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3次元ICで最も重要な問題は技術ではない、責任あるビジネスを作り出すこと

Tien Wu氏、台湾ASE Group COO(最高執行責任者)

半導体チップのトップアセンブリメーカーとしてASE Group(日月光集団)は、日本のNECエレクトロニクスの山形県にあった高畠工場を傘下に収め、世界各地に工場を持っている。台湾の高雄、韓国、中国、シンガポール、アメリカ、マレーシアにも工場を持ち、TSV(through silicon via:貫通電極)技術にも積極的に投資、開発している。10月末に東京新宿のハイアットリージェンシー東京で開かれたISSM(International Symposium on Semiconductor Manufacturing)で基調講演を行ったTien Wu最高執行責任者(COO)に昨今のASEの業績と今後の見通しなどについて聞いた。

ASE Group Tien Wu COO


Q(セミコンポータル編集長):まずASEの2007年の売り上げと利益の実績を教えてください。そして御社の位置づけを教えてください。
A(Tien Wu ASE Group最高執行責任者):2007年の売り上げは31億米ドル、純利益は3億7100万ドルです。そしてわが社の市場シェアはSATS(semiconductor assembly and test subcontractors:半導体アセンブリおよびテストのサブコントラクタ)市場で見積もると、STAS市場全体は206億ドルですから、15%になります。この数字は世界で第1位です。

Q:2008年の景気をどのように見ますか。
A:当社の2008年前半は対前年同期比で15%成長しましたが、後半はマイナス成長なので通年では数字はいえませんが、あまりよくないと思います。後半は世界経済全体が景気後退期に入っています。その要因は二つあります。一つは半導体産業全体の見通しが悪いことです。もう一つは在庫調整がまだ進んでいないことです。この二つの要因によって投資を控える企業が増えています。この不況は歴史的に長くなりそうで、9〜16カ月は続くだろうと見ています。
一方で、原油価格の高騰の影響も出ています。製造するための電力や材料コスト、さらには輸送コストも跳ね上がり、財務状況はよくありません。

Q:ISSMの基調講演でエルピーダの坂本社長が、1にキャッシュ、2にキャッシュ、3に技術、と言っているように財務状況の改善が最優先でしょうが、2~3年先を見た長期的な半導体産業の見通しはどうですか?
A:ASEは市場シェアナンバーワンを守るために長期的な展望を持って投資します。半導体産業は長期的にはまだまだ成長するからです。特に技術、人、そしてキーカスタマのためにこの不況期でさえ投資します。半導体産業の投資は常に長い目で行わなければなりません。

Q:これまでの半導体産業は前工程と後工程の境界がはっきりしていました。しかし、最近はトランジスタや配線が完成したウェーハを後工程のメーカーに渡すだけで済まなくなってきました。WLP(ウェーハレベルパッケージング)でのバンプ形成、ダイシング時間を短くしたりチップを積層したりするためのウェーハの薄型化、あるいはTSVなど、トランジスタウェーハ完成後でも、後工程でウェーハを加工する作業が増えました。いわゆるウェーハ工程への投資や開発にはどのように取り組んでいますか?
A:前工程と後工程の境界は動いています。当社もWLPやウェーハバンピングのサービスを行っています。ただ、その境界で誰が責任もってサービスを行うか、が問題なのです。TSVは前工程と後工程のインターフェースを決める技術です。ビアを先に形成して後から薄く削るか、ウェーハを先に薄く削りビアを後で形成するか、ということもその境界が流動的です。

Q:いつTSVビジネスを立ち上げる予定でしょうか?
A:それは、技術の成熟度とコストメリットによります。今は、それを予測するにはまだ時期早尚でしょう。TSVビジネスは、高集積ICを低コストにできるだろうと考えられているから今、注目を集めています。

Q:今はワイヤーボンディングの方がずっと安いでしょう。
A:応用によってはその通りです。もし、(モノリシックに)高集積ICが安くなるのならTSVは必要ありませんしね。

Q:モノリシックにアナログ回路をデジタル回路と一緒に集積するのは性能・コストの点で効率が悪いと思います。
A:そこが重要なポイントです。アナログ回路は消費電力を下げるために微細化する必要がありません。デジタルは微細化が必要です。メモリーは微細化に加え大容量化のためにメモリーブロックの面積が大きくなります。これら三つを1チップに集積するとなると、それぞれの異なる要求をすべて満たすためにはとてもコストが高くなります。このため実装で解決しようというわけです。実装もTSVやSiP、PoPなど候補がたくさんあります。

Q:ルネサスのエンジニアがロジックとメモリーを重ねてTSVで接続する場合、インターポーザーを挟む方がトータルの厚さが薄くなると言っていました。インターポーザーの再配線する設計ビジネスが誕生するような気がしますが。
A:インターポーザーを含めた全体の構成やコスト、性能などでTSV3次元IC技術は差別化を図ることができるでしょう。と同時に大事なことは、誰が責任を持つかということです。どのメーカーが全体のオーナーですか。アナログメーカーでしょうか、ロジックメーカーでしょうか、メモリーメーカーでしょうか。それも前工程のメーカーですか、後工程のメーカーですか。さらにインターポーザーが加わるといったい誰がTSV全体の責任者なのでしょうか、ここが明確にならないとビジネスがどうなるかわかりません。少なくとも当社は後工程メーカーです。

Q:その代り、多くの企業が勝者になる可能性があるかもしれません。
A:モジュールのサプライヤーが責任企業かも、あるいはエンドユーザーかもしれません。モジュールメーカーが部品を買って組み合わせる責任企業かもしれません。もし、ロジックとメモリーが良品でアナログが不良品だったとしたら、どの企業が責任をとりますか?TSVはビジネスの問題と経済の問題で技術の問題ではありません。

Q:御社は競合メーカーと比べて強みは何でしょうか。
A:ASEは競合メーカーと比べて、次の点に投資をしていることです。まずインフラストラクチャに投資します。例えば中国に低価格の生産基地があります。
次にグローバルな人材のスキルを磨くことにも投資します。他のメーカーより多くの工場を持ち、より多くの国に工場を持っています。中国以外にも、韓国、日本、シンガポール、アメリカ、マレーシアにも工場があります。そして他社より多くの顧客を持っています。グローバルなビジネスを行っていると思います。グローバルに顧客と従業員がいます。
3番目の強みとして、売り上げの5%をR&Dに投資しています。これはどのアセンブリメーカーよりも多い売上比率です。R&Dは将来のために投資します。先端的な日本にも工場を持つことによって日本で何が起きているのかをすぐに理解できます。
これらインフラ、グローバル、R&Dへの投資が競合メーカーとの大きな違いです。ですから、ローコストからハイバリューまで世界中に広く顧客を持っています。

Q:日本はなかなかグローバルのビジネスがうまくいきません。何かヒントとなるものをいただけませんか。
A:日本の大きな問題は、ほどよくエコシステムができているからです。十分に大きな市場があるから、みんなそこにいて快適だし、無理に海外に出ていかなくてもすむのです。米国は日本に頼っています。中国は海外の投資と技術、市場創造に頼っています。台湾は米国市場に頼っています。欧州はお互いにみんなで頼っています。
日本だけがどこに頼らなくてもビジネスができる国なのだと思います。だから今以上の成長をしようとすると、その自己完結しているエコシステムを乗り越えなければならないのだと思います。


(2008/10/30 セミコンポータル編集室)

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