セミコンポータル
半導体・FPD・液晶・製造装置・材料・設計のポータルサイト

制裁関税第3弾発動の渦中の動き:生産移転、価格転嫁、働きかけ

|

米中摩擦の制裁関税の双方応酬が繰り広げられる中、米国トランプ政権が9月24日に中国からの輸入品2千億ドル(約22兆円)分を対象に第3弾を発動、家具や家電など計5745品目に10%の関税を上乗せする内容である。消費者に身近な製品が多く含まれて、本格的な悪影響の高まりが懸念されるところである。中国側も即座に報復措置の構えで対抗する一方、アジアのメーカーが生産を中国から東南アジアに移す動き、そして関税引き上げによる負担分を価格転嫁する動きが相次いでいる。知的財産(IP)は非常に重要ながら制裁関税では何の成果も得られないと、半導体業界の働きかけが続いている。

≪発動によるインパクト&誘発≫

米国トランプ政権による対中国制裁関税第3弾発動に至る前日からの経過である。米国ハイテク関連も対象の照準に入っている。

◇米、対中関税第3弾を24日に発動、22兆円分に10% (9月23日付け 日経 電子版)
→トランプ米政権は24日、中国からの輸入品2千億ドル(約22兆円)分に第3弾の制裁関税を発動する旨。家具や家電など計5745品目に10%の関税を上乗せし、消費者への悪影響が本格的に広がる旨。中国は即座に報復関税をかける構え。トランプ大統領は中国が報復すればすべての輸入品に関税をかけると脅しており、二大国の貿易戦争の終わりが見えない旨。

◇Trump's China Fight Puts U.S. Tech in the Cross Hairs (9月23日付け The New York Times)

◇米中貿易戦争、見えぬ出口、首脳会談で決着探る (9月24日付け 日経 電子版)
→米国が中国に制裁関税第3弾を発動し、中国も即日報復した旨。トランプ米大統領は「中国が報復に出れば、残る全ての中国製品に追加関税を発動する」と主張しており、貿易戦争は一段と出口がみえなくなる旨。米中は11月末にブエノスアイレスで開く20カ国・地域(G20)会議の場での首脳会談を模索するが、悲観的なシナリオも残る旨。

◇米消費者、関税で値上げ警戒、中国は不買運動抑制 (9月24日付け 日経 電子版)
→トランプ米政権が24日発動した対中制裁関税第3弾は、家具や家電など消費者に身近な製品を多く含む旨。中国も需要が拡大する液化天然ガス(LNG)に報復関税を発動し、米中の応酬は消費の現場を直撃し始めた旨。

半導体関連が主要な範囲に対象として及んでいるとして、半導体業界のSEMIが、このような制裁関税措置では中国の貿易慣行を正す効果はなく、我が身に害を受けてしまうと以下の表し方となっている。

◇U.S.-China trade war heats up with semiconductor industry caught in the middle (9月25日付け ELECTROIQ)
→今週始めU.S. Trade Representative(USTR)が、中国からの輸入$200 billionについて10%の関税をリリース、半導体業界に主要な90以上の関税linesが含まれる旨。intellectual property(IP)は半導体業界に非常に重要であり、SEMIは価値あるIPをより良く保護する努力を力強く支持するものであるが、このような関税は中国の貿易慣行に纏わる懸念に結局は何も対応しないと思う旨。この圧倒的なアプローチは、大きな不安を招き、コストの高まりを科し、そして貿易戦争につながる可能性がある旨。
この過度の損害により、究極的に我々各社の海外への販売能力が下げられ、単に革新を妨げ米国の科学技術leadershipを抑制するだけである旨。

発動を受けてアジアの各社が生産を東南アジアはじめ移す動きが相次いでいる。組み立てを中国に依存しているIntelについては、すぐには他に移せない事情があらわされている。

◇Asian firms shuffle production around the region as China tariffs hit-As China tariffs pile up, some firms shift production sites (9月24日付け Reuters)
→Trump政権が最新roundでさらに$200 billionの製品を対象にして中国製品への関税を増やす一方、アジアのメーカーが生産を中国から移している旨。米国でのmicrochips製造についてICパッケージ組立で中国に頼っているIntelは、確立&統合したsupply chainsを移すには費用がかかり過ぎ、動かすのは実際的でないとしている旨。

