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中国の減速鮮明の中、新技術・新分野への活発な取り組み&問題提起

中国の2018年の国内総生産(GDP)が6.6%増と28年ぶりの低水準、2018年10〜12月四半期では6.4%に低下、そして中国でのハイテク製品の生産が急減、さらには中国の半導体業界の売上げの伸びが鈍化傾向、と中国経済の減速が一層鮮明になっている。そんな中、最先端の微細化、新型メモリはじめ新技術およびIoT、5Gはじめ新分野に向けた主要プレーヤーの活発な取り組みが打ち上げられている一方、新たな応用でのpower-関連の問題、5Gと自動運転の連帯の問題などが提起されている。先行き鈍化懸念を払拭あるいは埋めるべく、戦略のリニューアル&検討が繰り広げられていく。

≪新基軸の構築に向けて≫

中国経済の減速がますます鮮明になってきており、まずは国内総生産(GDP)のデータ関連である。

◇中国、2018年6.6%成長、28年ぶり低水準−債務削減・貿易戦争が打撃 (1月21日付け 日経 電子版)
→中国国家統計局が21日発表した2018年の国内総生産(GDP)は物価の変動を除く実質で前年比6.6%増、成長率は2017年から0.2ポイント縮小した旨。
2年ぶりの減速で天安門事件の余波で経済が低迷した1990年以来28年ぶりの低水準。足元の2018年10〜12月期の成長率は6.4%に落ちこんだ旨。地方政府や企業の債務削減のほか、米国との貿易戦争の打撃が響いた旨。

◇中国経済の減速鮮明、貿易戦争・債務削減が重荷−2018年の成長率6.6% (1月22日付け 日経 電子版)
→中国経済の減速が鮮明。2018年の実質成長率は6.6%と28年ぶりの低水準で2018年10〜12月期は6.4%に落ちた旨。7〜9月期比での低下幅は0.1ポイントにすぎないが、消費などの主要指標は米中貿易戦争の影響が本格化した秋以降に急変している旨。中国の債務問題も尾を引き、2019年も成長の下振れは必至。危機感を強める中国当局は減税と金融緩和で景気の腰折れ回避を急ぐ旨。

ハイテク生産が大幅に落ち込んでおり、半導体製造装置もその1つ、世界市場への影響が懸念されている。

◇中国ハイテク生産急減、部品・装置の対中輸出ブレーキ (1月24日付け 日経 電子版)
→中国でハイテク製品の生産が急減している旨。日本からの半導体製造装置の輸出は2018年12月に前年同月比34%減と大幅に落ち込んだ旨。韓国からの半導体輸出も減少が鮮明。ハイテク製品の「世界の工場」である中国での生産減は、世界の半導体市場やハイテク景気の冷え込みを示す旨。関連する企業の業績は悪化しており、グローバル経済の重荷となる恐れがある旨。

中国の半導体業界売上げについて、2019年の伸びはここ5年で最小とTrendForceが予測している。米中摩擦はじめ世界経済の鈍化が影響しているが、中国政府(国務院)が主導する「中国製造2025(メイド・イン・チャイナ2025)」の先行き懸念も浮上してくる。

◇China's semiconductor industry growth slows down (1月23日付け Telecomlead)
→TrendForceの最新レポート。中国の半導体業界売上げが、2018年の$88.42 billion(RMB 600 billion超)から2019年は$107.55 billion(RMB 729.8 billion)となる予測。ここ5年の伸び率推移、次の通り:
  2015年  2016年  2017年  2018年(見込み)  2019年(予測)
  23.05%  20.11%  21.75%  18.98%       16.20%

◇China chip growth slowing-TrendForce: China's chip industry growth slows (1月24日付け Electronics Weekly (UK))
→TrendForceの予測。2019年の中国の半導体業界は$107 billion相当の規模、2018年の$88.4 billionから16.2%の伸びで増大する一方、ここ5年では最も小さい伸び率の旨。同国半導体業界はいくつかの逆風に直面しており、中国と米国の間の貿易係争並びに世界経済の鈍化など、と特に言及の旨。

