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米中摩擦の渦中、米国の性能追求、中国のインフラ構築関連の動き

米朝会談が世界の注目を浴びた後の週末、こんどは米中経済摩擦がにらみ合い状態から再燃、米国が中国の知的財産権侵害への制裁措置として500億ドル分の中国製品に25%の追加関税を課すと発表、文字通り即刻中国からは同等規模の報復措置が発せられている。繰り返される喧噪の渦中で、米国では中国に奪われているスーパーコンピュータ最高速性能の座を取り戻そうとIBM製「Summit」が披露される一方、中国では四川省の省都、成都での半導体はじめR&D拠点展開および新車へのRFID半導体取りつけ義務化の動きと、ともにそれぞれの目指す着実な展開が繰り広げられている。

≪応酬の一方、着実な積み重ね≫

米中摩擦については、中国通信機器メーカー、中興通訊(ZTE)に対して罰金を科すなど条件付きで制裁解除を図ろうとしている米国・Trump政権であるが、議会上院から以下の通り強固な反対を受けている。

◇Senate defense bill set to block Trump's deal with Chinese company-Senate aims to reverse Trump's deal with ZTE (6月11日付け Defense News)
→上院の防衛政策法案は中国のテレコムメーカー、ZTEに対する罰則を維持する、と月曜11日にlawmakers。「上院議員の超党派グループがすばやくこれにまとまった事実は、Trump政権のZTE取引が如何に悪いかの証し」と、TwitterにてSenate Minority Leader、Chuck Schumer氏(D-N.Y.)。加えて、上院は中国に厳しく臨むようTrump氏に圧力をかけ続ける旨。

◇Senate to include measure blocking Trump's ZTE deal in defense bill (6月11日付け The Washington Post)

◇Senate will try to reverse ZTE deal via a must-pass defense bill (6月11日付け Politico)

それではということかどうか、にらみ合い&応酬が続く米中経済摩擦が動き出して、Trump政権は、中国の知的財産権侵害への制裁措置として、500億ドル(約5兆5千億円)分の中国製品に25%の追加関税を課すと発表、即応して中国側からは目には目を歯には歯をの報復措置が発せられている。一連の動き、次の通りである。

◇Donald Trump Approves Tariffs on About $50 Billion of Chinese Goods-USTR to announce products subject to tariffs on Friday; China has said it would retaliate (6月14日付け The Wall Street Journal)

◇トランプ氏、対中制裁関税リスト承認、今夜にも公表−中国は報復の構え (6月15日付け 日経 電子版)
→トランプ米大統領は14日、中国の知的財産侵害に対する制裁発動に向け、25%の追加関税の対象とする中国製品の最終リストを承認した旨。複数の米メディアが報じた旨。15日に公表する予定。実際に関税を課せば、中国は同じ規模の報復関税で対抗する構え。世界経済を下押しする「貿易戦争」につながるリスクがある旨。
トランプ氏は14日、ホワイトハウスで米通商代表部(USTR)など貿易政策に関わる省庁関係者を集めた会合を開き、対中制裁関税の最終案を協議した旨。米政権は15日までに最終案をとりまとめ、速やかに発動する方針を示してきた旨。

◇Trump approves $50bn China tariffs, escalating trade war-Decision comes after Beijing urges 'wise choice'-White House to impose tariffs on roughly $50B in Chinese goods (6月15日付け Nikkei Asian Review (Japan))
→Donald Trump大統領が、中国製品約$50 billion規模について25%の関税を承認、中国当局者は中国は直ちに報復措置をとる旨。

◇7月に対中関税発動、米、500億ドル分の詳細公表 (6月15日付け 日経 電子版)
→トランプ米政権は15日、中国の知的財産権侵害への制裁措置として、500億ドル(約5兆5千億円)分の中国製品に25%の追加関税を課すと発表、まず7月6日に340億ドル分の制裁関税を発動し、残りの160億ドル分は時期を検討する旨。中国は米発表後すぐさま米国製品に同額の報復関税を課すと表明。二大経済大国が「貿易戦争」に突入するリスクが高まっている旨。

◇中国が対米報復、7月、500億ドル分に25%の追加関税−まず大豆や牛肉、自動車など340億ドル分 (6月16日付け 日経 電子版)
→中国国務院(政府)は16日未明、計659品目・500億ドル(約5兆5千億円)分の米国製品に25%の追加関税をかけることを決めた旨。米国が15日に知的財産権の侵害を理由に制裁関税をかけると決めたことへの報復措置。

