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最先端技術の最前線/市場実態PickUp/グローバル雑学王−86

新型メモリ、今後の超微細化リソグラフィそして450-mmウェーハ、と最先端半導体技術に立ち塞がる壁を取り除いていく着実な努力、前進というものを日々の業界、学会記事などで自分なりに感じ取っている。さらには全く新しい革新、イノベーション技術が目に入ると、将来の市場応用分野を切り開く芽の一つとして開花に向かうよう、厳しい環境を経てきている今だからこそ、特に願うことである。

≪最先端技術の最前線≫

SPIE Advanced Lithography conference(SAN JOSE, Calif.)にて、超微細化リソグラフィ技術の最新の取り組み状況が、各社から発表されており、目に付いたいくつか、次の通りである。"驚き"、"かけ離れ"という表し方が伴なう現状の受け取りとなっている。

◇SPIE: Samsung wants EUV by 2012 (2月21日付け EE Times)
→日曜21日のLithoVision 2010イベントにて、Samsung Electronics Co. Ltd.が驚くべき発表:extreme ultraviolet(EUV)リソがそのときまでに間に合わない雲行きがあるにも拘らず、2012年までにEUVを欲する旨。

◇SPIE: Intel to extend immersion to 11-nm (2月22日付け EE Times)
→Intel社、驚きのロードマップ:193-nm immersionが11-nmロジックノードまで延びる見込み、extreme ultraviolet(EUV)はまたまた遅れる旨。

◇Maskmakers Struggle to Find the ROI on EUV Masks-Like others with a stake in EUV lithography development, maskmakers are being asked to contribute money to a Sematech effort to close the funding gap in mask inspection development.
It's a tough question, however, given the low probability of a return on that investment anywhere in the near future.(2月24日付け Semiconductor International)
→半導体業界はEUVリソ開発に非常に大きな投資、22-nm half-pitch以降の回路patterningを行う技術として受け入れられているが、コスト見積りがしばしば現実的な数字からかけ離れているところがある旨。

EUVリソの難航、先延ばしがまたも、という感じがあるが、超微細化の軸は具体的な市場回収の目処が立たないと、設備投資にモチベーションがなかなかかからないというところはあると思う。今回のconference全体を通した以下の総括記事は、回復にゆっくりとした足取りで向かう現在の景況下での開催ならではの溢れる思いを感じ取っている。

◇10 observations from SPIE Litho (2月26日付け EE Times)
→今年のSPIE Advanced Lithographyイベントの主題は、明らかに''D and D''。EUV、masklessおよびnano-imprintのdelaysの"D"と、それ故半導体メーカーは193-nm immersionの波に引き続き乗らなければならず、double-patterningに注目ということで"D"。以下、今回の観察項目:
1. EUV woes.
2. Self-assembly grabs the spotlight.
3. Direct-write litho still facing uphill climb.
4. Nano-imprint still stuck in R&D.
5. Tool vendors are cautious despite the upturn.
6. Where's the booths?  →今回見られない大手のブースも
7. Let's laugh a little. …TSMCのプレゼンから
8. M&A in the air?
9. We want to party! …少なくなったreceptions
10. No time to party. …EUV, ML2, nano-imprint, self-assemblyなど多すぎる項目

話変わって、全く新しい発想の革新技術2件である。次のjunctionlessトランジスタは、20-nm製造ノードで商用化インプリの可能性があるとのことである。

◇Junctionless transistor could simplify chip making, say researchers(2月22日付け EE Times)
→nanoelectronics製造および半導体業界に大変革を起こす可能性の動き、Tyndall National Institute(Cork, Ireland)が、世界初、junctionless Trを設計、製作の旨。直径a few dozen atomsのシリコンwireを取り囲むコントロールゲートの運用にブレイクスルーがある旨。断面模式図、下記参照。
http://i.cmpnet.com/eetimes/news/online/2010/02/junctionless_transistor400.jpg

