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またも急転繰り返す買収発表、抑えられない業界&市場の激変圧力

半導体業界のM&Aについて、日替わりのように攻勢が急転する状況が見られている。先週のIntelのAltera買収に続いて今週は、Integrated Silicon Solution(ISSI)を巡って同じシリコンバレーのCypress Semiconductorが攻勢をかける一方で、中国の投資家グループが対抗する動きを仕掛けて、買収価格がつり上がってきている現時点である。週末では中国側が上回っているという理解であるが、昨年に比べて減速が避けられないという見方が支配的な半導体業界の事業拡大、新市場開拓に向けたこのような喧騒が、当面鳴り止みそうにない情勢を受け止めている。

≪昨日の今日≫

ISSIを巡る動きは、5月末時点ではCypressの入札提示の方が中国側を上回っていた。

◇Cypress Increases Bid for ISSI-Cash offer of $20.25 is latest round in bidding war for chip maker-Cypress bumps bid for ISSI to $20.25 a share (5月29日付け The Wall Street Journal)
→半導体メーカー、Integrated Silicon Solution Inc.(ISSI)を巡る入札の戦いの最終ラウンド、Cypress Semiconductor社が金曜29日遅く、$20.25/株 in cashを提示している旨。3月にISSIは、Summitview Capitalなど中国の投資家と$19.25/株、すなわち全体で約$640 millionの取り引きを発表していた旨。

ところが、今週の始め、anti-trustについて懸念する問題からシリコンバレー同士の両社話し合いが中止となり、暗礁に乗り上げてしまった。

◇Integrated Silicon, Cypress Semi deal falls apart-Integrated Silicon, Cypress Semi fail to reach merger agreement (6月8日付け Reuters)

◇ISSI, Cypress Semiconductor Merger Unravels (6月8日付け CIO Today)

◇No ISSI for Cypress (6月9日付け EE Times)
→Cypress Semiconductorの最新の積極的な買収の取り組みが、anti-trustの懸念から中止の旨。Integrated Silicon Solution, Inc.(ISSI)が8日ステートメント発表、ほぼ完全に合意の交渉となったにも拘らず、Cypress Semiconductorがantitrust案件未解決ゆえ合併合意を最終決定できなかった旨。

◇Cypress' bid to buy ISSI faces roadblock (6月10日付け EE Times India)

その打開を図る努力が続けられて、一転の事態、ISSIがCypressの入札を受け入れている。

◇UPDATE 1-Integrated Silicon agrees to be bought by Cypress Semi-Cypress Semiconductor to buy Integrated Silicon (6月10日付け Reuters)
→Integrated Silicon Solution(ISSI)(Milpitas, CA)が、Cypress Semiconductor(San Jose, CA)からのbuyout入札を受け入れ、Cypressが米国およびドイツにおけるantitrustを確実にクリアするよう"合理的最善の努力を払いすべて合理的に振る舞う"ことに同意した旨。

◇ISSI agrees to merger terms with Cypress Semiconductor (6月10日付け ELECTROIQ)

まさにくっつくのか、離れるのか、以下の表し方である。

◇Cypress and ISSI: On Again, Off Again (6月11日付け EE Times)

と思っていたら、週末にきて中国側が大幅な入札価格のつり上げを提示、こんどはこちらに傾きそうな状況となっている。

◇Integrated Silicon Receives Increased Takeover Bid-Consortium's third offer trumps latest bid from Cypress Semiconductor-Consortium of Chinese investors top Cypress' bid for Integrated Silicon (6月11日付け The Wall Street Journal)
→Integrated Silicon Solution, Inc.(ISSI)が、中国の投資家コンソーシアム、Uphill Investment Co.からのtakeover入札価格の増加を発表、これはUphillからの3回目の提示、antitrustの扱いに関するISSIとCypress Semiconductorの話し合いのすぐ後に出ている旨。

