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根本的な変化をもたらす脈動、量子コンピュータ、自動運転関連

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メモリの高値が引っ張って史上最高を大きく更新するばかりか、次の大台、$400 billionを突破する半導体販売高の見方がますます色濃くなってきている。一方、半導体業界には次に何が起こるか、従来の微細化の壁ないし限界にぶつかっている今、根本的な変化をもたらす新技術、新分野のアプローチへの取り組みが、一層現実味、実現化の色合いを高めている。現下の動きとして、インテルの量子コンピュータに向けた半導体、そしてNvidiaおよびGlobalfoundriesがしのぎを削る自動運転プラットフォームに注目している。

≪桁違いの頭脳に向けて≫

将来に向けて根本的な変革が迫られる半導体業界への問題意識が、以下それぞれにあらわされている。

◇Uncertainty has become the new normal as the era of Moore's law draws to a close-‘When a product’s performance is improved beyond a singular dimension, as historically dictated by Moore's law, roles and responsibilities blur’-End of Moore's Law creates industry uncertainty (10月7日付け South China Morning Post (Hong Kong))
→Moore's Lawが終焉に近づいており、半導体業界に次に何が起こるか、心配を生じている旨。科学技術的driversが、単なるcomputing horsepowerから切り換わって、他のより賢明なソフトウェア設計などに重点化されていく旨。

◇How the semiconductor industry is taking charge of its transformation-McKinsey: Changes in the semiconductor industry (McKinsey Quarterly:2017年10月)
→車載半導体の需要増大、生産性を改善する新技術toolsおよび中国におけるopportunitiesが、半導体業界に根本的な変化をもたらしている旨。半導体complexityおよびR&D投資増大も該業界に影響を与えており、その製品への力強い需要が見られている旨。

打開に向けて続けられている新技術、新分野のアプローチの中から、現下の具体的な動きとして注目、まずは、インテルの量子コンピュータに向けた半導体の発表である。ウィキペディアを参照して、量子コンピュータ(quantum computer)とは、量子力学的な重ね合わせを用いて並列性を実現するとされるコンピュータであり、n量子ビットあれば、2nの状態を同時に計算でき、もし、数千qubitのハードウェアが実現した場合、この量子ビットを複数利用して、量子コンピュータは古典コンピュータでは実現し得ない規模の並列コンピューティングが実現する、とある。

この6月の業界記事の中に、Googleが49個の量子ビット(qubit)を持つ量子コンピュータを2017年内に実演することを計画中、というくだりを見い出しているが、このほどインテルが、17-qubit半導体の生産を以下の通り発表している。方式含めいろいろなR&Dの取り組みがみられている模様であるが、インテルの量子コンピュータに向けた取り組みの今後に注目である。桁違いの頭脳の実現に向けた各社の打ち上げ、展開が続いていく期待である。

◇Intel shows off its latest chip for quantum computing as it looks past Moore's Law-Intel's new chip for quantum computing has a package that can keep it working for a longer period of time. -A quantum chip could come in handy for drug discovery or materials science research.-Intel makes 17-qubit chip for quantum computing (10月10日付け CNBC)
→Intelが、17-qubit半導体の生産を発表、quantum computingプラットフォームの開発に向けてQuTech(オランダ)に供給の旨。「半導体、制御electronics、システムアーキテクチャー、アルゴリズムと、該compute stackのpartsすべてに取り組んでいる」と、Intelのdirector of quantum hardware、Jim Clarke氏。

◇Intel moves towards production quantum computing with new 17-qubit chip (10月10日付け TechCrunch)

◇Intel Accelerates Its Quantum Computing Efforts With 17-Qubit Chip (10月10日付け IEEE Spectrum)

◇Commercial Quantum Computing Pushes On (10月11日付け EE Times)
→Intel Labsが、17-qubit CMOS superconducting demonstrationプラットフォームを発表、quantum computingを商用開発に近づけるものである旨。Intelは今週、該prototypeを研究パートナー、QuTech(Delft, Netherlands)に供給、該設計の商用関連を試すためにquantumアルゴリズム一式でテストする旨。Intelは、2015年にquantum computerの競争に参加、QuTechとのコラボ活動推進に$50 million投資の旨。IntelのCMOS設計&製造ノウハウをQuTechの複数のentangled qubitsを接続、制御そして測定するノウハウと対にして、商用に役立つquantum computersの開発を加速する狙いの旨。