減速懸念が広がってくると、これを打破すべく新分野・新技術への活発な取り組みが目立ってくる受け取りである。

現下の打ち上げからいくつか。最先端の微細化に向けてインテルの新しい工場の備え、そしてTSMCの5-nm半導体の運びである。

◇Intel preparing to spend billions on new Oregon factory (1月22日付け The Oregonian)
→Intelが、Oregonでの壮大な構築に備えており、次世代computer半導体に向けた工場の建設&装備にbillionsを充てる可能性。該計画を直接知る筋によると、Intelは6月末までに建設を始める期待であり、先端Hillsboroリサーチ工場、D1Xに巨大な第3sectionを加え、Oregonのすでに満杯の建設sectorにもう1つのプロジェクトを加えることになる旨。

◇TSMC to tape out first 5nm chip design in 1H19-TSMC CEO: Foundry will tape out 5nm chips this year (1月23日付け DIGITIMES)
→TSMCのCEO、CC Wei氏が投資家に対し、同社は今年前半の間に5-nm半導体設計のtape outを行い、2020年前半の間にextreme ultraviolet(EUV) lithography技術での5-nm半導体の量産に進む旨。同氏は、「今日7-nmを用いているすべての応用は5-nmを採用する。」とし、該N5プロセスnodeは7-nm、16-nmおよび28-nmプロセスと同様永続するnodeとなる旨。

いくつかある新型メモリから、最新のembedded phase-change memoryの取り組みである。

◇Embedded Phase-Change Memory Emerges-Embedded phase-change memory becomes emerging tech (1月24日付け Semiconductor Engineering)
→途上のメモリ技術分野で最も新しいのがembedded phase-change memory。
IntelおよびMicron Technologyがstand-alone phase-change memoriesを提示している一方、STMicroelectronicsは28-nm fully depleted silicon-on-insulator(FD-SOI)プロセス製造、embedded phase-change memory技術搭載のmicrocontroller(MCU)に取り組んでいる旨。

Samsungからはスマートフォンに向けた最小イメージセンサである。

◇Samsung launches "smallest" image sensor for full-screen phones-Samsung reveals smallest image sensor for smartphones-Samsung's ISOCELL Slim 3T2 is 1/3.4 inches in size and can fit into full-screen smartphones. (1月22日付け ZDNet)
→Samsungが、full-screen phones向けの最小イメージセンサ、ISOCELL Slim 3T2を披露、対角5.1mmの寸法、20-megapixelの解像度が得られる旨。Samsungは該センサをmidrangeスマートフォンofferings向けに用い、今四半期に生産を始める旨。

インテルは、新しい3Dパッケージング技術「Foveros」を打ち上げている。
ロジックとメモリを組み合わせた3Dのheterogeneous構造でdie積層を実現としている。

◇Intel FOVEROS 3D Packaging -They Said it Couldn't be Done (1月22日付け Electronic Engineering Journal)
→Intelが、新技術、FOVEROSを発表、真の3D IC理想版に最も近いもの、デモvehicleとして、10セント硬貨より小さいパッケージの完全multi-processor computerを構築の旨。

新分野について、IoTの取り組み関連である。

◇LoRa Surpasses 100 IoT Nets-Test programs aim to enhance ease of deployments (1月22日付け EE Times)
→internet of things(IoT)が転換点に達しているとして、LoRa Allianceが、世界中で100を上回るネットワークスが稼働と発表の旨。運用容易化に向けて今年認証&テストプログラムを拡大する計画、すでにmillions of end nodesをカバーの旨。LoRaは、IoTで牽引力を得ようとしているひとかごの長距離、広域ネットワークスの1つであり、OnRamp, Sigfox, Telensaなどと競合の旨。

