米中摩擦にまた新たな局面;米国の対中規制強化の動き、トランプ発言
米国政府の対中国輸出規制強化を一層図る動きが、大統領選挙を控えて伝えられ、我が国とオランダの半導体製造装置が取り上げられている様相である。その中で、トランプ前大統領の銃撃事件が発生、以降共和党大統領候補指名受諾演説に至る同氏の発言が、半導体市場関連にも大きなインパクトを生じている。バイデン政権の対中規制が加速していくのではという観測の中で、先行きの不透明感が高まる現時点となっている。米国国内の半導体製造強化を図る措置が続けられているが、その進捗および対中国のスタンスの推移に注目するところである。一方の中国でも、焦点の先端半導体など念頭にサプライチェーン(供給網)を強化する方針が打ち出されている。
≪目が離せない流動的展開≫
この1週間の事態の推移を踏まえた半導体市場の概況である。
◇半導体相場に急ブレーキ 米の対中規制強化を市場警戒 トランプ発言も波紋、円高進み日経平均971円安 (7月19日付け 日経)
→市場が米国の対中国強硬姿勢に警戒を強めている。バイデン米政権が日本とオランダに半導体製造装置の対中規制の強化を求めたと伝わり、世界で半導体株が総崩れとなった。トランプ前大統領の台湾を巡る発言も波紋を呼んだほか、円高傾向も重荷となり、18日の日経平均株価は前日比971円(2%)安で終えた。政権交代の可能性が高まるなか、相場の落ち着きどころは見えない。
大統領選挙をこの秋に控え、バイデン政権の対中規制に臨むスタンスが論じられている。
◇U.S.-China Tech War Likely to Escalate, Analysts Say―Huawei and companies that are part of its ecosystem face more U.S. sanctions. (7月17日付け EE Times)
→EE Timesの取材に応じたアナリストによると、米中ハイテク戦争は、米大統領選の年とその後にエスカレートする可能性が高い。Huaweiとそのエコシステムの一部である企業は、中国のAIの進歩を鈍らせる新たな取り組みとして、さらなる米国制裁に直面する、と専門家は言う。
ワシントンD.C.を拠点とするAlbright Stonebridge Group(オルブライト・ストーンブリッジ・グループ)でグローバル・テック・クライアントにアドバイスを提供するPaul Triolo(ポール・トリオロ)氏によると、バイデン政権は最後の数カ月の間に、過去2年間に計画段階にあったいくつかの措置を実行に移そうとする。
具体的な規制措置とともに、我が国とオランダに協力を求める動きがあらわされている。我が国にも具体的な影響が及ぶ可能性の内容である。
◇US Floats Tougher Trade Rules to Rein In China Chip Industry―US reportedly mulls tougher measures in China chip crackdown―Restrictions would hit technology from Tokyo Electron and ASML―US companies like Lam have urged softer approach in meetings (7月17日付け Bloomberg)
→バイデン政権は、外国直接製品規則を利用して、企業が中国に先端半導体技術を供給するのを制限することを検討している、と情報筋は言う。
米国は、同盟国である日本やオランダにも同様の措置を取るよう求めているというが、彼らは難色を示している。
◇US may employ FDPR to plug tech leak to China―US considers FDPR to curb tech services to China (7月17日付け Electronics Weekly (UK))
→1)米国政府は、オランダと日本の政府関係者に対し、中国との取引をさらに制限しない場合、チップ製造装置のサプライヤーに外国直接製品規則(FDPR)を課す可能性があると警告した。
2)米国政府は、日本とオランダの政府関係者に対し、もし中国との取引を制限しなければ、チップ製造装置のサプライヤーにForeign Direct Product Rule(FDPR)を課す可能性があると警告している。ASMLと東京エレクトロンは、米国の技術を搭載した外国製製品の制限を狙うこのルールの影響を最も受ける2社である。
オランダのASMLは、AIおよび中国の半導体需要により好調な業績を維持している現時点である。
◇AI and China's chip demand keep ASML equipment orders thriving (7月17日付け DIGITIMES)
→オランダの半導体製造装置大手ASMLの受注残は、2024年第1四半期末までに380億ユーロ($41.4 billion)に達する。これは、ASMLが300億ユーロから400億ユーロに達すると予想される2025年の売上高の上限を達成するためには、四半期ごとに40億ユーロから60億ユーロの新規受注が必要であることを意味する。
AIチップの世界的な需要は、ジェネレーティブAIハードウェアの生産能力を拡大する必要性によって堅調に推移している。このAIチップ需要の急増は、ASMLの新規受注獲得にプラスの影響を与えている。
