ファウンドリー業界の激変/市場実態PickUp/グローバル雑学王−49
世界経済は底は打ったという認識が共有されたG8財務相会合(6月12日、イタリア開催)であるが、半導体業界の諸々のデータも、払底した在庫の補充を主に緩やかな上昇に向かう傾向が揃いつつある。今回は、特に大きく落ち込んだファウンドリー業界とその対応に注目している。
≪ファウンドリー業界の激変≫
第一四半期、1-3月のファウンドリー業界の売上げランキングデータが、次の通り発表されている。
◇Foundry revenue to rise nearly 60% in Q2-Revenue for foundries is set to rise to $3.6 billion in Q2, up 59.3% from $2.2 billion in Q1, according to iSuppli.(6月9日付け Electronics Design, Strategy, News)
→iSuppli社発。専業ファウンドリーのグローバル売上げは、第一四半期の惨憺たる業況でトップ10にインパクト、第二四半期には飛躍上昇する見込みの旨。
≪2009年第一四半期の世界専業ファウンドリー・ランキング (M$)≫
順位 会社 Q1 2009 Q1 2009 Q1 Q1
売上げ シェア 前月比伸長 前年比伸長
1 TSMC $1,101 49% -40.2% -59.8%
2 UMC $318 14.1% -43.9% -58.8%
3 Chartered $254 11.3% -29.2% -43.4%
4 SMIC $147 6.5% -46.2% -59.4%
5 HHNEC $68 3% -11.7% -28.4%
6 Tower $58 2.6% -25.6% 0%
7 Vanguard $49 2.2% -39.5% -65.5%
8 Dongbu HiTek $42 1.9% -35.4% -66.1%
9 X Fab $41 1.8% -31.7% -65.5%
10 SSMC $29 1.3% -23.7% -34.1%
Others $141 6.3% -32.9% -65.7%
Total $2,248 100% -38.4% -57.7%
[Source: iSuppli, June 2009]
断然トップのTSMCにして、約6割の落ち込みであり、最新の1-5月累計では次のように約4割減にまで戻している。
◇TSMC May chip sales show further market improvement(6月10日付け EE Times)
→TSMCの5月販売高約$775M、前月比12.5%増、前年同月比15.3%減。
1-5月総計では約$2.67B、前年同期比40.3%減。
この状況の中、TSMCはアッと驚く対応策を発表している。
◇Morris Chang to resume helm of TSMC (6月11日付け DIGITIMES)
→TSMCが本日発表、Rick Tsai氏がCEO職を退任、chairman、Morris Chang氏が指揮に戻る旨。
◇Chang reassumes control of TSMC in shakeup (6月12日付け EE Times)
→大きな、そして驚かせるTSMC(Hsinchu, Taiwan)の組織改造。Morris Chang氏が、6月12日付けで、現在のchairmanとともにchief executiveを務める旨。Chang氏(78才)を継ぐことが確実と見られていた現在のCEO、Rick Tsai氏は、New Business Development Organizationのpresidentに就く旨。
◇TSMC CEO seeks new growth markets (6月12日付け EE Times)
→TSMCが、新市場を追及する新組織を作る理由:
1. 2012年まで、TSMCの販売高が2008年の$10Bには戻らないと見る。
2. 2012-2018年で6%伸長を仮定すると、2018年売上げは約$14B-$15B。これだと2008-2018年のCAGRは3%。
3. しかしながら、新ビジネスで2018年までに年間$2Bの売上げが加われば、そのCAGRは4.5%に。TSMCは全く異なるvaluation classに入ることに。
◇TSMC says new group targeting energy-saving markets to sustain its long-term growth (6月12日付け DIGITIMES)
→TSMCが新しく打ち上げた事業部門、New Business Development Organization(NBDO)は、当初はsolarおよびLED市場におけるTSMCの可能性を評価、2018年までに$2Bの売上げを見込む旨。
経済危機の渦中で、長期戦略に立った俊敏な決断、決定と感じている。1996年の終わりにTSIA(台湾半導体工業会)の発足式があって、小生も出席の機会を得た折、会長に選任されたのがMorris Chang氏である。まさに台湾の半導体業界を引っ張って興された方と関係者誰もが認める、そのときの会場の雰囲気を思い起こすところがある。
環境対応エネルギーに重点を置く新ビジネスであるが、向こう10年を見通しての展開の考え方である。これまでの新竹サイエンスパークを基点とする台湾半導体ビジネス展開の時間軸に通じるものを受け止めている。
TSMCに相対するUMCも、中国市場に向けた動きが見られ、ともに今後に注目である。