米中摩擦で取り上げられる5Gであるが、現下の世界的な動きとして以下の通り。中国・Huaweiの独自開発に注目である。

◇Tejas Sets Up Telecom Center in Kerala; Proposes a 5G Lab (1月22日付け EE Times India)
→Tejas Networks(Bangalore)が、インド南部のKerala州に新しいテレコムセンターを設立、次世代テレコム技術に取り組む旨。

◇Intel, MediaTek, Qualcomm dominating 5G modem chips supply-5G modem chips led by Intel, MediaTek, Qualcomm (1月24日付け DIGITIMES)
→Intel, MediaTekおよびQualcommが席巻している領域、5G modemチップセットモデルに傾倒する前に、Apple, Huawei TechnologiesおよびSamsung Electronicsは好機を待っている旨。Appleは、Qualcommとは法的係争中であり、自前の5G modemチップセットを開発する代替としてIntelおよびMediaTekのofferingsの間で決める可能性の旨。

◇ファーウェイ、5G半導体を独自開発、米依存減らす (1月24日付け 日経 電子版)
→中国通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)は24日、次世代通信規格「5G」向けの半導体、「バロン5000」を開発したと発表、近く発売する5G対応のスマートフォンに搭載する旨。米企業に技術で先行しシェア拡大を狙う旨。米中対立が先鋭化するなか、米企業などからの半導体調達を減らし、足元で約5割の自給率を7割程度まで高めることを視野に入れる旨。

新技術・新分野の活発な展開の一方で、様々な角度からの問題提起に注目させられている。

artificial intelligence(AI)などに対応する半導体設計におけるパワー制御である。

◇Power Issues Rising For New Applications-Chip designers face greater power challenges (1月21日付け Semiconductor Engineering)
→データセンターにおけるartificial intelligence(AI), deep learning, 高速networkingおよびtelecommunicationsが、半導体設計において新しいpower-関連の問題を生み出している旨。電力をなぜ管理するか、いっそう難しく、重要で、さらに高価になってきている旨。

5Gと自動運転車の連携についての視点である。

◇5G and autonomous vehicles might not go hand-in-hand (1月22日付け EE Times Asia)
→5Gの秀でた応用の1つとして自動運転を支持していくと思われたが、ワイヤレスcarriersが如何に素早く動けるか疑念があって、自動車メーカーがワイヤレスcarriersからの5G connectivityを必要とするのかどうか訝っている旨。

そして、半導体の微細化には付き物、プロセスvariationについてである。

◇Variation Issues Grow Wider And Deeper-Process variation challenges present more problems (1月24日付け Semiconductor Engineering)
→半導体製造におけるプロセスvariationが、該業界にとってさらに大きな課題になってきており、「feature sizesをさらに小さくしてデバイスを開発&製造、tolerancesがさらに締まってすべての型のvariationを制御する必要がある。」と、KLAのyield consultant、Chet Lenox氏。新しいsources, safety-critical応用およびtolerances厳格化が、fabの内側および外側両方で新たな問題を生じる旨。


≪市場実態PickUp≫

【米中摩擦関連】

中国製ハイテク機器の締め出しが、台湾においても見られている。

◇台湾、中国製ハイテク機器を公的機関から締め出し−ファーウェイなど対象 (1月23日付け 日経 電子版)
→台湾の蔡英文政権が中国のハイテク機器への規制強化に乗り出す旨。安全保障上の懸念から公的機関などでの使用を規制する中国企業のリストを3月末までに公表、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)などが対象となる見通し。統一を目指す中国の圧力で苦境が深まるなか、中国に強硬姿勢を強めるトランプ米政権に同調する思惑もあるとみられる旨。

