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2015年前半の世界半導体販売高が前年比4%増、ランキングの波乱

米国Semiconductor Industry Association(SIA)から恒例の月次世界半導体販売高の発表が行われ、今回はこの6月、そして4-6月の第二四半期、1-6月の前半、上半期のデータが表れている。6月販売高は前月比0.4%減、前年同月比2.0%増であったが、第二四半期は史上最高を記録、そして前半は前年同期比4%増、と今までの最高である昨年、2014年を上回るペースを維持している。また、第二四半期そして前半の半導体サプライヤランキングが表わされ始めており、トップ10あるいは20の大きな顔ぶれの変化とともにここのところのM&A後を想定したデータが目を引いている。

≪2015年6月、第二四半期、上半期の世界半導体販売高≫

米SIAからの今回の発表が、次の通りである。

☆☆☆↓↓↓↓↓
◯2015年前半のグローバル半導体販売高が、前年同期比4%増−2015年第二四半期販売高が、前四半期比1%増、前年同期比2%増 …8月3日付け SIAプレスリリース

半導体製造&設計の米国のleadershipを代表するSemiconductor Industry Association(SIA)が本日、2015年第二四半期の世界半導体販売高が$84.0 billionに達し、前四半期比1.0%増、前年同期比2.0%増と発表した。
2015年6月のグローバル販売高は$28.0 billionに達し、前月の$28.1 billionから0.4%減、前年同月の$27.4 billionからは2.0%増であった。2015年前半の販売高累計は、前年同期比3.9%増となっている。月次販売高の数値はすべてWorld Semiconductor Trade Statistics(WSTS) organizationのまとめであり、3ヶ月移動平均で表わされている。

「マクロ経済の逆風および需要軟化からグローバル半導体市場の伸びがいくぶん鈍っているが、該業界としては第二四半期販売高が依然史上最高を示しており、半導体売上げの最高を記録した2014年の販売高のペースを上回ったままである。」とSemiconductor Industry Association(SIA)のpresident & CEO、John Neuffer氏は言う。「Americas市場は引き続き堅調に販売高が前年比増加しており、グローバル市場はこんどで26ヶ月連続の前年比増加となっている。」

地域別では、6月の販売高は前年6月に比べてChina(7.8%), Americas(5.6%),およびAsia Pacific/All Other(5.2%)で増加したが、Europe(-11.5%)およびJapan(-13.6%)では減少した。前月5月と比べると、Japan(1.0%)およびChina(0.6%)で僅かながら増加、しかし、Asia Pacific/All Other(-0.6%), Americas(-1.6%), およびEurope(-1.7%)では幾分減少している。EuropeおよびJapanにおける販売高figuresは、通貨価値低下からいくらかインパクトを受けている。

                       【3ヶ月移動平均ベース】

市場地域
Jun 2014
May 2015
Jun 2015
前年同月比
前月比
========
Americas
5.24
5.62
5.53
5.6
-1.6
Europe
3.19
2.87
2.83
-11.5
-1.7
Japan
2.97
2.54
2.57
-13.6
1.0
China
7.54
8.08
8.13
7.8
0.6
Asia Pacific/All Other
8.50
9.00
8.94
5.2
-0.6
$27.44 B
$28.11 B
$27.99 B
2.0 %
-0.4 %

--------------------------------------

市場地域
1- 3月平均
4- 6月平均
change
Americas
5.81
5.53
-4.7
Europe
2.96
2.83
-4.4
Japan
2.55
2.57
0.8
China
7.83
8.13
3.8
Asia Pacific/All Other
8.57
8.94
4.4
$27.70 B
$27.99 B
1.0 %
--------------------------------------

「グローバル半導体販売高は米国業界の力強さの1つの指標であり、グローバル販売高全体の半分以上を占めている。」とNeuffer氏は言う。
「Washingtonのpolicymakersはさらにイノベーションを推進していく政策を制定して、我々の業界がもっと効果的にグローバルに競争できるようにすべきである。我々は、米国半導体業界および我々の経済を強化する成長支持政策を進めるよう働くCongressional Semiconductor Caucus(議会半導体政策決定会合)の新設を賞賛するものである。これは、上院議員のJames Risch氏(R-Idaho), 同じくAngus King氏(I-Maine), 下院議員のPete Sessions氏(R-Texas), そして同じくZoe Lofgren氏(D-Calif.)が引っ張っていく。」

