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日本発デジタルグリッドコンソーシアムが始動、電力の安定供給を目指す

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一般社団法人のデジタルグリッドコンソーシアムが技術開発と標準化に向けて活動を開始した。この非営利団体のコンソーシアムは、設立メンバーにはじめから米国企業を含め、グローバルな普及活動に重点を置いている点がこれまでのコンソーシアムとは大きく違う。設立は今年の9月7日で、活動を始めながら会員企業も募っていく。

図1 デジタルグリッドコンソーシアムの中心メンバー 左から日本NIのマンディップ・コラーナ氏、オリックスの小原真一氏、東大阿部力也氏、NEC國尾武光氏

図1 デジタルグリッドコンソーシアムの中心メンバー
左から日本NIのマンディップ・コラーナ氏、オリックスの小原真一氏、東大阿部力也氏、NEC國尾武光氏


デジタルグリッドは、比較的小さな地域(セルと呼び、最小は家庭、小さなビルやマンション、大きな共同ビル、町内会、村、町など)同士をつなぎ、できるだけお互いにセル内で電力の需給を賄うが、時にはセル間でのやり取りも可能にする(参考資料1)。この結果、火力や原子力、水力のような従来の発電所からの系統電力に影響を及ぼさないようにして、発電所の負荷を減らそうとするもの。このセルをスマートグリッドあるいはマイクログリッドと呼んでもよいが、「従来のスマートグリッドは電力量を測っているだけで、セルにIPアドレスを付けていない」とこのコンソーシアムの提案者である東京大学大学院工学系研究科特任教授の阿部力也氏はスマートグリッドとを区別している。

従来の電力網は、最も大きなピーク容量をベースにして料金を決めており、消費者が50Aや60Aという最大電力(電流)に見合った料金を支払うが、実際に使う電流は平均5A程度だという。日本ではピークに合わせて過剰な発電所を作り、停電を防いでいるが、その発電所の稼働率はピーク時しか動かさないため極めて小さい。いわばピーク時のために高い料金を消費者が支払っていることになる。新技術は、できるだけ平均的な電力を使うことで、需要家(消費者)にとって電力料金の値下げにつながることが期待される。


図2 デジタルグリッドの仕組み

図2 デジタルグリッドの仕組み


言わばスマートグリッド全体を制御し系統とのインターフェースの役割を担う「デジタルルータ」を設けたものがセルともいえる。阿部氏は、デジタルグリッドのアイデアを確認するため、米国の研究開発組合であるEPRI(Electric Power Research Institute)ともディスカッションを重ねてきた。今回、EPRIのメンバーをアドバイザリボードとし、設立時の社員には阿部氏を代表理事として、福井大学準教授の田岡久雄氏、キュマル・パシフィック・アライアンスのマネージングディレクタであるデービッド・マクルキン氏の2名が加わる。理事には東京大学、NEC、IHSアイサプライジャパン、産業技術総合研究所、テスト技術研究所のベテランが加わっている。

コンソーシアムを設立した目的は、将来の安定した電力網を構築することであり、そのために基幹系統にかかる負荷を減らし、しかも環境調和型の社会に合うような電力網を作ろうというもの。変動の大きなソーラーや風力などの再生可能エネルギーを大量に導入しても電力網に負担をあまり与えず、安定した電力を供給できるようにする。このためには電力を貯蔵できるパワーバッテリや、パワールーターやコントローラを導入することで電力潮流を自在に制御できる仕組みを構築する。

このコンソーシアム会員間の研究や協力によって、デジタルグリッドルータやデジタルグリッドコントローラの中核技術と、サービスプロバイダのサーバー技術を確立する。さらに、デジタルグリッド技術のインターフェースや共通仕様を会員外にもオープンし、デファクト化し標準化を図る。

デジタルグリッド技術の検討を共同で行う企業として、NECと日本ナショナルインスツルメンツ(NI)、オリックスが参加を表明しているが、この他にも3社が加わっている。電力会社や通信キャリヤ、ハウジング企業だが、まだ名前は公開できない。阿部氏は日本中の電力会社10社に加わってほしいと述べている。


図3 開発計画

図3 開発計画


開発計画では、1号プログラムとしてルータの開発、2号プログラムとして電力制御システムの開発を始めていく。3年後には10万kW、5年後に70万kWの電力融通サービスを目指し、標準化を世界に認証させる計画だ。

日本発の規格を世界標準にするためには海外企業をはじめから巻き込んでおく必要がある。今回の試みは、日本をベースにして海外企業も標準化作業に加わらせて議論していくという点でも過去に例がない。

参考資料
1. 見えてきたデジタルグリッドの概念、新しい特許システムへの提案も (2010/06/04)

(2011/12/13)

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