返り咲きで注目された中国の王岐山国家副主席であるが、恒例の世界経済フォーラム・ダボス会議にて、中国の立場、考え方を以下の通り表明している。

◇中国副主席「技術覇権争い避けよ」ダボス会議で演説 (1月24日付け 日経 電子版)
→中国の王岐山国家副主席が23日、世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)で演説、技術革新には「各国の国家主権を尊重し、技術覇権を求めないことが不可欠だ」と強調、中国のハイテク製品排除や輸出・投資規制の強化を図る米国を牽制した旨。2018年の中国の実質国内総生産(GDP)成長率が6.6%に減速したことには「決して低い数字ではない」と述べ、問題ないとの認識を示した旨。

半導体が引っ張る韓国経済へのインパクトが引き続いている。

◇韓国、2.6%成長に減速、今年見通し、中銀が0.1ポイント下方修正、半導体や中国景気懸念 (1月25日付け 日経)
→韓国銀行(中央銀行)は24日、2019年の国内総生産(GDP)成長率見通しを従来の2.7%から2.6%に下方修正、唯一の牽引役だった半導体が失速したほか、最大の貿易相手国の中国は景気減速が鮮明で、悪材料ばかりが目立つ旨。民間予測はさらに厳しく、韓国経済の閉塞感はさらに強まりそうな旨。

【各社業績】

TSMCの1-3月四半期販売高が、アップル・ショックに見舞われて前四半期比約14%減と、10年ぶりの落ち込みを予想している。

◇TSMC's Outlook Underscores Foundry Market Challenges (1月22日付け EE Times)
→TSMC(Hsinchu, Taiwan)の今四半期販売高が、前四半期比約14%減の$7.3 billion〜$7.4 billionと予想、同社にとって2009年以降最大の前四半期比の低下となる旨。この落ち込み予想は、TSMCが作ったApple-設計プロセッサを搭載したAppleの最新iPhonesの予想より弱い売れ行きに大方よるものであるが、この弱いguidanceはまた、ファウンドリー業界が直面する課題の大規模化を示している、とベテラン半導体アナリストでIC Insightsのpresident、Bill McClean氏。

Texas Instruments(TI)においては、2年以上ぶりのこと、2018年第四四半期販売高が前年比マイナスとなり、米中摩擦によるとしている。

◇Trade War Cited as TI Reports Sales Decline (1月24日付け EE Times)
→Texas Instruments(TI)(Dallas)が、2年以上ぶりのこと、四半期販売高の前年比減少、同社executivesは半導体の循環性および中国での需要の弱まりを挙げている旨。TIの2018年第四四半期販売高が$3.72 billion、前年同期比1%減。

インテルも、2018年販売高が3年連続の史上最高を記録したが、2018年第四四半期および2019年第一四半期ともに中国での需要鈍化から市場予想を下回る情勢となっている。

◇Weak China Demand Stings Intel (1月25日付け EE Times)
→Intel(Santa Clara, California)も中国での需要鈍化に刺される半導体メーカーに。第四四半期業績および第一四半期予測ともに、Wall Streetの予想を下回った旨。2018年販売高は$70.8 billionで3年連続の史上最高、そしてどの事業部門も広く伸びた第四四半期であるが、中国の顧客需要弱含みからデータセンター販売高の伸びが同社予測をかなり下回った旨。

◇Intel reports 13% revenues growth for 2018 (1月25日付け DIGITIMES)

【DRAM価格】

DRAM価格の一段の下落が続いており、サーバ用DRAMでは2019年第一四半期に前四半期比20%、今年の通しで50%の落ち込みが予測されている。引き続き推移および市場の刻々の反応に注目である。

◇DRAM Prices Forecast to Crash in Q1 (1月21日付け EE Times)
→TrendForceのDRAMeXchangeサービス発。高い在庫および弱含みの需要が中長期のおさえた経済見通しとあいまって、第一四半期のDRAM半導体の契約価格が約20%下がる見通しの旨。当初予想の15%より急峻な該価格低下は、サ―バDRAM半導体が引っ張る見込みの旨。

