我が国のプレゼンス/市場実態PickUp/グローバル雑学王−81
新興経済圏への流れが加速する中で、欧米そして我が国という先進諸国のあり方を問う論調が日増しに高まってきているように感じる。我が日本市場は、高品質、高信頼性のものづくり、基準づくり、そして厳しい目をもつユーザおよび消費者を擁していて、海外方面からは参入障壁の高さの声を聞くことが多い。このような中また今こそ、我が国のあり方を改めて考えるべきタイミングと思う。
≪我が国のプレゼンス≫
経済規模世界第二位の我が国に中国が追い付け、追い越せの勢いの現状となっている。新年も数週間経ったが、まだ心持ちのフレッシュな今のうちにということで、我が日本はどうあるべきか、10項目の夢が挙げられている。
○日本経済の再生の夢 →願いを込めた10項目(1月19日付け 朝日)
1)人口減少を食い止める。特に労働人口の減少に歯止めをかける。
2)近隣の韓国やシベリアとの間を橋やトンネルでつなぎ、経済、文化や観光の交流を活発にする。(仮称ニューブリッジ政策の実行)
3)エネルギー関連などの新産業の勃興と発展
4)発展途上国に対する環境対策関連の事業化
5)官民の大学への研究費援助による先進技術開発の促進
6)東アジア諸国との自由経済圏の確立
7)日本の孤立化を防ぐために米国との外交、防衛の見通しを立て安定化を図る。
8)財政赤字の縮小
9)東京一極集中を地方に分散し、地方との格差解消
10)国民生活や給与水準の向上
3)、4)は、すでにグローバルな競争の最前線に入っていると感じるが、我が国が有する最先端技術、信頼性品質基準への期待として、以下の例を受け止めている。
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○原発耐震、日本に学べ:IAEA案。設計、世界標準に。(1月20日付け 朝日・夕刊)
国際原子力機関(IAEA)が、日本の耐震指針の内容を採り入れた新たな耐震基準と、地震で被災した原発を復旧させる行動計画をまとめた旨。
日本の耐震設計の手法が世界標準になれば、国内企業が海外で工事を受注しやすくなる旨。「日本は今後、アジア諸国の耐震基準づくりにも協力していくべき。」(IAEA国際耐震安全センター)
○電気自動車、EUが一体で開発、2月合意目指す。(1月21日付け NIKKEI NET)
欧州連合(EU)議長国スペインのサパテロ首相が20日、ストラスブールの欧州議会で記者会見し、EU域内の官民が一体となって電気自動車を開発する計画を明らかにした。2月上旬のEU非公式競争力相会合で合意したい考え。電気自動車の開発で中国や日本に対抗する狙いで、各国の開発競争が激しくなる可能性が出てきた。
EU域内では仏ルノー、仏プジョーシトロエングループ(PSA)が電気自動車の開発で先行しており、PSAは年内、ルノーは来年にそれぞれ量販車を発売する予定。ただ、両社の技術はいずれも日本の技術を導入したもので、電池開発などで日本勢に大きく後れを取っている。
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我が国がリードする技術、標準を、世界に冠たる目をもつ国内のユーザおよび消費者といっしょに切磋琢磨して、グローバルな連携ビジネスを引っ張っていくアプローチが、今こそ非常に重要と感じている。
我が国のプレゼンスを考えさせられる韓国発の記事2つにじっくりと注目させられている。
まずは、現在東京大学ものづくり経営研究センター(MMRC)特任研究員の吉川良三氏が、「文芸春秋」最新号(2月号)に「日本企業はなぜサムスンに負け続けるのか」と題して寄せた記事からの紹介である。同氏は、1990年代に日本企業から三星電子に移って日本人では初めての役員を務めたとのこと。三星電子の90年第後半からの急成長の原因に迫る調査研究レポートを、小生も今までいくつか目にしてきているが、改めて感じる新興市場に向けてのスタンスのあり方、とり方である。
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○「三星電子は立ち食いうどん屋、日本企業は高級うどん屋」(1月19日付け 韓国・中央日報)
「三星(サムスン)電子が日本企業を超えるきっかけとなったのは、1997年の通貨危機当時に日本追従型の経営を打ち切った時から。韓国は国家自体が危機に陥り、三星も大規模なリストラをしながら飛躍の基礎をつくった」
「日本の大手電子企業が苦戦している最も大きな要因は、開発途上国市場での不振。日本製品は品質が良くても顧客に不必要な過剰機能と高い価格のため開発途上国で通用していない」
「日本の立ち食いうどん屋は、うどんやそばなどの汁(基本製造法)を使いながら、さまざまなトッピング(部品)で顧客が望むメニューを提供する。これに対して日本企業の場合は、熟練した職人が手打ちうどん・そばを作る。日本企業は品質と機能を過度に追求するあまり、顧客の"ニーズ"を忘れている」