◇Cypress outbid on ISSI by Chinese group (6月11日付け Silicon Beat)
→中国の投資家グループが、Integrated Silicon Solution Inc.(ISSI)へのCypress Semiconductor入札を上回る提示を行い、ISSIのboardが木曜11日、株主に該投資家グループのオファーに投票するよう伝えている旨。
中国private equity会社のコンソーシアム、Uphill Investmentsは、当初の$19.25/株すなわち$639.5 millionから今回$21/株すなわち$698.7 millionに大幅に上げている旨。

一方、Cypressの方は別の事業売却が最終合意に至っている。

◇Parade to acquire Cypress TrueTouch Mobile business (6月12日付け DIGITIMES)
→Parade Technologies(Santa Clara, CA)がCypress Semiconductor(San Jose, CA)のTrueTouch Mobile touchscreen事業を総額$100 million in cashで買収する最終合意に両社が入った旨。

まさに目まぐるしい状況であるが、それだけ半導体業界の激変圧力を表わすものと受け止めている。合併、買収に絡む動きは枚挙に暇なく、アップデートを以下にまとめて示す。まずは、IoT関係の合併が今後はソフトウェアに及ぶという見方である。

◇Lionel Gremeau - Home software gains from big chip mergers around Internet of Things-Commentary: Internet of Things-related mergers will stimulate software market (6月5日付け Broadband TV News)
→Lionel Gremeau氏記事。このところのInternet of Things(IoT)市場を目指したハードウェア中心の合併が、差別化技術としてのソフトウェアへの圧力を高める様相の旨。

IntelのAltera買収が引き起こす波紋が以下の通り続いている。

◇Lattice and Xilinx seen gaining on Altera after Intel deal-Why Intel's Altera acquisition could benefit Xilinx, Lattice (6月5日付け Reuters)
→Intel社のプログラマブル半導体メーカー、Altera社$16.7 billion買収は、一見したところではAlteraのライバルには悪いニュースではないと思われる旨。実際、プログラマブル半導体事業で残る主要2社、Xilinx社およびLattice Semiconductor社には利点になる、とアナリストはしている旨。

◇Exclusive: Chipmaker Atmel exploring sale - sources (6月8日付け Reuters)
→月曜8日、3人の本件事情通発。microcontrollers(MCUs)メーカー、Atmel社が、売却の可能性を含めて戦略的代替案を探索している旨。

◇Atmel on the Block (6月9日付け EE Times)
→Atmel社が売却先を求めているという動きが本当であれば、現在グローバル半導体市場に影響を与えているM&Aの騒がしさをさらにかき立てることになる旨。

AvagoのBroadcom買収によるインパクトの見方も引き続いている。

◇Digitimes Research: Avago ready for competitive IoT field with acquisition of Broadcom (6月8日付け DIGITIMES)
→Digitimes Research発。Broadcom買収によりAvago Technologiesは、同業のファブレス半導体メーカー、MediaTekおよびAMDを上回り、売上げで世界第2位のファブレスICサプライヤになっていける旨。またこの買収は、Samsung ElectronicsおよびAppleの主要サプライヤになることによりAvagoの顧客portfolioにプラスに寄与する旨。

AvagoのBroadcom買収によって特許portfolioの全景がどうなるか、以下興味深いデータ内容である。Avagoが以前に買収したLSI社を含めた内訳で表わされている。

