関税インパクトの渦中、トランプ大統領中東訪問&AI半導体規制の関連
米中の関税の応酬が、115%引き下げで90日の休戦と一時的な懸念緩和の市場の空気となっているが、半導体関税はじめ先行きが見通せない不安定性を孕んでいる。そんな中、トランプ大統領が中東を訪問、米国テック大手トップが同行して、サウジアラビアおよびUAEと、それぞれAI(人工知能)関連の巨額プロジェクト投資が打ち上げられている。バイデン政権では、中国はじめ中東、東南アジアへのAI半導体輸出規制が行われていたが、政権交代での様変わりである。一方、中国・Huawei製のAI半導体の使用は規制に違反するとトランプ政権より警戒の発表が行われている。AI分野を引っ張るNvidiaも、米中の一層の狭間に置かれる状況がうかがえており、引き続き注目である。
≪AI半導体を巡る急転換≫
関税インパクトを巡る波紋が、半導体の視点で以下の通りである。
◇The Trump Tariffs, Semiconductors, and US-Taiwan Trade Relations (5月9日付け Taiwan Insight)
→Trump政権の10%から50%に及ぶ広範な新関税が世界貿易を揺るがしており、台湾は特に大きな打撃を受けている。半導体は一時的に免除されるものの、保留中の関税と米中の緊張が台湾の経済とハイテクサプライチェーンにおける極めて重要な役割を脅かしている。
◇Malaysia can boost semiconductor expertise as US rescinds chip export curbs - analyst (5月12日付け The Edge Malaysia)
→ワシントンのチップ輸出規制緩和により、マレーシアは先端半導体へのアクセスが拡大し、高価値チップの設計・製造への移行が可能になる。専門家によれば、このシフトは輸出を促進し、データセンターを強化し、そして国際競争力を強化する可能性があるという。
◇[News] Made-in-USA Costs Bite? NVIDIA Reportedly Hikes GPU Price Tags Across the Board (5月12日付け TrendForce)
→トランプ大統領のチップ関税引き上げが迫る中、TSMCは米国での30%値上げを視野に入れ、エヌビディアはほぼすべての製品で値上げを実施。コスト上昇と輸出抑制により、エヌビディアは数十億ドルの四半期売上げへの打撃を覚悟している。
◇[News] Chip Tariffs Could Hit by Late June: What’s the Impact on Fab Construction Costs and TSMC? (5月12日付け TrendForce)
→半導体業界は、商務省のパブリックコメント期間が5月7日に締め切られた後、米国関税に備える。アナリストらは、新たな関税が製造コストを急激に引き上げ、特に成熟ノードチップのグローバルサプライチェーンを混乱させる可能性があると警告している。
このような中、トランプ大統領が中東を訪問、テック大手トップが同行、AIプロジェクトの打ち上げが行われて、関連含め以下の通りである。
◇Nvidia CEO wants Saudi Arabia to become a global AI leader as kingdom signs billion dollar deals to buy hundreds of thousands of GB300 super chips by 2030―Nvidia details its chip plans in Saudi AI partnership―Deal includes data centers, Omniverse, and AI skills training (5月13日付け TechRadar)
→Nvidiaはサウジアラビアと協力し、大規模なAIインフラを構築し、人材トレーニングを確立し、そしてハイパースケールデータセンターに数千のNvidiaのGB300チップを配備する。このイニシアチブは、デジタル・トランスフォーメーション(DX)と経済の多様化を目指すサウジアラビアのVision 2030の目標を支援するもので、産業全般にわたるAIとロボティクスの開発に重点を置いている。
◇AMD, Nvidia and AWS to build AI infrastructure in Saudi Arabia―Saudi Arabia accelerates AI infrastructure with tech ties (5月13日付け Electronics Weekly (UK))
→1)AWS、AMDおよびNvidiaが、トランプ大統領のサウジアラビア訪問を前にMohammed bin Salman皇太子が設立した新組織、Humainと協業する。
2)Nvidia、Advanced Micro Devices(AMD)およびAmazon Web Services(AWS)は、サウジアラビアの公共投資ファンド子会社であるHumainとAIインフラ構築のために協力する。NvidiaとHumainは、Nvidiaのグラフィック・プロセッシング・ユニット(GPUs)を搭載した最大500メガワットのデータセンターを構築し、AMDとHumainは500メガワットのAIコンピューティング能力を展開する。また、AWSはデータセンターを備えたAIゾーンを構築する。
◇Nvidia sending 18,000 of its top AI chips to Saudi Arabia (5月13日付け CNBC)