中国では次の通り、3中全会にて、先端半導体はじめサプライチェーン(供給網)強化を図る方針が打ち出されている。
◇中国3中全会、国有企業柱に成長 2029年までに改革完成 (7月18日付け 日経 電子版 23:14)
→中国共産党の重要会議である第20期中央委員会第3回全体会議(3中全会)は18日、国有企業を柱に成長する方針を確認して閉幕した。米国との対立が先鋭化する先端半導体などを念頭にサプライチェーン(供給網)を強化する方針も打ち出した。
米中摩擦に関連する内容&動きとして、まず、米国のCHIPS and Science Actによる助成の現況である。
◇US government announces process for first CHIPS Act research and development beneficiaries―US awards $300M for first 3 planned CHIPS Act R&D sites―R&D gets a boost. (7月13日付け Tom's Hardware)
→米国は、CHIPS and Science Actを通じて研究開発資金を3つの施設が受け取る案発表した。National Semiconductor Technology Center(NSTC:国立半導体技術センター)施設は$300 millionを受け取る予定で、Gina Raimondo(ジーナ・ライモンド)商務長官は、この資金は米国が半導体のリーダーシップを取り戻すのに役立つと述べている。
米国国内外の半導体各社に順次交付されている助成金であるが、台湾のGlobalWafers社の米国拠点の建設に対してこのほど与えられ、以下の各紙取り上げである。
◇GlobalWafers gets $400m Chips Act subsidy―GlobalWafers secures $400M for facilities in 2 states (7月17日付け Electronics Weekly (UK))
→1)GlobalWafers社とその子会社MEMC社は、テキサス州シャーマン(Sherman, Texas)に300mmシリコンウエハー製造施設を建設し、ミズーリ州ピーターズ(Peters, Missouri)に300mm SOIウエハーを製造する新施設を建設するため、US Chips Actから$400 millionの補助金を得る予定である。
2)GlobalWafers社は、CHIPS and Science Actに基づく$400 millionの補助金を獲得し、テキサス州の施設の一部を150ミリと200ミリの炭化ケイ素(SiC)エピタキシーウエハーの生産に転換し、ミズーリ州に300mmシリコンオンインシュレーター(SOI)ウエハーの製造施設を建設する。同社はまた、テキサス州の大学や高校との提携を通じて労働力開発にも投資している。
◇GlobalWafers Wins $400 Million US Grant for Texas, Missouri Plants (7月17日付け BNN Bloomberg (Canada))
◇SIA Applauds CHIPS Act Incentives for GlobalWafers Projects in Texas and Missouri (7月17日付け SIA Latest News)
→米国・Semiconductor Industry Association(SIA)は本日、米国商務省とGlobalWafers社が発表した半導体製造奨励策を称賛するSIAのPresident and CEO、John Neuffer氏の声明を発表した。このインセンティブはCHIPS and Science Actの一部であり、テキサス州およびミズーリ州における半導体ウェーハ生産の発展を支援するものである。商務省は以前にも、米国の半導体サプライチェーンの強化に役立つ様々な企業やプロジェクトに対する奨励金を発表している。
◇Biden-Harris Administration Announces Preliminary Terms with GlobalWafers (7月17日付け SEMICONDUCTOR DIGEST)
→本日、バイデン-ハリス政権は、Investing in Americaツアーの一環として、米国商務省とGlobalWafers Co., Ltd.の子会社であるGlobalWafers America, LLCおよびMEMC LLCが、CHIPS and Science Actの下で提案された最大$400 millionドルの直接資金を提供し、オンショアでの重要な半導体ウェーハ生産を支援し、米国の技術リーダーシップを促進するための拘束力のない予備的な覚書(PMT)に署名したと発表した。
◇GlobalWafers receives US$400 million of CHIPS Act funding (7月17日付け DIGITIMES)
→7月17日、バイデン-ハリス政権は、米国商務省と台湾のウエハーメーカーGlobalWafers Co,Ltd.の子会社であるGlobalWafers America, LLCおよびMEMC LLCとの間で、拘束力のない予備的覚書(PMT)を締結したと発表した。
