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米国のベンチャーキャピタリストが教えてくれた資金提供の極意

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半導体産業はまだ魅力的か。ベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタル(VC)APEX Venture Partners社に疑問をぶつけてみた。シカゴをベースに全米のベンチャーを対象とするこのVCは今、どのような考えでどのような企業に投資するのかを同社ジェネラルパートナーのArmando Pauker氏が明かしてくれた。

図1 APEX Venture Partners社ジェネラルパートナーのArmando Pauker氏

図1 APEX Venture Partners社ジェネラルパートナーのArmando Pauker氏


APEX社は、1987年設立のVCで、これまで140社を超えるベンチャーに6億ドルを投資・マネージしてきた。Pauker氏は1980年代後半に米カリフォルニア工科大学を卒業、半導体検査装置の米Tencorにおいてエンジニアとして勤務した後、製品マーケティング、セールスにも従事した。2000年にこのVCに入社した。APEXの資金源はファンドと同様、年金ファンドと証券会社である。ファンドからも資金を集めている。

同氏によると、テクノロジーこそがサービス産業のインフラであり、半導体はその中核をなすことから、きちんとしたインフラをベースにしたサービス、ソフト、ハードに投資する。ハードやソフトだけとは限らない。例えばeコマースの企業は、テクノロジーをコアにするが、テクノロジーを売らずサービスをビジネスとして売る。VCが狙う分野はさまざまなサービスのインフラであり、半導体のベンチャーで有望であればもちろん投資する。半導体がダメでバイオだ、エネルギーだ、ソフトだ、サービスだ、というような分野に限定したものではない。

これからの有望な分野として、企業のインフラやアプリケーションソフト、ワイヤレスのインフラ、再生可能エネルギーなどを上げている。再生可能エネルギーが有望分野に入るのは、ソーラーが半導体プロセスと似ているからだという。

ベンチャーが成功するのに必要な要素は次の八つある、と同氏は言う。
1. 優れた経営陣
2. イノベーション
3. 情熱とビジョン
4. リスクカルチャー
5. 市場性
6. 顧客にアクセスできるか
7. ビジネスモデル
8. VC

企業を動かすのは経営陣と従業員。「経営者としてはできるだけ業界経験が必要で、たとえ前に失敗していてもかまわない。失敗したことで何かを学んでいるからだ。それも1人より複数人が望ましい」(同氏)。次に優れたアルゴリズムとか優れた半導体プロセス技術とか、技術的なイノベーションや、e-Bayのようなビジネスモデルのイノベーションを持っていることが必要である。優れたソフトウエアなどの技術と新しいビジネスモデルを併せ持っていればさらに強い。

三つ目の情熱とビジョンは特に重要で、起業時に24時間働けるか、しかも現実的な出口(製品化)に至るまで8年くらいかかるが、それまで続けられるか、を聞くという。情熱がない人には資金を提供できない。VCに来る起業家志望の中には大企業に入りたいができないからベンチャーを希望したり、大学の教授の中にはサイドビジネスとして起業したいと考えている人たちもいるが、いずれも情熱を感じられない、と言う。「ビジョンにしても自分の持つ技術で世界を変えたいというほどのビジョンを持つことが望ましい。面接して情熱やビジョンを聞いてみると、ただ有名になりたいだけの人も多い」という。

そして4番目のリスクをとるカルチャーを経営者は持つ必要があり、その覚悟が問われる。「これも情熱・ビジョンと並ぶ重要な要素で、どうやって成功させるかを常に問う。大企業の場合も出世に伴うリスクがある。課長・部長・事業部長・取締役と出世するにつれ、リスクが大きくなる。真っ先に首になる可能性があるからだ。安穏と生活はできなくなるというリスクだ。ベンチャー企業の場合でも、製品を開発しそれを売る営業マンを雇うべきかについてもリスクが付きまとう。起業時には日ごとに資金がなくなっていくからだ」。

5番目の市場規模の確認とビジネスプランをしっかり立てることも重要である。「先日も、タブレットやスマートフォンを障害者向けに開発したから製品化したいというベンチャーがあったが、市場規模について全く調べていなかった」(同氏)というような例もある。

また、顧客開拓が可能かどうかという6番目の視点も重要だ。個人が購入するような製品を売りたいというベンチャーと会ったが、誰が買うのかと尋ねたら誰でも(everyone)と答えたという。すでに1000万人のユーザーを持つ競争相手と一体どう戦うのか、顧客をどうやって見つけるのか、顧客と製品とのマッチングをどう実現するのか、非常に重要な要素となる。

画期的なイノベーションを持つベンチャーがビジネスモデルについてもイノベーティブであれば心強い。「例えばDropBoxという企業は素晴らしいビジネスモデルを持っている。これはオンラインストレージの会社だが、ストレージのホルダーをある程度の容量までは無料で使える。月に10ドル支払うと容量をもっと増やせる。もし友人とコラボして何か新しいソフトウエアを開発したいという場合には、共に支払ってストレージを共有できる」。

半導体ビジネスはやはり魅力的である。APEX社が投資した半導体ベンチャー企業の一つ、米SiliconBlue Technologies社を最後に紹介しよう(参考資料1)。この会社は何回目かの資金調達で1800万ドルを集め、2011年5月にグローバルに展開することを決めた。製品は低コストのFPGAだ。経営者は米Xilinx社出身の業界経験者である。製品の狙いはスマホやタブレットのような携帯端末。顧客にはサムスン、LG、ソニー、カシオなどがいる。SiliconBlue社を高く評価して、同じくFPGA企業の米Lattice Semiconductorが買収したことが2011年12月15日に発表された(参考資料2)。一般に、VCの出口はIPO(上場)だけではなく、高く買ってくれる企業への売却も含まれる。

VCは日本企業にも興味を示すか。Armando Pauker氏は、北米をカバーしているが、日本企業に資金を出せないと言う。市場性がわからないからだ。早期段階におけるVCはベンチャー企業と一緒に働く。日本とは遠く離れているので電話会議を毎日できないから無理だという。しかも日本市場は、ディストリビューションの仕組みが複雑で、VCが日本にいなければ無理だとしている。

参考資料
1. スマホやタブレットの新機能追加FPGAでサポートするシリコンブルー (2011/07/19)
2. アップルとうまくやりたいサムスンがセット・半導体分離を促進 (2011/12/19)

(2011/12/20)

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