Sibal通信IT大臣

図1 インドのShri Kapil Sibal通信IT大臣


インドには半導体の設計スキルは長けている企業が多いが、製造はイマイチとこれまで思われてきた。実際、テキサスインスツルメンツやSTマイクロエレクトロニクスは、バンガロールにデザインセンターを置き、LSI設計を現地企業に委託していた。このため、EDAツールの習熟は言うまでもなく、ツールの修正や改良までも対応できるようなスキルを身に着けた企業も出てきた(参考資料1)。

しかもこれからは、「半導体チップに組み込むためのソフトウエア開発が重要になる。これこそインドの強みだ。組み込みソフトウエアの技術者が毎年50万人誕生している」とSibal大臣は述べる。システムLSIでは組み込みソフト開発力がチップの価値を決める。だからこそ、ソフトウエアを載せるハードウエアのプラットフォーム、すなわち半導体チップが欲しいのである。

ところがインドには半導体の製造拠点がない。インド人は設計が得意で製造が苦手だという訳では決してない。というのは「インドでは特に自動車の部品サプライヤには量産可能な優秀な企業が出てきている」(同大臣)からだ。この立場に立てば、これまで半導体の製造をやってこなかっただけであり、本気で始めれば決して苦手な訳ではない。スズキ自動車工業はインドでは尊敬されている代表的な製造企業の一つである。こういった例が増えている訳だから、インドは製造は向かないということはないはず、とこのセミナーを主催したサンアンドサンズ社のSanjeev Sinha氏は言う。

さらに、インドの強みは人口の多さである。現在12億人だが、中国とは違い、一人っ子政策を採っていないため、人口はさらに増え続ける。すなわち市場は拡大し、働き手はますます増える。

人口が増えるこの国で将来に渡って成長できる産業の一つが医療機器産業である、と同大臣は言う。医療機器向けの半導体チップはこれからの成長製品の一つになる。電子カルテシステムから始まって、血圧、血糖値などを患者の自宅でワイヤレスにモニターしそのデータを病院へ送るシステムが注目されている。クラウドを利用してそのデータを病院間で共有する。患者はどこにいても適切な治療を受けることができる。病院のベッド不足の問題も解消される。こういった医療環境を構築できる国や地域が世界各地で望まれている。

インドはさらに、テレマティクスやセンサ、アニメーション、カーエレクトロニクスなど、世界と競争すると共に一緒に協力していける分野も多い、という。人口の多さは、LED照明市場やソーラー市場にも通じる、とする。


図2 インド政府が用意しているエレクトロニクスの工業団地

図2 インド政府が用意しているエレクトロニクスの工業団地


では、電力や通信、ガス、水道など製造に不可欠なインフラはどうか。政府は現在、エレクトロニクスクラスタと呼ぶ工業団地の建設を進めている(図2)。ここではインフラは完ぺきにする必要がある。税制優遇策も用意した。インフラコストの50%は補助され、10エーカーの土地で工場運営をするなら最大1000万ドルの補助金を用意する。1エーカー当たり100万ドルの補助であり、土地に面積に応じた補助を行うとする。また、インドで生産しインドから輸出する場合には関税5%の還付を受けられる。土地は州政府から提供される。まさに至れり尽くせりの環境を整えている。

インドは、2020年までにエレクトロニクス産業に1000億ドルを投資、4000億ドルの製品を生産する製造業と2800万人の雇用を生み出す目標を定めた。半導体産業はこの目標の一つである。今のところ、ファウンドリかIDMかミックスしたビジネスモデルを考えている、と通信IT省セクレタリのJatyanarayana氏は語る。できれば外資とも組む工場を想定している。大臣は日本にラブコールを送っているが、日本企業は決断できるだろうか。

参考資料
1. LSI設計を知り尽くしたベテランたちが昨年起こしたインドのデザインハウス (2011/09/27)

(2013/02/14)
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