半年連続$30 billion台、メモリが牽引、3月の世界半導体販売高
米国Semiconductor Industry Association(SIA)から月次の世界半導体販売高が発表され、この3月について$30.9 billionで、前月比1.6%増、前年同月比18.1%増と高水準が加勢されている。これで単月$30 billion超えが半年連続、前年同月比二桁%増が4ヶ月連続となり、各市場地域揃って前年比二桁増、特に中国は26.7%増と大きな伸びを示している。昨年後半からの大きく戻す基調がこのペースでいつまで続くか、スマートフォンの堅調な伸び、新分野の高まる活況に引き続き期待するところである。
≪またまた16年ぶりの高水準≫
米SIAからの発表内容が、次の通りである。
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◯3月のグローバル半導体販売高が前年比18.1%増−2010年10月以来最大の前年比市場の伸び …5月1日付け SIA/NEWS
半導体製造、設計および研究の米国のleadershipを代表するSemiconductor Industry Association(SIA)が本日、2017年3月の世界半導体販売高が$30.9 billionに達し、2016年3月の$26.2 billionに比べて18.1%の増加、2017年2月の$30.4 billionからは1.6%の増加と発表した。2017年第一四半期の販売高は$92.6 billionで、2016年第一四半期に比べて18.1%増、しかし2016年最終四半期からは0.4%下回った。月次販売高の数値はすべてWorld Semiconductor Trade Statistics(WSTS) organizationのまとめであり、3ヶ月移動平均で表わされている。
「3月のグローバル半導体販売高は堅調な伸びを示し、昨年と比べて急増しており、前月比で控え目ながら伸びている。」とSemiconductor Industry Association(SIA)のpresident & CEO、John Neuffer氏は言う。「グローバル販売高は昨年に比べて18%増加、2010年10月以来最大の増加であり、主要地域別市場のすべてが前年比二桁の伸びを示している。主要半導体製品カテゴリーのすべてがまた、前年比伸びており、メモリ製品が引き続き引っ張っている。」
前年比では販売高はすべての地域にわたって大幅に増加し、China(+26.7%), Americas(+21.9%), Asia Pacific/All Other(+11.9%), Europe(+11.1%)およびJapan(+10.7%)である。前月比では、Europe(+5.0%), Japan(+3.6%), Asia Pacific/All Other(+2.9%)およびChina(+0.2%)で増加したが、Americas(-0.5%)は僅かな減少となっている。
【3ヶ月移動平均ベース】
市場地域 | Mar 2016 | Feb 2017 | Mar 2017 | 前年同月比 | 前月比 |
======== | |||||
Americas | 4.89 | 5.99 | 5.96 | 21.9 | -0.5 |
Europe | 2.67 | 2.82 | 2.96 | 11.1 | 5.0 |
Japan | 2.59 | 2.77 | 2.87 | 10.7 | 3.6 |
China | 7.95 | 10.05 | 10.07 | 26.7 | 0.2 |
Asia Pacific/All Other | 8.05 | 8.77 | 9.02 | 11.9 | 2.9 |
計 | $26.15 B | $30.39 B | $30.88 B | 18.1 % | 1.6 % |
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市場地域 | 10-12月平均 | 1- 3月平均 | change |
Americas | 6.33 | 5.96 | -5.8 |
Europe | 2.80 | 2.96 | 5.6 |
Japan | 2.84 | 2.87 | 0.9 |
China | 10.17 | 10.07 | -0.9 |
Asia Pacific/All Other | 8.86 | 9.02 | 1.7 |
$31.01 B | $30.88 B | -0.4 % |
※3月の世界半導体販売高 地域別内訳および前年比伸び率推移の図、以下参照。
⇒https://www.semiconductors.org/clientuploads/GSR/March%202017%20GSR%20table%20and%20graph%20for%20press%20release.pdf