もう一つ、n型およびp型ドーピングが1ステップで行える、という手品のような技術である。

◇CMOG Devices Near Implementation-A simple one-step process that produces both n- and p-type doping of large area graphene surfaces may facilitate its use for future electronic devices. The technique can also increase conductivity in graphene nanoribbons used for interconnects.(2月25日付け Semiconductor International)
→商用で出ているspin-on-glass(SOG)材料をgrapheneに適用、それにE-beam照射することにより、Georgia Institute of Technologyが、単に露光時間を変えてn-型およびp-型dopingを作り出すことができ、高エネルギーレベル側でp-型領域、一方低レベル側でn-型が得られる旨。complementary metal oxide grapheme(- CMOG -) Trs製造を可能にする1ステップである旨。
・graphene上のspin-on-glassパターンによるp-n接合:下記参照(Source: Georgia Tech)
http://www.semiconductor.net/photo/255/255167-P_n_junction_using_patterned_spin_on_glass_on_graphene_Source_Georgia_Tech_.jpg

このようなイノベーション技術の順調な生育を強く願うものであるが、まさにこれを支援する連携活動が、米国にてIntel主導で次の通り行われるとのことである。下記連載の≪グローバル雑学王≫のコーナーで、現在の米国の状況について読み進めているが、今後の世界を切り開いて引っ張っていくスタンスの風土を改めて感じている。

◇Intel-led alliance pledges $3.5B in venture funds-Group promises to hire 10,500 college grads in 2010(2月23日付け EE Times)
→Intel社が主導、25のventure capitalおよびハイテク17社のグループ、Invest in America Allianceが火曜23日お披露目、向こう2年にわたり米国技術startupsに$3.5B出資、また2010年に10,500ほどのcollege studentsを採用していく旨。この採用受け入れを表明している会社:
Accenture,
Adobe Systems,
Autodesk,
Broadcom,
Cisco Systems,
Dell,
eBay,
EMC社,
GE,
Google,
Hewlett-Packard,
Marvell Semiconductor,
Microsoft,
Yahoo


≪市場実態PickUp≫

Intel社がAtomプロセッサ製造について、TSMCとの連携を発表したのは次の通り1年前のことである。

◇Intel to port Atom cores to TSMC's tech platform(2009年3月2日付け EE Times)
→Intel社とTSMCが月曜2日合意発表、Intelが不特定のAtomプロセッサコアを、プロセス、IP、ライブラリおよび設計フローなどTSMCの技術プラットフォームに移植する旨。

設計と製造のトップ連携ということで注目していたが、ここにきて暗礁に乗り上げている動きである。

【Intel-TSMCのAtom連携冷却化】

◇Update: Intel-TSMC Atom partnership on hold (2月25日付け EE Times)
→Intel社が木曜25日、TSMCにより製造されたAtom半導体を市場投入する当面の計画はないと認めた旨。

早速、業界筋からの見方、憶測である。

◇Intel alliance with TSMC "fizzles" - bad news for Atom versus ARM in smartphones (2月25日付け ZDNet)
→ARMが現在Atomに対してもつ優位性として下記がある旨。
 - It has a large library of designs that companies can combine into custom chips. Atom does not.
 - ARM consumes very little power and it is a smaller design ? all very important in mobile markets.
 - ARM has a large installed base in smartphones, which means there is a large community of developers in the smartphone market with experience with the architecture.

