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米国の政権交代間近、米国、中国および台湾における業界の動き&反応

米国の政権交代を1月20日に控えて、Trump次期大統領の久方の記者会見はじめ今後に向けた動きが敏感に受け取られる現時点である。半導体業界についても、現Obama政権がドイツの半導体製造装置メーカーの米子会社買収を阻止しており、米国政府が中国による半導体業界への投資に対して厳しい姿勢をとるよう報告書を作成して次期政権に託している。この米国の動きを受けた年明け早々の中国および台湾における業界の動き&反応が早速続いている。

≪主張の一方、クールなスタンス≫

前回示した年明け早々の米国の動きであるが、繰り返しまとめると、President's Council of Advisors on Science & Technology(PCAST)からObama米大統領に宛てた報告が作成され、White Houseが以下の通り公表している。

◇White House Report Warns of China's Threat to Chip Industry (1月6日付け EE Times)
→White Houseが金曜6日、米国半導体業界、および中国の半導体領域でグローバルプレーヤーになる積極的な取り組みによる脅威について、強い論調の報告を公表、President's Council of Advisors on Science & Technology(PCAST)がBarack Obama米大統領に宛てた該報告は、該市場を歪める中国の政策が引き起こす脅威に対抗するために、米国半導体業界は革新を図りより速く走る必要があると論じている旨。

この報告リリースを米SIAは歓迎し、中国に対する業界としての懸念を新政権に浸透を図っていくものと思われる。

◇SIA Welcomes White House Report on Sustaining U.S. Semiconductor Leadership (1月6日付け SIA/Blog)
→SIAが本日、President's Council of Advisors on Science & Technology(PCAST) Semiconductor Working Groupによる新しい報告リリースを歓迎、米国半導体業界の戦略的重要性および米国の半導体技術リーダーシップを引き続き確保するために克服しなければならない課題を述べている旨。PCASTのco-chairs、John Holdren氏およびEric Lander氏からObama大統領に宛てて添えたletterの中で、該報告の3本柱戦略が強調されている旨。
 (i) 革新を妨げる中国の産業政策に対抗する
 (ii) 米国の半導体生産者のビジネス環境を改善する
 (iii)向こう10年にわたって変化させる半導体革新を支える

これを受けた反応として、中国の半導体メーカーが台湾の半導体executives経験者を採用する動きが高まっていく様相についての分析が見られている。

◇China Expected to Poach More Taiwan Chip Execs (1月11日付け EE Times)
→アジアのベテランアナリスト、Andrew Lu氏による1月10日Smartkarmaレポート。次期米国大統領、Donald Trump氏政権が中国の米国半導体メーカー買収への制限を厳しくするということで、中国の半導体メーカーが台湾の半導体executivesをさらに採用する様相の旨。中国・Tsinghua Unigroupが今月、台湾・UMCの前CEO、Shih-wei Sun氏をTsinghuaのグローバルoperations、executive vice presidentとして採用、以下などに続く動きの旨。
・前TSMCのExecutive Vice President of R&D、Shang-Yi Chiang氏
 →SMICのindependent non-executive director
・前Inotera MemoriesのSenior Deputy General Manager、Liu Dawei氏
 →ITメーカー、Hefei Chang Xin
・Micron Memory Taiwan Presidentを務めたChen Cheng-Kun氏
 →DRAMメーカー、Fujian Jin Hua Integrated Circuit(JHICC)

台湾のハイテク製造世界最大手、Foxconnは、Trump米国次期大統領の製造を米国に移転するよう求める圧力に抗して、中国広東省広州市での工場建設を発表している。

◇Foxconn to Build $8.8b Factory in China Despite Trump (1月11日付け EBN)
→Donald Trump米国次期大統領の製造を米国に移転、さもないと厳しい関税を課すという要求に少しも耳を貸さないで、世界最大のハイテク製造メーカー、Foxconnが、Guangzhou, China(中国広東省広州市)に新しい$8.8 billion工場を建設する意向を最近発表、同社は該地域を“投資treasure land”と呼んでいる旨。

新年早々恒例のIndustry Strategy Symposium(ISS:1月8-11日:HALF MOON BAY, Calif.)においては、以下の通り中国半導体業界のメンバーから取り組みの正当性が主張され、米国側との議論が交わされた模様がうかがえている。