米国側からは、本来の知財対策として米国の技術に対する中国の投資を規制する動きが次にとられようとしている。

◇対中制裁「次は投資規制」、米通商代表、月内に発表 (6月16日付け 日経 電子版)
→米通商代表部(USTR)のライトハイザー(Robert Emmet Lighthizer)代表は15日、米テレビ番組で「次の段階は、米国の技術を買おうとする中国の投資を規制することだ」と述べ、中国への制裁関税に次ぐ措置を急ぐ考えを示した旨。トランプ政権は6月末までに中国の対米投資規制を発表する予定。中国に圧力を強めて不公正な貿易慣行を食いとめる狙いの旨。

このような応酬の渦中、米国半導体メーカー、Qualcommによるオランダ半導体メーカー、NXP Semiconductorsの長らく仕掛かっている買収提案を、中国の公正取引当局が承認するという報道がみられている。

◇Chinese regulators approve Qualcomm purchase of NXP for US$44 billion, sources say-The ruling clears an antitrust roadblock caused by trade tensions between the US and Beijing (6月15日付け South China Morning Post)
→2人の本件事情通発。中国のregulatorsが、米国半導体メーカー、Qualcommによるオランダ半導体メーカー、NXP Semiconductorsの$44 billion買収提案を承認の旨。中国の商務部(Ministry of Commerce, Mofcom)が、米中間の貿易摩擦による数ヶ月におよぶantitrust障害を取り払い、該買収が進められる旨。

米中摩擦の一方で、米国および中国それぞれの本来追求すべき動きが着実に積み重ねられている。米国側について、長らく中国に占められているスーパーコンピュータ最高速性能首位の座を奪還しようという取り組みが以下の通りである。当面のランキング発表に注目である。

◇US once again boasts the world's fastest supercomputer-The US Department of Energy on Friday unveiled Summit, which can perform 200 quadrillion calculations per second.-The world's fastest supercomputer is in the US (6月8日付け ZDNet)
→Oak Ridge National LaboratoryにあるSummitスーパーコンピュータが、中国の高性能コンピュータから首位の座を引き継いで、supercomputingの優位性を米国に取り戻す見込みの旨。SummitはIBMがheterogeneousアーキテクチャーを駆使して構築、IBMのPOWER9 CPUsをNvidia graphics processing units(GPUs)と対にしている旨。

◇U.S. Says It Reclaimed Supercomputer Crown From China-IBM computer is the world's fastest, according to Energy Department (6月8日付け The Wall Street Journal)

◇スパコン最速、米が返り咲き、IBM製、中国抜く (6月9日付け 日経・夕刊)
→米IBMは8日、米エネルギー省(DOE)のオークリッジ国立研究所に設置しているスーパーコンピュータ「サミット」が1秒あたり20京(京は1兆の1万倍)回の計算速度を達成したと発表、直近までスパコンの計算速度ランキングで世界首位だった中国製の「神威太湖之光」を抜いて、世界最速となる旨。米国のスパコンが計算速度で1位になるのは2012年以来。

◇毎秒20京回、最速スパコン、米国立研、中国から首位奪還視野 (6月14日付け 日経産業)
→米オークリッジ国立研究所が世界最速のスーパーコンピュータ「サミット」を開発、計算速度は理論上、毎秒20京回(京は1兆の1万倍)で、これまで最速の中国の「神威太湖之光」を抜いて首位を奪還できるとしている旨。米国のスパコンが首位に立てば2012年の「タイタン」以来。

スーパーコンピュータの大手、米国・Crayからは以下の率直なコメントである。

◇「中国には売らない」、スパコン大手、米クレイ社長 (6月13日付け 日経 電子版)
→航空機や自動車の設計のみならず、フィンテックや人工知能(AI)の開発などにも用途を広げ、一国の産業競争力や安全保障をも左右するスーパーコンピュータ。このほど来日したスパコンの世界最大手、米クレイ(ワシントン州シアトル)のピーター・ウンガロ社長は日本経済新聞のインタビューに応じ、「中国は有望市場だが我々は販売しないと決めた」「AIや自動運転は最重要で最も急成長の分野」などと語った旨。