→1)*Jensen Huang CEOは火曜13日、NvidiaがサウジアラビアのHumain社に最新のAIチップを18,000個以上販売すると発表した。
*この発表は、ドナルド・トランプ大統領や他のトップCEOsが参加するホワイトハウス主導のサウジアラビア訪問の一環として行われた。
*Nvidiaは、最初の展開にはNvidiaの最先端AIチップのひとつであるGB300 Blackwellチップが使用されると述べた。
2)Nvidiaは、公共投資基金が支援する$10 billionのプロジェクトであるサウジアラビアのHumainに、18,000個以上のBlackwell AIチップを販売する。ジェンセン・フアンCEOはホワイトハウス主導の出張中にこの取引を発表し、Nvidiaの株価を5%押し上げた。
◇Trump touts Saudi relationship as "bedrock of security and prosperity" amid $600 billion investment deal―US, Saudi Arabia agree to $600B investment deal (5月13日付け CBS News)
→サウジアラビアは、$142 billionの武器取引を含む$600 billionの対米投資を約束しており、その額は$1 trillionに達する可能性がある。この取引はドナルド・トランプ大統領の王国訪問中に行われ、サウジアラビアのMohammed bin Salman皇太子からの要請を受けて、アメリカがシリアに対する制裁をすべて解除すると発表した。
◇US can curb AI chip risks without halting tech exports, US official says (5月14日付け South China Morning Post)
→1)トランプ政権は、中国からのアクセス制限の一環としてAIチップの海外拡散を阻止するバイデン時代の拡散ルールを取り下げようとしている。
2)米国はAIチップの輸出に関する政策転換を示唆し、ホワイトハウスのAI・暗号担当官、David Sacks氏は、サウジアラビアのような信頼できる同盟国への世界的な普及を阻止する必要はないと述べた。この動きは、AI技術に対するバイデン時代の制限を後退させるものだ。
◇米テックCEO、サウジに集結 オイルマネー狙いトランプ氏と協働 (5月14日付け 日経 電子版 06:28)
→米テクノロジー大手の首脳がトランプ米大統領に同行し、サウジアラビアを訪れた。米国はサウジなど中東に対するAI技術の輸出に慎重だったが、トランプ米政権は一転、オイルマネーの吸い上げに動く。AIで競争力を増す中国をけん制する必要も高まり、テック大手も協働する。
◇Qualcomm confirms it is re-entering the data center CPU market, starting with Saudi Arabia's AI cloud project―Qualcomm plots comeback in data center CPUs ―The company will provide AI and CPU solutions for HUMAIN AI (5月15日付け Tom's Hardware)
→クアルコムは、かねてから噂されていたデータセンター向けCPUの展開が、HUMAIN AIとの提携により、サウジアラビアの国家支援によるAIクラウド・インフラストラクチャ・プロジェクトと共同で開始されることを確認した。同社はプレスリリースで、サウジアラビアの公共投資基金(PIF)が支援するサウジアラビアの新しいベンチャー企業であるHUMAINと覚書を交わしたことを確認した。
◇Saudi Arabia and NVIDIA to Build AI Factories (5月15日付け SEMICONDUCTOR DIGEST)
→NVIDIAとKingdom of Saudi Arabia(KSA:サウジアラビア王国)は本日、同国をAI、クラウド&エンタープライズコンピューティング、デジタルツイン&ロボティクスにおける世界的な大国へと変革するためのパートナーシップを発表した。
本日、ドナルド・トランプ米大統領と、サウジアラビアの皇太子兼首相であるMohammed bin Salman bin Abdulaziz Al Saud殿下が国賓訪問を行った際、NVIDIAの創業者兼CEOであるJensen Huang氏は、この取り組みにより、サウジアラビアが世界のハイパースケールAIリーダーの仲間入りをするよう、AIインフラと専門知識を活用すると述べた。
◇US poised to approve deal permitting UAE to import 500,000 Nvidia AI chips yearly―Report: US to allow UAE to import 500K Nvidia AI chips (5月15日付け DigiTimes)
→ロイター通信によると、米国はアラブ首長国連邦(UAE)との間で、該湾岸国家が2025年から年間50万個の高度なAIチップをエヌビディアから輸入することを認める予備合意に達したという。
◇米テック、中東マネー照準 トランプ氏にCEO同行 中国に対抗、囲い込み エヌビディアは最新サーバー供給 (5月15日付け 日経)
