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成長見込める分野に手を広げ、経営基盤を確立したCSR

Joep van Beurden氏、英CSR社CEO(最高経営責任者)

Bluetoothチップの生みの親とも言うべきCSR社。旧名Cambridge Silicon Radio社はBluetoothがもはやコモディティチップになった今、どのようにして未来を切り拓いていくのか、その製品戦略について、来日した同社CEOのJoep van Beurden氏に聞いた。

図1 英CSR社CEOのJoep van Beurden氏

図1 英CSR社CEOのJoep van Beurden氏


Q1(セミコンポータル編集長): CSRはBluetoothで成功したファブレス半導体企業です。 今やBluetoothチップはコモディティになりました。どのようにして成長していく計画ですか?
A1(CSR社CEO  Joep van Beurden氏): 確かに、2008年はBluetoothチップしか持っていませんでした。しかし、2012年にはBluetoothチップが1/3、GPSチップが1/3、画像・映像処理チップが1/3とバランスを取ってきました(図2)。今は、Bluetoothチップの中でもBluetooth Smart対応チップに力を入れています。パソコンやスマートフォンなどBluetooth Smartのハブとして使うBluetooth Smart Readyは、QualcommやBroadcomなどのライバルが多く競争が激しいので、手掛けません。


図2 CSRはBluetooth以外の成長分野を求めて広げている 出典:CSR

図2 CSRはBluetooth以外の成長分野を求めて広げている 出典:CSR


Q2: なぜGPSチップビジネスも始めたのですか?
A2: 2007年に私がCSRに入社した時、Bluetoothだけのビジネスでした。それもノキア向けが多かったのです。一つの技術、一つの製品、一つのカスタマでは極めてリスキーだと思いましたので、すぐさまWi-Fiやオーディオチップの開発も始めました。オーディオチップの小さなベンチャーを買収しました。そしてGPSのリーダーであったSiRF社を2009年に買収し、製品を広げました。これからはGPSとインドア位置検出を併せて新しい市場を作ります。

Q3: オーディオチップはどのようにして差別化するのですか?
A3:  当社はBluetoothやWi-Fiとオーディオをシングルチップに集積することに注力しています。携帯電話やスマートフォンの中のオーディオICではWolfson Microelectronicsが強いのですが、当社はBluetoothを利用するオーディオ製品に力を入れています。
 例えば、サウンドバーやステレオスピーカー等Bluetoothを利用する、ハイエンドのオーディオ製品の80%は、当社のチップを使っています。ローエンドでさえ、50%程度は当社の製品です。
 こういったユニークな位置づけの製品には、1チップにBluetoothとオーディオプロセッサを集積するだけではなく、DSPや組み込みソフトウエア、プロセッサ、パワーマネジメント回路なども集積しています。ここまで集積すると回路ボード技術者にとって、設計しやすくなり、しかもBOMコスト(Bill of Materials:部品コスト)を安く抑えられます。

Q4: 画像・映像処理チップの特長は何ですか?
A4: 2011年に当社はZoranを買収することで、ビデオ技術を手に入れました。Zoranは画像・映像処理に強い技術を持っているため買収しました。これからの応用においてビデオ用IPを持つことは重要になります。モバイルカメラやサーベイランス(監視カメラ)だけではなく自動車市場にもビデオIPを持っていると非常に有利です。自動車のインフォテインメントでは、Bluetoothと共に集積することで、クルマの運転中に電話がかかってきても、両手でハンドルを握ったまま、スピーカーやカーナビスクリーンを通した音声通話や応答が可能になります。このようにして、当社は五つの製品プラットフォームを得ました(図3)。


図3 CSRが持つ五つの製品プラットフォーム 出典:CSR

図3 CSRが持つ五つの製品プラットフォーム 出典:CSR


Q5: 自動車市場をどのように見ていますか?
A5: BluetoothやWi-Fi、オーディオ、GPS、画像・映像技術等当社の持つ技術は、全て自動車に使えます(表1)。カーエレクトロニクスは特に日本市場に向いています。CSRの日本オフィスはカーエレクトロニクス市場に向け非常に活発に動いています。これまでも欧州だけではなく米国、日本、韓国の自動車市場にチップを納めてきました。日本では10年以上、実績を積んできました。デンソーやアルプス電気、クラリオンなどは強力なパートナーです。
 CSRとして自動車市場へは、当初はBluetoothから入り、Wi-Fi、さらにGPSへと応用を広げ、高集積SoC(システムオンチップ)へと展開してきました。


表1 CSRの五つのプラットフォームを支えるテクノロジー 出典:CSR

表1 CSRの五つのプラットフォームを支えるテクノロジー 出典:CSR


Q6:  日本市場での売り上げは何%くらいでしょうか?
A6:  当社は地域別の売り上げを公開しておりません。ただ、言えることは日本市場を重視しているということです。例えばこれからのIoT(Internet of Things)では、Bluetooth Smartに様々なチャンスが日本市場においては広がっています。メディカルや照明分野では、Philipsが「hue」という名称のLEDランプを販売しています。これはBluetooth Smartを使ってLED照明の色を変えたり点灯させたり消したりできるランプです。欧州をはじめ世界ですでに使われており、スマートフォンにアプリをインストールすることで可能になっています。
 日本ではスマートホームも市場になっていますので、Bluetooth Smartを使って照明だけではなく音楽をかけたり消したりするという応用もできます。自動車でもスマホと連動させ、キーレスエントリに暗号をかけることで盗難防止にも使えます。また、タイヤの空気圧センサからの情報をドライバーに伝えるのにも使えます。日本は有望な市場です。

(2014/01/08)
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