◇GlobalWafers secures direct US funding―INVESTMENT: The company’s planned complex in Texas would be the first 12-inch silicon wafer fab built in the US in more than 20 years, a GlobalWafers official said (7月18日付け Taipei Times)
→世界第3位のシリコンウエハーサプライヤーであるGlobalWafers Co.(環球晶圓)が、CHIPS and Science Actに基づき、米国商務省から最大$400 millionの直接資金を確保し、米国に2つの新しい先端工場を建設する。
設計自動化のEDA業界の売上げデータについて、全体では伸びていながら、中国では落ち込んでおり、ツールの内製化の可能性が憶測されている。
◇EDA Revenue Up, China Weak―Report: Sharp EDA revenue drop in China an outlier in Asia―Rest of Asia makes up difference, but causes for shift still unknown. (7月15日付け Semiconductor Engineering)
→SEMIのElectronic Design Market Dataレポートによると、アジア太平洋地域全体のEDAおよびハードウェアIPの売上は前年比19%増であったが、中国はマイナス6.3%であった。Semiconductor Engineeringのeditor in chief、Ed Sperling氏は、中国の景気後退や中国のEDAベンダーによるツールの内製化が関係しているのではないかと推測している。
Samsungが、米国政府の支援を受けながらもテキサス新工場の立ち上げを遅らせる動きである。具体的な進捗に目が離せない所以である。
◇Samsung Slows Opening of Texas Fab Despite CHIPS Stimulus―Samsung delays Texas fab opening amid changing market conditions ―The first Taylor fab is expected to be operational in 2026, followed by the second in 2027. (7月16日付け EE Times)
→Samsungが、Department of Commerce(DoC)が条件付きで同社にCHIPS Actに基づく$66 billionの刺激策を与えたにもかかわらず、Taylor, Texasの新工場の立ち上げを遅らせている旨。DoCがEE Timesに語ったところによると、Samsungおよび他のCHIPS Act助成獲得者への補助金はまだ確定していない。
インテルの中国での半導体関連投資も、米国政府の監視の目が向けられる状況が以下の通りである。
◇Intel's China investments may have spurred fresh US restrictions―Intel's investments in Chinese AI startups face US scrutiny―Has America been taking it too easy on local companies so far? (7月16日付け The Register (UK))
→インテル・キャピタルは、中国のAIおよびチップ新興企業への投資について、米国政府から監視の目を向けられている。報道によると、インテルは40社以上の中国のハイテク企業に出資しているという。
◇Intel Capital's investments in Chinese AI startups draw US govt attention ― firm invests in 43 Chinese tech companies―But it may have to divest at least some of its investments. (7月16日付け Tom's Hardware)
→懐の深い世界最大級の企業であるインテルは、新興および既存領域の企業の成長を促進し、ハイテク・エコシステムとサプライ・チェーンを強化するために、世界中の何百もの新興企業に投資している。インテル・キャピタルは43の中国テクノロジー新興企業に出資しており、1990年代初頭の設立以来、120社以上に投資してきた、とフィナンシャル・タイムズ紙は報じている。その結果、同社は中国を拠点とする数十の企業に出資しているだけでなく、AIや半導体の領域など、米国政府にとって懸念材料となる新興企業にも出資している。
オランダのASMLにつながるEindhoven工科大学にも、米国の目が向けられる状況の模様である。
◇ASML-backed university is caught in the middle of U.S.-China chip war (7月16日付け The Japan Times)
→ASMLの優秀な人材の重要な供給源であるオランダのトップ技術大学は、ワシントンが北京の半導体生産能力を制限しようとしているため、米中チップ戦争の矢面に立たされている。
ASMLのグローバル本社から約8キロ(5マイル)離れたアイントホーフェン工科大学の学長であるRobert-Jan Smits氏は、「私はいつも中国人学生についてアメリカ人から質問を受ける。」