→米テクノロジー大手の首脳がトランプ米大統領に同行し、サウジアラビアを訪れた。バイデン前政権と企業はサウジと距離を置いてきた。AIの事業を拡大するため、一転して中東のオイルマネーの活用にかじを切る。
◇UAE to build largest AI infrastructure facility outside the US―UAE, US to build major AI infrastructure site (5月16日付け Electronics Weekly (UK))
→1)昨日、アブダビでトランプ大統領とUAEのSheikh Mohamed bin Zayed Al Nahyan大統領が会談したことを受け、UAEは米国外で最大のAI施設を建設する。
2)UAEと米国は、米国外に位置する最大のAIインフラ施設を建設する計画を発表した。このアブダビのAIキャンパスは、データセンター用に5ギガワットの容量を持ち、太陽光、原子力およびガスで電力を供給する。両国は規制基準を一致させ、テクノロジーの利用とアクセスについて厳格な管理を実施する計画だ。
今回の中東訪問の全体総括である。
◇トランプ氏の中東訪問、「460兆円」実利優先 ガザ停戦成果乏しく (5月16日付け 日経 電子版 05:00)
→トランプ米大統領は16日、13日に始めた中東3カ国訪問を終えて大統領専用機で帰途に就く。総額$3,200 billion(460兆円)を超える大型の商談を成立させた一方、衝突が続くパレスチナ自治区ガザの停戦など地域の緊張緩和への成果は乏しかった。
AI半導体規制について、米政権交代による急転換が行われており、この1月のバイデン政権の最後の動きを振り返ると、次の通りである。
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バイデン政権よりAI半導体輸出規制の見直し案が発表されている。
◇米政府、AI半導体輸出で数量規制 中国への迂回輸出把握 (1月13日付け 日経 電子版 21:16)
→バイデン米政権は13日、AI向け先端半導体に関する輸出規制の見直し案を発表した。東南アジアや中東向けに「数量制限」をかけながらも簡単に輸出できる仕組みを設ける。海外での先端半導体の流通・在庫データを把握するためで、中国への迂回輸出を封じる狙いがある。
レモンド米商務長官は「最先端のAI技術を守り敵対国の手に渡らないようにする」と述べた。規制案には120日の意見募集期間を置き、一部は施行まで1年の準備期間を設ける。
新たな規制は各国を3つのカテゴリーに分ける。「ティア1」は同盟国の日本や韓国、英仏独などの18カ国・地域で、先端半導体やAIの基盤モデルの技術移転に制限はかからない。
米国・SIAから早速の失望のコメントである。
◇SIA Statement on Biden Administration Action Imposing New Export Controls on AI Chips (1月13日付け SIA Latest News)
→米国・Semiconductor Industry Association(SIA:半導体産業協会)は本日、バイデン政権が 「AI普及のための輸出管理フレームワーク」と題する暫定最終規則を公表することを決定したことについて、SIAのPresident and CEO、John Neuffer氏からの以下の声明を発表した。この規制措置は、米国の先端集積回路の輸出に世界的な制限と厳しいライセンス要件を課すものである。先端半導体へのアクセスを管理・制限するために、近年すでにいくつかの規制が実施されている。
「われわれは、このような大規模でインパクトのある政策転換が、大統領交代の数日前に、しかも産業界からの有意義なインプットもなく、急きょ実施されることに深く失望している。該新ルールは、戦略的市場を競合他社に譲り渡すことで、米国経済および半導体およびAIにおける国際競争力に意図せざる永続的ダメージを与える危険性がある。賭け金は高く、タイミングは危うい。われわれは、ワシントンの指導者たちと協力し、国家安全保障を守りつつ、米国が最も得意とするグローバルな競争と勝利を可能にする道筋を描く用意がある。」
同様の反応が続いている。
◇Biden proposes new rules on exporting AI chips (1月14日付け Taipei Times)
→ジョー・バイデン米大統領は、AIの開発に使用される高度なコンピューター・チップの輸出に関する新たな枠組みを提案、該技術に関する国家安全保障上の懸念と、生産者やその他の国々の経済的利益とのバランスを取ろうとする試みである。
しかし、昨日提案された枠組みは、ビデオゲームに使用される既存のチップへのアクセスを制限し、データセンターやAI製品に使用されるチップを120カ国で制限することになるとして、チップ業界幹部の懸念を呼び起こした。
◇NVIDIA、バイデン政権を批判 トランプ氏に輸出緩和期待 (1月14日付け 日経 電子版 07:38)
→米エヌビディアは13日、バイデン米政権が同日発表したAI向け先端半導体に関する輸出規制の見直し案を巡り、「技術革新と経済成長を妨げる」と批判する声明を出した。同社が公の声明で米政権を批判するのは珍しい。トランプ次期政権に現在の輸出規制の緩和を求める狙いがありそうだ。
エヌビディアで公共政策を担当するネッド・フィンクル副社長が声明を出した。
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キング牧師誕生日の米国休日の月曜1月20日に、トランプ大統領が就任、という経過であるが、AI半導体輸出規制の対象に中東も含まれるという上記の内容が、このほど覆されている。