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これを受けた業界各紙の反応、取り上げ方である。前年比18%増の伸び、そして特にアジアでの中国市場が引っ張る勢いへの注目である。
◇Chip Sales Up 18% Through Q1 (5月1日付け EE Times)
→2月から3月はもう少し販売高が伸びても、と少なくとも1人のWall Streetアナリスト。
◇Global semiconductor sales in March up 18.1% year-to-year (5月1日付け ELECTROIQ)
◇Global semiconductor sales rise 18% in March, says SIA (5月2日付け DIGITIMES)
◇Global chip sales up 18% in March-March chip sales hit nearly $31B (5月4日付け The Star Online (Malaysia))
→3月のグローバル半導体販売高が$30.9 billion、前年同月比18%増、6ヶ月連続で$30 billion/月を越えた、とMIDF Amanah Investment Bankが特に言及の旨。中国の世界半導体販売高に対する寄与が高まっており、前年同月比26.7%増の旨。
◇China continues to support global semiconductor market (5月4日付け Borneo Post)
前回から昨年来の販売高の前年同月比、前月比の伸びの推移を載せているが、しっかり見届けに定番となりそうである。
販売高 | 前年同月比 | 前月比 | |
2016年 1月 | $26.88 B | -5.8 % | -2.7 % |
2016年 2月 | $26.02 B | -6.2 % | -3.2 % |
2016年 3月 | $26.09 B | -5.8 % | 0.3 % |
2016年 4月 | $25.84 B | -6.2 % | -1.0 % |
2016年 5月 | $25.95 B | -7.7 % | 0.4 % |
2016年 6月 | $26.36 B | -5.8 % | 1.1 % |
2016年 7月 | $27.08 B | -2.8 % | 2.6 % |
2016年 8月 | $28.03 B | 0.5 % | 3.5 % |
2016年 9月 | $29.43 B | 3.6 % | 4.2 % |
2016年10月 | $30.45 B | 5.1 % | 3.4 % |
2016年11月 | $31.03 B | 7.4 % | 2.0 % |
2016年12月 | $31.01 B | 12.3 % | 0.0 % |
2017年 1月 | $30.63 B | 13.9 % | -1.2 % |
2017年 2月 | $30.39 B | 16.5 % | -0.8 % |
2017年 3月 | $30.88 B | 18.1 % | 1.6 % |
2017年第一四半期のグローバルスマートフォン出荷データ概要が、次の通り表わされている。全体では出荷台数が前年同期比6%増と着実に伸びており、中国ベンダー勢の台頭が大きく引っ張る内容が続いている。アップルの盛り返しに注目するところもある。
◇Apple dips as global smartphone shipments hit 353M in Q1 2017 (5月3日付け ELECTROIQ)
→Strategy Analytics発。2017年第一四半期のグローバルスマートフォン出荷が353.3 million台、前年同期の333.1 million台から着実な6%増。
Samsungがグローバルスマートフォン市場シェア23%で首位を取り戻す一方、Appleは14%シェアに落とした旨。OPPOが年間78%と急増、もう一度花形となった旨。「グローバルスマートフォン市場は2016年第一四半期に3%減となって底に達したが、需要が戻してきており、本年の伸びの見通しは中国およびブラジルなど主要地域での経済回復および消費者購買欲の強まりから良くなっている。」と、Strategy AnalyticsのDirector、Linda Sui氏。
メモリが大きく引っ張る現状のなか、半導体サプライヤランキングについて、この第二四半期、Samsungが長年不動の首位、インテルを上回る可能性があるという見方が以下の通りあらわれている。
◇Samsung Could Pass Intel in Chip Sales (5月1日付け EE Times)
◇Samsung poised to become world's largest semi supplier in 2Q17 (5月1日付け ELECTROIQ)