◇アジア企業、中国から東南アへシフト、貿易戦争に対応 (9月26日付け 日経 電子版)
→米中貿易戦争の激化で、工場や部材・商品の調達先を中国から他のアジア諸国へ移すアジア企業が相次いでいる旨。香港の大手商社、利豊は東南アジアなどからの調達を拡大し、台湾電源装置大手、台達電子工業(デルタ・エレクトロニクス)はタイでの生産拠点確保へ関連会社を子会社化する旨。人件費上昇に伴い進んできた中国からのシフトが、対米輸出の追加関税回避で拍車がかかっている旨。

率直に関税引き上げによる負担分を価格に上乗せする動きも相次いでいる。
米中両国で物価上昇圧力によるインフレ加速の懸念が出てくる可能性がある。

◇貿易戦争、価格に転嫁、関税上げの上乗せ相次ぐ−米中でインフレ加速も (9月26日付け 日経 電子版)
→米中間で貿易戦争が激化するなか、関税引き上げによる負担分を価格転嫁する企業が相次いでいる旨。時間とコストがかかるサプライチェーン(供給網)の組み替えに比べて、価格転嫁の方が容易なため。こうした動きが一段と広がれば、物価上昇圧力が高まって金融引き締めにつながり、米中景気の逆風となる恐れがある旨。

半導体業界では、SEMIの上記のスタンスから米国政府、議会筋に喫緊の是正対応を働きかける場が次の通り設けられている。

◇China trade brings semiconductor executives to DC for the Fall Washington Forum (9月26日付け ELECTROIQ)
→先週、senior半導体executives十数名以上が初めてのFall Washington ForumにWashington, DCに出向いた旨。SEMIメンバーが該業界についてlawmakersに教育する場であるこのSEMI Washington Forumは、関税および輸出管理の形両方で中国を相手取った行動に重点化の旨。2017年で米国製装置の90%以上が輸出され、このdynamicゆえにこの業界では米国は約$9 billionの貿易黒字となっている旨。

第3弾発動に並行して、関連するいくつかの動きが見られている。トランプ政権が、今後に向けて重要となる技術、量子computingについて業界ヒアリングの会合を行っている。

◇Key companies to attend White House quantum computing meeting-White House, tech agencies to discuss quantum computing (9月23日付け Reuters)
→Trump政権が、量子情報科学改善に向けてAlphabet, IBMおよびJPMorgan Chaseなど各社、並びに業界エキスパートとの会合を主催の旨。
量子computingはヘルスケア、通信およびartificial intelligence(AI)に影響を与える一方、正しく実行されなければ国家安全への脅威にもなる可能性の旨。

中国政府は、米国以外からの輸入については関税をさらに引き下げる方向で、自由貿易を守る姿勢を鮮明化しようとしている。

◇中国、関税再び下げ、11月に機械や紡績品など1585品目−2018年、1兆円負担減 (9月26日付け 日経 電子版)
→中国の国務院(政府)は26日の常務会議で、11月から関税を引き下げることを決めた旨。対象は機械類、紡績品、紙製品など1585品目。引き下げにより、平均関税率は2017年の9.8%から7.5%まで下がる旨。関税下げは2018年7月につづく措置。米国が保護主義を強めるなか、中国は逆に関税を下げて自由貿易を守る姿勢を訴える旨。中国が関税を下げるのは、保護主義を強める米国に対抗する狙い。米中は7月以降、お互いに追加関税を発動しあっており、現在までに米国は計2500億ドル分、中国は計1100億ドル分の製品に関税を上乗せした旨。追加関税の応酬で打撃を受けた国内製造業などを支援する狙いもある旨。米国以外からの設備輸入にかかる関税を下げ、負担を減らす旨。

米国内での軍事関連などスパイ活動があったとして逮捕された中国人の例である。

◇米司法省、スパイ容疑で中国人逮捕 (9月26日付け 日経 電子版)
→米司法省は25日、中国政府の指示を受けて米国内でスパイ活動をしようとしたシカゴ在住の中国国籍の男を逮捕したと発表、米国在住の中国出身の科学者や技術者を雇って軍事分野などでスパイ活動を試みた旨。トランプ米政権が中国による知的財産権の侵害や機密情報への不正アクセスを厳しく取り締まる姿勢が改めて鮮明になった旨。