◇Server DRAM ASP to fall 20% In Q1-Contract prices of server DRAM are expected to fall by more than 20% QoQ in 1Q19, reports DRAMeXchange. (1月22日付け Electronics Weekly (UK))

◇Server DRAM contract prices to fall larger-than-expected, says DRAMeXchange (1月22日付け DIGITIMES)

◇Prices of server DRAM to drop 50 pct this year: DRAMeXchange-Server DRAM prices to fall 50% this year, DRAMeXchange says (1月22日付け Yonhap News Agency (South Korea))
→DRAMeXchangeの予測。2019年第一四半期の間のデータセンター・サーバ用DRAMs価格が、2018年最終四半期に比べて20%を上回る低下、在庫問題から今年約50%の落ち込みに向かう旨。DRAMベンダーは現在、通常の四半期ベースではなく月ごとに契約価格を交渉している旨。

◇DRAM、3ドル割れ、データセンター向け不振、スポット (1月23日付け 日経)
→DRAMのスポット(随時契約)価格が一段と下落した旨。指標となるDDR4型の4ギガビット品は1月中旬時点で1個2.995ドル前後と中心値で3ドルを切った旨。1カ月前と比べ2%ほど安い。

【ICの伸びとGDP】

かつてのシリコンサイクル、オリンピック周期から、特にここ10年、半導体業界の販売高の伸びと世界のGDP成長の間の相関がますます高まっている、とIC Insightsの見方である。

◇Global GDP growth increasingly important driver of IC market growth (1月22日付け ELECTROIQ)
→IC Insightsが今月後半発行のThe McClean Report 2019より、IC市場伸長とグローバルGDP成長の相関分析について。

◇IC growth tracks GDP-IC Insights: Growth in semi sales correlates with global GDP (1月23日付け Electronics Weekly (UK))
→IC Insightsの観察。この10年の大方において、半導体業界の販売高の伸びは世界GDPのますます増加する伸びと密接な相関があり、20世紀に見られた劇的なboom-or-bustサイクルではない旨。2010年から2018年までのグローバルGDPの伸びと半導体市場の伸びの間の相関係数が0.86、完全なプラスの相関、1.0に近づいている、と特に言及の旨。

【特許関連】

Qualcommのantitrust審理が行われる中、同社の保有する特許の規模、新たな積み重ね具合に注目させられている。

◇Trial Sheds Light on Q'comm Patent Holdings, Royalty Rates -Mobile giant packs ~30,000 cellular SEPs (1月21日付け EE Times)
→Qualcommのantitrust審理における証言が金曜18日、同社のlicensing慣行&考え方に焦点の旨。これまでの証言でいくつかのOEMsが、Qualcommが半導体供給をやめることを恐れるとしており、Appleの購買headが証言したように高いlicense料により巻き上げられることを恐れた旨。Qualcommは、2018年3月までに140,000件を上回る特許&出願をもち、年間30%を上回る伸び率、1日に約35件の新規特許の旨。それら特許の20%ほどが、CDMAおよびLTEなどcellular標準に向けたいわゆるstandards-essential patents(SEPs)である旨。

リソ装置およびデジカメの特許について、Nikon, ASMLおよびCarl Zeissの間のすべての係争沙汰を決着させる合意が交わされている。

◇Nikon, ASML and Carl Zeiss sign agreement to settle all litigation (1月23日付け ELECTROIQ)
→Nikon Corporation、ASML Holding N.V.およびCarl Zeiss SMT GmbHが、lithography装置およびディジタルカメラについての特許を巡るすべての法的手続きの包括的決着に関するMemorandum of Understanding(MoU)に署名の旨。