→IC Insights発。約四半世紀が経って、2017年第二四半期に半導体業界のNo.1サプライヤが新しくなる可能性の旨。メモリ市場価格が2017年第二四半期を通して引き続き維持あるいは増加すれば、Samsungが首位の座に突進、1993年以降ランキング第1位を保っているIntelに置き換わる可能性の旨。2017年第二四半期についてIntelが置いているmid range販売高ガイドおよびSamsungの控え目ながら標準的な第二四半期販売高7.5%増を用いると、SamsungがIntelの地位を奪って、2017年第二四半期の世界を引っ張る半導体サプライヤとなる旨。
◇Samsung poised to become largest semi supplier in 2Q17, says IC Insights (5月2日付け DIGITIMES)
政治が混乱、大統領選挙を間近に控える韓国であるが、好調なメモリ出荷の影響が以下の輸出高、そして1-3月の同国GDPを押し上げている。
◇South Korea posts second-biggest monthly exports on demand for ships, semiconductors (5月1日付け Xinhua Net)
→韓国・Ministry of Trade, Industry and Energy、月曜1日発。半導体の出荷が最高水準に増大、4月の輸出高が$51 billionを上回って前年同月比24.2%増、2014年10月の$51.6 billionに次ぐ史上第2位の旨。輸出高は6か月連続の増加、4ヶ月連続の二桁増となっている旨。
≪市場実態PickUp≫
【アップル関連(1):1-3月期業績】
中国の競合台頭によるiPhoneの不振が取り上げられるアップルであるが、全体では以下の通り販売高、純利益ともに前年同期比5%増となっている2017年1-3月期である。
◇米アップル、1-3月期の純利益5%増、アプリなどサービス事業好調、株価は時間外で下落 (5月3日付け 日経 電子版)
→米アップルが2日夕(米東部時間)に発表した2017年1-3月期決算。売上高が前年同期比5%増の$52.896 billion、純利益が同5%増の$11.029 billion(約1兆2350億円)。四半期決算での増益は2015年10-12月期以来、5四半期ぶり。スマートフォン「iPhone」の販売低迷に歯止めが掛かりつつあるなか、利益率の高いサービス事業が2割近い増収となり、利益を押し上げた旨。iPhoneの販売台数は5076万3000台と前年同期を1%下回ったが、単価の高い大画面型の売れ行きが良く、売上高は同1%増えた旨。
◇Weak iPhone sales hit shares of Apple's suppliers (5月3日付け Reuters)
→Apple社向けmicrochips, センサおよびcircuitryの米欧サプライヤの株価が水曜3日低下、第二四半期のiPhone売れ行き期待外れからきている旨。
◇China Slump, Q'comm Suit Dog Apple-Quarterly revenues edge up five percent (5月3日付け EE Times)
→Appleが、中国でのスマートフォン競合の攻勢継続にも拘らず、ここ3ヶ月控え目な伸びを立てている旨。先々に向けて証券アナリストは、中国でのiPhone不振継続、高いメモリ価格およびAppleのQualcommとの係争を巡る懸念を引き合いにしている旨。
【アップル関連(2):Imaginationの動き】
自前のグラフィックス半導体を開発するとして今後2年のうちにlicensingによる設計は用いないと通知を受けたImagination Technologies(英国)について、以下の対応する動きが見られている。
◇As Apple Jilts Imagination, MIPS Goes on Block (5月4日付け EE Times)
→Imagination Technologies Groupが木曜4日、交渉が停止しているAppleと"dispute resolution procedure"を始めた旨。奇しくも同社は、2つの事業を売却する計画を披露、CPU事業をembeddedプロセッサ市場に重点化するMIPS、およびモバイルcomputingにおけるconnectivity向けIP licensingを提示するEnsigmaの旨。
◇Imagination Technologies seeks ‘structured process’ in Apple dispute (5月4日付け ProactiveInvestors.co.uk (U.K.))