◇China Defends Big Chip Bet-Huali, AMEC execs share their views-ISS: Chinese execs present their nation's case (1月12日付け EE Times)
→SEMIのIndustry Strategy Symposium(1月8-11日:HALF MOON BAY, Calif.)にて。White House報告が不公平とするpracticesに対して国際的行動を求めて1週間、中国の2人のsenior executivesが同国の半導体業界への大きな賭けを正しいと主張の旨。ファウンドリーのShanghai Huali Microelectronics社およびetch-systemベンダー、Advanced Micro-Fabrication Equipment Inc.(AMEC)からのexecutivesが、中国政府がまだ初期段階の業界を支えるやり方において不公平ではない、とした旨。中国の国家および州政府が個人投資家とともに中国の半導体業界育成に向こう数年にわたって$160 billion dollarsを費やす狙いであり、米国半導体メーカーは、中国政府が向こう数年最も大きく伸びる半導体市場とみられるものへの適確な指摘を支えることに懸念がある旨。

中国のTsinghua Unigroupからは、3つの新しいウェーハ工場の計画が発表されている。

◇Tsinghua Unigroup planning three new wafer plants with investment totaling US$70 billion-Tsinghua Unigroup to spend $70B on 3 new fabs (1月12日付け DIGITIMES)
→中国のTsinghua Unigroupのchairman、Zhao Weiguo氏。Tsinghua Unigroupは、Wuhan(湖北省武漢), Chengdu(四川省成都)およびNanjing(江蘇省南京)にIC製造拠点を構築しようとしており、総投資が$70 billionに達する旨。

台湾半導体業界を引っ張るTSMCのchairman、Morris Chang氏から、米国での工場建設は除外しないとしながらも必ずしも良くはないとのスタンスが表わされている。

◇TSMC could build plant in the US, says Chang (1月13日付け DIGITIMES)
→TSMCのchairman、Morris Chang氏。同社は、Donald Trump米国次期大統領の製造を米国にもってくる計画に反応、米国でのウェーハfab建設を除外していない旨。それにも拘らず、TSMCおよびその顧客にとって米国での半導体製造は必ずしも良いことではない、と1月12日investors conferenceにてChang氏。

米SIAが出しているSIA Week in Reviewの1月13日付けにおいても、米国業界各紙の取り上げが以下の通り続いている。

◇White House Says China Threatens U.S. Semiconductor Market (1月11日付け Bloomberg BNA)

◇Warning against China, White House Report Urges Faster Chip Innovation-"China has gained from global openness but has been less committed to sustaining it - and in some cases, has worked against it," the report said. (1月12日付け Electronic Design)

◇China's Global Semiconductor Raid-Beijing accelerates its predatory approach to sensitive technologies. (1月12日付け The Wall Street Journal)

◇U.S. Semiconductor Sector Faces Risk From China, Says White House Report (1月12日付け Forbes)


≪市場実態PickUp≫

【CESでの各社プレゼンから】

CES 2017(2017年1月5日〜8日:Las Vegas)について、NvidiaおよびQualcommを前回取り上げたが、各社プレゼンの以下続編である。まずは、ルノーの小型電気自動車をもちこんだARMである。

◇ARM Exec Dizzy for Open-Source Twizy (1月7日付け EE Times)
→Consumer Electronics Show(CES)にて、ARMのvice president of Embedded Marketing、Richard York氏インタビュー。次の大物ソリューションとして、オープンvehicleプラットフォーム, software-defined cars, セキュリティ, およびover-the-airソフトウェア更新に向けた内蔵connectivityなどがある旨。今回のCESにてARMは、モバイル機器フル搭載の代表としてRenaultのTwizyをブースにもってきている旨。

◇ARM builds open-source momentum with Twizy EV (1月12日付け EE Times India)

タイヤメーカー、Continentalが、存在感を示している。

◇Continental AI Effort Stresses ‘Responsibility’ (1月7日付け EE Times)
→伝統的タイヤメーカー、Continental Automotive(ドイツ)が、自動運転における牽引力を得ようと、Consumer Electronics Show(CES)にてたくさんのcarサプライヤに入っている旨。「我々はすべての他のOEMsより大きい」と誇る同社first Corporate Technology Officer、Kurt Lehmann氏。

MediaTekは、車載に向けた広範、多彩なラインアップを強調している。

◇MediaTek Auto Gambit: Radar, Vision SoC -MediaTek further articulates its auto plan (1月7日付け EE Times)
→Consumer Electronics Show(CES)にて、MediaTekのcorporate vice president、JC Hsu氏インタビュー。telematicsとmultimediaが車載戦略におけるMediaTekの唯一のtoolsではなく、ほかに備えている技術&製品としては、77-79GHzミリ波レーダー, ADASカメラ, および“very low-power” vision SoCsなどがある旨。