◇Intel delivers 17-qubit superconducting chip with advanced packaging to QuTech (10月12日付け ELECTROIQ)

次に、新分野の代表格となってきている自動運転について、Nvidia、そしてGlobalfoundriesが、イベント開催場所も同じドイツ・ミュンヘンで、新たなプラットフォームを相次いでそれぞれ以下の通り打ち上げている。ドイツ市場に向けた熱い凌ぎ合いを感じるとともに、今後の実用化への高度化の展開に目が離せないところである。

◇NVIDIA unveils next-generation platform for fully autonomous cars-Nvidia platform enables autonomous driving (10月10日付け Reuters)
→Nvidiaが、自動運転応用向けPegasus computingプラットフォームを売り出し、世界の郵便およびロジスティクス会社、Deutsche Post DHL Groupおよびドイツの自動車部品メーカー、ZFが2019年までに自動運転配送トラックの開発に用いる旨。該プラットフォームは、320 trillion operations per second以上の性能が可能の旨。

◇Nvidia Creates a New Computer to Drive Autonomous Car Future-Stock jumps after introduction of mini-computer ‘Pegasus’ -One application is delivery vehicles; available in 2018 (10月10日付け Bloomberg)

◇Nvidia Outpaces Intel in Robo-car Race (10月11日付け EE Times)
→Nvidiaが、同社GPU Technology Conference(2017年10月10-12日:Munich)にて、同社Drive PXファミリーの新メンバーを披露、自動運転車に向けたcomputational性能の戦いを新しいレベルに推進の旨。NvidiaのCEO、Jensen Huang氏は、Pegasusは320 trillion operations per secondの計算対応可能と高らかに特に言及、「大体車のナンバープレートの大きさの新しいDRIVE PX Pegasus AI computerは、現在のLevel 5 autonomous prototypesで用いられるcomputing機器全部が入ったtrunk全体の置き換えが可能、DRIVE PX Pegasusには100-サーバ・データセンターのAI性能がある」旨。

◇米エヌビディア、完全自動運転の「頭脳」供給、来年後半に (10月11日付け 日経)
→米エヌビディアは10日、完全自動運転車を作るための開発基盤(プラットフォーム)を2018年後半から供給すると発表、自動運転車の「頭脳」にあたるもので、これまで自動車メーカーに提供してきた製品の10倍の処理能力がある旨。運転手なしで走る「ロボットタクシー」の開発にも役立つ旨。

◇Globalfoundries Speaks Car Talk-GlobalFoundries vies for auto chips share (10月12日付け EE Times)
→Silicon Valleyのエンジニアが今週Munichに参集、火曜10日開幕のNvidiaのGPU Technology Conferenceに続いて、GlobalfoundriesがGlobalfoundries Technology Conference(GTC)(2017年10月13日)を開催の旨。明らかに、NvidiaおよびGlobalfoundriesともに、ドイツの車載エンジニアの間でのmindshare獲得を狙っている旨。世界第2位のファウンドリー、Globalfoundriesは、新しい車載プラットフォーム、“AutoPro”を披露、自動車メーカーにフルレンジの技術および製造サービスを提示の旨。

◇GLOBALFOUNDRIES introduces new automotive platform to fuel tomorrow's connected car (10月12日付け ELECTROIQ)
→GLOBALFOUNDRIESが、車載顧客に向けて設計された新しいプラットフォーム、AutoProを披露、認証活動を最少にし、time-to-marketを早める技術ソリューションおよび製造サービスの広範な一式の旨。Advanced Driver Assistance Systems(ADAS)情報から自動運転車用高性能real-timeプロセッサまでフルレンジの運転システム応用に向けた業界で最も広範なソリューション一式が提示されている旨。