仮想通貨、人工知能(AI)そして脆弱性と、課題を抱えるプロセッサ性能であり、改めての対応がHot Chipsでの問題意識となっている。

◇Hot Chips Symposium Rethinks Performance (6月13日付け EE Times/Blog)
→Hot Chipsシンポジウム(2018年8月19-21日:Cupertino, Calif.)が、block chain, neural net processing, およびSpectre & Meltdown脆弱性についてのセッションをもってプロセッサ業界の時代精神を今一度突き止めていく旨。computingおよびsilicon設計の指導者の多くが集まり、最新のreal-worldプロジェクトへの洞察を共有する旨。

対して、半導体業界の自立化を国家計画に掲げる中国。インフラ構築の動きとして、四川省の省都、成都での取り組みが以下の通りみられている。

◇Chengdu Xingu to be built as green, livable IC industry complex-Industrial park in China is planned as a green development (6月8日付け DIGITIMES)
→中国中西部のChengdu Xingu Industrial Parks complexは、半導体設計&製造に向けて緑の多い住みやすい開発として構築されている旨。該complexには国際的な大学があり、IC人材を引きつけ、育成していく、とChengdu Xingu Industrial Parks Developmentのpresident、He Haihua氏。

◇China top tech body to help commercialize R&D results in Chengdu (6月11日付け DIGITIMES)
→中国におけるmicroelectronics分野の包括的な運用を図るリサーチ機関として、Institute of Microelectronics under the Chinese Academy of Sciences(IMECAS)が、mega IC業界complexが置かれているShuangliu District of Chengduに南西リサーチsub-instituteを設立、リサーチ成果を新しい商用製品に落とし込んで該complexの中国プレイヤーのcore競争力を実効的に高める狙い、と該sub-instituteのdeputy managing director、Wang Yunfeng氏。

◇Chengdu Shuangliu District developing new economy, unicorns (6月13日付け DIGITIMES)
→四川省(Sichuan Province)の省都、成都(Chengdu)のShuangliu(双流) DistrictのScience, Technology and New Economy Bureau発。同Districtは、ハイテク革新および新しい経済を積極的に展開しており、1-2のstartup unicornsおよび50超の"gazelle"企業、若くて急成長の会社を5年以内に養成していく旨。

中国の自動車市場では、今後の登録する新車にRFID半導体の取り付けが以下の通り義務化される方向があらわされている。個人特定に向けて科学技術を駆使する取り組みと映ってくる。

◇A Chip in the Windshield: China's Surveillance State Will Soon Track Cars-National plan to electronically scan autos adds to the ways Beijing can monitor its citizens, also including video cameras and facial recognition technology (6月13日付け The Wall Street Journal)

◇Every new car in China must have a tracking chip starting next year-Report: China will require RFID tracking chips in new cars (6月14日付け Quartz)
→The Wall Street Journal発。来年中国で新車登録する人々は、radio-frequency identification(RFID)半導体をwindshieldsに取りつけることになる旨。該プログラムは、来月任意で始まり、2019年に義務化される旨。

激動の世界の政治経済情勢に翻弄されることなく、グローバルな協調と競争が健全に展開していくよう、注視を要するところである。


≪市場実態PickUp≫

【驚きの減少】

Appleが今秋打ち上げ予定の新型iPhoneについて、生産数量を20%減らす方向であることが、以下の通り明らかになっている。昨年の高価格で伸び悩んだとされるiPhoneXの影響かとみられている。

◇Apple to make 20 percent fewer new model iPhones this year: Nikkei (6月8日付け Reuters)

◇今秋発売のiPhone、アップル、生産2割減、X販売不振で (6月9日付け 日経)
→米アップルが今秋発売予定の新型iPhoneについて、2018年内の生産台数を前年比で2割減らす方向でサプライヤ企業に発注し始めたことがわかった旨。複数の業界関係者が明らかにした旨。アップルは2017年発売のiPhoneX(テン)の販売不振を受けて、2018年の新型モデルの想定販売台数を保守的に見積もっているもようの旨。

もう1つ、華やかな話題を呼んでいる仮想通貨miningであるが、そのマシン搭載のASIC製造でTSMCの売上げが引き上げられたとされている。ところが、この4月から該ASIC関連受注が大きく落ち込んでいる状況となっている。