以下、トランプ政権のAI半導体に関する動きを取り出している。
◇US can curb AI chip risks without halting tech exports, US official says―US official: AI chips risk can be managed without bans (5月13日付け Yahoo/Reuters)
→米国はAIチップに関連する国家安全保障上のリスクを、世界的な輸出をブロックすることなく管理できると、ホワイトハウス高官のDavid Sacks氏は言う。サックス氏の発言は、トランプ政権が米国の技術の世界的な普及を制限していたバイデン時代の拡散普及ルールを取り消す計画を発表した後のことだ。
◇Trump administration’s next wave of China AI chip export rules are yet another obstacle for Nvidia (5月14日付け CNBC)
→1)*エヌビディアのJensen Huang CEOがサウジアラビアでBlackwell取引を発表していたとき、トランプ政権は中国をターゲットにしたAIチップ規制の新ラウンドを発表した。
*商務省は、米国製AIチップを中国製モデルに使用しないよう警告を発し、サプライチェーンにおける「転用戦術」を取り上げた。
*新たな輸出規制は、米中両国が互いにほとんどの関税を一時停止することで合意した数日後に行われた。
2)米国が輸出規制を強化する中、NvidiaはサウジアラビアとAI取引を行い、その複雑なグローバルバランス感覚が浮き彫りになった。中国をターゲットとした新たなチップ規制と二国間貿易リスクの高まりにより、Nvidiaは国際市場でエスカレートする不確実性に直面している。
◇トランプ政権、AI半導体の輸出規制案を撤回 代替案を公表へ (5月14日付け 日経 電子版 06:26)
→トランプ米政権は前政権時代に策定したAI向け半導体の輸出規制案を撤回すると発表した。中国やロシアだけでなく、中東や東南アジアへの輸出も規制する内容だったが、外交関係に支障をきたすとして撤回を決めた。トランプ米大統領の中東訪問にあわせて12日付で公表した。米商務省は今後、代替案を公表する。
中国・HuaweiのAI半導体への警戒が浮上している。
◇US bans everyone from using certain Huawei AI ICs―US halts global use of Huawei AI chips citing security (5月15日付け Electronics Weekly (UK))
→1)米国は、ファーウェイの特定のAIチップの使用を、誰でも、どこでも禁止している。
2)米国商務省産業安全保障局は、ファーウェイ・テクノロジーズのAscend 910B、910Cおよび910DのAIチップの使用を世界中で禁止した。この禁止令では、これらのチップの使用にはライセンスが必要で、違反した場合は厳しい罰則が科される。
◇Experts: US chip curbs on Huawei doomed to fail (5月15日付け China Daily)
→米国はファーウェイのAIチップを世界中で使用禁止にすることで、ファーウェイへの取り締まりをエスカレートさせているが、専門家はこの動きは逆効果になると指摘している。制裁によって硬直化した中国のチップ産業は前進を続けており、iFlytekのような企業はAIの成長のためにファーウェイの技術を採用している。
◇ファーウェイ製AI半導体、使用は「輸出規制違反」 米政権 (5月15日付け 日経 電子版 06:14)
→トランプ米政権は中国通信機器大手の華為技術製のAI向け半導体について「使用すれば米国の輸出規制に違反する恐れがある」との指針を示した。国内外の企業にルールを守るように求める。開発にも関わらないよう警告しており、中国のAI開発を遅らせる狙いがある。
米国の輸出禁止リストに中国の半導体メーカーがさらに加わる動きである。
◇Trump administration could add CXMT and other Chinese chipmakers to ever-expanding export blacklist―Reports: US eyes Chinese chipmakers for export blocklist―According to those familiar with the matter, it includes subsidiaries of SMIC (5月16日付け Tom's Hardware)
→トランプ政権は、ChangXin Memory Technologies(CXMT)を含む中国のチップメーカー数社を輸出禁止リストに加えることを検討している、とFinancial Timesが報じている。商務省産業安全保障局がまとめたこのリストには、SMICやYMTCの子会社も含まれている。
米中の狭間にさらに置かれるNvidiaがあらわされている。
◇NVIDIA、ファーウェイ台頭に焦り 中国「7兆円市場」遮断の恐れ (5月17日付け 日経 電子版 05:34)
→米エヌビディアが中国通信機器大手、華為技術の台頭に危機感を強めている。米政府がAI半導体の対中輸出規制を強化したあおりで7兆円規模になると見込む中国市場に技術を投入できていない。中国でファーウェイ製が主流になれば、世界での競争でも後手に回りかねない。
