市況連鎖のキーワード:アップル、中国、アジア経済圏
多分に繰り返し言い古された感じになってしまう上記のタイトルであるが、予想を下回るアップル社の売上げの伸びの中で大きく伸びている中国市場、アップルの新製品に備えるアジア経済圏の国々、さらに細かく焦点を当ててみると、サムスン電子スマホ関連受注の低迷が響く我が国電子部品業界、中国のhandsetメーカーからのlicensing売上げを集める問題を抱えるQualcomm、そしてアップルへの最大供給元になっていく勢いのTSMC、と上記の3つのキーワードが互いに織り成す当面の波乱含みの市場状況を受け止めている。
≪モバイル市場が分ける成否≫
まずは、アップル社の四半期業績発表である。中国市場での伸び、「iPad」の販売台数前年比減少に注目している。
◇Apple revenue lags Street's view despite strong China growth (7月22日付け Reuters)
→Apple社が火曜22日、予想を下回る6%増の四半期売上げを発表、しかしgreater Chinaでは同社3番目の市場での激しい競争にも拘らず、売上げが28%増となった旨。
◇アップルの4〜6月純利益12%増、iPhone販売は増加 (7月23日付け 日経 電子版)
→米アップルが22日発表した2014年4〜6月期決算。売上高は前年同期比6%増の$37.432 billionで市場予想($37.9 billion程度)には届かず、純利益は同12%増の$7.748 billion(約7800億円)。主力のスマートフォン 「iPhone」の販売増が牽引、販売台数が同13%増の3520万3000台となった一方、多機能携帯端末「iPad」の販売台数は同9%減の1327万6000台となった旨。
◇Apple in China: Best Is Yet to Come? (7月24日付け EE Times)
→2014年6月28日締め四半期について、Appleの香港および台湾を含むGreater Chinaでのnet販売高が$5.94 billion、前年同期比28%増に拡大、"同社全体で経験しているよりかなり高い"前年比増加としている旨。
モバイルプロセッサ市場を席巻するQualcommも、好業績の裏に収益を圧迫する中国との問題が見えている。
◇Qualcomm's Profit Hurt by Dispute Over China Royalties-Qualcomm posts higher fiscal-Q3 profit, cites issues in China (7月24日付け Bloomberg Businessweek)
→Qualcommの第三四半期売上げが$6.81 billion、前年同期比9%増、net incomeが$2.24 billion、同42%増。中国のhandsetメーカーからlicensing売上げを集める問題を抱えており、earningsを圧迫している旨。
半導体プレーヤーについて見ていくと、最先端プロセスノードで先行するSamsungに対して、TSMCはMediaTekへの供給を強化すべきという提案に対して早速TSMCが動いてきている以下の経緯である。
◇Commentary: TSMC should support MediaTek to counter Samsung-Qualcomm alliance-How MediaTek can challenge the Samsung-Qualcomm tie-up (7月21日付け DIGITIMES)
→TSMCは、14/16-nm分野で優勢になるためにSamsung ElectronicsとQualcommの連携に対抗するよう技術および生産capacityをもってMediaTekをサポートすべき旨。TSMCのchairman、Morris Chang氏が最近、TSMCは、2016-2017年に主導する市場位置を取り戻す前、2015年の市場シェアの点からは14/16-nm分野では競合に負けると認めている旨。
◇TSMC to offer more wafer starts to MediaTek in 3Q14-Sources: TSMC to bump up MediaTek's wafer starts by 10% (7月24日付け DIGITIMES)
→業界筋発。MediaTekの要求を受けてTSMCが、2014年第三四半期に見込んでいたより10%多いウェーハstartsで同社に供給する旨。
スマホの低迷始め業績が悪化したSamsung Electronicsでは、非常事態が先立って張られている。
◇サムスン電子、1カ月前から非常経営体制 (7月21日付け 韓国・中央日報)
→サムスン電子が経営危機克服に向け全社レベルの「改革・改造」作業に着手した旨。第2四半期業績(速報値)が8四半期ぶりに7兆ウォン台を記録するなどアーニングショック水準まで落ち込んだことからベルトをきつく引き締めるなど本格的な非常経営に乗り出した旨。こうした動きは第2四半期業績発表の1カ月ほど前の先月初めから感知されており、サムスン電子は各事業分野の限界突破のためすべてのプロセスを全面再検討し始めた旨。コスト節減と浪費的プロセスの改善だけでなく、必要な場合には組織の合理的再編も含まれる旨。
このようにアジア経済圏での動きが、目まぐるしくなっている。UMCは旺盛な引き合いから値上げに打って出ている。
◇Semiconductor firms posed to benefit from growing demand (7月22日付け The China Post)
→UMCが、8-インチおよび12-インチウェーハの非常に高い受注から、市場における製品の渇望に乗って製品価格を5-15%上げる旨。
まさにアジア経済圏諸国を支えるアップル社への新製品対応、まとめて以下の表わし方となっている。
◇Apple iPhone Rollout Boosts Asia's Component Makers-Apple Suppliers in Japan, Taiwan and South Korea Raise Forecasts Ahead of Expected New iPhone Launch-Asian component suppliers to benefit from new iPhone models (7月23日付け The Wall Street Journal)
→Apple社の最新iPhones展開への備えがアジア経済圏に広がっており、コンポーネントメーカー売上げを高め、いくつかの国々からのエレクトロニクス輸出を支える助けになっている旨。