◇GPU, ASIC supply chains see dim prospects for crypto mining-Sources: Cryptocurrency mining demand for GPUs, ASICs fades (6月11日付け DIGITIMES)
→業界筋発。crypto mining大流行が2018年4月から急速に衰えた影響で、miningグラフィックカード・サプライヤにて在庫がどんどん高まっており、mining ASICsのsupply chainプレイヤーも受注が大きく減少して、crypto miningがもはや売上げおよび利益の伸びの源泉ではない旨。2017年4月から2018年3月まで、ASIC-ベースのBitcoin miningマシンおよびGPU-powered LitecoinおよびEthereum mining機器ともに、すべて供給が需要を満たせなかった旨。このことから、中国の大手Bitcoin minerサプライヤ、BitmainがTSMCのclientsトップ10に入り込んだ一方、Asustek, Gigabyte Technology, Micro-Star International(MSI)およびTULなど台湾のグラフィックスカードサプライヤが2018年第一四半期に新記録の売上げ&利益を上げることにもなった旨。

【人員削減】

ファウンドリー大手のGlobalfoundriesが、従業員5%、約900人の削減を主に欧州と米国で行うとしている。先行きの技術ロードマップはそのままとの説明である。

◇Globalfoundries Cuts 5% of Workforce-No fabs, products planned for cuts -GlobalFoundries will lay off about 900 employees (6月11日付け EE Times)
→Globalfoundriesが、財務体質への新たな重点化の一環として、workforceの5%削減を狙ったレイオフを開始、fabsの閉鎖あるいは現状のサービスの削減は計画していない旨。該レイオフは、GFの従業員18,000人のうち約900人に影響を与え、「いろいろな機能領域およびすべての地理に及ぶが、我々のロードマップは完全に約束したままである。」と同社spokesman。同社は月曜11日、該削減をworkersに通知、多くの人々が受け入れると見る希望退職プログラムを提示する旨。

◇Layoffs Commence at GlobalFoundries (6月12日付け EE Times India)

◇Globalfoundries to cut 5% of workforce (6月13日付け DIGITIMES)
→Globalfoundriesが、グローバルworkforceの5%、約900人の従業員を削減する計画、該レイオフは主に欧州と米国で行われる旨。

電気自動車のテスラも、従業員9%の削減を明らかにし、生産目標には影響を与えないとしている。

◇テスラ、従業員の9%を削減、生産目標は維持 (6月13日付け 日経 電子版)
→米電気自動車(EV)メーカーのテスラが全従業員の9%を削減、イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が従業員宛てに送った電子メールで明らかにした旨。削減対象に生産部門の従業員は含まないため、量産化が難航している新型車などの生産目標には影響しないとしている旨。

【ARMのIoTの取り組み】

ARMが、IoT connectivityの拡大に向けてスコットランドのStream Technologiesを買収、IoTプラットフォームに取り入れようとしている。

◇ARM acquires Stream Technologies for IoT connectivity-Stream's connectivity management capabilities will be integrated into ARM's Mbed IoT device management platform.-Arm grows IoT offerings with Stream acquisition (6月12日付け ZDNet)
→Armが、internet of things(IoT)へのconnectivityに向けたofferingsを拡げるべく、Stream Technologiesを買収、organizationsにend-to-end機器managementを供給するために、該技術をArmのMbed IoT Device Management Platformに取り入れる計画の旨。

◇Arm Grabs Stream for IoT Services-Acquisition focused on device connectivity (6月13日付け EE Times)
→Armが、Internet of Things(IoT)機器に向けた有料サービス事業を拡大すべく、Stream Technologies(Glasgow)を買収の旨。2000年設立のStreamのconnectivity managementソフトウェア&サービスは、770,000台の機器で用いられ毎日2 terabytesのtrafficデータが運ばれている旨。

◇Arm Acquires Scottish Connectivity Specialist Stream (6月13日付け EE Times India)

IoTの長期的な伸びに向けた戦略的なアプローチへのARMの打ち込みがあらわされている。

◇Arm Ready to Sacrifice Profits for Long-Term IoT Growth (6月14日付け EE Times)
→SoftBankの$100B Vision FundのCEO & SoftBank Groupのdirector、Rajeev Misra氏。Armは、IoT市場に対応、長期的成長に向けた戦略的アプローチをとるprivately held会社としてより良い位置づけにある旨。

◇ARM Thinking Long-Term with IoT Plans (6月15日付け EE Times India)

【AIへの取り組み】

IBMが東京でのイベントにて、パソコン、インターネットに続く第3の技術移行の波としてAI(人工知能)を掲げ、多彩な分野の応用を打ち上げている。上記の世界最速スーパーコンピュータとともに、同社の今後の最先端推進力に改めて注目である。