アフリカそして南米と、半導体エコシステムの世界的拡充に向けた米国政府の動きが、以下あらわされている。
◇Why Africa could provide the next semiconductor ecosystem for the chip business (7月17日付け World Economic Forum)
→*米国貿易開発庁のケニアとのパートナーシップは、アフリカを世界の半導体サプライチェーンに統合する重要な動きであり、アフリカ大陸がこのハテク産業における重要なプレーヤーとして台頭していることを示すものである。
*ケニア、ナイジェリア、ルワンダおよびガーナのようなアフリカ諸国は、半導体生産に不可欠な豊富な重要鉱物と、技術革新と技術進歩を推進する準備ができているハイテクに精通した若い人口を提供している。
*アフリカの半導体産業への投資は、サプライチェーンのリスクとコストを削減するだけでなく、持続可能な経済発展、雇用創出および技術進歩を促進し、アフリカ経済と欧米パートナーの双方に利益をもたらす。
◇US initiative to produce semiconductors in Latin America announced by Antony Blinken―US initiative aims to expand chipmaking in Latin America (7月18日付け South China Morning Post (Hong Kong))
→1)中国に対抗するためのこの努力は、メキシコ、コスタリカおよびパナマでのチップ製造を拡大するものであり、将来的には他の国でも可能性がある。
2)米国は、メキシコ、パナマおよびコスタリカでの半導体製造の拡大を望んでいる。Antony Blinken国務長官は、西半球半導体イニシアチブ(Western Hemisphere Semiconductor Initiative)を発表、グローバルサプライチェーンにおける同地域の役割拡大を意図している。
さて、銃撃事件で世界に衝撃を与えたトランプ前大統領の以降の発言がいろいろ波紋を広げている。半導体関連を軸足に注目、以下取り出している。
◇Global chip stocks from Nvidia to ASML fall on geopolitics, Trump comments (7月17日付け CNBC)
→*米国からの輸出規制強化と地政学的緊張の高まりが報じられる中、ASML、NvidiaおよびTSMCが打撃を受け、世界のチップ関連株が急落した。
*Bloombergは水曜17日、バイデン政権が中国に重要なチップ製造装置を輸出している企業を取り締まるため、広範な規則を用いることを検討していると報じた。
*ドナルド・トランプ氏は、火曜16日に発表されたブルームバーグ・ビジネスウィーク誌のインタビューで、台湾は米国に防衛費を支払うべきだと述べた。
◇トランプ氏、ドル高是正を宣言 製造業大国復活に軸足 (7月18日付け 日経 電子版 06:42)
→・台湾防衛に懐疑的、世界で半導体株安誘う
・大統領選前の利下げをけん制
・減税を志向、インフレ再燃の恐れ
米共和党の大統領候補に選ばれたトランプ氏の経済政策への関心が金融市場で高まっている。トランプ氏はインタビューなどで米国内の製造業復活を目指し、ドル高是正や関税引き上げを進める姿勢を鮮明にした。半導体産業が盛んな台湾防衛に懐疑的とも受け取れる発言をするなど危うさも目立つ。
以下にも示すTSMCの好業績であるが、株価は下落している。
◇TSMC、AI半導体生産総取り 楽観打ち消すトランプ発言 (7月18日付け 日経 電子版 19:04)
→世界最大の半導体受託生産会社(ファウンドリー)、台湾積体電路製造(TSMC)の業績拡大に弾みがついてきた。18日発表した2024年4〜6月期決算は売上高・純利益ともに過去最高で、通期予想を上方修正した。記者会見で好業績の楽観ムードを演出したが、台湾を巡るトランプ前米大統領の発言により株価は下落し、「トランプリスク」への対処が急浮上してきた。
◇欧州首脳会議、トランプ氏が陰の主役 再選念頭の発言も (7月19日付け 日経 電子版 05:54)
→欧州連合(EU)と周辺国でつくる欧州政治共同体(EPC)の首脳会議が18日、英南部ウッドストックで閉幕した。各国の首脳らからトランプ前米大統領の返り咲きを念頭に置いた発言が相次いだ。
◇トランプ氏「米社会の分断を修復する」 指名受諾演説 (7月19日付け 日経 電子版 13:35)
→米国のトランプ前大統領が18日夜(日本時間の19日午前)、共和党の全国大会で大統領候補の指名受諾演説に臨んだ。銃撃事件後、初めての演説となる。「米社会の不和と分断を修復しなければならない」と宣言した。
◇トランプ氏演説「関税上げ・減税」 インフレ対策に矛盾 (7月19日付け 日経 電子版 19:41)
→トランプ前大統領は18日の演説でウクライナや中東における戦争の終結に自信をみせる一方、中国には関税を引き上げる可能性を示した。インフレへの対応を巡り政策のちぐはぐさが目立った。
一貫性がなかなか困難な流動的な展開&動きの現時点であり、できるだけいろいろな切り口で特に米中摩擦関連の事態の推移に注目するところである。
激動の世界の概況について、以下日々の政治経済の動きの記事からの抽出であり、発信日で示している。