中国の半導体メーカーも着実に備えており、Allwinnerからの64-ビットプロセッサが見えてきて、低価格タブレットの期待を膨らませている。
◇Low-cost Android tablets will get 4K video with Allwinner 64-bit chip-Starting next year, tablets with Allwinner's new chip could sell for $250, analyst says-Allwinner to offer 64-bit processor for low-end tablets (7月23日付け Computerworld/IDG News Service)
→Allwinner(中国・広東省珠海市)が年末までに同社初の64-ビットARMプロセッサを出荷するという計画のお蔭で、64-ビットプロセッサおよび4K video decoding capabilities搭載の低コストAndroidタブレットがすぐ間近になってくる可能性の旨。
TSMCがアップル向けA8プロセッサ生産に対応して、いまやアップル向け最大供給元になっていく情勢が強まっていく現時点の諸々の動きとなっている。
◇Apple to become largest client for TSMC, say sources (7月23日付け DIGITIMES)
→業界筋発。TSMCがA8プロセッサの生産立ち上げ開始、そして2015年には引き続きA9 CPUsを製造する様相、AppleがTSMCにとって最大clientになる見込みの旨。TSMCはQualcommの14-nm半導体発注がSamsung Electronicsに流れて失ったと思われるが、TSMCは自分の16-nmプロセスでAppleのA9プロセッサ受注を獲得している旨。
アップルのiWatch関連モジュールでも台湾のASE系列が受注を獲得している。
◇USI reportedly lands SiP module orders for iWatch devices (7月23日付け DIGITIMES)
→業界筋発。Advanced Semiconductor Engineering(ASE)の系列会社、Universal Scientific Industrial(USI)が、アップルからiWatch wearable機器用のSiPモジュール受注獲得の旨。
アップルが風邪を引くと大変という事例に映るのが、「iPad」台数減が響くと見られる以下の状況である。
◇Taiwan tablet shipments plunge sequentially in 1Q14, says MIC (7月23日付け DIGITIMES)
→新しいアップル製品がなく、台湾メーカーのタブレット出荷の約70%を占めるアップルへ出荷されたタブレットが、2014年第一四半期に前四半期比38%減の約16 million台、該四半期の台湾メーカータブレット出荷全体が22.8 million台、前四半期比約40%減の旨。
最後に、Samsung Electronicsの業績悪化の波紋が我が国の電子部品業界に受注鈍化という形で表われている様相が見られている。
◇電子部品大手の受注鈍化 スマホ低迷が影響か−4〜6月6.5%増 (7月23日付け 日経 電子版)
→村田製作所や京セラなど国内の電子部品大手の受注が鈍化しつつある旨。
日本経済新聞がまとめた大手6社の2014年4〜6月期の受注総額(一部は売上高)は前年同期比6.5%増、すべての四半期で2ケタ増だった2013年度と比べて減速が鮮明になった旨。主要顧客である韓国サムスン電子からのスマートフォン関連受注の低迷が影響している模様、各社は需要拡大が続く自動車関連で、受注の上積みを急ぐ旨。
≪市場実態PickUp≫
【IMEのjoint labs】
シンガポール政府傘下のInstitute of Microelectronics(IME)が、半導体の4つの領域について共同の研究所を開設、米国および日本メーカーが参画する形で以下の概要である。
◇A*STAR IME launches four joint labs to help semiconductor industry-Singapore institute plans semiconductor R&D labs (7月23日付け Channel NewsAsia)
→シンガポール政府のAgency for Science, Technology & Researchに属するInstitute of Microelectronics(IME)が、4つのAdvanced Semiconductor Joint Labsを設けており、先端lithography, 組立, 計測およびwafer-level packaging(WLP)の領域でのR&Dを行う旨。いくつかの米国および日本メーカー(Applied Materials, 大日本印刷, ディスコ, KLA-Tencor, Mentor Graphics, ニコン, Panasonic Factory Solutions Asia Pacific, PINK, Tokyo Electronおよび東京応化工業)が、該プロジェクトに関わっている旨。
◇A*STAR and industry partners form S$200M semiconductor R&D joint labs (7月24日付け ELECTROIQ)
◇東京エレクトロン、シンガポールで共同研究 (7月25日付け 日経)
→東京エレクトロンが、シンガポール政府系機関、マイクロエレクトロニクス研究所(IME)と共同で半導体後工程(パッケージ組み立て工程)の研究所を開くと発表、IMEの敷地内にクリーンルームを新設し東京エレクトロンから6台の製造装置を提供する旨。
【post-silicon】
IBMの向こう5年にわたって3000億円を投資する超先端半導体R&Dが発表されたばかりであるが、post-siliconの世界への思い巡らしがそもそもとのこと。化合物半導体がMoore則を延ばすという見方と合せ以下の通りである。
◇IBM won't exit chips-CFO says $3 billion spending plan shows commitment to sector-Will IBM become a fabless semiconductor company? (7月18日付け Times Union (Albany, N.Y.))