◇Imagination Tech starts dispute process with Apple (5月4日付け Reuters)
→Imagination Technologiesが、最大顧客、Appleとのlicensingを巡る行き詰まりを打開できなくて、Appleとの"dispute resolution procedure"を開始の旨。Imaginationは4月に、Appleが自前のグラフィックス半導体を開発しており、15ヶ月から2年のうちにImaginationの処理設計を用いないと通知してきた、と明らかにしている旨。
◇Imagination Technologies begins 'dispute resolution procedure' with Apple over licensing agreement (5月4日付け VentureBeat/Reuters)
【アップル関連(3):Qualcommロイヤリティ支払い中止】
アップルがQualcommに対する特許ロイヤリティの支払いを中止する動きが以下の通りである。支払いのレートについて裁判の係争になっており、決定されるまで留保するとしている。
◇Apple Stops Royalties to Q'comm-Figures suggest that Apple pays ~$8 per device (4月28日付け EE Times)
→Qualcommが、Appleが特許ロイヤリティを支払わないとして、第三四半期の業績ガイドを約$500 million下方修正、これからすると、Apple製品に向けたロイヤリティとして年に$2 billion、機器1台当たり約$8の勘定になる旨。
◇Apple Stops Paying iPhone Royalties, Escalating Feud With Qualcomm-Apple stops paying manufacturers for Qualcomm royalties (4月28日付け Fortune)
→Qualcommがlicensing料を課しているiPhoneメーカーへのロイヤリティ支払いをAppleが止めている、とQualcommが明らかに。Appleは、裁判所がロイヤリティ支払いの妥当なレートを決めるまで、引き続き支払いは留保するとしている旨。
◇Apple stops paying royalties to Qualcomm (4月28日付け TechCrunch)
【インテルの動きから】
データセンターに向けた最新“cloud inspired” SSDsの2機種が発表され、3D NANDフラッシュを搭載、そのメモリ供給対応で中国・大連の工場を拡張しているとのことである。
◇Data Center and Critical Infrastructure: Cloud-Inspired 3-D NAND SSDs Designed for Data Centers-Intel adds 3D NAND SSDs for cloud data centers (5月2日付け Electronics360)
→Intelが、3D NANDフラッシュメモリ半導体搭載のSSD DC P4500およびSSD DC P4600 solid-state drives(SSDs)を投入、該SSDsは、データセンターのcloud-ベース・データストレージ向けの旨。3-D NAND供給需要に対応、IntelはDalian(大連), Chinaの同社Fab 68を拡張している旨。
◇Intel Ramps up 3D NAND, NVMe SSDs (5月5日付け EE Times)
→Intelのデータセンター向け最新“cloud inspired” SSDsは、3D NAND optionおよびNVMe(Non-Volatile Memory Express standard)標準を推進する同社の活動の一環の旨。「Intelの2つの新しい3D NAND SSDsはcloudデータセンターscenariosに向けて特に設計されているが、それらの条件はcloudサービスプロバイダー以上に当てはまる。」と、同社製品マーケティングマネジャー、Jonmichael Hands氏。
マシンの遠隔制御攻撃対応への穴埋めを行う新ファームウェアがリリースされている。
◇Intel AMT vulnerability hits business chips from 2008 onwards-Silicon giant releases new firmware to patch holes in separate management processor.-Intel patches AMT, ISM flaws in chips (5月2日付け ZDNet)
→IntelのActive Management Technology(AMT), Standard Manageability(ISM), およびSmall Business Technology(SBT)ファームウェアが、攻撃元がマシンの遠隔制御を可能にする一対のprivilege展開問題に攻撃されやすく、推奨対策を提示の旨。
インテルからもBMWとの連携に成る自動運転車が披露されている。
◇Intel building self-driving car system, announces BMW partnership-Intel showcases self-driving car (5月3日付け San Jose Mercury News (Calif.))