≪市場実態PickUp≫

【東芝メモリ関係】

メモリの熱い活況のなか、東芝が四日市工場への増産投資の前倒しを発表している一方、米ウエスタンデジタル(WD)との平行線の駆け引きが以下の通り続いている。東芝の長年のパートナーで今はWDの子会社、サンディスクの同意というものの解釈を巡る応酬が見られている。

◇Western Digital statement denies Toshiba's right to sell-Western Digital has put out a statement saying that Toshiba cannot complete the sale of its memory division to a Bain-led consortium without its consent.-WD challenges Toshiba's sale of memory unit (10月11日付け Electronics Weekly (UK))
→Western Digitalが、東芝のNANDフラッシュメモリデバイスの製造パートナーであるWD子会社、SanDiskの同意なしにBain Capitalが主導するコンソーシアムへのメモリ半導体事業の売却はできないと依然主張の旨。
「SanDiskの同意なしでは合弁のいかなるinterests譲渡も禁じるよう仲裁で求めていることを、東芝は無視している」と、WDがステートメントにて。

◇Toshiba Memory Corp to invest in production equipment for Fab 6 at Yokkaichi operations (10月11日付け ELECTROIQ)
→東芝の役員会が、フラッシュメモリを製造する完全子会社、Toshiba Memory Corporation(TMC)への追加投資を承認、Yokkaichi Operationsにて建設中のFab 6クリーンルーム用製造装置向けの旨。Fab 6における第2投資として約110 billion円。Fab 6での生産は、東芝の革新的な3Dフラッシュメモリ、BiCS FLASHに完全に絞られている旨。

◇東芝、増産投資前倒し、半導体メモリ、今期中に、大容量不足 (10月12日付け 日経)
→東芝は11日、半導体メモリの生産拠点、四日市工場(三重県四日市市)での増産投資を前倒しすると発表、現在建設中の第6製造棟で2019年3月期に予定していた700億円分の装置発注を2018年3月期中に実施する旨。足元でデータセンター向けの大容量メモリが不足しているためで、東芝は増産投資を早めて顧客へのメモリー供給量を増やす旨。売却手続き中の東芝メモリが投資主体となり、同社は8月に第6棟の第1期投資として1950億円を拠出すると発表していた旨。

◇Toshiba discussing joint investment in chips with Western Digital-Toshiba wants to make peace with Western Digital (10月13日付け Reuters)
→東芝が、NANDフラッシュメモリデバイスを製造する新しいウェーハfab拠点への出資働きかけでWestern Digital(WD)と協議している旨。WDはBain Capitalが主導するグループへの東芝のメモリ半導体事業売却を法的に阻止しようとしており、WDの子会社、SanDiskは東芝のメモリ生産合弁パートナーであるが故に、該取引を承認しなければならないとしている旨。

【米オン・セミコンの富士通fab買収】

米オン・セミコンダクターが、200-mm富士通ウェーハfab(福島県)を2020年までに100%買収にもっていく計画を発表している。オン・セミの日本でのfab買収が進む形となる。

◇Fujitsu Semiconductor and ON Semiconductor announce increased strategic partnership (10月10日付け ELECTROIQ)

◇ON Semi Ups Stake in Fujitsu Fab-ON Semi owns 40% of Fujitsu 200mm wafer fab (10月11日付け EE Times)
→ON Semiconductor(Phoenix)が、火曜10日発表された契約条件のもと、200-mm富士通ウェーハfab(福島県)におけるstakeを40%に高める旨。来年後半までに60%、そして2020年の後半までに100%にもっていく計画の旨。

◇米オン・セミコン、富士通セミコン製造子会社を買収−2020年前半に100%に (10月11日付け 日刊工業)
→米オン・セミコンダクターが10日、2020年前半をめどに富士通セミコンダクター(横浜市港北区)の半導体製造子会社「会津富士通セミコンダクターマニュファクチャリング」(福島県会津若松市)を買収すると発表、オン・セミコンダクター製品の製造移管が進んだことから、傘下に収める旨。

◇ON Semi looking to fully own Fujitsu fab (10月13日付け DIGITIMES)