◇IBM expects third exponential tech shift to be driven by AI-IBM CEO sees AI having similar effect as PCs, the internet (6月13日付け DIGITIMES)
→テクノロジーカンファレンス「Think Japan Developer Day」(2018年6月11日:グランドプリンスホテル新高輪[東京都港区])にて、IBMのCEO、Ginni Rometty氏が、artificial intelligence(AI)はPCおよびインターネットの展開と同等に技術における急激な移行となる旨。
IBM Japanのpresident、Elly Keinan氏は、ヘルスケア、製造、smart citiesおよび輸送など多彩な応用に向けてAIおよびcloudサービスに取り組んでいる旨。

メモリ半導体で絶好調のSamsungも、その変わりやすさから次の柱が必須ということで、AI開発への取り組みについて次の通り急展開を目論んでいる。

◇AI開発、サムスン急発進、脱メモリ依存急ぐ (6月13日付け 日経 電子版)
→韓国サムスン電子が人工知能(AI)の研究開発を一気に本格化する旨。推進役となる幹部ポストと海外3カ国の開発拠点を新設、2020年までに技術者1千人体制とする旨。AI向けに情報を高速処理する半導体や、新薬の開発につなげ、半導体メモリに続く新たな経営の柱を育てる旨。事実上のトップ、李在鎔(イ・ジェヨン)副会長が主導し、出遅れが指摘されるAIで巻き返しを狙う旨。

【AI StartupのMIPS買収】

もう1つAI関連。AIシステム開発に重点化するstartup、Wave Computingが、MIPSアーキテクチャーで知られるMIPS Technologiesを買収するとしている。ここ何年か親会社の変遷がみられるMIPS社であるが、該買収によるAIに向けた今後の展開に注目するところである。

◇AI Startup Wave Computing To Buy MIPS-Wave to expand from AI training to AI inference (6月13日付け EE Times)
→EE Timesが聞いて知るところ、massively parallel dataflowアーキテクチャーを用いるAIシステムの開発に重点化するstartup、Wave Computing(Campbell, California)が、MIPSプロセッサアーキテクチャーおよび関連処理コアを開発、名高いが悩むが付きまとうSilicon Valleyの会社、MIPS Technologiesの買収を今週後半発表する旨。この動きによりWave Computingは、データセンターにおけるAI trainingからembeddedシステム向けAI推論まで拡げられる旨。

◇AI Pioneer Wave Computing Acquires MIPS Technologies-Wave Computing purchases MIPS Technologies for AI uses (6月13日付け Forbes)
→deep neuralネットワークス用データフロー処理を開発するWave Computing(Campbell, California)が、internet of things(IoT)機器向け低電力プロセッサを設計するMIPS Technologiesを買収の旨。Stanford University教授、John Hennessy氏が1984年に創設したMIPSは、近年一連のownership変化を経ている旨。


≪グローバル雑学王−519≫

未来を鮮明に思い描く「超長期思考」と、逆算して足元では超高速のPDCAを怠らず事業展開を繰り広げるジェフ・ベゾスのリーダーシップとマネジメントの要諦について、

『アマゾンが描く2022年の世界すべての業界を震撼させる「ベゾスの大戦略」』
 (田中 道昭 著:PHPビジネス新書 387) …2018年1月17日 第1版第4刷発行

より、著者の米国でのMBA取得時の経験を織り込んだ理解を入れてあらわされている。社員一人ひとりが自分に培っていく「リーダーシップの14ヵ条」、大企業病に陥らずにイノベーションを生み出していく「4つの秘訣」、と興味深い以下の展開である。「everything store」→「everything company」へと戦略的に新機軸を展開していくアマゾンの哲学に触れていく。


第5章 アマゾン、驚異のリーダーシップ&マネジメント

◆「狂気の経営者」ジェフ・ベゾスの超高速PDCA
・戦略を実行するうえでの両輪、リーダーシップとマネジメント
 →人に直接、動機づけや啓発を行ない、戦略の実行へと後押しするリーダーシップ
 →仕組みやルール等によって戦略を実行するマネジメント
・ロジカルな経営に長けた冷徹な経営者である一方、未来志向に富み創造力に長けた情熱的な経営者、ジェフ・ベゾス
 →未来を鮮明に思い描く「超長期思考」と、逆算して足元では超高速のPDCAを怠らず事業展開
・超高速のPDCAは「速く失敗して早く改善する」経営を実現、常識を超える進化のスピードとインパクト
・「利益率を低くする」マネジメントもアマゾン急成長の秘訣
 →多くの顧客を集める一方、競合が参入しにくい、という構造