※6月の世界半導体販売高 地域別内訳および前年比伸び率推移の図、以下参照。
http://www.semiconductors.org/clientuploads/GSR/June%202015%20GSR%20table%20and%20graph%20for%20press%20release.pdf
★★★↑↑↑↑↑

これを受けた業界各紙の取り上げである。

◇Mid-year global semiconductor sales ahead of last year's pace by 4 percent (8月3日付け ELECTROIQ)

◇Global chip sales rise 2% in 2Q15, says SIA (8月3日付け DIGITIMES)

◇Highest Q2 semi sales hides dip in June-Global chip sales slip in June; Q2 is up 2% from a year ago (8月5日付け New Electronics)

この3月データから、市場地域としてChinaを従来のAsia Pacificから分けて示してあり、China以外をまとめてAsia Pacific/All Otherと表わされているが、そのChinaの業界団体、China Semiconductor Industry Association(CSIA)から昨年、2014年のChinaの半導体販売高が次のように表わされている。

◇China semiconductor sales worth $12.5bn last year - CSIA -China's 2014 chip sales totaled $12.5B (8月5日付け Electronics Weekly (U.K.))
→China Semiconductor Industry Association(CSIA)発。中国の半導体業界の昨年の売上げが$12.5 billion、その内訳が以下の通り:
 IC設計     $5 billion
 IC実装&テスト $3.8 billion
 ウェーハfab  $3.7 billion

第二四半期、そして2015年前半の半導体サプライヤ・ランキング速報が、IC Insightsにより表わされており、ファウンドリーを含めた形であるが、首位のIntelに対する2位のSamsungの急追ぶりがまず挙げられている。

◇Samsung cuts Intel's semiconductor sales lead to 16% in second quarter (8月6日付け ELECTROIQ)
→IC Insightsが今月後半リリースするAugust Update to the 2015 McClean Reportから、2015年前半半導体サプライヤ・トップ20、下記参照:
http://electroiq.com/wp-content/uploads/2015/08/semi-sales-2q15-fig-1.png

Avago/BroadcomおよびNXP/Freescaleの合併後を想定すると、それぞれ7位、10位に飛躍、そのトップ20、下記参照:
http://electroiq.com/wp-content/uploads/2015/08/semi-sales-2q15-fig-2.png

◇Samsung cuts Intel's semiconductor sales lead to 16% in 2Q15, says IC Insights (8月6日付け DIGITIMES)
→IC Insights発。Samsungの2015年第二四半期の伸び率から、Intelを捉えて世界最大手の半導体サプライヤになるよう同社が近づいている旨。2014年では、Intelの半導体販売高はSamsungを36%上回ったが、2015年第二四半期では該deltaが20pp低下、16%になっている旨。しかしながら、Intelは2015年第二四半期から第三四半期にかけて8%増の販売高を見ており、Samsungは精彩を欠くDRAM市場に直面(主にpricing圧力による)することから、第1位の座に向かうさらなる増え方をSamsungが近い将来得るのは難しい可能性の旨。

第二四半期について、Infineon TechnologiesがSTMicroelectronicsを上回っており、瞬間的かどうか、1つの波乱となっている。

◇Infineon overtakes ST-Infineon leaps over ST in Q2 chip vendor ranking (8月7日付け Electronics Weekly (U.K.))
→IC Insights発。2015年第二四半期売上げで、Infineon TechnologiesがSTMicroelectronicsを僅かに上回って欧州最大の半導体ベンダーになっている旨。2015年前半では、STがInfineonへの小さいリードを維持、と見ている旨。2015年第二四半期トップ10ベンダー、次の通り
  (金額:$ billion):

Intel
11.946
Samsung
10.3
TSMC
6.6
Hynix
4.2
Qualcomm
3.9
Micron
3.8
TI
3.0
Toshiba
2.8
Broadcom
2.1
Infineon
1.762

IHSからの前半データでは、AMDがトップ20から外れる波乱が示されている。

◇AMD Slips From Ranking of Top 20 Chip Vendors (8月7日付け EE Times)
→IHS発。ここ数年にわたって販売高が減少、6四半期連続赤字となっているAdvanced Micro Devices(AMD)社が、2015年前半の販売高ランキングでトップ20ベンダーから外れている旨。