Infineonより、自動運転車の信頼性の考え方である。

◇Infineon: What Makes Robo-Cars Zero Defect?-One-on-one interview with Infineon CEO-Self-driving cars need "100% reliability," CEO says (1月11日付け EE Times)
→先週のCES 2017(2017年1月5日〜8日:Las Vegas)にて、InfineonのCEO、Reinhard Ploss氏one-on-oneインタビュー。自動運転車が高性能computingプラットフォームをずっと上回る理由、"航空機レベルの100%信頼性をクルマの価格で"得る方法、など。

クルマから離れて、Intelからは10-nmプロセスの問題を解消した模様の打ち上げが行われている。

◇Intel fixes 10nm process, promises Cannon Lake this year-Intel has seemingly resolved its ongoing problems transitioning to a 10nm semiconductor manufacturing, promising to launch its eighth-generation Cannon Lake Core chips before the end of the year.-Intel irons out issues with 10nm process (1月10日付け Bit-Tech.net)
→Intelが、次世代半導体を遅らせる恐れがあった10-nm製造プロセスの問題を解決している模様、IntelのCEO、Brian Krzanich氏がCES 2017にて、同社はその最初の"Cannon Lake"デバイスを2017年末までに打ち上げる旨。

Qualcommからは、5Gのインパクトを強調するプレゼンも行われている。

◇QCOM CEO Likens 5G to Electricity Discovery (1月11日付け EE Times)
→今回のCES 2017(2017年1月5日〜8日:Las Vegas)でのQualcommのCEO、Stephen Mollenkopf氏基調講演。5Gは、電気あるいは自動車の導入に似たインパクトをもち、経済全体に影響を与え社会全体に利益をもたらす旨。
90分の大半を充てて、5Gをモバイルconnectivityにおける新時代の夜明けになぞらえている旨。5Gは、新しい種類のネットワークであり、前例のない規模、速度およびcomplexityをもって広範多角的な機器をサポートする旨。

【2016年米国特許取得】

2016年の米国特許取得件数について各社別ランキングが発表され、全体件数および首位のIBMの件数ともに最高を記録している。IBMの首位24年連続とのこと、この1年も人工知能(AI)関連が内訳で引っ張っている。

◇IBM Leads as U.S. Patents Rebound-U.S. patent office, IBM hit record highs (1月9日付け EE Times)
→IFI CLAIMS Patent Servicesからの2016 U.S. Top 50発。2015年の1%減少の後、2016年の米国特許取得が約2%増、304,126件の新記録。24年連続トップのIBMは8,088件で2015年から約10%増、calendar yearでの取得件数史上最大の旨。

◇米特許取得、IBM最多、24年連続、日本勢はキヤノン3位 (1月10日付け 日経 電子版)
→米IBMが9日、2016年に取得した米国特許数が8088件となり、年間で過去最高を更新したと発表、米国で24年連続のトップ、人工知能(AI)関連の特許が1000件を超え全体を牽引した旨。日本勢ではキヤノンが3位に入ったが、前年6位の東芝は13位に下げるなどランクを落とした企業が目立った旨。

【向こう5年にわたる伸び】

IC Insightsより、主要IC市場カテゴリーの向こう5年にわたっての伸び率が表わされている。現下の勢いのあるメモリが引っ張る構図となっている。

◇Memory market poised for strongest annual growth through 2021 (1月9日付け ELECTROIQ)
→IC Insightsの最新2017 McClean Report。メモリICsの販売高が、向こう5年の間で主要IC市場カテゴリーの中で最も力強い伸び率を示す見込みの旨。該The McClean Reportの20周年記念版では、2016年から2021年にかけてのカテゴリー別compound annual growth rate(CAGR)を次の通り見ている旨。
 メモリ     7.3% 
 2016年 $77.3 billion → 2021年 $109.9 billion
 アナログ    5.2%
 Microcomponents 4.4%
 ロジック    2.9%
 ICs全体    4.9%

◇Memory to drive IC market for next five years-IC Insights: Memory sales to lead chip biz (1月9日付け Electronics Weekly (U.K.))