□7月15日(月)
中国の4-6月四半期GDPが、予想を下回る低水準である。
◇中国の4〜6月GDP、予想下回る4.7%増-5四半期ぶり低成長 (ブルームバーグ 日本語版)
→中国の4-6月(第2四半期)経済成長率が予想を下回った。小売売上高が鈍化し、5四半期ぶりの低成長となった。中国共産党は15日から第20期中央委員会第3回総会(3中総会)を開催する。
国家統計局がこの日発表した4-6月の国内総生産(GDP)は前年同期比4.7%増。ブルームバーグが実施したエコノミスト調査での予想中央値は5.1%増だった。1-6月(上期)の成長率は5%と、政府の年間目標である5%前後に沿った水準となった。
□7月16日(火)
トランプ・インパクトを受け、前半3日は史上最高値更新の連続、後半2日は下げる展開となった、今週の米国株式市場である。
◇NYダウ2カ月ぶり最高値 「トランプ・トレード」目立つ (日経 電子版 06:09)
→15日の米株式市場でダウ工業株30種平均が前週末比210ドル(0.5%)高の4万0211ドルで引け、約2カ月ぶりに史上最高値を更新した。13日のトランプ前大統領への銃撃事件で受け、市場ではトランプ氏再選を意識したトレードが目立った。財政拡張や規制緩和の恩恵を得られそうな銘柄にマネーが向かった。
IMFの世界経済見通し、4月の前回予測を維持している。
◇IMF、24年の世界成長3.2%を維持 軟着陸に期待 (日経 電子版 22:00)
→国際通貨基金(IMF)は16日、四半期に1度の世界経済見通しで2024年を3.2%成長とした4月の前回予測を維持した。景気の失速を避けたまま高インフレを鎮圧する軟着陸シナリオを維持したものの、物価抑制には遅れが出ている。金融引き締めからの転換には難路が予想される。
□7月17日(水)
◇NYダウ742ドル高、連日最高値 テック一極集中に転機か (日経 電子版 06:28)
→16日の米株式市場でダウ工業株30種平均が大幅続伸し、前日比742ドル(1.8%)高の4万0954ドルで引け、連日で最高値を更新した。強まる早期利下げ期待を背景に、出遅れていたバリュー(割安)株に買いが入り相場を押し上げた。従来の相場けん引役だった巨大テック株へのマネー一極集中の構図が変わってきた。
アジア開発銀行のアジア新興国のGDP見通しは、4月時点から上方修正である。
◇アジア新興国、24年5%成長に上方修正 ADB見通し (日経 電子版 09:00)
→アジア開発銀行(ADB)は17日、2024年のアジア新興国・地域の国内総生産(GDP)が前年比5.0%増加するとの見通しを発表した。4月に公表した前回予想から0.1ポイント上方修正した。消費が堅調で、電子機器を中心に輸出が伸びた。
アジア新興国は中国やインド、東南アジア各国を含む46カ国・地域が対象となる。ADBは4月と9月に経済見通しを発表し、7月と12月に改定値を示す。
□7月18日(木)
大統領選挙に向かう米国の今後半年の経済は、成長鈍化の見通しと次の通りである。
◇「米経済、今後6カ月は成長鈍化の見通し」地区連銀報告 (日経 電子版 06:14)
→米連邦準備理事会(FRB)は17日発表した米地区連銀経済報告(ベージュブック)で5月中旬以降の米経済活動が「僅か、または緩やかに拡大を続けた」と総括した。今後6カ月の経済見通しについて、11月の大統領選や経済政策、インフレや地政学的紛争の不透明さを理由に成長が鈍化するとの見方を示した。
◇NYダウ、243ドル高で6日続伸 初の4万1000ドル台 (日経 電子版 06:31)
→17日の米株式市場でダウ工業株30種平均は6日続伸し、前日比243ドル60セント(0.59%)高の4万1198ドル08セントで終えた。3日連続で過去最高値を更新し、4万1000ドル台に初めて乗せた。米国の利下げ観測を背景に出遅れ銘柄への資金シフトが続いた。市場予想を上回る決算を発表した銘柄に買いが入ったことも、ダウ平均を支えた。半面、対中規制強化への懸念や台湾情勢を巡る不透明感から半導体株を中心にハイテク銘柄が売られ、相場の重荷となった。
□7月19日(金)
◇NYダウ533ドル安 ハイテクや金融に利益確定売り (日経 電子版 06:06)
→18日の米株式市場でダウ工業株30種平均は7営業日ぶりに反落し、前日比533ドル06セント(1.29%)安の4万0665ドル02セントで終えた。下げ幅は5月下旬以来の大きさだった。前日までに連日で最高値を更新していた。主要ハイテク株の一角に加え、足元で上げが目立っていた金融など幅広い銘柄に利益確定売りが出た。
□7月20日(土)
◇NYダウ続落、377ドル安 システム障害でリスク回避 (日経 電子版 06:42)
→19日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続落し、前日比377ドル49セント(0.92%)安の4万0287ドル53セントで終えた。世界規模で発生したシステム障害を受けて一部のハイテク株が大幅に下落し、投資家心理が冷え込んだ。決算を発表した銘柄への売りも目立ち、指数を下押しした。下げ幅は460ドルを超える場面があった。
≪市場実態PickUp≫
【TSMCの四半期業績】
TSMCの4-6月四半期業績が、最高の結果で以下の通りである。上にも触れたが、トランプ発言への意識があらわれるタイトル・フレーズ部分もある。
