本年の半導体M&A金額、すでに従来記録を大幅更新、続く動き&波紋
新型iPhoneが発売されて今後の売れ行きが注目される一方、TSMCが第四四半期の売り上げについて第三四半期を下回る見込みを発表、supply chainに敏感な反応を呼んでいる。市場の飽和感が否めない中、半導体業界のM&A(企業の合併・買収)の動きがこの春から大型規模で絶え間なく続く感じ方があり、本年これまでのM&A関連総額が従来の年間最高の2006年のそれをすでに4割近く上回っているというデータが見られている。欧米での新たな動き、そして台湾で引き続く応酬、波紋に注目している今回である。
≪絶え間ない波動≫
M&A取引関連総額が今年これまでで、すでに従来の年間最高記録をそれも大幅に上回っているというデータが、以下の通り見られている。
◇2015 already a record year for chip sector M&A-Semiconductor industry M&A deals' value hits annual record (9月21日付け CNBC)
→2015年これまでの半導体業界におけるmergers-and-acquisitions(M&As)関連金額が、昨年の水準の2倍以上、annual M&A取引の記録を破っている旨。今年の総額が今までに$104.7 billionとなり、従来の記録、2006年全体の$75.2 billionを上回っている旨。
◇Hunting Big Game in Chip Deals-Low valuations and strategic plays have made semiconductor mergers much bigger year. (9月21日付け The Wall Street Journal)
このようなM&Aの現状をどう見るか。業界トップの見方の1つである。
◇The Price Of Consolidation-Rising costs and the difficulty of shrinking features are changing the dynamics of who buys IP, tools and chips.-Experts examine why the semiconductor industry is consolidating (9月24日付け Semiconductor Engineering)
→安い資本が半導体業界の統合を引っ張っている要因にあり、今年は通常総件数の2倍になる見込みの旨。半導体業界が統合するのは正常ではなく、過去50年はdeconsolidationで過ごしている、とMentor Graphicsのchairman and CEO、Wally Rhines氏。
今また、Apple向けなどpower management半導体のDialog Semiconductor PLC(英国)が、microcontroller(MCU)メーカー、Atmel社(米国)を結構な規模で買収するという動きが、以下の通りどっと表わされている。Internet of Things(IoT)プラットフォーム構築がその主旨と、Dialogからのコメントである。
◇Dialog Semiconductor to buy U.S. peer Atmel for $4.6 billion (9月20日付け Reuters)
◇Dialog Semiconductor to Buy Atmel for $4.6 Billion-Deal expected to be completed in first quarter of 2016 (9月20日付け The Wall Street Journal)
◇Dialog to Acquire Atmel for USD4.6bn in IoT Push (9月21日付け EE Times)
→Dialog Semiconductor PLC(英国)が、$4.6 billion cash-and-stock取引でのAtmel社(San Jose, Calif.)買収に合意、Internet of Things(IOT)市場のより大きなslice獲得に向けた動きの旨。Dialogは、Apple社などからのhigh-endスマートフォンでのpower management半導体を販売、Atmelは、多くの種類のconsumerおよびビジネスハードウェアに向けてcomputing powerを供給するmicrocontrollers(MCUs)に重点化の旨。
◇Dialog Semiconductor to acquire Atmel for $4.6 Billion (9月21日付け ELECTROIQ)
◇Dialog Shares Slump After $4.6 Billion Deal to Acquire Atmel-Dialog Semi reaches $4.6B deal to purchase Atmel (9月21日付け Bloomberg)
→Dialog Semiconductorが、microcontroller(MCU)メーカー、Atmel買収に向けて約$4.6 billionのcashおよび株式取引で他の入札者を上回り、今年の半導体業界における合併の流れが続いている旨。該取引は2016年第一四半期に完了予定、該買収によりInternet of Things(IoT)のより良いプラットフォームが得られる、とDialogのCEO、Jalal Bagherli氏。
台湾でのASEのSPIL株式買収の件は、ASEがSPILの25%株式買収を発表、直後にFoxconnとSPILの株式交換による戦略的連携に強く反対するとASEからのステートメントが以下の通り打ち出されている。
◇Chip Packager ASE Wins Fight for $1.1 Billion Stake in Rival-Advanced Semi obtains $1.1B stake in Siliconware Precision Industries (9月23日付け Bloomberg)
→Advanced Semiconductor Engineering(ASE)のSiliconware Precision Industries(SPIL)株式買収は、$1.1 billion stakeで24.99%に限られる旨。SPILは、ASEの提示額は低過ぎて、株主には拒絶するよう求めていた旨。
◇ASE obtains 25% SPIL shares (9月23日付け DIGITIMES)