◇UMC shareholders approve acquisition of China Hejian(6月11日付け DIGITIMES)
→UMCが、年次株主会合にて、Hejian Technologyのmajority stake買収の承認を得て、中国市場への積極的食い込みへの道が開けた旨。
≪市場実態PickUp≫
似たトーンで出揃ってきている当面の市場の見方である。日本国内の株価も上昇してきており、この気分がしっかり根付いてほしいと願うものである。
【今年の市場の見方】
◇Analyst ups IC forecast as demand grows (6月9日付け EE Times)
→IC需要がゆっくりながらも改善してきており、各市場調査のIC予測が上方修正されている一方、Diodes, Microchip, Mindspeed, TIなどが今週、それぞれの業績見通しを上方修正、ファウンドリーは第二四半期に力強い伸びを見ている旨。
◇VLSI Research raises IC forecast (6月10日付け EE Times)
→VLSI Research社が、2009年IC予測を、17%減から13%減に上方修正の旨。
◇Gartner's 7 trends in gloomy IC forecast (6月11日付け EE Times)
→Gartner社(Stamford, Conn.)が、半導体業界の現状について引き出した7つの結論、以下の通り。2009年のIC市場、同社の現時点の見方は22.4%減。
1. 半導体売上げは、前月比、前四半期比、改善
2. IC需要のほとんどは在庫補充からきている
3. 中国を除いては需要が戻っているという証拠は極微
4. 2009年の車載およびconsumer市場は最も厳しいまま
5. 2009年第二四半期は、第一四半期比僅かに改善
6. 製造稼働率は、2009年第一四半期の最低から改善
7. 製造装置の減少は、2009年は加速
iPhoneを起点とする激しい市場競争を、以下から改めて認識している。
【Apple対Palmのつばぜり合い】
◇Apple iPhone 3GS leapfrogs Palm Pre-Palm handset beat 8Gb iPhone in cost of goods(6月8日付け EE Times)
→Apple社が月曜8日、iPhone 3GSを発表してPalm Preを飛び越え、現在のiPhone価格を$99に落してPreより切り下げの旨。しかしながらPalmは、8Gバイト・フラッシュのhandsetsでのハードウェアコストでAppleより僅かながら低い旨。
◇Palm Pre includes some component, design surprises-TI, Qualcomm, Sony, and Samsung landed design wins in the new smart phone, Palm's competitor to the widely popular iPhone, according to an iSuppli teardown.(6月11日付け Electronics Design, Strategy, News)
→AppleのiPhoneに対抗するPalmの新しいPreについて、iSuppli社のteardown解析。主要コンポーネント、下記参照。
⇒http://www.reed-electronics.com/articles/images/ENEWS/20090611/iSuppli_061109.jpg
コメントが難しいが、以下問題を抱える現下のストレートな実態を突いている。
【辛辣な抜き出し】
◇10 gaffes: What were they thinking? (6月10日付け EE Times)
→EE Timesがまとめた、ここ何ヶ月で明るみに出ている、どうなるかという10の動きについて。
1. IBM mum on layoffs
2. The paranoid goof up
3. Jobs' next job
4. Hwang's gaffe
5. Microsemi-gate
6. MIPS' analog divorce
7. Bad memories
8. 450-mm fab dreams
9. Selling out is OK
(tie) 10. ATE standards are proprietary
(tie) 10. Fister fumbles
東京のど真ん中から日本各地に行き渡った"銀座"に近いものを感じるが、半導体業界を引っ張ってきた「シリコンバレー」について以下の論評である。
時間軸の移り変わりとはいえ、今後の求心力というものの必要性、重要性は分野を問わず大きな課題ということと思う。
【グローバルな代名詞】
◇The next Silicon Valley (6月8日付け EE Times)
→技術の前線では、エレクトロニクスからsolar技術まであらゆるもののR&Dが、ますますSilicon Valley以外で行われてきており、技術イノベーション自体がグローバル化してきている旨。
≪グローバル雑学王−49≫
世界を取り込んでいく水問題というものを、
『地球の水が危ない』 (著者 高橋 裕氏:岩波新書 827)…2003年2月発行
より、そのプロセスがよく見えてきたと感じている。この「水」を「半導体」に置き換えたらどうなるか。どう手本になるかを心がけ、アジアをリード、まとめていく−−−我が国の置かれた共通するものを感じるがどうであろうか?