◇TSMC’s Q2 results might fuel its US$420bn rally―VALUE: TSMC’s market capitalization far exceeds the combined size of all the Latin American companies on MSCI Inc’s benchmark for emerging markets (7月15日付け Taipei Times)
→台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(TSMC、台積電)の今年$420 billionの株価上昇は、今週発表される決算で評価が試されることになり、アナリストは同社が年間販売高予測を上方修正すると見ている。
ブルームバーグが調査したアナリストの予想中央値によると、世界最大の契約チップメーカーは木曜18日、おそらく第2四半期の純利益が29%増加すると報告するだろう。
◇台湾TSMC4〜6月最高益、36%増 AI向け好調続く (7月18日付け 日経 電子版 14:46)
→半導体世界大手の台湾積体電路製造(TSMC)が18日発表した2024年4〜6月期決算は、売上高が前年同期比40.1%増の6735億台湾ドル(約3兆2000億円)、純利益は36.3%増の2478億台湾ドルだった。米エヌビディアなど生成AI(人工知能)向けに先端半導体の強い引き合いが継続した。
売上高は四半期ベースで、純利益は4〜6月期としてそれぞれ過去最高となった。
◇TSMC rides AI demand to raise revenue forecast, says no to US joint venture (7月18日付け Reuters)
→*TSMC、第3四半期の売上高を$22.4-$23.2 blnと予想
*第2四半期純利益 T$247.8 bln(市場予想 T$238.8 bln)
*第2四半期の売上高は前年同期比33%増の$20.8 bln
*株価終値は2.4%下落
世界最大の受託チップメーカー、台湾積体電路製造は18日、人工知能(AI)向けチップの需要急増を受け、通期の売上高見通しを上方修正した。アップルやエヌビディアの主要サプライヤーである台湾積体電路製造(TSMC)は、世界的なAIブームの恩恵を受けており、パンデミック主導の電子機器需要の先細りを乗り切っている。
◇More Than Half of TSMC’s Sales Are Now High-End Chips Like AI―HPC, AI dominate TSMC's revenue amid demand (7月18日付け BNN Bloomberg (Canada))
→TSMCは、スマートフォンへの依存から転換し、売上げの半分以上をハイパフォーマンス・コンピューティング(HPC)とAIから生み出している。Nvidia、QualcommおよびAdvanced Micro Devices(AMD)からのAIトレーニング用チップの需要がこの傾向に拍車をかけており、C.C. Wei CEOは2026年までに需給バランスが取れると予想している。
◇TSMC boss predicts AI chip shortage through 2025, says Trump comments don't change his strategy―Overseas expansion to continue, insists C.C. Wei (7月18日付け The Register (UK))
→台湾積体電路製造(TSMC)のCEOは、2025年か2026年まで先端チップの需要と供給が均衡することはないと予測している。
本日行われた2024年第2四半期決算説明会で、世界最大の受託チップメーカーのトップであるC.C.Wei氏は、顧客の需要が非常に高いにもかかわらずこの問題に取り組んでおり、可能な限り供給を増やす努力を続けていると述べた。
◇TSMC projects more than 25% growth―EXPECTATIONS: The firm, which is on track to outpace global foundry industry revenue growth, said it expects constrained advanced process capacity amid stronger AI demand (7月19日付け Taipei Times)
→TSMCは昨日、プレミアム・スマートフォンや人工知能(AI)デバイスの需要が予想以上に強く、最先端の3ナノメートルおよび5ナノメートル・チップの利用が拡大することから、今年の売上高成長率予測を25%以上に引き上げた。
TSMCは4月、年間成長率を21〜24%と見積もっていた。
【HuaweiのR&Dセンター】
完成間近ということであろうか、Huaweiの上海のR&Dセンターの豪華なイメージを以下で想像させられている。
◇Huawei Builds $1.4 Billion Shanghai Center as Chip War Heats Up―Huawei's $1.4B Shanghai chip facility nears completion (7月16日付け BNN Bloomberg (Canada))
→ファーウェイ・テクノロジーズは、米国の規制の中、上海に$1.4 billionの半導体技術の研究開発(R&D)施設を最終決定している。報道によると、この施設はデバイス、AIおよびワイヤレスネットワークに焦点を当てる計画である。