≪グローバル雑学王−551≫

重くのしかかる規制に対して撤廃に向け政府&官僚と闘って押し通した例として挙がってくるクロネコヤマト「宅急便」を起こした小倉昌男について、

『日本人だけが知らない本当は世界でいちばん人気の国・日本』
 (ケント・ギルバート 著:SB新書 443) …2018年8月15日 初版第1刷発行

より、発案に至った過程、そして全国ネットワークに広めていった苦闘&工夫のステップを追っていく。確かに彼方の昔、大きな箱にひもをかけて慣れない荷づくり、そして国鉄の駅に運び込んだことを思い出す。いまの日常的に慣れてしまっている「宅急便」からは、顧客満足の徹底化を図った筋道が辿れる感じ方がある。


第二章 義理
 ―――誉れ高き「和の心」 …その2

□正攻法で官僚と闘い続けた大和魂
 ―――小倉昌男

〓時代の波に乗り遅れた会社の新社長
・「宅急便」が当たり前になった背景に、一人の男の闘い
 →小倉昌男
  →1924年、大和運輸(現・ヤマトホールディングス)を経営する小倉康臣の息子として生まれた
  →1947年に東京大卒業、翌年、大和運輸に入社
  →入社して半年が経ったころ、肺結核を患い、4年半の療養生活
   →小倉はこのころの体験を、自分にとって非常に大きく貴重な体験として感じ取ったよう
・全国のトラック台数が204台だった1919年、大和運輸スタート
 →銀座で4台のトラックを保有するトラック運送会社
 →創業11年目に、日本初の路線トラック事業を開始
  …一般路線を時刻表に従って貨物自動車(トラック)で通行、不特定多数の荷主の荷物を運送する事業
 →爆発的に伸び、ほんの数年後には、関東一円に輸送ネットワークをつくり上げるほどに成長
・1960年代半ば以降、該事業に暗雲
 →高速道路が次々完成、競合他社が長距離輸送にどんどん参入
 →大和運輸はこの市場の変化を見逃し、出遅れに
・健康を取り戻した小倉は、静岡県の子会社の再建を手がけた後、本社に復帰
 →1961年、取締役に就任
 →前述の時代の波に乗り遅れた経営危機の真っ只中に、小倉は本社の経営に復帰
 →1971年、父のあとを継いで小倉は大和運輸の社長に就任
 →業績がとことん低迷した大和運輸を、どのようにすれば回復させられるのか

〓「電話一本、一個でも家庭に集荷」の衝撃
・今から40年以上前、送りたい荷物をユーザは郵便局まで持っていく必要
 →郵便小包(現・ゆうパック)
 →6キロまでという重量制限。それ以上の荷物は国鉄の最寄り駅まで持ち込み
・肺結核から生還、取締役として復帰した小倉は、まず大和運輸の低収益の原因を根本から考えてみた
 →それまで業界の常識であった「小口荷物は集荷・配達に手間がかかり、採算が合わない」という考え方が誤りであることに気づく
 →小倉は、運送業界のニッチを見逃すことはなかった
 →「小口の荷物のほうが、1キロ当たりの単価が高い。小口貨物をたくさん扱えば収入が多くなる」と確信
・1975年、小倉は「宅急便開発要項」を社内発表
 →基本的な考え方5ヵ条
  1.需要者の立場になってものを考える
  2.永続的・発展的システムとして捉える
  3.他より優れ、かつ均一的なサービスを保つ
  4.不特定多数の荷主または貨物を対象とする
  5.徹底した合理化を図る
 →遠距離の大きな貨物は「親方日の丸」でサービス精神が薄い国鉄でもできるが、近距離の小口貨物はそうはいかない
・1976年1月20日、「宅急便」(ヤマト運輸の登録商標)が誕生
 →商品コンセプト…「電話一本で集荷」「一個でも家庭へ集荷」「翌日配達」「運賃は安くて明瞭」「荷づくりが簡単」
 →宅急便は、民間初の個人向け小口貨物配送サービス
・1982年、「ヤマト運輸」に商号を変更、小倉は1987年、代表取締役会長に就任
・戦後、デパートの配送に力を入れた大和運輸
 →燃料代や人件費などの輸送コスト増、利幅がどんどん薄くなって、だんだんと経営困難に
 →これを成り立たせるために、郵便小包のようなものを開拓したらどうかという考えも、「宅急便」の発想へ