我が国と米国の間では、従来馴染みの自由貿易協定(FTA)ではなく物品貿易協定(TAG:Trade Agreement on Goods)締結に向けた交渉が始まろうとしている。

◇日米、物品協定交渉入り合意、協議中は車関税上げず (9月27日付け 日経 電子版)
→日米両政府は26日(日本時間27日未明)、2国間のモノの貿易を自由化する物品貿易協定(TAG:Trade Agreement on Goods)の締結に向けた交渉を始めることで合意した旨。TAGは投資・サービス分野などを含む自由貿易協定(FTA)とは異なるとされる旨。26日に開いた日米首脳会談で安倍晋三首相とトランプ米大統領が合意し、両政府が共同声明を発表した旨。

半導体・エレクトロニクス業界に敏感に関わる内容、動きであるだけに、引き続き推移に注目である。


≪市場実態PickUp≫

【QualcommのApple告発】

台湾・Fair Trade Commissionとのanti-trust係争決着に向け向こう5年にわたって台湾での$700 millionの投資を約束、2つのR&Dセンターの計画発表を9月27日付けであらわしているQualcommであるが、その一方では、Appleを相手取って告発、Intelに通商機密が渡っていると訴えている。

◇Qualcomm accuses Apple of stealing its secrets to help Intel-Qualcomm formally accuses Apple of giving trade secrets to Intel (9月25日付け Reuters)
→Qualcommが、Appleを相手取って告発、AppleがQualcommの半導体製造戦略をIntelに渡したとしており、Qualcommがbillionsの販売高が失われたとする動きの旨。該申し立ての通商機密盗用は、Appleの側での"いい加減で不適当、偽りの行為"の一環、とQualcomm。

◇Qualcomm Says Apple Gave Stolen Trade Secrets to Intel (9月26日付け EE Times)

【より安全な自動運転に向けて】

Advanced Driver Assistance Systems(ADAS)および自動運転の時代における安全性をより高める要求に直接応えるものとして、Armが、ecosystemパートナー向けの新しいプログラム、“Arm Safety Ready”、および7-nm SoC設計に向けたCortex-A76AEコアを打ち上げている。

◇Arm Targets Next-Level Autonomy Safety (9月26日付け EE Times)
→Armが水曜26日、ecosystemパートナー向けの新しいプログラム、“Arm Safety Ready”およびSoC設計者に向けてsplit-lock safety featuresと統合されたアップグレード処理コア、Cortex-A76AEを披露、ともにAdvanced Driver Assistance Systems(ADAS)および自動運転の時代における安全性をより高める要求の叫びに直接応える旨。

◇Arm unveils 7nm Cortex-A76AE, the ‘world’s first autonomous-class’ car processor-Arm launches processor core for autonomous vehicles (9月26日付け VentureBeat)
→Armが、Cortex-A76AE設計coreを投入、車載応用向け、7-nm features製造半導体に向けて最適化の旨。該コアは、チップセットのテストに向けてArm Safety Readyサービスが、CPU clusters設定に向けてSplit-Lock featureが、サポートする旨。

◇ARM leads the charge for safer autonomous driving-ARM has unveiled what it says is the first autonomous-class processor with integrated safety. (9月26日付け New Electronics)

【GaN-on-Silicon技術】

STMicroelectronicsとCEA Techの研究機関、LetiおよびIRT Nanoelecと連携、パワーswitchingデバイス用GaN-on-Si(gallium nitride-on-silicon)プロセスを開発、STがパワートランジスタの製造に用いていくとしている。

◇STMicroelectronics and Leti develop GaN-on-silicon technology for power conversion applications (9月24日付け ELECTROIQ)
→STMicroelectronicsとCEA Techの研究機関、Letiが、パワーswitchingデバイス用GaN(Gallium Nitride)-on-Silicon技術の工業化での協力を発表、該技術によりSTは、hybridおよび電気自動車用車載on-board充電器、ワイヤレス給電およびサーバなど高効率、高出力応用に対応できる旨。