なお、この水への注目は、今回で終了である。
IV アジアの水問題と日本
IV-1 地球の水危機への世界の対応
[国連水会議]
・1977年3月、アルゼンチン東海岸の観光・港湾都市マル・デル・プラタにて、国連主催、世界最初の大規模な水会議。
・その後、間を置いて、1990年代に水危機を議題とする国際会議が、にわかに活発に。
[地球サミット]
・1992年、リオ・デ・ジャネイロで、国連環境開発会議、いわゆる地球サミットが挙行され、「アジェンダ21」が国家間合意として採択。
→水問題は、事の重大性を決して十分には訴えられず。
[WWCの設立]
・国際的NGO(非政府組織)、WWC(世界水会議)が、1996年に正式に設立。
・WWC主催による第1回の世界水フォーラムが、1997年3月、モロッコのマラケシュにて開催。
[ビジョンから行動へ]
・第2回は、2000年3月、オランダのハーグにて。
→「世界の水ビジョン」を発表
[水とジェンダー]
・「水とジェンダー」あるいは「水と女性」は、マラケシュ以来重要なテーマ
→女性に強いられる水を運ぶ苛酷な労働…アジアやアフリカの貧困層
・多くの途上国で、水という具体的テーマを契機として、女性の地位向上運動を発展を!
[3月22日は「水の日」]
・国連で定めた「水の日」 …3月22日
[GWPの活動]
・WWCとは別系統の有力な国際NGO、GWP(地球の水パートナーシップ)
…事務局:ストックホルム
→水問題で難問を抱えている地域、特に途上国での具体的事業の実施を目指す。
[国際政治における水の比重の高まり]
・WWC →マルセイユに事務局。"フランスの誇り"
GWP →"スウェーデンの誇り"
・水危機に関して、すでに最も深刻なのはアフリカ
→ヨーロッパ諸国はアフリカを強く意識
[2003年は「アジア水年」]
・2003年3月、第3回世界水フォーラム、日本開催
→2003年を「アジア水年」とすることを発表
・2002年8月末から9月、南アフリカのヨハネスブルクで、リオ・テン(リオ
・サミットから10年)と呼ばれるサミットが開催
[貧困と水]
・2006年3月、モントリオール、第4回世界水フォーラム
→主要テーマのひとつに「貧困と水」
・先進国から途上国への投資の流れに極めて偏りがある現状
・清潔な水を毎日飲めない 約12億人
適切な衛生サービスを受けた水を得られない 20億人
自分の家の屋内にトイレがない 30億人
→2015年までに半減するのが当面の目標
IV-2 なぜモンスーン・アジアか
[日本の役割は何か]
・まず日本がモンスーン・アジアの「南」の国々に提出、実行する国際的義務
⇒南北問題解決への方策
[モンスーン・アジアの特殊性]
・モンスーン・アジアにおける水田耕作
→この地域の雨に始まる自然の水循環の特性によく適合したシステム
・豊かな水を中心とする自然環境の下、長い歴史をもつ水田稲作農業が20世紀半ば過ぎまで、自然と人間の共生システムを営々と何とか保持
→地球の総人口の約6割を、このモンスーン・アジアで養ってきた重要な要因
・日本人はいったん破壊された伝統的水文化の建て直しを迫られている。
[循環の思想の再認識]
・モンスーン・アジアの伝統的風土が培ってきた循環の思想を再認識、西欧近代化の完全模倣ではない独自の思想を生み出すことができるか否か
IV-3 モンスーン・アジアと日本
