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先端半導体をけん引するモバイル技術〜ISSCC2014から見えるトレンド

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ISSCC(International Solid-State Circuits Conference)2014の概要が固まった。半導体の世界はアジアシフトが強まっていることから、東京を皮切りにソウル、台北、シンガポール、北京でも記者会見を行った。この国際半導体回路会議は、アナログからRF、デジタル、低電力デジタル、プロセッサ、メモリ、イメージセンサなどをカバーし、ここから見えることはやはり、モバイル端末が技術をけん引していることだろう。

かつてのISSCCは、コンピュータの高性能化に合わせて、マイクロプロセッサやメモリの高性能化がメインテーマだった。最近は、デジタルだけではなく、アナログやデータコンバータ、パワーマネジメント、低電力デジタル、RFなども大きなテーマになっており、その背景にはやはりモバイル技術による半導体のけん引がある。モバイル技術は、スマートフォンやタブレットのような端末だけではない。モバイルインフラや、BYOD(bring your own device)などのセキュリティ関連、クラウド、ビッグデータなども含む大きな概念である。モバイル端末でビデオや音楽などのストリーミングを楽しんだり、録画したりする人が増えることで、ネットワークインフラには大きな負担がかかる。端末をオフィスに持ち込んで仕事にも使うことにより企業内のセキュリティも見直す必要が出てくる。モバイル端末は、ありとあらゆるシーンに登場し、半導体技術のけん引役となっている。


図1 四つの基調講演のテーマの内、三つがモバイル関連 出典:IEEE ISSCC Committee

図1 四つの基調講演のテーマの内、三つがモバイル関連 出典:IEEE ISSCC Committee


2014年のISSCCでも基調講演にそのトレンドがよく表れている。図1の四つの講演は、最初はヒッグス粒子という微小な世界を元に微細化の今後についての講演、2番目がコンピューティングの省エネ化でズバリ。3番目ではクラウドとのコネクティビティとモバイル端末を議論し、4番目ではモバイルネットワークの将来予想を打ち出したシスコがネットワークエクスペリエンスと表現している。

モバイル用途での要求は、まず徹底した低消費電力化だ。具体的にISSCCの資料を見てみると、まずアナログでは低消費電力技術の争いがある。Session 17:Analog Techniquesでは、MediaTek が1.89nW/0.15Vのリアルタイムクロックを発表、Session 23: Energy HarvestingではMichigan大学が3nWのエネルギーハーベスタを、韓国のKAISTは、エネルギーパイルアップ共鳴という手法を使い、ダブルの圧電素子から最大4.22倍のエネルギーを取り出す回路を、それぞれ発表する。狙いはモバイルないしIoT(Internet of Things)である。


図2 FOMの値を更新 出典:IEEE ISSCC

図2 FOMの値を更新 出典:IEEE ISSCC


データコンバータでも高精度にしながら低消費電力という要求が強い。A-Dコンバータは最近、FOM(figure of merit)という単位で電力効率を表すことが多くなっている(図2)。Session 11: Highlightsでは、台湾の国立台湾大学が0.85fJ/conversion-stepというFOMで低消費電力のSAR(逐次比較)方式A-Dコンバータを発表する。1fJ/conversion-stepを切ったのはこれが初めて。40nmのプロセスを利用したが、Broadcom/Wolfsonのチームは28nmのCMOSプロセスで80Mサンプル/秒と高速ながら消費電力がわずか1.5mWのA-Dコンバータを発表する。

モバイル端末やインフラに欠かせないRF技術のセッションは、Session 3、Session 14、Session 21と三つもある。無線送信機の最終パワー段の電力を減らすためのエンベロープ技術を使った1.95GHzアンプ(富士通研究所/富士通セミコンダクターのチーム)の発表に加え、RF回路に不可欠な局部発振器やPLLなどの面積を小さくし消費電力も下げるという発表がミラノ大学、国立台湾大学などからある。

スマホの周辺に使うUWBトランシーバや、IoTのZigBee、BANレシーバなどの発表もあり、消費電力の低さを競う。1mW、1Mビット/秒のチャープUWB、0.5Vで動作する1.15mWのZigBeeレシーバなどがある。また、カードエミュレーションモードとリーダーモード、ピアツーピアモードの三つを再構成可能なPLLで切り替えられるNFCレシーバをMediaTekが発表する。

モバイル系だけではなく、高速性を主眼とした発表ももちろんある。60GHzのワイヤレストランシーバをリューベンカトリック大学、東京工業大学、東芝がそれぞれ発表する。60GHzの802.11acチップセットをBroadcomが発表する。

モバイル用アプリケーションプロセッサでは、ルネサスが28nmHPMプロセスで、8コアのbig.LITTLEアーキテクチャのプロセッサを、KAISTはウェアラブル用途向けにAR処理を行う1.22TOPSで1.52mW/MHzのプロセッサを、Ericssonはキャリアアグリゲーション技術をサポートする、2G/3G/4Gマルチモデムのベースバンドプロセッサを、それぞれ発表する。

メモリは微細化プロセスが多く、16nmの2値NANDフラッシュ技術で128GビットをMicron、64GビットをSK Hynixが発表、Samsungは2ビット/セルの128Gビット3D NANDを発表する。ストレージクラスメモリとして、ReRAMを、中央大学、台湾国立精華大学、Micronなどが発表する。プロセッサと組み合わせて使う高バンド幅のDRAMやI/Oも活発で、3.2Gbps/pinというLPDDR4をSamsung、128GB/sで5Gbps/pinのDRAMをSK Hynixがそれぞれ発表する。

パソコンやサーバー向けのプロセッサやパワーマネジメントチップなどの発表もあるが、これらはモバイルのインフラともいうべきクラウドサーバーへの用途。高性能プロセッサではキャッシュメモリの容量を増やすため、従来のSRAMに代わり、Embedded DRAMを集積する動きがある。Intelは22nmで102GB/sのeDRAMをキャッシュに用いたHaswellプロセッサ、IBMは96MBのeDRAM L3キャッシュを集積した22nmSOI技術による12コアのPower8プロセッサを発表する。

(2013/11/28)

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