◇STMicro and Leti develop GaN-on-Silicon technology for power conversion applications-ST teams with Leti, IRT Nanoelec for a GaN-on-Si process (9月24日付け New Electronics)
→STMicroelectronicsがLetiおよびIRT Nanoelecと連携、GaN-on-Si(gallium nitride-on-silicon)プロセスを開発、STがパワートランジスタの製造に用いる旨。

◇ST and Leti to make GaN-on-Si power transistors-STMicroelectronics to manufacture GaN-on-Si power transistors, based on a process developed by French research lab Leti, ST and IRT Nanoelec. (9月24日付け Electronics Weekly (UK))

◇ST looks to Leti for high volume GaN on 200mm wafers (9月24日付け EE News Europe)

【AMDとGlobalfoundries】

AMDとGlobalfoundriesというと、もとは一緒で設計開発と製造で分かれ、後者にはIBMも加わったという経緯であるが、AMDは、TSMCとの結びつきを強める政策変更から次の通り市場シェアの回復が図られる見通しとなっている。

◇AMD may regain 30% global desktop CPU market share in 4Q18 (9月25日付け DIGITIMES)
→業界筋発。2017年に黒字に戻して後、AMDは2018年に引き続き好業績の勢いを得ており、株価が最近12年ぶりの高水準、およびTSMCからの完全ファウンドリーサポートおよびIntelの10-nmプロセッサ打ち上げの遅れが奏功、グローバルdesktopプロセッサ市場シェアが本年第四四半期にまた30%を取り戻しそうである旨。AMDは、ファウンドリー戦略を劇的に変更、Globalfoundriesとの連携を緩めて、7-nmプロセスでのGPUs, サーバおよびPCプロセッサ製造でTSMCと契約の旨。該政策変更により、半導体歩留りおよび性能改善並びに顧客への出荷正常化に向けた市場の期待の渦中、AMDの株価は2018年半ば以降ずっと元気を回復している旨。

一方のGlobalfoundriesは、7-nmへの取り組みを中止、現状のプロセスnodes強化を図る方向を打ち出しているが、その具体的な内容がこのほど以下の通りあらわされている。

◇GF Grabs AI Wins with FD-SOI -CEO tells why he pulled the plug on 7 nm (9月26日付け EE Times)
→7-nmへの取り組みを中止してからはじめてのannual conferenceにおいて、Globalfoundriesがいくつかの現状nodes強化を表わし、また、22-nm fully depleted silicon-on-insulator(FD-SOI)プロセスで少なくとも3つのembedded deep-learning半導体を作っている新しい顧客を披露の旨。GFは、12-/14-nm FinFETおよびplanar nodesから10%〜22%の面積、性能および電力の改善を搾り出すと約束の旨。

◇GLOBALFOUNDRIES extends FinFET offering-GlobalFoundries enhances its 14/12nm FinFET platform (9月26日付け New Electronics)
→GlobalFoundriesが、同社FinFETプロセスにfeaturesを追加、自動運転車, hyperscaleデータセンターなど高成長市場の応用に向けた14-nmおよび12-nm dimensionsの半導体設計および製造用の旨。これらには、embeddedメモリ, performance boosts, radio-frequency(RF)およびアナログelementsそしてエネルギー効率の良い高性能system-on-a-chip(SoC)デバイス設計用の超高密度などがある旨。

【メモリ半導体価格の先行き】

特にDRAMについて、残る年内の価格の動きが注目されるが、Micronが盛りを過ぎた陰り調子の業績予測をあらわしている。

◇Micron Forecast Triggers Concern That Best of Rally Is Over (9月21日付け Bloomberg)
→Micron Technology社(Boise, Idaho)の今四半期販売高が$7.9 billion〜$8.3 billionの予測、Bloombergがまとめたアナリスト予測平均、$8.45 billionを下回る旨。2年に及ぶ製品需要の急増が陰ってきているという懸念に拍車をかけている旨。

ものは違ってNORフラッシュのMacronixからは、供給逼迫が続くとの見方である。

◇Macronix says high-end NOR flash memory chip supply to remain tight-Macronix sees tight supply of high-end NOR flash memories continuing (9月22日付け The Taipei Times (Taiwan))
→Macronix International Co(旺宏電子)(Hsinchu)、木曜20日発。high-end NORフラッシュメモリ半導体の供給が、医療、車載および産業分野からの需要増大により年内いっぱい逼迫する旨。該コメントは、半導体価格を引き下げる供給過剰が次四半期にあらわれてくる懸念が増す渦中で出てきている旨。MacronixはNORフラッシュメモリ半導体の世界最大のサプライヤである旨。