◇Six reasons why no one wants an Atom-based SoC-Intel's fear of the processor core business may be the root(2月26日付け EE Times)
→観念的な憶測で以下の旨。
1) Intel is charging high royalties
2) Intel has some other nasty business terms
3) Intel is not providing adequate visibility into its core
4) The design might be a dog
5) No one wants to go first
6) Intel doesn't know how to sell processor cores

さて、2010年の半導体業界の数字はどうなるか、更新データを以下見てみる。世界半導体販売高について、積極的な上方修正のGartner社と抑えめなThe Information Networkによる以下の見方である。

【今年のグローバル半導体販売高】

◇Gartner: Chip revenue to rise 20% in 2010 (2月24日付け EE Times)
→Gartner社(Stamford, Conn.)発。2009年の9.6%減を経て、2010年のグローバル半導体売上げが、19.9%増の$276Bに達すると見込む旨。昨年後半時点では、2010年約13%増と見ていた旨。

◇WW semi revenue expected to grow 20% in 2010, Gartner says-Thanks to strong demand for PCs combined with DRAM prices that are on the rise, DRAM revenue is expected to grow more than 55% this year, the market research company said.(2月25日付け Electronics Design, Strategy, News)

◇Mid-year slump to limit chip market growth, says analyst(2月23日付け EE Times)
→The Information Network(New Tripoli, Pennsylvania)のRobert Castellano氏。西欧経済のmid-year低迷でconsumer electronics消費が抑えられ、半導体年間売上げの伸びが2010年11.2%増に留まると見る旨。
 2009年  2010年
 $220B  $245B

半導体設備投資について、IC Insights社のデータである。Samsung, IntelおよびTSMCの3社で4割近くを占める見方となっている。

【今年の半導体設備投資】

◇IC Insights: Top 10 to Spend Aggressively in 2010-IC Insights said the Top 10 capex spenders will account for 66% of capital expenditures in 2010, with Samsung, Intel and TSMC representing 38% of capital outlays. Samsung and Toshiba are investing heavily this year to meet high demand for NAND memories, while TSMC will spend $4.8B this year, a 79% increase, the market research firm said. (2月24日付け Semiconductor International)
→IC Insights社(Scottsdale, Ariz.)発。今年の半導体設備投資は、Samsung, Intel, TSMCおよび東芝が引っ張って、トップ10社で2/3を占める見込みの旨。データ内容、下記参照。
http://www.semiconductor.net/photo/254/254914-Despite_high_investments_this_year_the_chip_industry_could_see_shortages_develop_in_the_second_half_of_2010_Source_IC_Insights_.jpg


≪グローバル雑学王−86≫

第二次世界大戦後60年余りの米国経済の変遷を、

『アメリカを知る』(実 哲也 著:日経文庫1213)…2009年12月 1版1刷

より改めて辿ってみる。まさに小生の我が道を振り返るのと同じ時間軸であるとともに、電子工学、半導体、シリコンバレーなどが節目のキーワードとなって、米国経済の波にもまれながら現在に至っている我が国の半導体・デバイス業界というものが浮き彫りになってくる。


[IV] 米国経済の移り変わり

1 戦後秩序再生と黄金時代
(1)ゆたかな社会
・米国経済の道のり
 * 1960年代まで…世界に類のない繁栄の時代
 * ベトナム戦争を経て、どん底の1970年代
 * 「日本脅威論」から徐々に経済再生に向かう1980年代
 * 冷戦後の経済グローバル化の中、再び活力を取り戻す1990年代以降
・第一次大戦ごろにかけて急速に伸びた工業生産力や技術革新
・戦争が米国経済をもう一段飛躍させるきっかけを与えた面も
・政府肝いりの新技術開発 …電子、航空など
(2)大企業が安定雇用を創出
・1960、70年代ごろまでは自動車をはじめ米国の主要な製造企業では、一生同じ会社に勤める人も多々
 →企業も個人もともにハッピーな黄金時代
(3)社会保障の拡充
・1950年代の国内総生産(GDP)統計では、実質経済成長率が7%以上を記録している年が4回
 …消費と企業の投資の拡大を背景に、米国経済は高い成長を謳歌
 ⇒ほとんどすべて米国国内の需要
(4)パックス・アメリカーナ
・1960年代まで… 米国に世界が経済も国際秩序維持も頼る「パックス・アメリカーナ」の時代
・1944年7月、米ニューハンプシャー州のブレトンウッズで、戦後の国際経済秩序づくりのための会議
 ⇒IMF(国際通貨基金)、IBRD(国際復興開発銀行)、GATT(関税と貿易に関する一般協定)の創設
・ブレトンウッズ体制 →ドルが基軸通貨として貿易や決済の手段として世界中で活用