≪市場実態PickUp≫

【インテルの'Skylake' CPU】

インテルがBroadwell後継の第6世代'Skylake' CPUを投入、果てしない高性能を追い求めるgamersなど熱狂マニアにまずは期待である。

◇Intel's Skylake Debuts at Gamecon-"Tock" Microarchitecture a Speed-Demon (8月5日付け EE Times)
→Intelが、Broadwell後継の新しいSkylake microarchitectureをGamescon Congress 2015(8月5-9日:Cologne, Germany)にて披露、該quad-core第6世代i5およびi7 quad-coreプロセッサはsingleおよびdual threads(それぞれ4および8 threads)を特徴としている旨。

◇Intel targets gamers with sixth-gen 'Skylake' CPU launch-Intel aims for gamers, hobbyists with "Skylake" processors (8月5日付け Engadget)
→Intelが水曜5日、quad-core desktop半導体、Core i7-6700KおよびCore i5-6600K "Skylake"プロセッサを投入、高性能コンポーネントに興味があるgamersなどenthusiastsに支持の期待、ともに14-nmプロセス製造の旨。Intelは、該新プロセッサに向けてZ170チップセットも披露の旨。

◇Intel targets gamers with sixth-gen 'Skylake' CPU launch (8月5日付け Engadget)

◇Intel unveils Skylake processors (8月6日付け The Australian)

マザーボード業界でもSkylake対応の競合模様が表わされている。

◇Asustek, Gigabyte to heat up competition for Skylake products-Asus, Gigabyte to battle in motherboards with "Skylake" chipsets (8月6日付け DIGITIMES)
→Intelの新しいSkylakeプラットフォームがまもなく市場に登場、Asustek ComputerとGigabyte Technologyがともに最先端技術をもってZ170-ベースのmotherboardsを準備、市場シェアのさらなる拡大を図っている一方、second-およびthird-tierベンダーはこの競合で重大なインパクトが予想され、該業界を撤退する向きもいくつか出る可能性の旨。

【48層3D NANDフラッシュ】

Samsungが主導する3D NANDフラッシュメモリであるが、SanDiskおよび東芝陣営が256Gビット、triple-level cell(TLC)、48層品サンプルで攻勢をかけている。

◇SanDisk, Toshiba double down, announce the world's highest capacity 3D NAND flash chips-SanDisk, Toshiba to offer 256Gb, 3D NAND flash memories (8月3日付け Computerworld)
→SanDiskと東芝が来月、triple-level cell(TLC), 48-層3D NANDフラッシュメモリデバイスのサンプル配布を開始、256 gigabitsのデータを蓄えられる旨。両社は該先端メモリを2016年から販売する計画、四日市の新しいウェーハfab製造拠点で作られている旨。

◇Toshiba develops world's first 256Gb, 48-layer BiCS FLASH (8月4日付け ELECTROIQ)
→Toshiba America Electronic Components(TAEC)社が、三次元(3D) stacked cell構造フラッシュメモリ、BiCS(Bit Cost Scalable) FLASHの新世代版を披露の旨。

◇Toshiba unveils 48 layer 256Gbit flash memory (8月4日付け New Electronics)

◇SanDisk, Toshiba Manufacture 3D TLC NAND (8月5日付け EE Times)

◇SanDisk, Toshiba announce 256Gb, 48-layer NAND chips (8月5日付け DIGITIMES)

関連して、東芝は、恒例のFlash Memory Summit 2015では以下の発表を行うとしている。

◇Toshiba develops world’s first 16-die stacked NAND flash memory with TSV tech (8月6日付け ELECTROIQ)
→東芝が、世界初、Through Silicon Via(TSV)技術を活用した16-die(max.) stacked NANDフラッシュメモリの開発を発表、該prototypeをFlash Memory Summit 2015(8月11-13日:Santa Clara, USA)で示す旨。

【PC DRAM価格下落】

PC DRAMの価格低下が止まらず、年初から25%安という7月後半の状況となっている。Samsungはじめ対応、対策が以下の通りである。

◇Falling chip price weighing on Samsung, SK -Samsung, SK Hynix feel effects of falling PC DRAM prices (8月3日付け The Korea Times (Seoul))
→Bernstein Research、月曜3日発。半導体価格の低下が世界2大メモリ半導体メーカー、Samsung ElectronicsおよびSK hynixを悩ませている旨。
PC DRAM価格が、予想よりずっと悪く、7月に15%低下と見ている旨。