メモリ半導体をリードするSamsungの7-9月期については、最高の利益のフレーズが続いている。

◇Samsung Electronics tipped to log record Q3 profits on solid memory chip demand-Samsung Electronics reportedly expects Q3 operating profit of $15.4B (9月25日付け Yonhap News Agency (South Korea))
→市場筋、火曜25日発。Samsung Electronics Co.の第三四半期(7-9月期)operating profitが最高記録、17.2 trillion won($15.4 billion)の見込み、前年同期比18.5%増、メモリ半導体の確かな需要が支えている旨。売上げは同5.1%増、65.2 trillion wonの予測。

DRAMeXchangeの10-12月期予測は、前四半期比5%減のDRAM価格と値下がり加速の見方となっている。

◇DRAM prices to fall 5% in 4Q18, says DRAMeXchange (9月27日付け DIGITIMES)
→DRAMeXchange発。2018年第四四半期のDRAM契約価格が前四半期比5%下がる予測、前回はもっと小さく1-3%低下と見ていた旨。需要の伸びが"抑え加減"の一方、DRAMビットは引き続き伸びている旨。「DRAM製品は、9四半期連続の価格の伸びの後、2018年第三四半期以降弱含みの価格の流れが見え始めている。」と、DRAMeXchangeのsenior research director、vril Wu氏。

◇DRAM Price Declines Accelerating (9月28日付け EE Times)

米中摩擦とともに日々刻々目が離せないDRAM価格という現時点でもある。


≪グローバル雑学王−534≫

41回目と圧倒的な優勝回数を飾った大相撲の白鵬のインタビューに亡くなった父親のことが触れられていたが、

『世界の路地裏を歩いて見つけた「憧れのニッポン」』
 (早坂 隆 著:PHP新書 1149) …2018年7月27日 第1版第1刷

による以下今回のモンゴルにも、モンゴルの相撲「ブフ」で国民的英雄として君臨したとの記述である。我々日本人のルーツはモンゴル系民族か、13世紀に世界史の主役であったモンゴルと征服を免れた日本、中国人(漢族)との対立から「究極の選択」として選んだソ連、今なお偉容を保つ「日本人抑留者」が築造した建物、と我が国との深いつながり、そして荒い起伏に富んだ歴史&近代の経緯を受け止めている。


第二章 モンゴル―――世界史の中の不思議な繋がり

□日本人のルーツはブリヤート人か?
・近年の調査で興味深いブリヤート人(ロシア語: Буряты)|ロシア連邦やモンゴル国、 中華人民共和国に住むモンゴル系民族)に関する考察
 →日本の縄文人の遺伝子に最も近いのは、モンゴル系民族のブリヤート人
  →古来、ウランバートルの北方、シベリアのバイカル湖周辺にいたモンゴル系民族
・一方、「縄文人→蝦夷→アイヌ」という流れの存在を指摘
 →国際日本文化研究センター名誉教授の梅原猛氏
・組み合わせれば浮かび上がってくる「ブリヤート人→縄文人→蝦夷→アイヌ」という構造
 →彼らの血が大和民族と一定の交わりを持ったのは当然の因果
  →蝦夷の中には、早々に大和朝廷側に立った集団も
・ブリヤート人の血も薄まってはいても、今も日本人の体内のあちこちを旅するように流れ流れているはず
・自分の体内にいかなる血が流れているのか
 →モンゴル高原にそよぐ風もどこか懐かしい肌触りに感じられ、心が軽くなる

□世界帝国から社会主義国家へ
・世界地図を一変させた13世紀のモンゴル帝国の興隆
 →モンゴル人は世界史の主役
 →当時のアジアでモンゴルに征服されなかったのは日本、インドと東南アジアの一部くらい
・モンゴルは1924年のモンゴル人民共和国誕生以来、約70年間にわたって社会主義国の道
 →それまで「フレー」と呼ばれていた街は、モンゴル語で「赤い英雄」を意味する「ウランバートル」へ
・モンゴル史とは中国人(漢族)との対立の歴史
 →草原で羊や馬に草を食ませたいモンゴル人と、そこに鍬を入れて耕したい漢族
 →モンゴル人たちが「究極の選択」として選んだソ連
・モンゴルでルーマニアの街並が連想されるのは、両国が20世紀に辿った歩みの近似性
 →両国の景観には「ソ連型の街づくり」の影響が今も色濃く残っている