〓時代の先端・「スライド式オープンドア」と「ウォークスルー車」
・ヤマト運輸の運送用トラック、構造上のデザインにも特筆すべきもの
 →スライド式オープンドア…トラックのボディに沿って、前後方向に平行にドアが開く
  →小回りのきく小さめのトラックで狭い住宅街の道路を走りやすく、作業もしやすい
  →当時としては画期的
 →ウォークスルー車…車内を容易に移動できる

〓宅配事情の東西
・日本でもお馴染みになった国際宅配便の会社
 →フェデックス・エクスプレス(FedEx:創業時はフェデラル・エクスプレス)
  UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)
  DHL(創業者3人の頭文字)
  ワミエクスプレス(インターワミグループ) など
 →UPSは、1907年にシアトルで創立、宅配便事業を拡大
  →アメリカで日本の「ゆうパック」に該当する郵便局のサービスができたのは、UPSが設立された6年後とのこと
・日本の宅配とアメリカの宅配の決定的な違い
 →荷物の受け渡し
  →日本の場合、荷物を受け取ったというサインが必要
  →アメリカの場合、家の住人が出て来なければ、その場に置いて帰る
   …せっかく届けに来たのに家に人がいなくて受け取れないほうが悪いということに
・アメリカと日本でさほど違わないのは、時間指定もできること
 →発送など連絡メール、トラッキング(追跡)もできる
 →アメリカの郵便局は、トラッキングはできない

〓「全国でやらなければ、意味がない」
・宅急便事業を立ち上げるに当たって、小倉は非常に綿密な計画を立てた
 →サービスエリアを北は北海道から南は沖縄まで全国に設定
 →全国に集荷センターがいくつ必要、土地の取得費用、配達するトラックとドライバー、などなど細かく計算
 →3年目からは採算がとれそうだという結論に
・とくに私が感心しているのは、全国にある酒屋の事業者に集荷を委託したこと
 →昨今では、自宅集荷でなければ荷物をコンビニに持っていくというのが当たり前に
 →仕組み自体は、今も生きている
・1976年の宅急便事業開始時は、関東地方限定
 →全国ネットワークの整備を完全に達成したのは1997年のこと
・初日の取扱数量は11個⇒2014年には15億個を突破
 →2年目で早くも黒字を達成

〓敵は郵政省
・すべてが順風満帆だったわけではなく、小倉の前に立ちはだかった闘わざるを得ない相手
 →郵政省(現・総務省[日本郵政グループ])と運輸省(現・国土交通省)
・「信書便法」という法律
 →個人向け郵便はプライバシー保護のために郵政でしか行ってはならないことに
 →これを盾に、郵政省は、個人宅配事業から手を引くように小倉にいってきた
 →小倉は、トップである自分自身が先頭に立って市民の生活の利便性を訴えて押し切った

〓「免許制」で行く手を阻む運輸省
・一方、運輸省の問題
 →当時、路線トラックは免許制というところで行く手を阻まれた
 →小倉は、「宅急便は不特定多数の消費者を対象としており、既存業者の商業貨物輸送とは市場が全く異なる」と主張
 →免許を得たが、申請からなんと4年近くもかかってしまった
・小倉は、とくに自分が理不尽と思ったことには毅然として立ち向かい、正しいと思うこと、言うべきことは強く主張する人
 →自己の信念に基づいて堂々と意見を言い、正攻法で対策を講じた
・以来、小倉は「官僚と闘う男」というイメージが多く
 →時代遅れな規制を維持・強化しようとする姿勢が、日本の発展の足かせに、との感じ方
 →小倉の態度には大いに共感

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