→Intelが3日水曜、自動運転BMW sedanを披露、自動運転車技術を開発するためにBMWおよびMobileyeと連携した製品の旨。
サーバおよびworkstations向けXeonプロセッサの新ラインがリリースされ、クレジットカードのようなブランド化が行われている。
◇Intel Re-defines Xeons (5月4日付け EE Times)
→Intelが今年半ばごろ、supercomputer caliber central processing units(CPUs)のsuper-scalable新Xeonプロセッサファミリーを加える計画の旨。
◇Intel Xeon chips rebranded to sound like credit cards-You will soon be able to buy Xeon Platinum, Gold, Silver, or Bronze-Intel rebrands Xeons for servers, workstations (5月4日付け ITWorld/IDG News Service)
→Intelが今年、サーバおよびworkstations向けにXeonプロセッサの新ラインをリリース、E5およびE7の命名を止めて該半導体をPlatinum, Gold, SilverおよびBronzeとしてブランド化する旨。該新半導体は、データセンター大型化に向けて拡大できるsupercomputer-caliber CPUsを呈する旨。
【中国発の動き2点】
世界初、量子computingマシンが発表され、スーパーコンピュータ業界での位置づけに注目である。
◇World's first quantum computing machine made in China (5月3日付け The Economic Times)
→Shanghai Institute for Advanced Studies of University of Science and Technology of Chinaでのpress conferenceにて発表。中国の科学者が国際的な対抗より24,000倍高速な世界初の量子computingマシンの構築に成功、現状のスーパーコンピュータの処理能力を小さく見せる可能性の旨。
ファウンドリーのSMICからは、台湾の半導体メーカーが中国側とオープンに連携できるよう台湾政府への働きかけが見られている。
◇SMIC urges Taiwan chipmakers to partner with China-based peers -SMIC CEO calls for China, Taiwan partnering (5月5日付け DIGITIMES)
→Semiconductor Manufacturing International(SMIC)のCEO、Tzu-Yin Chiu氏。台湾政府は、台湾の半導体メーカーに対し中国の半導体メーカーとコラボ、両方の半導体業界にとってwin-winを作り出すよう推進すべき旨。
中国および台湾のIC業界は、強力なグローバルIC業界supply chainとして連携でき、台湾政府は中国企業が台湾企業と協力できるようにする開放政策を実行すべき旨。
≪グローバル雑学王−461≫
就任100日を迎えた米国のトランプ大統領。株価の上昇や雇用の増加などの成果を誇示する一方、メディア批判の展開が繰り返されているが、冷戦後のパックス・アメリカーナ(Pax Americana)、超大国、米国による平和の行方はどうなるのか、
『日本人として知っておきたい「世界激変」の行方』
(中西 輝政 著:PHP新書 1076) …2017年2月21日 第1版第4刷
より2回に分けて著者の主張が表されている前半である。ここ半世紀余りの対外関与の歴史を正面から否定するトランプ大統領であるが、またまた北朝鮮の暴走があって朝鮮半島ににらみを利かせているまさに現時点である。一気に"アメリカ第一"への転換が図れないような国際情勢の推移を、同時並行で見つめ考える必要がありそうである。大統領選挙の渦中のフランスにも同様の状況を感じている。
第3章−1 介入か孤立か――パックス・アメリカーナの行方
◆アメリカにとっての「理念」と「国益」
・同盟国である日本にとって、アメリカが世界に果たす役割の行方を見ることは最重要の国家的課題
→重要なのは、長期的かつ歴史的な視点から、アメリカの変化の大きな方向を見極めること