□ソ連型社会の悲しき爪痕
・ソ連型社会の哀しき爪痕は、今も両国に深刻な影響を及ぼしている
 →例えば、マンホール・チルドレンの存在
・ルーマニアと同じ状況がモンゴルにも
 →苛酷な冬を乗り切るためにマンホールの内部に潜る、貧しいストリートチルドレンたち
 →街並だけでなく地下世界まで酷似

□モンゴルには存在しないジンギスカン料理
・モンゴルには羊肉を使った料理が多い
 →いずれも余計な飾り気のない豪快な料理
 →「日本のようなジンギスカン料理はモンゴルにはない」(滞日経験豊富なモンゴル人)
・中央部が盛り上がった「ジンギスカン鍋」で焼いて食べるという料理は日本独自のもの
 →モンゴルには存在しないとのこと
・モンゴルの煮込み料理、「ゴリヤシ」
 →ウランバートルで食べたとき、「これはハンガリーのグヤーシュだ」と思い当たった
  →ハンガリーを代表する名物料理、グヤーシュ
   …肉や野菜を煮込み、パプリカで味を付けるのが特徴のシチュー
 →欧亜にまたがる歴史のごった煮のような料理

□馬乳酒への感銘が「カルピス」を生んだ
・広大な大地を農耕にではなく、遊牧に利用する道を選んだモンゴル人たち
 →野菜よりも乳製品から様々な栄養分を摂取
・馬の乳を発酵させた馬乳酒(アイラグ)は、モンゴル人の生活に欠かせない飲料
 →アルコール分は極めて低く、子供からお年寄りまで口にする飲み物
 →微炭酸のヨーグルト飲料という感じ
・馬乳酒は「カルピス」の起源とも
 →「カルピスの生みの親」、三島海雲
  →軍部から軍馬調達の命を受け、内モンゴルを訪問
  →滞在中に体調を崩した折、馬乳酒の一種、酸乳(発酵乳)を飲み続けてじきに全快
  →日本に帰国後、乳酸菌を使った新たな飲料の開発に傾注
・カルピスの誕生は、「乳酸菌飲料の大量生産」という意味において世界初の快挙でも
 →販売が始まったのは1919(大正8)年、カルピスは戦前の日本社会に広く定着

□「コテナゲとトッタリの違いを教えてほしい」
・ウランバートル市内のとあるマンションの一室での取材
 →映し出された日本の大相撲のテレビ中継
  …映像は日本の大相撲中継をそのまま使用、音声だけがモンゴル人のアナウンサーと解説者
・国技として位置付け、モンゴルの相撲「ブフ」

→土俵に類するようなものはなく、肘や膝、背中などが地面に付いたら負け
 →白鵬の父親は、ブフの最高位「アヴァルガ」に君臨した国民的英雄

□日本人抑留者が築造したオペラハウス
・ウランバートルの中心部に位置するスフバートル広場の周辺
 →市役所、証券取引所、オペラ劇場といった建物は、すべて戦後に日本人、「日本人抑留者」たちが築造したもの
・1945年8月15日に戦争終結、ソ連軍は満洲にいた日本人を拘束し、強制連行
 →「シベリア抑留」
 →シベリア経由でモンゴルまで送られた者たちも大勢いた
  →実に1万2000人から1万5000人にも及んだとされる
  →うち、およそ1500人から3000人が当地で命を落としたと言われている
・ウランバートルの中心部から北東に15キロほど離れた地、ダンバダルジャーに、かつて捕虜収容病院があった場所
 →現在、埋葬地として慰霊碑が建立
  …日本国政府によって2001(平成13)年につくられた
・そんな抑留者たちの遺作が、ウランバートルの建造物群
 →現在も劣化することなく立派にその偉容を保っている
 →モンゴル人の率直なる声
  …「日本人は捕虜なのに、こんなに素晴らしい建物を、そんな民族が他にあるだろうか」

月別アーカイブ