◇Avago/Broadcom Create Patent Powerhouse (6月8日付け EE Times/Blog)
→$37 billion合併提案をもって、Broadcom社が、モバイル、データセンターおよびInternet of Things(IoT)などの分野でAvago Technologiesの特許の位置づけを大きく強化することになる旨。Avago自らの特許portfolioは小さく約5,000件であるが、LSI, PLX, Emulex, CyOptics, およびInfineonなど最近の買収に基づく特許と合わせると、portfolio特許総数が20,304件に大きく増大する旨。しかしながら、これでもBroadcomがportfolioにもつ20,689件を下回る旨。
・≪グラフ≫ データセンターシステムに関するBroadcom, AvagoおよびLSIの特許数&内訳
http://img.deusm.com/eetimes/2015/06/1326798/1326798_EE_Times_Server.jpg
・≪グラフ≫ モバイルシステムに関するBroadcom, AvagoおよびLSIの特許数&内訳
http://img.deusm.com/eetimes/2015/06/1326798/1326798_EE_Times_Mobile.jpg
・≪グラフ≫ Internet of Things(IoT)に関するBroadcom, Avagoおよび LSIの特許数&内訳
http://img.deusm.com/eetimes/2015/06/1326798/1326798_EE_Times_IoT.jpg

このような半導体業界の激変の中、最大手、Intelでの人員削減の動きが表面化している。パソコン低迷による措置とみられ、今後の波及に注目する必要がある。

◇Intel Memo on Layoffs Reported -$300M savings sought amid PC declines (6月10日付け EE Times)
→The Oregonian/OregonLiveが入手したIntel社内メモ。2015年の売上げが減る見通し概況、人員削減で$300 millionを節減する旨。このメモはIntelのmanagersに配布、"投資の優先づけを行い、採用を抑制、そして他の効率化策を推進していく"旨。数は特定せず削減を6月15日に始め、1ヶ月後に終える旨。

半導体業界のさらなる変化ますますの予感である。

◇More change for the chip industry (6月11日付け ELECTROIQ)
→SEMIのPaula Doe氏記事。connected smart機器に向けた新興市場が、半導体分野にさらなる変化をもたらし、それから3D printingが出番を待ち構えている旨。


≪市場実態PickUp≫

【TSMCの株主総会】

モバイル活況の追い風で昨年、2014年に史上最高の業績をあげたTSMCの株主総会が行われ、同社トップ、Morris Chang氏のコメントが注目されている。
まずは、今年の販売高について10%以上の伸びを見込んでいる。

◇TSMC looks to over 10% sales growth in 2015, says Chang (6月9日付け DIGITIMES)
→TSMCのchairman、Morris Chang氏が、6月9日の株主総会にて。同社は2015年に10%以上増の販売高の伸びを図っている旨。2014年は同社にとって成功の年、売上げは28%増、利益は40%増と大きく伸びた旨。

◇TSMC reiterates forecast of better 2nd half than 1st half of year (6月9日付け Focus Taiwan News)

◇TSMC shares boosted by Chang's upbeat forecast (6月10日付け Focus Taiwan News)

ボードメンバーの顔ぶれを改めて確認させられている。

◇TSMC shareholders approve 2014 dividend and elect board of directors (6月9日付け DIGITIMES)
→TSMCの株主が、13th board of directorsメンバーとして以下の各氏を選任の旨。
 boardメンバー
  Morris Chang
  FC Tseng
  Johnsee Lee
 independent directors
  Peter Leahy Bonfield
  Stan Shih
  Thomas Engibous
  Kok-Choo Chen
  Michael Splinter …新任

半導体業界の現下のM&Aについて、ほとんど影響はないと押している。

◇Intel could also be TSMC customer, says Chang (6月9日付け DIGITIMES)
→TSMCのchairman、Morris Chang氏が、IntelによるAltera買収の最近の発表についてメディアの質問に応答。TSMCは世界中のロジックICプロバイダーに向けたファウンドリーサービスに専念、該業界における合併はoperationsにほとんどインパクトはない旨。多くの市場観測筋は、TSMCのファウンドリーサービスを用いているAlteraのIntelによる買収がTSMCに不利なインパクトを与え得ると考えている旨。