・超大国、アメリカがその大きな国力を背景に、いまも自らの進路・運命を決定できる存在であるのは、誰しもが認めるところ
・アメリカの進路は、主要には、いったい何によって決まるのか
→その考察の主要な焦点となるのは歴史上、アメリカが世界への関わりをめぐって示してきた、その振幅の大きさ
…過度なほど他国の紛争に関与するかと思えば、急にいわゆる「孤立主義」に走って世界との関わりを大幅に限定しようとする
◆「孤立主義」と「対外不介入主義」
・「われわれは世界における自由の確保とその勝利のためには、いかなる代償も支払い、いかなる負担も厭わず、いかなる困難にも進んで直面し、いかなる友人も助け、いかなる敵とも戦う」
…1961年、アメリカ大統領、ジョン・F・ケネディ
→"自由や民主主義の松明を堂々と掲げて"世界を善導する「究極の理想主義者」、アメリカの姿
・ほぼ対極の姿勢のドナルド・トランプ
→「対外介入し過ぎるアメリカ」を断固として忌避
→この五十数年のアメリカの対外関与の歴史を正面から否定
・アメリカの歴史においては、1920年代まで「孤立主義」という言葉は存在しない
→その代わりに、同様の対外姿勢として、より客観的な「対外不介入主義(non-interventionism)」という言葉
…18世紀以来の啓蒙思想においてはきわめて進歩的・積極的な意味
・第一次大戦後の1919年、ヴェルサイユ会議、同条約の一部として「国際連盟規約」
→対外関与を唱導する立場を「国際主義」と呼び、反対する陣営のことを「孤立主義」と呼んで批判・攻撃
→結局、国際連盟規約を批准させることに失敗
→一見、われわれの知るあのケネディ的なアメリカからは、まったく理解できないアメリカの姿
◆ジョージ・ワシントンが掲げた理念
・アメリカ初代大統領、ジョージ・ワシントンが1796年、アメリカ国民に宛てたメッセージ、「訣別演説(Farewell Address)」
→アメリカの「孤立主義」あるいはアメリカ民主主義の真髄としての「対外不介入主義」の起源
⇒対外介入は必ず民主主義の原則に反し、アメリカに独裁政治か分裂あるいは大いなる腐敗と混乱をもたらす
・王国同士が延々と領土拡大の戦争を続けていたヨーロッパを大いなる反面教師として、対外不介入を貫くことがアメリカ独立後の国是に
◆アメリカは「孤立主義」だけで生きていける国
・「孤立主義」を選択した1920年代のアメリカ
→空前の繁栄を享受、わずか10年でGNPが3倍近くに増大
・アメリカというのは「孤立主義」だけで生きていける国
→本来、対外関与などする必要がない国
→自国の存在のためにいわば不可避的に対外介入や対外戦争を強いられることのない国
◆地球上でわれわれだけが普遍的な価値を守れる
・ここで従来、アメリカでは1つの大きな反問の提起
→「アメリカが世界に関わらなければ、アメリカ自身の安全と生存が脅かされることにつながる」
・具体的な事例
→突然アメリカ領土のハワイを攻撃され、日独など枢軸国から「戦争を仕掛けられる」ことに
→近年は「9・11」が加わって、今日もアメリカの世界への関与を続けるべき、という議論
・補強されてくる2つの論法
・第1は、アメリカの経済的利益
→反対陣営からの強い反論
…「アメリカは経済的利益のために、いま膨大な軍事費を負担、多くの人命を犠牲にして世界に関与し続けているのか」
→そのコストは果たして利益に見合っているのか
…ビジネスマンの立場からトランプの"新しさ"
・従来のアメリカ
→世界に「自由」と「民主主義」、「人権」と「法の支配」という普遍的な価値観を定着させる役割を果たせるのは地球上で唯一、アメリカだけ
→現実主義の目的を達成するために用いられた理想主義のレトリック
…1991年、ジョージ・ブッシュ大統領(父親)の「湾岸戦争教書」
◆中東介入の挫折で裏切られる民主主義
・二度にわたる世界対戦の勃発、朝鮮戦争、ベトナム戦争、冷戦、湾岸戦争
→ワシントンの遺言とは正反対、対外介入主義そのものだったアメリカ外交
・200年後の今日、再び「ワシントンの予言」に耳を傾けざるを得ない事態
→2001年の「9・11」テロ、そして2003年のイラク戦争とその挫折
・民主主義と平和を築くために軍事力を行使するアメリカの外交、対外戦略が赴くところ必ず「帝国への道」に
→じつはアメリカの歴史において繰り返し浮上、その嚆矢は、1898年の米西戦争
→その後のアメリカ外交は、介入→幻滅→理想主義の高揚→介入→幻滅、というプロセスを延々と繰り返すことに