→Advanced Semiconductor Engineering(ASE)が22日、Siliconware Precision Industries(SPIL)の25%株式買収を発表、今回の目標を達成の旨。ASEは特に言及、ASEのSPILへの投資は純粋な財務投資であり、SPILのoperationsには立ち入らず、SPILの現在の従業員の権利や利益に影響を与えることはあり得ない旨。
◇ASE opposes SPIL-Foxconn tie-up-Foxconn-SPIL deal meets with objection from ASE (9月24日付け DIGITIMES)
→(1)Advanced Semiconductor Engineering(ASE)が、Siliconware Precision Industries(SPIL)のFoxconn Electronics(Hon Hai Precision Industry)との株式交換取引への反対を表明するステートメントを出した旨。ASEは、「Hon Haiとの株式交換を促進するSPILの新株発行提案は、SPILの現在の株主には株式の希薄化となる。2015年10月15日予定のSPILの臨時株主総会で投票権行使ができそうもないので、SPILのchairman、Bough Lin氏に対し該Hon Hai取引に対する強い反対を表明したい。」としている旨。
(2)Siliconware Precision Industries(SPIL)の株式25%をもつAdvanced Semiconductor Engineering(ASE)が、Foxconn Technology GroupにSPILにおける21.24%のequity stakeを与える株式交換合意提案に反対している旨。ASEはSPILの最大株主であるが、SPILの10月15日臨時株主総会の前にその投票権が付与されない旨。
これに対してFoxconn側ではSPILとの連携関係の引き続き推進を決定、目の離せない動きとなっている。
◇Hon Hai to continue to push for stock swap with Siliconware (9月24日付け Focus Taiwan News)
→世界最大のcontract electronicsメーカー、Hon Hai Precision Industry Co.(鴻海)が、株式交換によるIC実装&テストサービス・プロバイダー、Siliconware Precision Industries Co.(SPIL)との戦略的連携を引き続き推進することを決定の旨。
≪市場実態PickUp≫
【TSMCの売上げ見込み】
TSMCが第三四半期および第四四半期の売上げを予測、第三四半期については前回7月時点より若干増としたものの第四四半期はこれより減るという見方で、敏感なsupply chain筋に波紋を呼んでいる。飽和感が増すスマートフォンの模様を見ながらの慎重な空気が市場に高まっている。
◇TSMC expects sales drop in 4Q15 (9月23日付け DIGITIMES)
→TSMC発。同社第三四半期売上げが、米ドル対NT dollar交換率がより有利になって、7月下旬に出したガイドを越えると見ている旨。しかしながら、第四四半期売上げは前四半期比減少すると見る旨。TSMCは現時点、第三四半期売上げをNT$211 billion($6.42 billion)〜NT$213 billionと予想、前回の見積もり、NT$207-210 billionを上回っている旨。
◇Chip maker predicts poor sales-TSMC expects declining revenue in Q4 (9月23日付け TechEye.net)
→TSMCが、第四四半期の売上げについて第三四半期を下回ると見ており、その理由には触れていない旨。米国と台湾の通貨の間の交換率が、第三四半期売上げを押し上げている旨。
◇TSMC's 2015 Forecast May Be Warning for Supply Chain (9月24日付け EE Times)
→TSMCが昨日出した2015年売上げ予測が、electronics supply chainの他のメーカーに警告に響く可能性の旨。年間の売上げの伸びは2014年に対して依然二ケタに近いとしているが、2015年の予想を削減するのはこれで今年3回目となる旨。
◇TSMC、売上高見通し上方修正 (9月25日付け 日経産業)
→TSMCの2015年7-9月期の連結売上高が7月時点の予想よりも約2%多い2110億〜2130億台湾ドル(約7600億〜7700億円)になると発表、為替の台湾ドル安が主因の旨。
◇IC backend houses to stay cautious as TSMC warns of sales drop in 4Q15-IC supply chain could feel impact of TSMC's expected Q4 revenue drop (9月25日付け DIGITIMES)
→TSMCが2015年第四四半期売上げについて前四半期比約6%減と予測、Advanced Semiconductor Engineering(ASE)はじめbackendメーカーが、2016年第一四半期に及ぶビジネス見通しに慎重なままの様相の旨。
【IoTで伸びるMCU市場】
IoT応用の増大がmicrocontrollers(MCUs)市場の伸びに結びつく、とIHS社の見方が表わされている。MCU市場全体の伸びが滞りがちな中、孤軍奮闘の様相の読みとなっている。
◇IoT Boosting MCU Market, Says IHS (9月21日付け EE Times)
→IHS社発。connected cars, wearable electronics, building automationなどIoT応用で用いられるMCUs市場が、2014年の$1.7 billionから2019年には$2.8 billionに全体compound annual growth rate(CAGR)が11%で伸びる見込み、一方、MCU市場全体は、2019年までCAGRは4%止まりと見ている旨。
◇Microcontroller market growth tied to rise in IoT applications (9月21日付け DIGITIMES)
◇Microcontroller market growth tied to IoT applications, IHS (9月22日付け ELECTROIQ)
◇IoT is good news for microcontrollers (9月22日付け Electronics Weekly (U.K.))