「インドで三星電子・LG電子が1万円以下の洗濯機を販売してシェアを拡大する間、日本企業がこれを粗悪な製品と考えていたが、その間に三星電子に引き離された」 「三星の製品は‘安くて粗雑な物’ではない。むしろ日本企業は同じ価格でそのレベルの製品を出せない」
「日本は基礎技術を確保しているため、いつか途方もない底力を発揮するという希望があるが、現在の厳しいグローバル競争で生存した後の話になるだろう」
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もう一つ、経営学のクレイトン・クリステンセン・ハーバード経営大学院教授のソウルでの講演(1月19日:「第3回IGM(世界経営研究院)フォーラム」)から、以下の内容である。
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○「韓国の成長、日本の前轍を踏まないか心配」(1月20日付け 韓国・中央日報)
日本の世界的自動車企業のトヨタは小型自動車(コロナなど)市場から進出し、結局、高級車市場(レクサス)にいたるまで大成功を収めた。利益が少なくい魅力のない市場から徐々に浸透して上位に食い込み、地位を築いていったのだ。
今は現代・起亜(ヒョンデ・キア)車が小型車市場からトヨタを追い出している。その後はインドのタタや中国企業が韓国を追撃するだろう。
日本のソニー・キヤノンなどもトヨタと同じ戦略をとった。市場の下位段階にある中低価格製品からスタートし、欧米企業を追い抜いてトップに立った。1960−80年代の日本の高度成長は、企業がこうしたグローバル企業に飛躍した結果だった。
日本企業は競争の最上部に上がった後、行くところがなくなった。こうした状況で米国は企業家精神を持った小規模ベンチャーが増えながら生き残ったが、日本は最高の位置まで上がった時、どうすることもできなかった。
韓国経済がより大きな成長をするかは企業家精神にかかっている。最善を尽くし、企業家精神を督励しなければならない。
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いろいろ議論を呼ぶところと思うが、結果がすべてのビジネスの世界であり、次から次へと新しい技術、標準による芽を育んで大きく発展させる役割を我が国が大きく担うことは間違いないところと思う。
≪市場実態PickUp≫
ファブレス半導体サプライヤのランキングが発表されているが、事業分離で今回からの新顔となったAMDに注目、そしてファブレス化に向かう流れの勢いを改めて感じている。
【2009年ファブレスICサプライヤのランキング】
◇AMD chases Qualcomm as second-ranked top fabless IC supplier-Over the long-term, IC Insights believes that fabless IC suppliers, and the IC foundries that serve them, will continue to become a larger force in the total IC industry.(1月19日付け Electronics Design, Strategy, News)
→IC Insights社による2009年ファブレスICサプライヤのトップ25ランキング、下記参照。AMDが今回カウントされて2位に躍り出る形。25社のうち9社が販売高$1B以上、AMDを除くトップ10の2009年販売高は4%減、一方残りは13%減の旨。
⇒http://www.reed-electronics.com/articles/images/ENEWS/20100119/6715496_chart.jpg
◇AMD jumps into fabless chip company ranking (1月19日付け EE Times)
→IC Insights社(Scottsdale, Ariz.)発。ファブレスICメーカー販売高の全体に占める比率:
1999年 2009年 2014年
7%超 23% 少なくとも27%
(AMDを含む)
Rambus技術について大きな一区切りの動きと思う。
【Samsung - Rambus 係争決着】
◇Samsung to pay $900 million in Rambus license deal(1月19日付け EE Times)
→Samsung Electronics Co. Ltd.(Seoul, South Korea)が、火曜19日発表した合意のもと、Rambus社(Los Altos, Calif.)からの技術ライセンス供与に対し5年にわたり約$900Mの支払い、両社間のすべての係争を決着させる旨。