◆ジェフ・ベゾスの人物像は「火星人」?
・会社の経営者のセルフリーダーシップとセルフマネジメントのあり方を理解することが極めて重要
・ジェフ・ベゾスについて浮かび上がってくること
 →ひとつに両極端な人間性
  →大きなビジョンを追い続ける「超長期」の視点
  →現場においてはPDCAを超高速回転させる「超短期」の視点
 →陰と陽 …フレンドリーだったかと思えば怒り狂う
  →「エイリアン」「火星人」と評されるほど人間離れ
 →もうひとつ、きわめて優秀であると同時に、ビジョナリーであるという点
・長続きする会社が作れるすごいビジョナリーだという点では、全員の意見が一致
 →顧客第一主義をミッション&ビジョンに掲げたら決して曲げず、あらゆる事業において貫徹する

◆AIとは、もはや「異星人的知能」を獲得すること
・AIとはもはや、異星人的知能(Alien Intelligence)を意味している
 →「われわれの仕事は違った考え方をするマシンを作り、異質な知性を創造すること」
・AI時代における人の仕事とは、異質な知性を創造すること
 →「火星人」のような「狂気の経営者」ジェフ・ベゾスの競争優位が鮮明に

◆AI時代には「未来を創る力」が最も重要
・AI時代においては、未来を創る力、つまりは自分で課題や問題を見つけ出して解決に導く力が必須
 →現状では日本人にとって最も苦手なこと
 →日本人の多くはクリティカル(ロジカル)・シンキングを学ぶ機会が提供されていないこともあり、課題や問題の設定が不得意とされている
・クリティカル・シンキング…批判的思考法
 →現状から課題を見い出し、現状を分析したうえで、解決の仮説を立て、検証し、実行すること
 →自分で課題や問題を設定することを「イシューを立てる」「論点を立てる」という
・現実的に多くの仕事がAIに取って代わられる時代が到来したいまこそ、「論点を立てる力」がより重要に
 →「論点を立てる力」と「長期の目標設定を行なう能力」とは同じスキルセット
・アマゾンにおいて仕事を通じて養われる能力
 →「未来を創る力」であり、「論点を立てる力」であり、そして「長期の目標設定を行なう力」
 →それらは同じスキルセット

◆自分で自分をリードする「セルフリーダーシップ」
・アマゾンという組織全体で重視されている「セルフリーダーシップ」
 …社員一人ひとりがリーダーであり、自分自身にリーダーシップを発揮すること
・米国の"リーダーシップ論"の4段階
 →セルフリーダーシップ
  チームリーダーシップ
  ソーシャルリーダーシップ
  グローバルリーダーシップ
・(著者が)米国に留学、MBAを取った際のリーダーシップ論
 →全体のほとんど8割がたがセルフリーダーシップについて費やされた
 →上位のリーダーには、チームのメンバー一人ひとりが自分に対してリーダーシップを発揮できるよう後押しするという役目の期待

◆なぜ、アマゾンにはイノベーティブな人が集まるのか
・トップダウン・リーダーシップ
 →組織におけるミッション、ビジョン、バリュー、戦略を提示し、それを現場まで浸透させていくこと
・ボトムアップ・リーダーシップ
 →主に戦略や計画を実行していく段階で求められるリーダーシップ
 →経営トップの役割は、指示命令をすることではなく、現場まで降り、メンバーを信じること(trust)、わかってあげること(care)、支援すること(help)
・イノベーションを起こし続ける企業においては、ベゾスの「人に嫌われてもやり切る」姿勢もポジティブに機能するはず
 →ベゾスのビジョナリー・リーダーシップに共感、一緒に新しい未来を切り拓いていきたいという価値観を持ったイノベーティブな人を引き寄せているのがアマゾン