トランプ政権の動きの中でのAI半導体関連の動き、そして半導体市場全体の推移に引き続き注目するところである。
激動の世界の概況について、以下日々の政治経済の動きの記事からの抽出であり、発信日で示している。
□5月12日(月)
米中の関税の応酬について、90日の休戦が以下の通り合意されている。
◇Trump’s Disruptive Trade Agenda Is Giving Way to Scaled-Back Deals―Trump shifts trade strategy from tariffs to targeted deals―The president and his team have backed down from their sharp rhetoric as they search for trade deals that could lower tariffs (The Wall Street Journal)
→ドナルド・トランプ大統領は、市場の変動と同盟国からの圧力を受け、攻撃的な関税からより穏健な協定へとシフトしており、中国との間で関税を引き下げる90日間の休戦協定に合意した。この貿易協定は、多国間貿易の枠組みからの急激な脱却を意味し、中国への依存を減らし、世界の貿易関係をリバランスすることを目的としている。
◇U.S. and China agree to slash tariffs for 90 days in major trade breakthrough―US, China to reduce tariffs in trade war de-escalation (CNBC)
→米国と中国は90日間の関税引き下げに合意し、貿易戦争が緩和された。米国は中国製品に対する関税を145%から30%に引き下げ、中国は米国からの輸入品に対する関税を125%から10%に引き下げる。ジュネーブで合意に達したことで、世界の株価と米ドルは上昇した。
□5月13日(火)
米中摩擦激化の懸念緩和から大きく上げて、2か月ぶりの高値で締めた今週の米国株式市場である。
◇NYダウ1160ドル高 貿易戦争への懸念緩和、Apple6%高 (日経 電子版 05:39)
→12日の米株式市場でダウ工業株30種平均は反発し、前営業日比1160ドル(3%)高の4万2410ドルで終えた。米国と中国が互いに課した追加関税を115%引き下げることで合意し、両国間の貿易戦争の激化に対する懸念が和らいだ。投資家心理が好転してリスク資産である株式にマネーが向かった。
◇米中関税戦争、90日間の停戦へ 過剰生産是正・輸入拡大で合意探る (日経 電子版 09:09)
→米中両政府が100%を超える高関税を一時停止することで合意した。8月前半までの90日間の「停戦」期間を設けることで、金融市場を落ち着かせ、経済への打撃を回避する狙いだ。米国は中国の過剰生産の解消や米国製品の輸入拡大を求めるが、取引がまとまるかは予断を許さない。
□5月14日(水)
インフレ懸念は変わらないと米国の状況である。
◇米インフレ懸念、米中合意後も不変 無風CPIも安心遠く (日経 電子版 04:29)
→米労働省が13日に公表した4月の消費者物価指数は前年同月比の上昇率が2.3%に鈍化し、事前予想を下回った。ただ、トランプ米政権の高関税政策の影響は今後強まるとみられ、インフレ再燃懸念は和らいでいない。米中合意による関税率引き下げの効果も限定的との見方が多い。
◇NYダウ反落、269ドル安 ユナイテッドヘルス株安が重荷 (日経 電子版 06:10)
→13日の米株式市場でダウ工業株30種平均は反落し、前日比269ドル67セント(0.63%)安の4万2140ドル43セントで終えた。同日朝にCEOの交代と収益見通しの撤回を発表したユナイテッドヘルス・グループが大幅安となり、指数を下押しした。一方、エヌビディアなど主力株の一角には買いが入った。
□5月15日(木)
◇NYダウ小幅続落、89ドル安 持ち高調整の売りが優勢 (日経 電子版 06:21)
→14日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続落し、前日比89ドル37セント(0.21%)安の4万2051ドル06セントで終えた。米中貿易摩擦の緩和を期待した買いが続いた後で、景気敏感株を中心に持ち高調整の売りが優勢になった。半面、半導体やハイテク株の一角への買いが相場を支え、ダウ平均の下値は堅かった。
値を下げる米ドルの状況である。
◇US dollar dips as retail sales growth slows―Dollar slips as investors await retail data (Reuters)
→木曜15日の米ドルは、米中貿易休戦をめぐる楽観的な見方が薄れつつあることや、小売売上高の発表を控えていることが重しとなり、じりじりと値を下げた。安全資産となる通貨は上昇し、韓国ウォンや台湾ドルなどのアジア通貨は顕著な上昇を見せた。ドル指数は0.2%下落し、関税の不確実性と財政懸念が続く中、2025年までの下落幅を継続した。米国が通商協議でドル安を求めていないとの報道は、市場に安心感を与えた。
□5月16日(金)
◇NYダウ反発、271ドル高 ディフェンシブ株に買い (日経 電子版 05:59)
→15日の米株式市場でダウ工業株30種平均は3営業日ぶりに反発し、前日比271ドル69セント(0.64%)高の4万2322ドル75セントで終えた。米長期金利の低下(債券価格は上昇)で株式の相対的な割高感が後退した。米当局が不正の疑いで捜査をしているとの報道を受けてユナイテッドヘルス・グループが大幅安となり、ダウ平均は下げる場面もあった。