中国の半導体自立化を推進する攻勢については、距離感のあるスタンスとなっている。

◇Morris Chang: Enlarged Gap Between Taiwan and China (6月10日付け C TIMES)
→TSMCのChairman、Morris Chang氏が、6月9日の同社年次総会後のpress briefingにて。いわゆるred supply chainが台湾の半導体業界を脅かしている点について、TSMCとしては中国政府が先を見越して現地のメーカーを育成しているのを承知しているが、彼等が台湾に追いつくのはたやすいことではない旨。

このような中、TSMCの5月売上げが順当な増大基調で発表されている。

◇TSMC May revenues increase 15%-TSMC sees 15% May revenue uptick (6月10日付け DIGITIMES)
→TSMCの2015年5月連結売上げがNT$70.16 billion($2.26 billion)、前月比6.9%減、前年同月比15.4%増。1-5月累計がNT$367.52 billion、前年同期比35.7%増。

【対するUMC】

TSMCに続くファウンドリーのUMCはどうか。まずは前年からは伸びている5月売上げである。

◇UMC reports on-year increase in May revenues (6月8日付け DIGITIMES)
→UMCの2015年5月連結売上げがNT$12.931 billion($415.8 million)、前月比0.69%減、前年同月比8.39%増。1-5月累計がNT$63.601 billion、前年同期比15.32%増。

TSMCとの違いを大きく感じるのが中国に対するスタンスである。中国の業界メンバーを講師に迎える上海での技術フォーラム開催である。

◇UMC promotes solutions for IoT in China (6月8日付け DIGITIMES)
→UMCが最近、技術フォーラムを上海で開催、Internet of Things(IoT)応用に向けた同社の技術&製造ソリューションに重点化したテーマの旨。このフォーラムでは、UMCのCEO、Po Wen Yen氏が基調講演を行い、China Semiconductor Industry Association(CSIA)のexecutive vice chairman、Xu Xiao Tian氏およびCCID Consultingのpresident、Li Shu Chong氏がともにゲスト講演で出席の旨。

TSMCと同日に株主総会を開催、ここでも台湾および中国での生産力増強が謳われている。

◇UMC to expand production capacity in Taiwan and China-UMC to enhance R&D, expand fabrication in Taiwan, China (6月10日付け DIGITIMES)
→6月9日の株主総会にて、UMCのCEO、Po Wen Yen氏。同社は、台湾および中国のウェーハfabsでの生産capacityを拡大、specialtyプロセス技術に向けたR&Dを強化する予定の旨。Asia-Pacific地域がグローバル半導体市場の伸びを支える牽引力になってきており、fab拡大に加えて該地域でのさらなる連携を図っていく旨。

【IoTインフラ&ツール】

Imagination TechnologiesとTSMC、そしてCadence Design SystemsとTSMCの間のIoT IPプラットフォームに関するコラボの取り組みが、以下の通り発表されている。

◇Imagination and TSMC collaborate on advanced IoT IP platforms (6月8日付け ELECTROIQ)
→Imagination TechnologiesとTSMCが、Internet of Things(IoT)に向けた一連の先端IP subsystemsを開発するコラボを発表、time to marketを早め相互の顧客のために設計プロセスを簡単化する旨。高度に最適化されたreference設計フローが補って完全にするこれらIPプラットフォームは、55-nmから10-nmまでのTSMCの先端プロセス技術にImaginationのIPの広さを合わせていく旨。

◇Imagination, TSMC collaborate on IoT IP platforms (6月9日付け DIGITIMES)

◇Cadence, TSMC collaborate on IoT IP subsystem-TSMC, Cadence team up on development of IoT IP subsystem (6月9日付け DIGITIMES)
→Cadence Design Systemsが、TSMCとコラボ、TSMCのultra-low power(ULP)プロセスに向けたInternet of Things(IoT) IP subsystem demonstrationプラットフォームを開発している旨。