もう1つ、専業ファウンドリー市場が表わされており、上のメモリと同じ7%台の高い伸び率である。

◇Pure-play foundry market surges 11% in 2016 to reach $50B (1月12日付け ELECTROIQ)
→IC Insightsの最新2017 McClean Report。専業ファウンドリー市場が、向こう5年にわたって7.6%のcompound annual growth rate(CAGR)で増大、2016年の$50.0 billionから2021年には$72.1 billionに伸びると見る旨。

◇Pure-play foundry market to increase at 7.6% CAGR over 2016-2021, says IC Insights (1月13日付け DIGITIMES)

【年間最高売上げ】

台湾のMediaTekおよびTSMCの2016年売上げが、それぞれ29.2%増および12.4%増と年間最高を記録している。ともに2016年世界半導体販売高の押し上げに効いてくるが、TSMCからは、2017年前半については落ち込む見方が表わされている。

◇MediaTek posts record 2016 revenues-MediaTek sees 2016 revenue of $8.6B, a record (1月10日付け DIGITIMES)
→MediaTekの2016年売上げが、29.2%増のNT$275.51 billion($8.6 billion)と最高を記録、中国のhandset clientsの力強い業容およびスマートフォン半導体市場のシェア拡大が、MediaTekのこの売上げにつながっている旨。

◇TSMC 4Q16 revenues beat guidance (1月10日付け DIGITIMES)
→TSMCの2016年12月連結売上げがNT$78.11 billion($2.45 billion)、前月比約16%減、前年同月比33.9%増。第四四半期売上げが前四半期比0.7%増のNT$262.23 billionと最高を記録、10月半ば時点の同社見積もり、NT$255-258 billionを上回った旨。TSMCの2016年売上げ総計は12.4%増のNT$947.94 billion、年間最高の旨。

◇TSMC 2016 EPS reaches NT$12.89 (1月12日付け DIGITIMES)
→TSMCの2016年net profitsがNT$334.25 billion($10.5 billion)と最高を記録、EPS(Earnings Per Share)がNT$12.89に達している旨。このEPSの結果は、市場観測筋の見方、NT$12〜NT$12.50を上回っている旨。

◇TSMC expects up to 10% revenue drop in 1Q17, cautious about 2Q (1月13日付け DIGITIMES)
→TSMCが、2017年第一四半期の売上げについて前四半期比最大10%落ち込むと予測、第二四半期の展望を巡って注意を表わしている旨。2017年第一四半期の売上げをNT$236 billion($7.5 billion)〜NT$239 billionと見ており、NT$262.23 billionを記録した前四半期からは8.8-10%減の旨。業界筋は、2017年前半のTSMCの売上げの見方は16-nm半導体需要の低迷、並びに10-nm半導体の主要顧客への出荷遅れによるとしている旨。

【450-mmの活動停止】

450-mmシリコン基板への移行を支援する機関、Global 450 Consortium(G450C)が、以下の状況、事情含みで活動停止の事態に瀕している。Intel, TSMC, Globalfoundries, IBM, Samsung, SUNY Polytechnic Instituteが関わる共同R&Dプログラムであるが、optional Phase 2には正当なタイミングではないと結論づけて、昨年末に活動から引いた経緯の模様である。

◇Chip firms walking away from landmark SUNY Poly program-G450C group loses members after arrest (1月10日付け Times Union (Albany, N.Y.))
→Global 450 Consortiumの2つの創設メンバーが、半導体業界の300-mmシリコンウェーハから450-mm基板への移行を支援するよう設立された該機関での活動を停止の旨。SUNY Polytechnic Institute presidentでG450Cを創設したCEOのAlain Kaloyeros氏が、連邦および州の入札談合の咎めで昨年逮捕されている旨。

◇No Sign of 450mm on the Horizon (1月13日付け EE Times)
→VLSI Research社のchairmanでベテラン半導体装置アナリスト、G. Dan Hutcheson氏。「450-mmウェーハは、たぶんさらに5-10年は動かない。半導体装置メーカーの間にコンセンサスがあり得るかによって、戻ってくる。」


≪グローバル雑学王−445≫

最近ではオリンピック、そしてカーニバルと、陽気なイメージが先行するラテンアメリカであるが、かつてスペイン、ポルトガル、フランスの植民地であった20の独立国における亀裂と暴力について、

『紛争・対立・暴力 −世界の地域から考える』
 (西崎文子・武内進一 編著:岩波ジュニア新書 842) …2016年10月20日 第1刷発行

より考えてみる。膨大な混血人口があって「先住民族対白人」という紛争やテロはほとんどない一方、暴力犯罪が多く貧富の格差により先進国並みの都市化率など誘因となって拡大する状況がみられている。


II 亀裂と暴力を考える

ラテンアメリカ―――犯罪と社会格差 …文章(5)

・ラテンアメリカ…中南米に位置、かつてスペイン、ポルトガル、フランスの植民地であった20の独立国
・ラテンアメリカでは民族的・宗教的暴力は少ない
 →かつては多かった独裁政権による拷問、虐殺や内戦による被害も、今ではだいぶ少なくなった