我が国のGDPが、以下の通りである。
◇1〜3月GDP年率0.7%減、4四半期ぶりマイナス成長 消費力強さ欠く (日経 電子版 10:28)
→内閣府が16日発表した1〜3月期の国内総生産(GDP)速報値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.2%減、年率換算で0.7%減だった。2024年1〜3月期以来、4四半期ぶりのマイナス成長となった。物価高によって個人消費が力強さに欠けた。
◇24年度GDP0.8%増、名目で初の600兆円超え 4年連続プラス (日経 電子版 11:56)
→内閣府が16日発表した2024年度の実質国内総生産速報値は前年度比0.8%増と、4年連続でプラス成長となった。品質不正による出荷停止の影響が解消した自動車が個人消費を押し上げたほか、企業の設備投資も堅調だった。名目GDPは節目となる600兆円を年度で初めて上回った。
□5月17日(土)
◇NYダウ331ドル高、2カ月ぶり高値 ユナイテッドヘルス下げ止まる (日経 電子版 06:47)
→16日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続伸した。前日比331ドル99セント(0.78%)高の4万2654ドル74セントと3月上旬以来、約2カ月ぶりの高値で終えた。前日まで8日続落していたユナイテッドヘルス・グループに買いが入り、ダウ平均を押し上げた。一方、消費の伸び悩みに対する懸念は根強く、ダウ平均は上値の重さも意識された。
≪市場実態PickUp≫
【Nvidia関連】
上記のトランプ大統領中東訪問の記事で、大きく取り上げられているNvidiaであるが、その他関連を以下示している。中国市場の確保を目指す空気が一層伝わってくる受け止めである。
◇Nvidia to release modified H20 chip for China to overcome US export controls: sources (5月9日付け South China Morning Post)
→1)中国の顧客はNvidiaから7月にH20チップのダウングレード版をリリースすることを目指すと通知されたと情報筋は述べている。
2)Nvidiaは、米国の輸出規制によりオリジナルモデルがブロックされた後、7月までにダウングレード版のH20 AIチップを中国で発売する予定である。この動きは、Nvidiaの売上げの13%を占める中国での市場シェアを維持することを目的としている。
◇Nvidia reportedly raises GPU prices by 10-15% as manufacturing costs surge - tariffs and TSMC price hikes filter down to retailers―Report: Nvidia raises prices amid tariffs, cost surge―Looks like inflated GPU prices are here to stay (5月12日付け Tom's Hardware)
→DigiTimes Taiwanによると、Nvidiaは製造コストの上昇と関税に対抗するため、ほぼすべての製品の価格を15%も引き上げると報じられており、ゲーミング・グラフィックス・カードは10%も、AIグラフィックス・プロセッシング・ユニットは15%も引き上げるという。この動きは、Nvidiaが中国へのH20チップの販売禁止を含むAIチップの輸出制限などの課題に直面する中で報告されたものである。
◇Ban on Nvidia graphics card exports to China adds concerns for Samsung (5月12日付け The Korea Times)
→NvidiaがRTX 5090D GPUの中国向け輸出を停止したことで、SamsungのGDDR7メモリ販売に懸念が広がり、すでにHBMチップの出荷が滞っていて、Samsungの収益性に米国の輸出規制が打撃を与えるとの懸念が深まっている。
◇Nvidia’s on a buying spree, eating up property in Santa Clara. Why the expansion? (5月13日付け SILICON VALLEY BUSINESS JOURNAL)
→*Nvidiaのサンタクララ本社キャンパス内のVoyagerビル。Nvidiaはサンタクララの複数の不動産を数百万ドルで購入。
*シリコンバレーにおけるNvidiaの足跡が増えるにつれ、業界アナリストはオフィススペースを所有する場合と賃貸する場合の利点を探っている。
【インテル関連】
次世代GPUそして次期14Aプロセスへの対応が、以下の通りである。
◇Intel "Xe4" and AMD "GFX13" codenames surface for next-gen 'Druid' GPUs―Spotted: Intel, AMD ready GPUs with "Xe4," "GFX13"―Both companies are already laying the groundwork for their future GPU releases. (5月13日付け Tom's Hardware)