【Qualcommを巡る動き】

QualcommによるNXP Semiconductorsの$38 billion買収提案について、EUの公正取引当局の承認を得るやりとりが行われているが、Qualcommからの譲歩の提示が行われている。

◇Qualcomm offers EU concessions over $38 billion NXP takeover bid-Qualcomm is ready to make a deal with the EU (10月9日付け Reuters)
→Qualcommが、NXP Semiconductorsの$38 billion買収提案を完了させるべく、EU antitrust regulatorsに対して何らかの譲歩を提示の旨。
European Commission(EC)は、Qualcommからの情報について期限を置き直す予定の旨。

一方、ビジネス慣行モデルについてこんどは台湾当局から罰金が科せられ、台湾では最大となる金額となっている。

◇Taiwan Hits Qualcomm With $774 Million Fine (10月11日付け EE Times)
→台湾・Fair Trade Commission(TFTC)が、Qualcommに対しanti-competitive behaviorに約$774 billionの罰金を科した旨。水曜11日リリースのステートメントで、Qualcommのビジネスモデルが競争を害し、台湾のFair Trade Actを侵害している旨。Bloomberg news serviceの報道によると、該罰金はTFTCが科した最大となる旨。Qualcommは、該決定に同意せず、控訴する予定としている旨。

◇Qualcomm faces antitrust fine in Taiwan (10月12日付け DIGITIMES)

【AI関連の動き】

活発な動きが続くAI関連から取り出して、まずは、インテルのインドにおけるAI技術教育の取り組みである。上記の量子コンピュータ半導体とともに、同社の新分野・新技術への意気込みがうかがえている。

◇Intel India trains 9,500 people in AI technology -Intel India touts AI tech development (10月9日付け The Economic Times (India)/Indo-Asian News Service)
→Intel Indiaがここ半年、新興のartificial intelligence(AI)分野で90のorganisationsにわたって9,500人のdevelopers, studentsおよびprofessorsを教育訓練の旨。「今年4月、15,000人のdevelopersを教育訓練、インドでAIを行き渡らせるよう'India AI Day'で約束している」と、Intel IndiaのManaging Director-Sales and Marketing Group、Prakash Mallya氏。

◇India holds a sustainable market for AI-based firms: Intel India MD -Intel India's newly introduced Intel Nervana aims to help more people work in AI innovation without making investment (10月10日付け Business Standard (India))

もう1つ、我が国では産業技術総合研究所からAI専用の大型スーパーコンピュータが以下の通り富士通に発注されている。

◇AI専用スパコン受注、富士通、国内最速、産総研から (10月12日付け 日経産業)
→富士通は産業技術総合研究所から人工知能(AI)専用の大型スーパーコンピューターを受注、処理能力は国内にあるスパコンで最大、世界では3位の水準となる見通しで、2018年度からの稼働を目指す旨。大型受注を皮切りに台湾やシンガポールなどアジアでの案件獲得につなげる旨。受注額は50億円程度。2018年3月までに産総研が東大キャンパス内(千葉県柏市)に建設中のAI研究拠点に納める旨。企業や研究機関にAIの開発環境を提供する旨。

【活況の中のコントラスト】

台湾のIT、半導体関連の足元での売上げの伸びが鈍化している。

◇台湾IT、成長に影、新iPhone遅れ影響か−19社9月、0.6%増収、鴻海・TSMCが減収 (10月12日付け 日経 電子版)
→世界のIT景気を占う台湾企業の売り上げ拡大にブレーキがかかっている旨。主要IT、19社の9月の売上高を集計したところ、合計額は1兆1204億台湾ドル(約4兆1500億円)、前年同月比0.6%増にとどまった旨。伸び率は前月から4ポイント弱低下、増収が続く最近10カ月間で最も低い水準。11月発売予定の米アップルの新型スマートフォンの高級機種の生産に遅れが生じているもようで、鴻海(ホンハイ)精密工業などが減収になった旨。