◇Samsung cutting DRAM capacity to halt price falls, says report (8月4日付け DIGITIMES)
→最近の中国語Commercial Times発。Samsung Electronicsが、PC DRAMの生産outputを落とす一方、8月の契約価格を変えないようにしている旨。この動きは、PC DRAM価格の一層の下落を食い止める期待の旨。

◇Samsung to cut shipment of PC DRAMs, focus on mobile-Samsung dials back on PC DRAM, boosts mobile, server memories (8月5日付け The Korea Herald (Seoul))
→Samsung Electronicsが、サーバDRAMsの方を選んでPCs用DRAMsの生産を減らしている旨。Samsungはまた、Appleの新しいiPhoneモデル投入を控えてモバイルDRAMに重点を置いている旨。IHSの見積もりでは、今年のサーバDRAM市場は$8 billion規模の旨。

◇DRAM、大口続落、パソコン向け、年初比25%安、7月後半 (8月5日付け 日経)
→パソコン用DRAMの大口取引価格が続落、7月後半分は指標となるDDR3型の4ギガビット品が1個2.75ドル程度で、7月前半分と比べて約4%下がった旨。パソコン販売の落ち込みが長引いていることを映してDRAMへの引き合いは弱く、大口価格は年初比で約25%安い水準にある旨。

DRAMモジュールの価格も次の状況である。

◇4GB DDR3 contract prices to fall below US$20 in 3Q15, says DRAMeXchange-DRAMeXchange: DDR3 contract prices will go below $20 in Q3 (8月7日付け DIGITIMES)
→4-gigabyte DDR3 DRAMモジュールのcontract価格が6月の$24から7月には$20.50平均に低下、DRAMeXchangeでは今四半期に$20以下に引き続き下がると予想する旨。グローバル経済が不安定な周期に入っている、とDRAMeXchangeのassistant VP、Avril Wu氏。


【自前のプロセッサ】

飽和感の一方、競争激化のスマートフォンであるが、XiaomiそしてHuaweiと中国勢の最大手が自前のモバイルプロセッサ作りに励む動きが伝えられている。Qualcomm、MediaTekには穏やかでない動きに映ってくる。

◇Xiaomi Could Debut Their Own Processors In 2016-Report: Xiaomi to field its own processor next year (8月5日付け Ubergizmo.com)
→ubergizmo.com website発。Xiaomiが、ARM Holdingsから設計licensesを得て、同社スマートフォンラインに向けた自前のプロセッサ作りに取り組んでいる旨。MediaTekおよびQualcommが、Xiaomiが用いるプロセッサの大方を現在供給している旨。Xiaomiはまた、Qualcomm Chinaの前president、Wang Xiang氏を採用の旨。

◇Xiaomi reportedly developing ARM solutions, paper says (8月5日付け DIGITIMES)
→中国のhandset業界筋の弁を引用、21st CenturyBusiness Herald発。
Xiaomiが、ARM半導体アーキテクチャー・ベースのモバイルプロセッサ開発に従事、2016年始めに最初のhandsets用社内開発半導体をもつ見込みの旨。Xiaomiは、ARMプロセッサ技術へのアクセス権を得ているが、本記事はXiaomiが社内半導体設計チームをもっているかどうかは特に触れていない旨。

◇Huawei, Xiaomi to hike adoption of in-house-developed smartphone APs (8月7日付け DIGITIMES)
→台湾のIC design houses発。Huawei TechnologiesおよびXiaomi Technologyが、自身のブランドのスマートフォンで社内開発のARM-architecture application processors(APs)の採用を増やす見込み、HuaweiのIC設計子会社、HiSilicon Technologiesが科学技術的capabilityを改善、Xiaomiは自身で用いるAPs開発に向けて中国のLeadcore Technologyからlicensesを得ている旨。

【女性、マイノリティ支援】

米国Obama大統領の演説で女性、マイノリティの地位向上の主張が見られるが、インテルがハイテク分野でのイニシアティブをとる具体的な活動が以下の通り示されている。

◇Intel ups referral bonus to achieve more diversity in its workforce-The company will now pay as much as $4,000 to employees who refer women, minorities, and veterans who are ultimately hired by Intel as it works to improve diversity in its workforce.-Intel pays double bonuses in hiring women, minorities, vets (8月4日付け CNET)
→Intelが、女性、マイノリティおよびmilitary veteransの採用を手助けする従業員に最大$4,000の紹介料(referral bonuses)を支払っている旨。同社は今年始め、全従業員の多様性を高めるために5年にわたり$300 millionを充てるとしている旨。