◇Huawei lays final bricks of billion-dollar Shanghai R&D complex―Billed as a city in its own right, center built to advance megacorp's 5G, cloud, and AI tech (7月16日付け The Register (UK))
→上海にファーウェイの大規模な研究開発(R&D)施設がついに建設された。これは、米国による制裁を受けた中国の巨大ハイテク企業が、国際的なライバル企業との競争に打ち勝つための後押しとなるものだ。
正式名称はHuawei Lianqui Lake R&D Center(華為技術研究開発センター)で、上海市青浦区政府(Shanghai Qingpu government)によると、この複合施設の建設には100億円(約$1.4 billion)以上の費用がかかったという。この高予算は、該複合施設の敷地面積が160万平方メートルであるためで、該ハイテク大手は、「プラザタウン、都市ブロック、丘の上の集落、森の町、大学キャンパス、都市軸(中略)、および水の町 」を含む必要があると判断した。
◇Huawei finishing largest R&D center in Shanghai (7月17日付け Taipei Times)
→華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)は、上海における半導体研究開発(R&D)センターの建設を終えようとしており、米国が中国の台頭に歯止めをかけようとしているにもかかわらず、中国の技術的野心を前進させることになりそうな動き。
上海政府のウェブサイトによると、このパークはファーウェイにとって世界最大の研究センターとなり、約3万人の従業員を収容する予定だという。
【Samsungの新製品】
中国向けAI搭載スマホ、AI搭載の折りたたみスマホおよびスマートウォッチ、そしてHBM(High Bandwidth Memory)向け、と現下の取り組み&発表である。
◇Samsung is developing AI features specifically for China as it looks to claw back into market (7月11日付け CNBC)
→*サムスンはギャラクシーAIとして知られる一連の人工機能を中国市場向けに特別に開発していると、同社のモバイル部門のチーフTM Roh氏がCNBCに語った。
*世界最大のスマートフォン市場である中国は、ここ数年サムスンにとって苦戦を強いられてきた。スマートフォンの市場シェアは1%未満で、ファーウェイのような地元プレーヤーが独占している。
*サムスンは、人工知能が中国のユーザーを惹きつけるために必要な機能をスマートフォンに与えてくれることを期待している。
◇Samsung's new foldables boosted by AI, annual sales growth to exceed 20% (7月12日付け DIGITIMES)
→7月10日、サムスン電子は新世代の折りたたみ式スマートフォンを発表した。サムスンはGalaxy Z Fold true wireless 6とFlip 6シリーズを、Galaxy Watch Ultra、Galaxy Watch7、およびtrue wireless BluetoothイヤホンGalaxy Buds3 ProとGalaxy Buds3などの新製品とともに発表した。発表後、サムスンは通信事業者や流通パートナーと提携し、7月11日にこれらの製品の先行販売と販売計画の概要を発表した。
◇Samsung's new smartwatches, smart rings bolster its AI ecosystem―Samsung's AI-powered wearables feature Exynos W1000 (7月15日付け DIGITIMES)
→サムスン電子は、AIを搭載した最新のウェアラブル端末、Galaxy Watch 7, Galaxy Watch UltraおよびGalaxy Ringを発表した。該Watchシリーズにはサムスンの3ナノメートルExynos W1000チップが搭載され、データ処理速度が向上している。
◇Samsung subsidiary Semes eyes HBM market with advanced TCB amid competition (7月16日付け DIGITIMES)
→Thermo Compression Bonding(TCB:熱圧着)装置の市場が多様化する中、サムスン電子の子会社で韓国の大手半導体装置メーカーであるSemes(セムス)社は、競争力を強化するためにHBMに特化した製品に注力している。
【OpenAI関連】
ChatGPTのOpenAIについて、AI半導体でBroadcomと連携、そしてChatGPTの小型AIモデルなど、現下の関連する動きである。
◇Microsoft and Apple drop OpenAI board seats amid AI safety and monopoly concerns (7月16日付け DIGITIMES)
