ISSCC 2022のテーマは持続可能な社会に向けたインテリジェントな半導体
ISSCC(International Solid-State Circuits Conference) 2022の概要が決まった。会議全体のテーマは「持続可能な社会に向けたインテリジェントな半導体」である。半導体業界では当たり前の低消費電力化は、サステイナブル社会実現のカギとなる。低消費電力化は、単なるモバイル応用からコンピューティング、AI、アナログ設計、通信、環境測定へと広がり、新技術は環境負荷を減らすために向けられる。
図1 ISSCC 2022での基調講演 出典:IEEE ISSCC委員会
基調講演は例年同様4件で、最先端のトピックスである(図1)。クラウドベースのプロセッサを根本から見直してクラウドネイティブなプロセッサ設計を目指すAmpere Computing社会長兼CEOのRenee James氏が「The Future of the High Performance Semiconductor Industry and Design(高性能半導体の産業と設計の未来)」と題する講演を行う。2018年に設立された同社のCEOはIntelの元幹部。同社はクラウドコンピュータに最適なメニーコア、AIなどの機能を標準装備し電力効率が高く、かつ拡張性を持たせたプロセッサの開発を目指す。Armの64ビットCPUコアを最大128個サポートし、メモリチャンネル数8チャンネルとPCIe Gen4インターフェイスを128チャンネル持つチップAltraを開発中だ。
残りの3件は実績のある企業からの基調講演が並ぶ。Synopsysの会長兼共同CEOのAart de Geus氏は「Catalysts of the Impossible: Silicon, Software, and Smarts for the Era of SysMoore(不可能という触媒:SysMoore時代に向けたシリコン、ソフトウエア、スマート)」、STMicroelectronicsの通信および戦略開発担当プレジデントのMarco Cassis氏は「Intelligent Sensing: Enabling the Next “Automation Age”(知的なセンシング:次世代の『自動化時代』を可能に)」、Samsung ElectronicsのシステムLSI事業部門のプレジデント兼GMのInyup Kang氏は「The Art of Scaling: Distributed and Connected to Sustain the Golden Age of Computation(スケーリングの芸術:コンピューティングの黄金期を維持するための分散・接続技術)」とそれぞれ題する基調講演を行う。
招待講演は8件あるが、新しいコンピュータアーキテクチャの講演が多い。AI(機械学習)を意識したデータフローアーキテクチャや、富岳の52コアプロセッサ設計、仮想通貨マイニングチップ、ワームホールのAI学習プロセッサ、超電導量子プロセッサやシステム、AR(拡張現実)システム、3次元接続の64MBキャッシュなどの招待講演は全て企業からだ。ISSCCは最近、企業からの講演が減少傾向にあり、招待講演は企業からの参加を促す意味もある。
一般講演のセッションは大きく4つに分かれており、デジタルシステムが最も多く、次が通信システム、アナログシステム、そしてイノベーティブトピックス(MEMSやイメージャーなどLSI以外のトピックスを集めている)となっている。
ISSCC 2022では、投稿論文数651件に対して採択論文数が200件となった。投稿数がこれまでよりもやや多いため、採択率は30.7%とやや厳しい。ここでは基調講演や招待講演は数えていない。テーマはほぼ均等に採択しているが、機械学習の採用論文数に関してはISSCC 2021から全体の7%と定着してきた。
地域別では、アジア(韓国、台湾、日本、中国、マカオ、香港、シンガポール、インド)が約半数の99件で最も多い。ここでの地域とは、講演論文の第一著者の所属地域を表している。しかし、日本からの発表がわずか7件と激減している。大学・研究所が5件(東工大3件、産総研1件、静岡大1件)と少なく、企業はルネサスエレクトロンクスとキヤノンの各1件ずつに留まっている。他に連名となっている企業は11件あるが、これまでと比べて大学の発表件数も少なくなっている。半導体不足が叫ばれ、半導体の重要性がようやく認識されてきただけに、半導体のオリンピックといわれるISSCCでの成績の改善が急がれる。