半導体ファウンドリーのTSMCおよびUMCも、9月売上げに減少がみられている。

◇TSMC revenues drop slightly in September (10月6日付け DIGITIMES)
→TSMCの2017年9月連結売上げがNT$88.58 billion($2.92 billion)、前月比3.6%減、前年同月比1.3%減。1-9月累計売上げがNT$699.88 billion、前年同期比2.1%増。

◇UMC reports decreased revenues for September (10月11日付け DIGITIMES)
→UMCの2017年9月連結売上げがNT$11.865 billion($392.43 million)、前月比9.05%減、前年同月比6.83%減。1-9月累計がNT$112.654 billion、前年同期比2.82%増。

メモリの高値が引っ張る現下の半導体市場の活況を反映して、Samsungは2四半期連続で最高益を更新、台湾業界との対比が目立つところである。

◇サムスン、営業最高益、7〜9月期速報値、半導体好調続く (10月13日付け 日経 電子版)
→韓国・サムスン電子が13日発表した2017年7〜9月期連結決算の速報値。売上高が前年同期比30%増の62兆ウォン、営業利益が同2.7倍の14兆5千億ウォン(約1兆4500億円)、2四半期連続で最高益を更新する見込みの旨。スマートフォンなどに載せる半導体メモリが好調だったとみられる旨。前年にスマホの品質問題で多額の損失を計上した反動もあり、大幅増益になった旨。

◇Samsung Elec on track for record third quarter as chips soar (10月13日付け Reuters)

本年の世界半導体売上げについて、Gartnerはさらに予測を上方修正、$400 billionを初めて超える見方が色濃くなっていく様相となっている。

◇Gartner Says Worldwide Semiconductor Revenue to Reach $411 Billion in 2017-Memory Continues to Drive Semiconductor Growth in 2017 (10月12日付け Gartner)
→Gartner社発。2017年の世界半導体売上げが$411.1 billionと予測、2016年から19.7%増。これは、金融危機から回復、売上げが31.8%増加した2010年以来最も力強い伸びとなる旨。

◇Gartner raises 2017 chip market growth forecast again (10月13日付け DIGITIMES)

◇Chip Sales Forecasts Lifted Again (10月13日付け EE Times)
→メモリ半導体市場の熱い活況に冷える気配はなく、市場リサーチのGartnerおよび独立半導体業界アナリスト、Mike Cowan氏がともに、2017年の半導体販売高が初めて$400 billionを上回るとこのほど予測している旨。
  Gartner → 19.7%増の$411 billion
  Cowan氏 → 18.9%増の$403 billion
Gartnerは、今年のメモリ半導体価格が57%上がると見通している旨。


≪グローバル雑学王−484≫

来る10月18日と間近に中国共産党大会を控える習近平政権であるが、米国トランプ政権の発足後比較的早く2017年4月6-7日にフロリダ州パームビーチのトランプ大統領別荘にて行われた米中首脳会談の経緯、やりとりについて、

『「米中経済戦争」の内実を読み解く』
 (津上 俊哉 著:PHP新書 1105) …2017年7月28日 第1版第1刷

より迫っていく。中国のengagementとhedge両面作戦、つかず離れずのスタンス模様、そしてスタート間もないトランプ大統領の応答模様がよくうかがえる以下の内容である。北朝鮮問題はじめ現在日々進む国際問題、世界情勢の把握に向けて、米中両国のそれぞれの立場を改めて確認していくことになる。


第4章 習近平の対トランプ政策 ――首脳会談での「踏み込んだ」発言?

〇中国はトランプ当選をどう受け止めたか
・2016年11月の米国大統領選挙でのトランプ勝利
 →中国メディアの反応総じて、西側ほど「たいへんなことになった」という不安感や反発はなかった
・当選後1ヶ月も経たない12月始めに明らかになったトランプ発言のニュース
 →楽観論は、急速に強い警戒感に
・習近平政権は、その警戒感をストレートに表出することは控えた
 →第19回中国共産党大会(2017年10月18日より北京で開催)が2017年秋に迫っている