Texas Instruments(TI)からはIoTの活況で増える開発者に向けて、初心者でも入りやすい新しいツールkitが投入されている。

◇New tools to support novice developers of wireless sensors (6月8日付け EE Times India)
→Texas Instruments(TI)のSystem Applications Manager、Jarle Boe氏。
不慣れな開発者は常にいて、使いやすいツールを求めているが、最近IoTおよびワイヤレスセンサについての熱気が拡大、その数が増えてきている旨。TIは、その必要性に適合、同社が最近投入したARM-ベースCC2650ワイヤレスmicrocontrollers(MCUs)のSimpleLinkの採用を加速するために、そのような初心者に向けて新しいSimpleLink Multi-Standard SensorTag IoT kitを投入、該kitは経験豊かなMCU開発者に向けた同社Launchpadプラットフォームを補足している旨。

【IBMのIII-V on Silicon】

IBMの研究部門が、シリコン上にIII-V化合物半導体材料を統合、トランジスタ性能が上がってMoore則が先延ばしされる可能性を孕むという、以下アプローチ概要である。

◇IBM team grows III-V crystals on silicon wafers-IBM team grows III-V crystals, integrates with silicon wafers (6月8日付け New Electronics)
→IBMの研究者が、化合物半導体材料から成長させた結晶をSiウェーハの中で統合するプロセスを開発、トランジスタ性能が改善される旨。該チームは、"現在の半導体製造技術と完全コンパチ"で"経済的に実行可能な"方法で単一III-V結晶のnanostructuresを製造の旨。

◇IBM develops way to integrate III-V materials on silicon-Template-assisted selective epitaxy(TASE) could be a way to extend Moore's Law, say researchers (6月8日付け Compound Semiconductor)

◇IBM Demos III-V on Silicon-Moore's Law extended again? (6月9日付け EE Times)
→IBM Research(ZurichおよびYorktown Heights, N.Y.)発。
silicon-on-insulator(SOI)基板上にトランジスタchannelsなどの構造に適する超高速III-V nanowiresをdepositする方法が奏功、Moore's Lawにもう1つ弾みがつく可能性の旨。IBMが開拓した方法、template-assisted selective epitaxy(TASE)を用いて、様々なnanoscale Hall構造およびmulti-gate FETsを製造、IBMは該コンセプトを実証している旨。

【中国スマホ市場での人事】

Qualcommが熟練のかつての幹部を新しい中国のchairmanに指名する一方で、今までの中国のpresidentが世界で最も伸びているスマホベンダー、Xiaomiに入る、という現下の勢いを映し出す動きが見られている。

◇Xiaomi 1, Qualcomm 0-Executive swap telling (6月11日付け EE Times)
→中国のスマートフォン市場における勢いの移行を何より明らかに示すと言えそうな対照的な2つの発表が、中国で水曜10日表面化の旨。Qualcommが、2008年から2010年までsenior vice presidentおよびQualcomm Greater Chinaのpresidentを務めたFrank Meng氏をGreater China operationsの新しいchairmanに指名する一方、世界で最も急成長のスマートフォンベンダー、Xiaomiは、Qualcomm Greater ChinaのpresidentでQualcomm社のsenior vice presidentのXiang Wang氏を新たにsenior vice presidentとして迎える旨。

◇Qualcomm names old-hand as new China chairman; former head joins Xiaomi-Qualcomm names Frank Meng as its China chairman; Wang Xiang to join Xiaomi (Reuters)


≪グローバル雑学王−362≫

幕末の我が国が外国人の目にどう映ったか、地上の楽園という副題があるが、

『外国人がみた日本史』
 (河合 敦 著:ベスト新書 469) …2015年3月20日 初版第1刷発行

よりその後半である。裸体を気にしない、富士山の素晴らしさ、自然災害への対応、鎖国下だからこその楽園、と外国人ならではの興味深い視点、見方が表わされている。ヴェールに覆われて幸福に見える我が国というのは、現在のブータン王国の幸福度を思い起こすところがある。□以下の各アイテムについて、最初の◎以下に注目する記録の出典が示されている。