【インド関係】
現在はSPILとの戦略的連携で注目のFoxconnであるが、インドに向けて改めて基地展開が規模を高めて図られている。
◇Foxconn comes back bigger and better (9月22日付け EE Times India)
→台湾のcontract electronicsメーカー、Foxconnが、インドに戻ってきて、こんどの投資はより安定で遠大に思われる旨。いくつかの段階をとってインドにより大きなR&Dおよび製造基地を構築していく模様の旨。
solar電力問題について、Tesla Motorsとのトップ外交が予定されている。
◇Modi to tap Tesla for solar battery solution (9月23日付け EE Times India)
→Live Mint発。インドのsolar electricity計画筋が電力蓄積問題で悩まされており、同国のNarendra Modi首相がこの週末、Tesla Motorsを訪問、この件に関するソリューションを見い出そうとしている旨。
インドのPC市場のデータが次のように表わされている。低迷の中での若干の回復が見られている。
◇India PC market rebounds in Q2 2015 (9月24日付け EE Times India)
→International Data Corporation(IDC)発。2015年4-6月四半期のインドでのPC出荷が2.19 million台、前四半期比1.4%増、前年同期比14.1%減。
consumer PC市場は1.15 million台、前四半期比1.3%減。
【European MEMS Summit】
IoTに連動して拡大する期待感が高まるMEMS技術&市場であるが、第1回のEuropean MEMS Summitが、食をテーマに開催されているミラノ国際博覧会と同じミラノで行われている。目についた以下の内容である。
◇2015 European MEMS Summit: Are we Living La Vida Loca or La Dolce Vida? (9月20日付け 3D InCites)
→先週のSEMI Europe主催第1回European MEMS Summit(2015年9月18-19日:Milan Italy)について。テーマは、“Sensing the Planet, MEMS for Life”。
◇Not Enough Money in MEMS, Own the Data, Says InvenSense CEO (9月22日付け EE Times)
→SEMI主催のEuropean MEMS Summit(2015年9月17-18日:Milan, Italy)にて、ファブレスMEMSメーカー、InvenSense社(San Jose, Calif.)のCEO、Behrooz Abdi氏。MEMSセンサコンポーネントメーカーは、データanalyticsなど完全なIoT応用ソリューションを提示すべき旨。
【ARMの新デザインセンター】
ARMの新しいCPUデザインセンターが、台湾・新竹にオープン、アジアでは初めてとのことである。台湾のIC設計業界との今後の結びつき、展開に注目である。
◇New ARM CPU design center opens in Taiwan (9月23日付け DIGITIMES)
→台湾のHsinchu Science Park(HSP)にある新しいARM CPU design centerが22日、正式オープン、従業員が現在の43人から2015年末までに100人に達する旨。該センターは、ARMの世界で4番目、Asia-Pacific地域では初めての旨。
◇ARM to double its work force at Hsinchu center-ARM plans to double number of employees at CPU design facility in Taiwan (9月23日付け The Taipei Times (Taiwan))
≪グローバル雑学王−377≫