〇トランプに対するエンゲージ・ヘッジ両面作戦
 ――首脳電話会談と習近平ダヴォス演説
・強い反発を自制するかたわら、今度は中国がトランプ政権に対して「engagementとhedgeの両面作戦」
 →engagement…関与・提携・協力・同調といった語感
  hedge   …警戒、牽制、対抗、抑止といった語感
・中国はengagementの側面では、早期の首脳会談設定に注力
 →一刻も早くトランプの「One-China policy」へのコミット
・hedgeの側面は、習近平主席が世界経済フォーラムで行った演説(2017年1月17日:ダヴォス)
 →「時代の責任を共に担って世界の発展を共に促そう」
 →新しい「トランプ対策」立案が窺われる以下の内容:
  1)グローバリゼーションを敵視するのは誤り
  2)自由貿易にコミットし、保護主義に反対
  3)持続可能な開発を目指していく…対地球環境問題
  4)世界の経済成長の30%分以上を中国が担う貢献
  5)FTAAP(アジア太平洋自由貿易圏)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)を推進
  6)「一帯一路」構想は多くの国の賛同
 →「小異を保留して大同に就く」中国共産党伝統の「統一戦線」作戦の再来の感
・米軍のTHAADミサイルシステムの韓国への配置をめぐって、用地を提供した韓国企業、ロッテ
 →「中国の民族感情を傷つけた」という罪名を以てバッシングを受けた
・中国との関係は、総じて「今は良くても、将来にわたって続く保証はない」という不安感がつきまとう
 →国民が「民族感情を傷つけられた」と称して、一丸となって外国企業をいじめるような国には自由貿易を語る資格がない

〇米中関係は一転して好転へ ――米中首脳会談の前後
・2017年2月に至って、トランプは習近平と電話会談
 →一転して「One-China policyを尊重することに同意した」旨を発表
 →直ちに習近平の訪米・首脳会談の設営作業へ
  …春のうちに済ませておかないと、2017年の暮れ近くまで実現できない(それは遅すぎる)という判断
・結論から言うと、3つの点で予想を裏切り、腹落ちしない米中首脳会談
 →第1:共同声明もなければ、共同記者会見も簡潔でそっけないなど、目玉に欠ける会談
 →第2:習近平の訪米期間中に、米軍がシリア政府軍に対する巡航ミサイル爆撃を実施
     →米中首脳会談はまったく霞んでしまった
 →第3:通商貿易問題ではなく、北朝鮮問題が会談の焦点になった
・こういう結果になった理由
 →第1:トランプ政権の態勢不備と準備不足
 →第2:この首脳会談前の2週間は、トランプ政権が「発足100日間」で最大のピンチに立たされていた時期
 →第3:シリア空爆の顛末にせよ、北朝鮮問題にせよ、内容が機微すぎて大っぴらな公表に馴染まなかった

〇習近平沈黙の10秒間
・トランプ・習初の首脳会談の成果要約
 →1)北朝鮮問題解決への協力
 →2)首脳間の信頼関係構築
 →3)貿易不均衡解決に向けた「100日計画」
 →4)米中対話チャネルのグレードアップ
・首脳会談でのシリア空爆成功のニュース
 →聞かされた習は10秒ほど沈黙
 →脳裏は「不快と当惑」でいっぱいだったのではないか
・一方で、会談後の両首脳は信頼関係構築の成果を強調し合っている
 →1つの解釈:親近、信頼の情を大袈裟に、マッチョにぶつけて、相手にプレッシャーをかけるのがトランプ流なのかも
 →もう1つの解釈:トランプは北朝鮮問題を「習近平なら解決できるかもしれない」と、ほんとうに頼りにする気持ちになっている

〇習近平は何を約束したのか
・今回の首脳会談でとくに火種になりそうな2点
 →第1:習近平がシリア空爆について「小さな子供や赤ん坊に化学兵器を使うような者はだれであろうと……と言って、OKした」というトランプの言い分
 →第2:「中国は、再び核実験を強行すれば『独自の制裁』を科すと北朝鮮に通告したと伝えてきた」とティラーソン国務長官が述べたこと
・トランプ政権との関係を良いかたちでスタートさせるために、習近平は中国年来の立場から、なにがしか「踏み込んだ」

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