◇Intel to collaborate with Georgia Tech (8月5日付け ELECTROIQ)
→Intel Corporationが、Georgia Institute of Technologyとのengineering pipeline連携を深めるために向こう5年にわたって$5 millionを出資、女性および不当に締め出されているマイノリティがcomputer科学技術学位を始めて完了するよう奨励、確保するresearch-drivenソリューションの運用を行う旨。初めてのWhite House Demo Dayとともに発表されたこのIntel & Georgia Techプログラムは、Intelが進めているハイテク業界における多様性を改善するcommitmentに立っている旨。


≪グローバル雑学王−370≫

イスラム国(IS=Islamic State)を巡る動きのニュースに日本人があらわれて祈る思いの日々があったが、過激派による悲劇の結末にどうしても測れない次元というものを感じざるを得ないところがある。このアラブ中東地域におけるこのような事態に立ち至る温床はどこにあるか、

『「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質』
 (松本 利秋 著:SB新書 301) …2015年5月25日 初版第1刷発行

より遡るこの地域の歴史をまず見て、2010年のチュニジアが発端の「アラブの春」からイスラム国が台頭してくる経緯を辿っていく。第一次世界大戦時点でのイギリスはじめ連合国側が引いたいかにも人工的なこの地域の国境線を改めて見直している。


第三章 アラブの春から始まった新しい対立軸

■西欧列強に寸断されてしまったアラブの文化と歴史

◇不自然な中東地図の国境線
・中東地域の地図を開けば、国境線に誰しも違和感を覚えるはず
 →直線や曲線、いかにも人工的なもの
・その理由の一つは、砂漠地帯であること
 →もう一つの見方として、11世紀から始まったキリスト教徒の十字軍とイスラム教徒との攻防戦
・第一次世界大戦当時、連合国側は、大戦後のオスマン帝国における勢力分割について秘密裏に協議
 →1916年に協定が成立
 →いかにも人工的に見える国境線

◇ユダヤとアラブを翻弄したイギリスの三枚舌外交
・1915年の「フサイン・マクマホン協定(Husayn-MacMahon Agreement)」
 →イギリスが中東のアラブ国家独立を約束
・1917年の「バルフォア宣言(Balfour Declaration)」
 →ユダヤ資金を戦費として調達する見返りとして、パレスチナにユダヤ人居留地の設定を明記
・これら2つの協定および宣言を一括り、相矛盾するイギリスの三枚舌外交
 →上記の1916年の秘密裏協定
・第一次世界大戦後、西欧列強によるアラブ分割を決めた秘密条約「サイクス・ピコ協定(Sykes-Picot Agreement)」
 →「フサイン・マクマホン協定」とはまったく正反対
 →イスラム教徒のアラブ人たちは、これまでに西欧流の近代国家が行う狡猾な外交戦略や経済戦略にまったく触れていなかったため、まんまと嵌ってしまった

■「イスラム国(IS)」は、国境線をアラブ人の手で引き直す試みか

◇ふたたび始まった「テロとの戦い」
・2014年から2015年、イスラム国(IS=Islamic State)から世界中に流された酷い映像
 →アメリカをはじめとする西欧諸国は、イスラム国に対して軍事的制裁も含めた行動を即座に
・「テロとの戦い」が対立軸として再登場した感

◇西欧の押し付けた国境の打破を目指すイスラム国
・イスラム国の主張する国家理念
 →イスラム原理主義に基づく、徹底したカリフ国家を目指す
 →2050年までに全世界をイスラム国が飲み込んでいく
・西欧列強が第一次世界大戦後に設定した中東の国境線をイスラム国のやり方で設定し直そうという意図の表れ
 →イスラム国が、国家樹立の目標の1つとして「サイクス・ピコ条約の打破」
 →イスラム法による中東の新秩序成立を目指している