[モンスーン・アジアへの理解]
・従来、欧米の手法に追随していた嫌い
[GAMEの活動]
・WCRP(世界気候研究計画)の一環、GAME(アジア・モンスーンエネルギー水循環観測研究計画)
→日本の研究者の主導
モンスーン・アジア各国の研究者の協力
⇒大規模な研究を統合して全地球のエネルギーと水循環のメカニズムを解明しようとする壮大な観測研究計画
[自然科学研究と国際政治]
・地球環境問題対策には、自然科学研究の成果が国際政治にとって必須の基礎情報に
[CEOP]
・GAMEから発展したCEOP(総合地球水循環強化観測期間プロジェクト)
→我が国が世界で初めて、地球規模での水循環に関する統合的な観測を確立しようとするプロジェクト
→目的: 地球規模での水とエネルギー循環のシミュレーションとそれに基づく予測の実務化
→世界の36ヶ所における地上観測地点の水循環に関わる雨量などの水文気象データはじめ、水循環を全地球規模で捉えようとする世界初のデータセットの構築に挑むプロジェクト
・日本近辺では、韓国の南部、モンゴル、中国長江中流部、チベット、ヒマラヤ、東部シベリアのツンドラなど
[東南アジア・太平洋運営委員会の結成]
→ユネスコのIHP(国際水文計画)事業の一環として、1992年結成
・モンスーン・アジアの地球における重要性が増す状況の中で、足下の河川と水資源を地元の専門家が確認しようとの意図
[アジア・太平洋水文水資源協会の誕生]
・2002年、京都大学防災研究所内に設立。
・欧米流の手法の適用だけでは解明、解決が難しい特有な多くの課題
[求められる技術の在り方の変革]
・地球規模の水循環の解明に向かうステップ、という意識
・地球環境問題の出現自体が、19世紀以来人類が築き上げてきた科学技術の在り方の変革を求めている。
[水の文化、水の哲学を求めて]
・モンスーン・アジアの水に関する生活、民俗、産業、歴史といった調査研究の発展
→深刻な水危機を救う具体策樹立につながる:『モンスーン・アジア学』
IV-4 アジアにおける日本の責務
[求められる水意識の変革]
・日本は途上国と先進国との橋渡しのできる、むしろそれをしなければならない位置に
・まず第一、地球の水危機の実態を知ること
(例)日本人のエビの突出した大量消費
→東南アジアのマングローブが激減 →高潮の危険度増加
⇒地球人の自覚
[日本は手本になるのか]
・重要なことは、現在、日本が地球の環境や水危機にどう対応しているか
[縦割り行政の弊害]
・いずれの国でも悩み …水の縦割り行政の弊害が特に顕在化
・2000年に日本で循環型社会形成推進基本法が成立
→途上国に対して範とすべき事例
・縦割り行政から脱皮して水質を含む「健全な水循環」に協力できるか否か
[日本の経験は貴重な先例]
・日本の治水事業の進展と水害拡大の関係 →最も貴重な教訓
・水行政も国際化の波に洗われている
[日本人と水]
・日本はいままさに環境破壊の芽を断ち切ろうと苦闘
・戦国時代から急速に発展した日本の治水技術 →自然と人間の共生の極致
・1990年代の環境問題への意識の目覚め
→僅かながら復活の兆し、日本人の水に対するこころ
【あとがき】
・我々の水生活、この半世紀、特にこの10年余りで著しい変化
→グローバルな視点で認識する必要
・今日の地球の水危機は、より構造的で全人類を挙げて対応しなければならない国際問題