→インテルとAMDは次世代グラフィックス・プロセッシング・ユニットの準備を進めており、報道によれば、インテルの 「Xe4」(Druid[ドルイド])とAMDの 「GFX13」が最近ソフトウェア・アップデートで発見された。「Xe4」は「Celestial」 GPUに続くもので、Panther Lake中央演算処理装置でデビューする予定だ。「GFX13」は、「RDNA 5」または「UDNA 1」アーキテクチャをベースにしている可能性がある、と報道は述べている。
◇Tariffs and TSMC delays could turn Apple into an Intel Foundry customer―Intel Foundry eyes external customers ahead of 14A―Intel's external production is currently "not significant," but that is expected to change by 2027 (5月14日付け Laptop Mag)
→インテルは18Aプロセスによる社内チップ生産に注力しているが、次期14Aプロセスでより多くの外部顧客を引きつける計画だと、最高財務責任者のDavid Zinsner氏が語った。Broadcom, Nvidia, AmazonおよびMicrosoftなどの企業がインテル・ファウンドリーと関係があると言われているが、最近の報道では、TSMCの生産能力制限と米国の関税のため、Appleが参加する可能性があると言われている。
【Samsung関連】
超薄型スマホ発表、そしてフォトマスク生産対応について、以下示している。
◇Samsung Electronics unveils ultra-slim Galaxy S25 Edge (5月13日付け Yonhap News Agency)
→サムスンは、5.8mmのフレームに200MPカメラ、オンデバイスAI、およびSnapdragon 8 Eliteチップを搭載した超薄型Galaxy S25 Edgeを発表した。韓国では5月23日に発売され、5月14日から20日まで予約受付が開始される。
◇サムスン、最薄スマホ iPhoneや中国製に先行 (5月14日付け 日経)
→韓国のサムスン電子は13日、薄型軽量が特徴のスマートフォンの旗艦モデル「ギャラクシーS25エッジ」を発表した。2月に発売したAI搭載スマホの改良型で、ギャラクシーSシリーズで最も薄く軽くした。米アップルのiPhoneや中国製に先駆けて薄型を販売し、市場の関心を集める狙い。厚さは5.8ミリメートルで、iPhone16より2ミリ薄い。重さは163グラム。
◇Samsung reportedly considers outsourcing memory photomask production; raises concerns over domestic supply―Reports: Samsung weighs outsourcing production of memory photomask (5月15日付け DigiTimes)
→サムスン電子が、メモリー製造に使われるフォトマスクの生産を外注する計画があると報じられた。技術流出を防ぐため、サムスンは従来、すべてのフォトマスクを内製してきた。
【中国半導体業界】
中国半導体大手、SMICそしてHua Hong(華虹)の関連に、以下注目している。
◇Shares in Chinese chipmaker SMIC drop nearly 7% after earnings miss (5月9日付け CNBC)
→1)*木曜8日の取引後、SMICは第1四半期の売上高が前年同期比約28%増の$2.24 billion、株主に帰属する利益が162%増となったと発表した。
*両利益とも、LSEGの平均予想である売上高$2.34 billion、利益$225.1 millionを下回り、また同社自身の予想も下回った。
*しかし、「SMICの90%近い稼働率は、スマートフォンや家電製品の生産が牽引していると思われ、国内の半導体需要が旺盛であることを反映している」とハイテク・アナリストのRay Wang氏は述べた。
2)SMICの株価は、28%の増収と162%の増益にもかかわらず、第1四半期の業績が予想を下回ったため、7%近く下落した。生産上の問題が価格設定に打撃を与え、第2四半期はさらに収益と利益率が低下すると予測されている。
◇China’s top chipmakers see shares plunge amid tariff uncertainty, despite revenue growth (5月9日付け South China Morning Post)
→1)SMICとHua Hong(華虹)はともに2025年下半期の課題に警告を発したが、第1四半期は好調な増収を報告
2)中国の大手チップメーカー、SMICと華虹の株価は、第1四半期の収益が好調に伸びたにもかかわらず、米中緊張の中で下半期に課題が山積していると警告したため、急落した。ザ・ビッグ・ファンドも両社の株式を切り下げた。
◇China's top chipmaker SMIC plans $7bn expansion despite tariff uncertainty―Co-CEO says auto chip demand now a key driver for growth amid localization push (5月9日付け Nikkei Asia)
