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持続可能な社会の成長分野に向け、LSIを試作し問題点を把握するIMEC

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Luc van den Hove氏、ベルギーIMECのCEO

ベルギーの研究開発機関IMECの将来に向けたメッセージは、「持続可能な社会を目指す」ことであり、それを実現する大きなテーマがスマートグリッドである。「この30年間、年率2%の割合でCO2排出量が増え続けてきている。持続可能な地球を実現するためにスマートグリッドは欠かせない」。CEOのリュック・バンデンホッフ氏はこう語った。

図1 IMECのCEOであるリュック・バンデンホッフ氏

図1 IMECのCEOであるリュック・バンデンホッフ氏


同氏は東京で開かれたIMECエグゼクティブセミナーにおいて、IMECが目指すべき市場はこれからの成長分野となる「持続可能な社会」に必要なスマートグリッド、それを支える4つの技術と医療・ヘルスケアである、と自信を持って述べた。

スマートグリッドの中心となる技術は、1)太陽電池や燃料電池、2)GaNパワーデバイスとパワーコンバータ、3)スーパーキャパシタや電池に向けた材料、4)ワイヤレスICTシステム、と位置付けている。

実現できる技術として太陽電池ではシリコンを中心に開発を進め、次世代ソーラーとしては薄膜系や有機材料系を考えている。有機のソーラーセルは5%以上の効率が欲しい。しかもセルからインテリジェントなソーラーシステムを目指す。このためには小型インバータの開発、蓄電技術、最大電力点をトラッキングするセンサー技術が必要となる。

GaNパワーデバイスは、電力変換とLED照明のために必要となる。IMECではSi上にGaN膜を結晶成長させる研究を行っている。

もう一つ重要な市場は、持続可能な社会を生きる人間自身の医療・ヘルスケアの分野である。今、60歳以上の人口は地球上に6億人と全人口の10%だが、2025年にはその2倍になると予測されている。60億人のうち、10億人が肥満気味で3億人が太り過ぎと言われている。持病を抱えている人間はやはり6億人もいる。デジタル技術を使って医療やヘルスケアを変えていこうというもの。

正確な体調管理には普段の生活を送ることが求められるため、IMECではネックレスタイプのヘルスケアモニターを開発している(参考資料1)。普段の生活のように歩いたり、時にはテニスをしたり毎日の生活を送りながら、体温や脈拍、血圧などを常時モニターする。病院に行くと緊張して高めに出る血圧は、普段の生活の中で求めることが正しい健康状態を把握できる。脈拍や血圧などのデータは自分の携帯電話で読むことができる。


図2 心電図データ値を携帯で見る

図2 心電図データ値を携帯で見る


さらに、ストレスや感情をモニタリングするためのヘッドマウント型のセンサーも試作している。身体データを体に張り付けてモニターすることができるように、伸縮自在な電子回路をプリンタブルエレクトロニクスではなく、既存のプリント基板回路でできるような試みも進んでいる。図3はプリント基板同士を伸縮自在な配線で接続したものである。


図3 フィットネス運動に使うモニター(左)と赤ちゃんのモニター(右)

図3 フィットネス運動に使うモニター(左)と赤ちゃんのモニター(右)


IMECではさらにアルツハイマー病を解明するための脳からの信号を検出するためのプローブ回路や、バイオエレクトロニクス用のチップ、医療実験用のテストチップ、診断や心理治療用のナノパーティクル材料、MEMSを利用したにおいセンサーなども開発している。

ワイヤレスブロードバンド分野では、2020年には全ての家庭にフェムトセル(家庭用基地局)やブロードバンドルーターが設置されると見ており、無線を使うデータ容量は今の30倍以上になるため、エネルギー効率を2000倍に上げる必要があると計算している。そのために必要なワイヤレス技術は、容量の増大、消費電力の削減、放射パワーの削減が求められると共に、どこでもつながるように、より移動性を高めなければならない。

こういった目標に向けてIMECは、コグニティブでリコンフィグラブルな無線チップ、ミリ波無線のビームフォーミングを行う40nmCMOSチップ、電池不要の無線機を目指して超低消費電力の無線機チップなどをすでに試作している。


図4 ASMLから導入し実験データを豊富にためているEUV技術

図4 ASMLから導入し実験データを豊富にためているEUV技術


こういった賢い無線チップを実現するため、22nm以下の実用化を目指すEUV装置を導入して、実際のパターンを加工してみるなどの実験データを集めている。また、15nm台の微細化のトランジスタは、キャリヤ移動度を上げ動作速度を上げるため、nチャネルトランジスタの半導体にはInGaAs、pチャネルトランジスタにはGeを利用するCMOSトランジスタの試作も行われている。さらには新しい原理のトンネルFETやグラフェンFETなども試みられている。

トランジスタレベルの試作だけではなく、TSV技術を使いチップ同士を重ねる3次元IC、SiGeのMEMS、伸縮自在なLEDマトリックスなども試作している。

現在の共同研究者数は1783名、移り住んでいる研究者が550名以上、参加62ヵ国、600社以上のパートナー企業、2億7500万ユーロの売り上げ(2009年)、そのうちフランダース地方政府からの予算4470万ユーロ、ドイツ政府からの800万ユーロ、31社のスピンオフで誕生したベンチャー企業、5000人の雇用、という業績を上げている。

参考資料
1. ベルギーIMEC、ヘルスケア向けの無線センサーデバイスを開発、実用化目指す (2009/09/03)

(2010/11/26)

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