成長力を発揮して先進諸国に対抗、抜き去らんばかりに迫っている新興諸国の実態および今後に向けてそれぞれに抱える問題に、
『地図で読む「国際関係」入門』
(眞 淳平 著:ちくまプリマー新書 239) …2015年8月10日 初版第1刷発行
より目を入れていく後半である。ウクライナ問題を抱えるロシア、オリンピックを来年に控えるブラジル、そしてあまりもの経済・社会状況の違いがある諸国から成るASEANに注目していく。
第3章 新興国―――世界を揺さぶる成長力 =2分の2=
◆求心力の低下に悩むロシア
・プーチン政権が発足した2000年前後から、経済が急速に上向きへ
→2012年の段階で、ロシアのGDPは世界第8位、約203兆円
・とは言え、近年、ロシアには課題が山積
→求心力の低下
…かつて影響下に置いていた東欧諸国は、多くがすでに欧州連合(EU)に加盟
…「北大西洋条約機構(NATO)」にも、東欧諸国のほとんどが加盟
・旧ソ連構成国とロシアとの関係は、より複雑
→ベラルーシとカザフスタン、アルメニア、キルギスは、ロシアとの域内経済統合を進める「ユーラシア経済同盟」を構成
→エストニアとラトビア、リトアニアの「バルト三国」は、西側諸国の一員としての立場を明確に表明
◆ウクライナへの介入を生んだ不安と怒り
・非常に微妙な問題を抱えているウクライナ、グルジア(ジョージア)とロシアとの関係
→西側への帰属を望む住民とロシア系住民が、どちらも多数存在
・グルジアは現在、欧州への統合を外交政策の柱に
・歴史的にロシアの「兄弟国」として強固な絆で結ばれてきたウクライナの姿勢は、ロシアに強い不安と怒りを喚起
→2014年3月の住民投票で、クリミアのウクライナからの独立とロシアへの編入が支持
→ロシアは、すぐにクリミア併合を実施
→欧米諸国などは2014年7月以降、ロシアに対する経済制裁を強化
・ウクライナの事態は、すべて収まる可能性は低い
→自国の勢力圏の縮小に対する、プーチン大統領に代表されるロシア全体の不安感
・ロシアは、欧米や日本なども含めた周辺各国と協調的な関係を築いていくことこそ、唯一の繁栄の道であるように見える
◆ブラジルの未来は明るいか
・南半球の新興国、ブラジル
→世界第5位の国土面積と人口
→世界一の輸出量を誇る鉄鉱石をはじめとする天然資源も豊富
・2012年時点、ブラジルのGDPは世界第7位、約225兆円
・この国にもたくさんの課題
→国民の税負担率は2012年前後の段階で、GDPの約38%
→一方、道路などインフラ整備への政府の投資は遅れ気味
→政府の適切な政策こそが不可欠
◆拡大するASEAN
・1967年発足の東アジア諸国連合(ASEAN)
→30年以上の時間をかけて10か国体制に拡大
→2013年の人口は、合計6億2000万人弱
…EU加盟28か国の合計、約5億人よりも多い数字
・東西冷戦が終結すると、アジアにおける国際関係にも変化
→イデオロギーや域外大国の意向に縛られない、一体性を伴った独自の「地域協力」の枠組みに変質
◆域内統合が進む
・主に経済面から進む統合の動き
→1992年、「ASEAN自由貿易地域(AFTA)」創設の協定締結
→2010年までに、例外品を除き、域内の関税を撤廃することに成功
・好調な経済を背景に、域内統合を進めようという動きも加速
→中心となるのが、「ASEAN共同体」構想
…3つの柱:(1) 政治・安全保障共同体
(2) 経済共同体
(3) 社会・文化共同体
・経済一体化を進めることで、より強い経済を作るとともに、域内の格差縮小にも注力
→世界経済の中で確固たる地位を占めるように
◆ASEANの抱える問題
・ASEANには難題 →加盟国の経済・社会状況の違い
→一人当たりGDP:2012年の数字
…最多のシンガポールが、最少のカンボジアの50倍以上
→GDP、2012年の数字
…最大のインドネシアが、最小のラオスの100倍近く
→経済・社会状況の違いを反映
・もう1つ、勢力を拡大しつつある中国との関係
→ASEAN各国内でもさまざまな議論
…フィリピンやベトナムなど、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島やパラセル(西沙)諸島の領有権で意見が対立