→中国のSMICは2025年に$7 billion以上を投資し、チップの生産能力と市場シェアを拡大する計画で、米中貿易摩擦が激化する中、業界の警戒を覆している。この動きは、電気自動車や産業用アプリケーションからの需要増加をターゲットとしている。
◇China's premier chipmaker SMIC faces chip yield woes as equipment maintenance and validation efforts stall―Sanctions finally hit SMIC. (5月10日付け Tom’s Hardware)
→中国への半導体製造装置販売に対する複数回の規制を受け、中国ファウンドリーの覇者であるSMICが、ついにその影響を感じ始めている。SMICは最近、歩留まりと生産量に関連する2つの問題に遭遇した。年1回の定期メンテナンス中に予期せぬアクシデントが発生し、生産ラインが混乱し、プロセスの正確性が損なわれたため、歩留まり率が低下した。その上、新たに導入された装置の検証で、修正が必要な性能上の問題が見つかり、さらなる歩留まりの変動を引き起こした。
◇中国半導体大手2社、1〜3月2桁増収 政府指導で国内好調 (5月10日付け 日経)
→中国の半導体受託生産最大手のSMICと2位の華虹半導体が、2025年1〜3月期決算をそれぞれ発表した。中国政府の指導を受けて中国企業が国産製品の購入を増やしたことなどから、2社とも前年同期と比べて増収となった。
【Huawei関連】
中国テレコム大手、Huaweiについて、以下2点、注目している。
◇ファーウェイが支援、中国「謎の半導体装置メーカー」 (5月12日付け 日経 電子版 02:00)
→2025年3月26〜28日に中国上海市で開催された、半導体関連の国際展示会「セミコン・チャイナ」。米国の中国への半導体規制が強まる中、24年を3割近く上回る約1400社が出展した世界最大級の半導体展示会で主役を演じたのは、東京エレクトロンや米KLAといった世界の半導体製造装置大手ではなかった。
「新凱来技術(SiCarrier)」。中国深セン市で21年に設立された、新興の半導体製造装置メーカーだ。これまで「謎」の製造装置メーカーとして業界内でひそかに注目されてきたが、公の場に姿を現したのは「今回が初めて」(同社の説明員)となる。
◇ファーウェイ、80億円赤字 10〜12月 米規制で開発費増 (5月14日付け 日経)
→中国の通信機器大手、華為技術の2024年10〜12月期の最終損益が約4億元(約80億円)の赤字だったことがわかった。米国による対中輸出規制を受けて、同社は独自にAI用などの半導体やスマートフォンやパソコンのOSを開発し、コスト負担が増している可能性がある。
【Apple関連】
関税対応で中国からインドへ軸足を移す「iPhone」のAppleであるが、それをよしとしないトランプ大統領の横槍が入っている。
◇中国・鄭州、沈むiPhone城下町 実り止まった「リンゴの木」 (5月12日付け 日経 電子版 02:00)
→米アップルのスマートフォン「iPhone」を生産する中国・河南省鄭州の工場が揺れている。世界最大級のiPhone工場として知られるが、トランプ米政権の対中追加関税という強い逆風が吹く。現場からは「仕事が減った」との声が聞こえてくる。
◇Apple、秋発売の新型iPhoneで値上げ検討 WSJ報道 (5月13日付け 日経 電子版 05:40)
→米ウォール・ストリート・ジャーナルは12日、米アップルがスマートフォン「iPhone」の今秋発表の新モデル(「iPhone17」)について、既存モデルからの価格引き上げを検討していると報じた。トランプ米政権が対中関税を発動するなかでの措置となるが、アップル側は「関税と無関係」と説明する方針という。
◇Apple’s China shift begins with Foxconn’s $433M chip deal in India (5月15日付け CNBC)
→1)*工場は2027年までにインド北部のUttar Pradesh州で稼働する予定で、家電製品に使用されるFoxconnのディスプレイ・ドライバ・チップを製造する。
*この契約は、北京とワシントン間の緊張の中、アップルのサプライヤーが中国への依存を減らす方法として、インドにますます目を向けている中で行われた。
2)フォックスコンとHCLは、ウッタル・プラデシュ州に370億6000万ルピー($433M)の半導体工場を建設するインド政府の承認を得た。2027年までに稼動するこの工場では、アップルが中国からインドに製造拠点を移すのに伴い、ディスプレイ・ドライバ・チップを生産する予定だ。
◇鴻海、米関税で増収ブレーキ iPhoneのインド移管難題 1〜3月は最高益に (5月15日付け 日経)
→台湾電機大手の鴻海精密工業が米関税政策のリスクに直面している。14日発表した2025年1〜3月期決算は売上高・純利益ともに同期として最高だったが、通期の増収率見通しを引き下げた。主要顧客の米アップルが掲げる米国向けiPhone生産のインド移管も実現の壁は高い。
◇トランプ氏、Appleのインド生産「望まない」 クック氏を名指し批判 (5月16日付け 日経 電子版 06:10)
→米アップルによる「iPhone」の生産を中国からインドに移管する計画に暗雲が漂い始めた。トランプ米大統領が15日、米国以外への生産シフトに反対する意向を示した。アップルは、米国の対中関税を見越して直近に打ち出した戦略の再考を迫られる可能性が出てきた。
「今こそ、米国に工場建ててくれ」