※1950年代の米国の栄華を改めて認識している。我が国の高度成長時代、そして現時点の中国の経済成長と、大きな時間軸、時代軸で繰り返す波模様を思い浮かべている。

2 ドル危機とインフレから再生へ
(1)ニクソン・ショック
・1971年8月15日 …戦後の世界経済を支えたブレトンウッズ体制が崩壊した瞬間
・ニクソン・ショックをもたらしたもの
 →米国の製造業の競争上の優位性が薄れ、貿易収支が悪化したこと
  …1971年には戦後初めての赤字を記録
 →膨らんでいった財政赤字
・1971年12月のスミソニアン合意
 →ドルと各国通貨の交換レートが改定、360円が308円に
・1980年代から1990年代に加速していく日米貿易摩擦
 →1974年通商法での301条が威力を発揮
(2)石油ショックでどん底時代に
・1973年秋の石油ショック →エネルギー価格が急騰
 →物価の上昇と失業率の上昇が一緒に起きるスタグフレーションへの突入
(3)ボルカーのインフレ退治
・1979年夏、ボルカー氏をFRB(米連邦準備理事会)議長に任命
 →通貨供給量の管理を金融政策の目標とする新しい手法
 ⇒悪性のインフレは鎮静化へ、ただ、景気には深刻な打撃
・1981年から8年続くレーガン政権の供給サイドを重視する経済政策につながる
(4)レーガン革命と双子の赤字
・レーガン政策の最大の柱 …思い切った減税の実施
 →財政赤字が急速に膨らんで、最初からつまずく
・財政赤字の拡大、貿易収支の赤字も急激に拡大、大きな「双子の赤字」の悩み
(5)ドル安と日本脅威論
・1985年9月、プラザ合意 →1年後には1ドル=150円台まで低下
・1987年10月、米国発の株価の大暴落「ブラックマンデー」
・米国半導体業界が日本市場の閉鎖性を理由に通商法301条に基づく提訴
(6)経済復活の芽
・1980年代は米国経済が1970年代の苦難から徐々に立ち直る時期にも
・シリコンバレーを中心にハイテク拠点の勃興
・新興企業に対するベンチャーキャピタルによる出資の拡大

※日米半導体摩擦に至る米国経済模様の急激な変貌経過を、頭の中で整理している。小生が半導体業界活動に入ったのは、現在冬季オリンピックが行われているバンクーバーでの日米合意の後、1996年秋のことである。

3 独り勝ちからバブルへ
(1)財政収支の改善と福祉改革
・冷戦の終結、経済面も含めて米国の独り勝ちが1990年代の半ばごろから
・クリントン大統領の経済政策 …当初の予想よりも保守的
 →財政赤字の削減努力 ⇒政権末期の1999、2000年には黒字に転換
 →福祉政策:ドル安志向の為替政策:自由貿易優先の考え
(2)活力源は民間企業と起業家
・1990年代に米国経済を活性化させた主役
 →政府というよりも民間企業や起業家たち
・続々と花開いたベンチャー企業
・大企業は製造業を中心に引き続き試練を経験、生き残りをかけて変身
 IBMの例: ソフトウェアやサービス重視
(3)行きすぎた楽観論
・米国経済を覆った楽観論が頂点に 
 →1999年から2000年にかけてのITバブル →景気後退
 ⇒政府やFRB、積極的な経済刺激と金融緩和
・今回の金融危機の温床

※1990年代後半から現在に至るまでの急ぎ足のレビューである。米国経済の推移を見てきて、我が国は今後どのように進むべきか、大方言われている環境、エネルギーなど我が国の誇る、我が国ならではの技術の重点強化など、やり方如何をいろいろ考えさせられる。

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