◆これが「リーダーシップの14ヵ条」だ!
・アマゾンが社員レベルに向けてまとめている「リーダーシップの14ヵ条」
 →(1) Customer Obsession
    …リーダーはカスタマーを起点に考え、行動すること
  (2) Ownership
    …自分のチームだけでなく、会社全体のために行動すること
  (3) Invent and Simplify
    …チームにイノベーション(革新)とインベンション(創造)を求め、常にシンプルな方法を模索すること
  (4) Are Right, A Lot
  (5) Learn and Be Curious
  (6) Hire and Develop The Best
  (7) Insist on the Highest Standards
  (8) Think Big
  (9) Bias for Action
  (10) Frugality
    より少ないリソースでより多くのことを実現
    →社外から「倹約体質」として賛否両論が寄せられている項目のひとつ
  (11) Earn Trust
  (12) Dive Deep
  (13) Have Backbone; Disagree and Commit
  (14) Deliver Results

◆妥協せず議論し、決まったらコミットする
・上記14ヵ条の中、(13) Disagree and Commit という項目はユニーク
 →簡単に合意するな、意見があれば妥協せず議論なさい、しかし一度決まったことにはコミットしなさい
・「高速の意思決定システム」を可能にする仕組みとして「反対してからコミットする」
 →「ちょっと違うな」と思ってもそう決まるならコミットしよう
 →すべてを自分が背負わず、一部を周りに任せることで意思決定を高速化
・アマゾンにおけるリーダーシップの要点
 →ベゾス自身の特異なパーソナリティと、それゆえに実現するビジョナリー・リーダーシップ
 →社員においては「リーダーシップの14ヵ条」に象徴されるセルフリーダーシップ

◆アマゾンがイノベーションを生み出す「4つの秘訣」
・アマゾンが組織的・制度的な工夫によって大企業病を回避しているという点
 …2017年のアニュアルレポートをもとに(著者が)整理
 →1.本物の顧客志向
    …「顧客への執着こそがDAY1(創業間もない)のバイタリティを保つ最も効果的な方法」
     →「DAY2」は、創業当時精神を忘れ衰退していく「大企業(病)」を非難する文脈
 →2.手続き化への抵抗
    →仕事のルール化、手続き化
     →「危険でとらえがたく、そしてこれがまさにDAY2」
 →3.最新トレンドへの迅速な対応
    →明確なトレンド、機械学習(ML)と人工知能(AI)、どう「天の時」として活用
 →4.高速の意思決定システム
    →意思決定における4つのルール
     …1)意思決定方法を2つに分類する
       →後戻りできないものは深く議論するという方針
     …2)70%の情報から意思決定する
     …3)反対してからコミットする
     …4)部署間の利害対立を理解する
       →議論を繰り返して疲弊する前に、上層部に判断させること
・アマゾンにおける高速の意思決定システムの秘訣
 →経営者である自らが関与すべきものとそうではないものを明確にし、関与すべきものに集中、そうではないものは現場に任せる

◆グーグルとアマゾンとの相違点
・グーグルの人事制度、「OKR」x「1 on 1」
 →OKR…Objective and Key Results(目標と主な成果)
  →全社・セクション・個人で高い一貫性をもって高速でPDCAを回していく仕組み
 →1 on 1…1対1のミーティング
  →上司が部下を成長させるコミュニケーションの手法
・「ベゾスの『ピザ2枚のルール』」
 …1つのチームは、ピザ2枚で足りるぐらいの規模(6人から10人)にとどめなければならない
 →グーグルでもアマゾンと同様に実際の業務においては小さなチームで仕事をすることが生産的であるとの考え
・ベゾスはグーグルへの初期のエンジェル投資家の1人でも

◆あえて利益を出さない!? 低利益率のマネジメント
・アマゾンは今は利益率を抑え、その分を事業への投資に回すという判断
 →ドル箱であるAWS事業の営業利益率は25%に
・ベゾスは可能な限りの資金を投資に回し、超高速で事業を拡張、他社の追随を許さない唯一無二のポジションを確立させてきた

◆クリステンセンの「ジョブ理論」実践者アマゾン
・いかに大企業病に陥らずにイノベーションを生み続けられる組織を維持できるかにも最大限の努力
・マーケティングにおけるニーズをさらに先鋭化させたジョブ
 →「人は自分自身が抱えている問題(ジョブ)を解決するために商品を購入する」
 →顧客のジョブを解決するための3つのポイント
  …豊富な品揃え、低価格、迅速な配送
・ベゾスのイノベーションやカスタマー・エクスペリエンスへの哲学・想い・こだわり
 →商品・サービスの中にまで練り込まれ、社員のセルフリーダーシップの行動にも織り込まれ、マネジメントの仕組みにも忠実に反映されている
 →「アマゾン、驚異のリーダーシップ&マネジメント」

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