◆政治的暴力の低下
・20世紀後半までは、独裁政権が国内の反対派を迫害、虐殺することが横行
 →現在では、かつてのようなひどい弾圧はなくなっている
・もともとラテンアメリカは、相対的に戦争が少ない地域
 →1980年代以降は、国境問題を国同士の交渉や国際的仲裁、あるいは国際司法裁判所で解決する傾向
・暴力の現状、過去と比較すれば、相当ましになったことは事実
 →現在では、例えば中東、アフリカ、南アジアといった地域と比べると、格段にましであると言える

◆現代ラテンアメリカの「亀裂」
・ラテンアメリカでは先住民族が、独立以後も社会の底辺に留め置かれ、貧困や差別に苦しんだ
 →1990年前後から先住民族の権利回復運動が活発化
・しかし先住民族は、「先住民族対白人」という図式で武力紛争やテロに訴えることはほとんどなかった
 →1)膨大な混血人口が、白人と先住民族との間のいわば「緩衝材」として存在
 →2)先住民族が圧倒的に弱かった。先住民という単位で団結することさえ容易ではない
 →3)先住民族が、自らの地位向上のために、自分たちのコミュニティの団結以外に何にすがれるのか
   →人権や国際法といった、もともとは白人がもたらした規範や仕組み
・政治家の多くは先住民族の味方をしてくれない
 →選挙の票田としても少数派
 →誰かと言えば、NGOや国連機関
⇒今日では人種や民族をめぐる暴力的紛争はほとんど見られなくなっている
・次に宗教。異なる宗教間の暴力は、ラテンアメリカではほぼ不在
 →どの宗教の人も普通に付き合っており、宗教的少数派に対する襲撃もない
・ラテンアメリカの現代史において暴力的紛争の原因は何だったのか
 →政治権力や経済的利害をめぐるもの
・異なる民族や宗教への敵意が大きな要因となる紛争がきわめて少ないという点で、ラテンアメリカは世界の他の地域と大きく異なる
 →ただし過去の政治的亀裂や人権侵害の傷跡が影を引きずっている国は、チリやアルゼンチンなどはじめ少なからず存在
・もう1つ、ラテンアメリカで顕著な亀裂と呼びうるのは、貧富の格差
 →過去から現在まであまり変わっていない
 →割合から見れば、サハラ以南のアフリカの国々よりラテンアメリカの方が不平等な国が多い

◆ラテンアメリカの暴力の現在
・現在のラテンアメリカではどういう暴力があるのか
 →真っ先に挙げられるのは犯罪の暴力
 →一般犯罪では、同じく中南米に位置する非ラテン系のカリブ諸国とともに、世界でも危険な方の地域
・特にホンジュラス、エルサルバドル、グアテマラの3ヶ国
 →中米の「北の三角形」(Northern Triangle)
 →ベネズエラやコロンビアなどとともに高い殺人率で有名
  …青少年ギャング団の存在
  …麻薬マフィアの活動
・ラテンアメリカの犯罪の多さは、貧富の格差と無関係ではない
 →先進国並みの都市化率が犯罪の多発と関係しているかも
・そもそも中米地域の青少年ギャングの起源
 →1980年代の中米紛争の時代に多数のエルサルバドル人が米国に亡命したことから始まる
・一般犯罪以外の暴力の要素としては、警察や軍などの治安部隊による暴力を挙げないわけには
 →かなりの国で拷問が相変わらず広範に報告
・治安部隊の暴力の関連で、今世紀に入ってからの大きな問題
 →エネルギー・鉱山開発、ダム開発、道路建設などの巨大開発プロジェクトに対する抗議運動と、それに対する弾圧
 →開発プロジェクトが、ラテンアメリカ中で引き起こす先住民などの地域住民との摩擦
  →住民の健康や農牧業に被害
  →住民の飲料水や農業用水の枯渇
・「社会的抗議の犯罪化」と呼ばれる現象が問題に
 →治安部隊による過剰な暴力の行使
 →開発に反対する住民のリーダーが、脅迫、襲撃、暗殺の被害に
・農地をめぐる紛争も、いくつかの国で深刻な暴力を引き起こしている
・ラテンアメリカの暴力の中でやや特殊なのは、社会的に望ましくないとされる人々の抹殺
 →「社会浄化」(social cleansing:スペイン語でlimpieza social)と呼ばれることがある
・1つだけ他の地域と共通しているのは、人権状況の改善を求めて現地で頑張っている人たちが少数でも必ずいること

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