→マイクロソフトはOpenAIの理事会のオブザーバー席を見送ることを発表し、アップルもそれに続くと報じられている。こうした動きにもかかわらず、市場独占の懸念は根強く、連邦取引委員会(FTC)のような規制機関から監視の目を向けられている一方、未解決のAI安全性問題が焦点のままである。
◇Broadcom Gains on Report That It’s Discussing Chip With OpenAI―Broadcom shares rise on potential OpenAI collaboration (7月18日付け BNN Bloomberg (Canada))
→ブロードコムは、OpenAI とAIチップの協業について協議中との報道を受けて株価が上昇した。このような動きは、ブロードコムがこの分野におけるエヌビディアの優位性に挑戦する一歩と見られている。両社ともこの噂についてコメントしていない。
◇OpenAI、ChatGPTに小型AIモデル 利用料を6割安く (7月19日付け 日経 電子版 06:09)
→米新興企業オープンAIは18日、対話型AI(人工知能)「ChatGPT」向けに、従来より小型で安く使えるAIモデル「GPT-4o mini(フォーオーミニ)」を開発したと発表した。外部の開発者らの利用料を同社の従来技術から6割下げた。
◇OpenAI、AI半導体開発でブロードコムと協議 米報道 (7月19日付け 日経 電子版 14:16)
→対話型AI(人工知能)の「ChatGPT」を開発する米オープンAIがAI半導体の開発に向け、米ブロードコムなど半導体企業と協議していることが18日分かった。協議は初期段階だという。複数の米欧メディアが報じた。
【半導体関連市場データ】
AI需要が大きく牽引する中、全体的な本格回復が待たれる状況が続く半導体市場であるが、関連する内容を以下取り出している。
◇Semis to grow 16% this year, says WSTS―WSTS projects a 16% y-o-y growth in the semiconductor market to reach $611 billion this year.―WSTS: Logic, memory to drive 16% growth in global semis (7月12日付け Electronics Weekly (UK))
→World Semiconductor Trade Statistics(WSTS:世界半導体貿易統計)は、今年の世界半導体市場はロジックおよびメモリ分野が牽引して16%成長すると予測しており、米州およびアジア太平洋地域で大きな成長が見込まれる。センサー、オプトエレクトロニクス、ディスクリートおよびアナログ半導体は1桁台の減少が予想されている。
◇Q1 ESD revenues up 14.4%―EDA industry saw 14.4% revenue growth in Q1 (7月16日付け Electronics Weekly (UK))
→SEMI技術コミュニティであるESDアライアンスが本日、最新のElectronic Design Market Data(EDMD)報告書の中で、2024年第1四半期の電子システム設計(ESD)業界の売上高が、2023年第1四半期の$3,951.1 millionから14.4%増の$4,521.6 millionに達した、と発表した。
◇Wafer Fab Equipment: 2024 Revenue Holds Steady, Poised for 2025 Surge (7月16日付け SEMICONDUCTOR DIGEST)
→Yole Groupは、2024年第1四半期のWafer Fab Equipment(WFE)売上高が前期比12%減少したものの、2024年の売上高(暦年)は前期比1.3%増の$108.1 billionに達すると発表した。
◇IT spend to hit $5.26trn―Gartner: Global IT spending to reach $5.26T in 2024 (7月17日付け Electronics Weekly (UK))
→「GenAI(ジェネレーティブAI)は、すべてのテクノロジーセグメントとサブセグメントで実感されているが、すべての人に恩恵があるわけではない」とガートナーのJohn-David Lovelock氏は言う。「GenAIに起因するソフトウェア支出の増加もあるが、ソフトウェア企業にとってGenAIは税金に最も近い。GenAIのアドオンやトークンの販売による収益利益は、AIモデルのプロバイダー・パートナーに還流する。」
◇DRAM大口 上昇一服、6月横ばい スポット相場と差、調整 (7月17日付け 日経)
→DRAMの価格上昇が一服した。指標品の6月の大口取引価格は前月から横ばいだった。足元の需給を映すDRAMのスポット(随時契約)価格が横ばい圏で推移していることなどから、メモリーメーカーの強気の値上げ交渉に買い手が抵抗した。
◇世界スマホ出荷、4〜6月6.5%増 (7月17日付け 日経)
→米調査会社IDCは15日、2024年4〜6月のスマートフォンの世界出荷台数(速報値)が前年同期比6.5%増の2億8540万台だったと発表した。4四半期連続で増えたが、価格帯の二極化が進む。今後は生成AI(人工知能)機能を搭載した「AIスマホ」が市場の成長をけん引し、24年年間では市場全体の19%を占めるという。