40-nmノードでの生産上の問題に昨年後半から気づかされているが、以下のやりとりの現時点である。
【TSMCでの40-nm歩留り問題】
◇TSMC says 40nm yield issues resolved (1月20日付け DIGITIMES)
→TSMCのSenior VP of Operations、Mark Liu氏。同社は40-nm製造プロセスの歩留りを改善、今は65-nmノードプロセスと同じ品質レベルにあり、インパクトがあったchamber matching問題は解決されている旨。Fab 12のPhase 5は、2010年第三四半期に28-nm製品の量産に入り、主に22-nm生産ベースのPhase 6の建設も予定の旨。
◇AMD Constrained on 40 nm GPUs From TSMC-AMD executives said the company is "heavily constrained" now on shipments of its 40 nm graphics processors, made at TSMC. "We are seeing progress both in the delivery of wafers and the underlying yields. But we are constrained today," AMD CEO Dirk Meyer said.(1月21日付け Semiconductor International)
→TSMCがAMDのGPU、Radeon HD 5870プロセッサ製造に40-nmウェーハを充てており、ここ数四半期、"chamber matching"問題が40-nm歩留りに対する障害となっている旨。
スマートフォンがNHKテレビの一般ニュースはじめ登場、どこまで使いこなせるか、というのが大方の反応である。まさに現在の市場最前線にあり、以下の関連する動きということと思う。
【Appleのmedia pad】
◇What's inside Apple's media pad? (1月20日付け EE Times)
→Apple社が1月27日展開見込みのtabletプラットフォーム、media padについて、Northeast Securities社リサーチアナリスト、Ashok Kumar氏レポートから以下の点:
システムプロセッサ
Form factor …10インチ画面
Wireless capability …QualcommのWWANシリコンか
出荷予測 …3月までに100万台
【今後のモバイル端末】
◇ARM to overtake Intel in mobile PCs in 2013, says ABI(1月22日付け EE Times)
→ABI Research発。ARMプロセッサベースのnetbooks, MIDsおよびultra-mobile PCsの出荷が、2013年に初めてx86プロセッサアーキテクチャーベースを上回ると見る旨。2009年ではultra-mobile Devices(UMDs)と呼ばれるものの90%がx86ベースであり、著しい状況転換となる旨。
今年の半導体設備投資はどこまで落ち込みを戻していくか、いくつかの見方が出されており、うち一つである。
【$1B以上の設備投資】
◇Who's in $1 billion capex club? (1月21日付け EE Times)
→IC Insights社(Scottsdale, Ariz.)発。2010年$1B以上のcapital spendingが予想されるのは次の9社(2009年は8社):
Samsung $6B
Intel $5.3B
TSMC $3B
Hynix $2B
Toshiba $1.95B
AMD/GlobalFoundries $1.9B
Micron $1.3B
Nanya $1.1B
Elpida $1B
2010年全体のcapital spendingは$36.985B、2009年比45%増と見る旨。
≪グローバル雑学王−81≫
我が国のプレゼンスについて上に触れたが、ここではもっと広い目で我が国の抱える今時点の問題点に踏み込んでいる。
『知らないと恥をかく世界の大問題』(池上 彰 著:角川SSC新書 081)
…2009年11月 第1刷
より、筆者の主張が前面の部分もあるが、考えさせられるところ多々である。まさに現在、そして今後の問題をよく肌身に感じなければと思う。世界の中の日本ということで、グローバル雑学にも大きく関わるところと捉えている。
第6章 政権交代で解決できるか? −−−日本の抱える問題点
■私たちは年金をもらえるのか?