第四章 外国人がみた幕末―――極東の島国は地上の楽園だった=2分の2=

□裸体を気にしない
◎前掲、ハインリッヒ・シュリーマンの『シュリーマン旅行記 清国・日本』
・日本人が裸体に対して抵抗感がないということ、幕末に来た外国人が等しく指摘するところ
 →特に、銭湯における混浴
・ヨーロッパ人には、裸体に対する羞恥心が薄いという事実は、その国の野蛮さと直結
・多くのヨーロッパ人が眉をひそめたのに対し、シュリーマンは全く別の感想
 →「淫らな意識が生まれようがない」と断言

□富士山に感激する外国人
◎ハリスの『日本滞在記』
・1856年に来日したアメリカの総領事、タウンゼント・ハリス(Townsend Harris)
 →翌年1857年10月7日、下田から江戸へ向けて出立、気持ちの良い晴天
 →総勢350名という行列
 →富士山を「凍った銀」と表現、なかなかの感受性
・ハリスの通訳だったヒュースケン(オランダ人)(Henry Conrad Joannes Heusken)も、手放しで富士山の美しさを讃える
 →ただ、1860年12月5日、攘夷派に狙われて斬り殺された
 →この暗殺は、江戸にいる列国の公使たちに大きな波紋
・ハリスは、横浜に去った公使らを説得、江戸に連れ戻してきた
 →幕府は以後、彼に全幅の信頼
・2013年6月、外国人からも讃えられた富士山は、ついに世界文化遺産に登録
 →2016年2月までの「保全状況報告書」提出、ぜひとも条件をクリアを!

□自然災害に対する日本人
◎上記ヒュースケンの『ヒュースケン 日本日記』
・幕末に来日したオランダ人通訳、ヒュースケンが見たもの
 →台風によって家屋や船が破壊、まったく悲しまずに淡々と損害の修復に精を出す日本人
・台風以上に大きな被害を出す自然災害が地震
 →1855年10月2日の安政の大地震
  →江戸城も破損、将軍家定は城内の庭園に避難
  →人々はしばらく再度の揺れを恐れて門前で寝たとのこと
・江戸時代、もっとも多くの人命を奪った災害は火事
 →「火事と喧嘩は江戸の華」といわれた江戸の町は何度も大火に
  →記録されているだけで1500件以上
・災害にたびたび見舞われる日本人
 →独特の観念の醸成:
  「自然に逆らっても仕方がない」
  「災害に遭ったら諦めよう、被害を悲しんでも仕方がない」
  「宵越しの金は持たない」

□幸福な幕末の日本人
◎前掲、ハリスの『日本滞在記』
・ハリスは、極東の蛮国と考えていた日本において、『地上の楽園』を目の当たりに
・鎖国時代の日本は、西洋人の目から見ても国民がみな幸福に見える国家をつくりあげていた
 →文明化の陰で、もしかしたら日本人は、大事なものを失ってしまったのでは

《外国人がみた幕末 要点》
・薩摩藩、長州藩がそれぞれ列強軍と武力衝突
 …開国を強要、物価を暴騰させた外国人に対する憎しみが急激に高まる
 →列強の強さと攘夷の不可を知ると、にわかに豹変
 →「機を見、変に応ずることに敏捷な現実主義」(E・H・ノーマン)
・幕末に来日した外国人が一様に感激する風景
 →富士山
・日本人の異常な好奇心の強さと教育力の高さ
 →日本が自国の強力なライバルとなることを予感
・江戸時代の日本人は幸せに暮らしていた
 →国際社会のなかに日本を巻き込むことが本当に良いことなのだろうか、という疑念
 →文明の発展や富の多さが幸福と比例するわけではない
・質素の中にも洗練された美しさ
・幕府の統制のせいもある行儀よさ
・日本の刑罰の重さに驚き
 →自白中心主義
・ペリーの来航からわずか15年、260年続いた江戸幕府は崩壊することに

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