◇勢力を拡大するイスラム国
・2013年、シリアの反政府勢力が初めて制圧した都市、シリア北東部のラッカ
 →6月10日には、イラク北部の大都市、モスルを制圧
・2014年6月29日、「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」から「イスラム国(IS)」に名称を変え、国家樹立を宣言
 →2014年7月3日、シリア最大のオマール油田を占拠
  →イスラム国全体で1日100万ドル以上の収入を得ている
・イスラム国の運用機構には、サダム・フセイン政権の許にいた元イラク軍将校や、フセイン政権を担っていたバース党要員、官僚などが多数参加
 →過激派ゲリラの域を超えた水準
・もっとも危惧されるのは、イスラム国の影響力が中東地域のみに留まらず、全世界的な範囲に広がっていること
 →ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、アジア諸国の若者が、続々とイスラム国に参集、戦闘に加わっている

■全世界から若者が「イスラム国」に渡る理由とは

◇イスラム国に共感する若者たち
・2014年10月下旬、カナダの首都、オタワで国会侵入事件
 →続いてニューヨークで、警察官襲撃
 →この2つの事件に共通、犯人2人ともイスラム教徒に改宗したが、イスラム国には一度も行っていない
・取り締まる側からは、もはや焦点が絞れず、対象は拡散している
・中国の中東専門家によると、100人以上の中国人がイスラム国の戦闘員に
 →ほとんどがウイグル地区のイスラム教徒

◇対立するアルカイダとイスラム国
・イスラム国は、アルカイダがシリア反政府勢力に加担する過程で、アルカイダから分かれた組織
 →イラクで「メソポタミアのアルカイダ」を結成
  →2013年2月にアルカイダと袂を分かった
・パキスタンなど南部アジアに進出を始めているイスラム国
 …2014年9月11日ロイター電
・一方、アルカイダは、アフガニスタンからミャンマーに至る地域で、アルカイダ南アジア支部を新設
 →支部長に40代半ば、南や中央アジアのイスラム社会での雄弁な知識人
・イスラム国とアルカイダという二大国際テロ組織が、イスラム過激派の世界を二分して勢力争いを繰り広げている
 →主要目的の1つとなるのが若者の獲得

◇日本人もテロのターゲットになってきた
・イスラム国に忠誠や支持を表明するイスラム過激派のネットワーク
 →少なく見積もっても中東やアフリカ、アジアの15ヶ国に29組織
・2015年1月27日、リビアの高級ホテル襲撃
 →イスラム国のリビア支部の犯行
・海外在住の日本人が増加すれば、それだけテロや暴力犯罪に巻き込まれる機会が増してくる

■「アラブの春」がもたらした衝撃とは・・・

◇チュニジアからはじまったアラブの民主化運動
・若者たちが、なぜここまでイスラム国やイスラム教に共感を覚えるのか
 →ルーツは、チュニジアで起こった「ジャスミン革命」(ジャスミンはチュニジアを代表する花)から始まった一連の「アラブの春」
・狭い地中海を挟んで、ほぼ1000年にわたって対峙、敵対してきたイスラム教国家とキリスト教国家
 →19世紀から20世紀、北アフリカの全イスラム国が、ヨーロッパ列強の植民地に
  →宗主国からは厳しい搾取、必然的にイスラム教の世界に没頭するという状態に

◇格差社会がイスラム世界を魅力的に映らせる
・『自爆する若者たち』(2008年出版:新潮社)でのユース・バルジ(Youth Bulge)理論(若者急増論)
 →「若者の人口の割合が増えれば戦争や内乱の原因となる」
 →若者に残された道は海外移住、対外侵略、テロ、革命、内戦
・指導者たちを民主主義の裏切り者と捉えて反発するというような現象が現実に
 →イスラム国に希望を見い出して、戦闘に参加する素地は大いに
・イスラム国に渡っている外国人は、欧米に移民したイスラム圏の出身者の二世、三世が多く、旧宗主国の社会から差別されていると感じている者が大半
・人間を労働力と見なす資本主義社会
 →労働力に付加価値を付け、高く売るために教育や訓練
  →訓練や教育を受けられない者は、いつまでたっても負の連鎖からは抜けられない
・チャンスのきっかけさえつかめない者を大量に生んでいるのが21世紀の現実
 →時代閉塞の中で、イスラムの説く世界観は、行き場を失った若者にとっては魅力的に
  …徹底した平等を唱えているイスラム教の聖典、コーラン

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