・「公的年金制度」 →田中角栄首相のとき、「賦課方式」に変更
…現役世代から保険料を徴収、高齢者に年金を支払う方式
・田中首相時代 …いろいろな社会福祉制度の基本が成立、「福祉元年」
・まさかそのときはこれほど少子化が進み、高齢者がこんなに長生きすると思ったか?
→制度がたちいかない
・年金の場合、この制度ではうまくいかないと気づくころには、もうそれをつくった人はいない。
・今のうちに制度設計を。一刻を争う問題。
※「福祉元年」は、見覚え、聞き覚えがあるが、当時は高度成長の真っ只中。自分に与えられた仕事にひたすら追い付け、追い越せのガンバリズムの渦中である。
■介護の現場が危機
・介護保険 …2000年からスタート
→家族にしわ寄せがくる介護を、社会全体の問題として考え、みんなで支える仕組みとして設計
…実際に介護を受けるようになると、かかった費用の1割を本人が負担するだけで済む
・介護サービスを提供する会社が経営的に成り立つような仕組みにするにはどう改革?
・日本は、アジアからの外国人介護福祉士(まずはフィリピンとインドネシアから)を受け入れ
※コンピュータ機器の2000年問題対応に業界活動で取り組んだが、その当時の高齢化、介護の問題への我が身の意識を振り返ると不足感は否めない。
■日本人の「学力低下」をどうする?
・日本は、教育機関に対する公費支出の対GDP比率が僅か3.4%、OECD(経済協力開発機構)加盟のデータ比較が可能な28カ国中、最下位
・フィンランドは、OECDが3年に1回実施する学力テスト、PISA(学習到達度調査)で世界のトップ
・フィンランドがなぜ? 以下の点:
「現場への信頼」…国家や行政は教育現場に口を出さない
「優秀な教師」 …大学院で修士号を取得しなければ教師になれない。大学では計300時間を超える教育実習。採用されると定年まで同一校に勤務。
「授業についていけない子どもを出さない」…その子だけの補修授業をすぐに
「教師が授業に専念できる」…放課後、進路指導は関知しない
※世界に冠たる技術立国となって、ガンバリズムからユトリズムへ。すると今度は教育水準の問題が浮上して、土曜授業の導入も出てくる現時点。世界一にならないと、業界の裾野が広がらず、シェアが伸びない、とまたまた反省である。
■郵政民営化は失敗だったのか?
・政権交代で、郵政改革は大きな揺り戻しが始まる。
・亀井担当相、日本郵政グループの株式売却の凍結と4分社化の見直しを公言
・郵政民営化の利点と改善点を見極めていく必要
■地方分権のすすめ
・江戸時代は地方分権、各「藩」の掟。中央集権になったのは明治時代以降
・官僚主導型の中央集権は、日本を経済大国に。
・今は行き詰って、新しい地方分権のあり方を模索
・地方も早く国からの独立を目指した方が健全
→役人の数が減る。天下りがなくならないのは、役所のシステムに問題。
・人口が1億人を超えている国で、こんな中央集権の国は中国とロシアくらいのもの。
※今回の政権交代の真価が問われていて今現在も揺れる問題という受け取りである。JR、NTT、そして現下のJAL。国が守るというメカニズムからの脱却が、時間をかけて問われており、今なおその経過の渦中という感じ方である。
■バラマキというけれど食料自給率はアップ
・民主党の農業政策、「戸別所得補償制度」
…生産コストが販売価格より高かった場合、その差額を補償
・今、日本もお金をかけても食料自給率を上げるべき
■これでいいの? 日本の納税システム
・日本では、会社が従業員に代わって所得税の計算をし、納税まで
→自分がいくら税金を払っているのか無関心に
・アメリカでは、所得のあるすべての人が確定申告の義務
→所得税減税があると、減税分の小切手送付
・日本の会社員も確定申告制にすればいい
※食料、納税と上記の筆者の指摘はその通りと思う。国、そして個人としての自己完結がいろいろな切り口でますます問われていく状況を受け取っている。