→半導体製造工場売却如何には触れずに新世代のmicroprocessors(MPUs)開発に向こう5年$3 billionを充てるという今月のIBMの発表が、アナリストの間に同社は今後ファブレス半導体venture、すなわち半導体を設計、製造は他社に委託する形を考えているという憶測につながっている旨。「我々はまた、示している通りpost-siliconの世界がどうなるか思いを巡らせている」(IBMのchief financial officer、Martin Schroeter氏)。
◇There's More To Know Than Moore's Law-Compound semiconductors could extend Moore's Law in a post-silicon world (7月18日付け Electronic Design)
→Tektronixのvice president and chief technology officer、Kevin J. Ilcisin氏記事。silicon germanium(SiGe)およびindium phosphide(InP)など化合物半導体が、シリコンが先端半導体を作るのにもはや用を成さないときにソリューションを供給する可能性、技術は絶えず変化、進化しており、旧いルールが依然当てはまると仮定するのは決して安全でない旨。
【Cloud-ベースSoCs教育】
SoCs設計のqualifiedエンジニアが新興諸国で不足しており、これを打開するためにCloud-ベースの教育システムでグローバルに育成を図るというSemiconductor Research Corp.(SRC)などの取り組みである。
◇Cloud-Based Chip Design Research & Education-Program aims to boost IC design research in the cloud (7月21日付け EE Times)
→特に新興途上の国々において、complex systems-on-chip(SoCs)に向けた認定エンジニアがますます不足気味になっているが、Semiconductor Research Corp.(SRC)(Research Triangle, N.C.)およびstartup、Silicon Cloud International(SCI)(Singapore)が本日発表した共同プログラムの結果としてまもなく終わる可能性の旨。世界中の大学の研究者およびdoctoral candidatesにだけアクセスできるprivate cloudにおいてelectronic design automation(EDA)ハードウェア&ソフトウェアを運用、SRCおよびSCIは世界の途上諸国において認定SoC設計エンジニアが全く新しく続出する期待の旨。
【南米イベント】
SEMI主催のイベントも最近ベトナムに展開という理解であるが、こんどは今秋のアルゼンチンでの南米イベントの開催である。半導体戦略サミットが一層の拡がりとなっている。
◇SEMI announces new South America Semiconductor Strategy Summit (7月22日付け ELECTROIQ)
→SEMIが本日、南米での初のイベント開催を発表、以下の概要:
−SEMI South America Semiconductor Strategy Summit
−2014年11月18-20日:Hilton Buenos Aires in Buenos Aires, Argentina
−Unitec Blue(アルゼンチン)およびBrazil Development Bank BNDESが後援
【ソニーCIS増産】
ソニーが半導体で重点化しているCMOS image sensors(CIS)について、生産拡大が今年度の後半から1年をかけて長崎および熊本拠点で次の通り行われ、stacked CISを対象としている。
◇Sony invests in image sensor production amid 'selfie' boom-Selfies drive Sony's $345M image-sensor investment(7月23日付け Reuters)
→Sonyが、stacked CMOSイメージセンサの生産拡大に$345 millionを投資、スマートフォンおよびタブレットcomputersのカメラで用いられる半導体であり、特に自撮りができるfront-facingカメラの旨。同社は、CMOSイメージセンサ生産を来年にわたって13%高める計画、68,000枚/月の旨。
◇Sony increases production capacity for stacked CMOS image sensors (7月24日付け DIGITIMES)
→Sonyが、stacked CMOSイメージセンサの生産capacityを増やすために、2015年3月31日締め年度の後半から2016年3月31日締め年度の前半にかけて、Sony Semiconductor CorporationのNagasaki Technology Center(Nagasaki TEC)およびKumamoto Technology Center(Kumamoto TEC)に投資する計画の旨。
◇Sony Invests in Stacked Image Sensor Manufacturing Capacity (7月25日付け EE Times)
≪グローバル雑学王−316≫
2001年9月11日に発生したアメリカ同時多発テロ事件の首謀者と断定され、2011年5月にパキスタンにおいて米国海軍特殊部隊(SEALs)が行った軍事作戦によって殺害されたオサマ・ビンラディンについて、
『国際メディア情報戦』
(高木 徹 著:講談社現代新書 2247) …2014年1月20日 第1刷発行
より、2回にわたってこの努力と才能の限りを尽くして「国際メディア情報戦」を戦った今世紀最大のメディアスターと表わされている男に纏わる事の経緯を辿っていく。自分たちの行う「聖戦」の正当性を世界に広めていく「PR戦略」部隊、「アッサハブ」が中核となる「情報戦」が展開されている。
第3章 21世紀最大のメディアスター −ビンラディン
1 ビンラディンの「基地」と「雲」
□ビンラディンとは何か
・オサマ・ビンラディンの存在や行為、そしてメッセージの大きな影響
→2013年1月の日本人10人が犠牲となったアルジェリア人質事件の悲劇
→今も「ビンラディン」が他人事ではない
・ビンラディンが広めたテロの思想
→自爆テロという方法を、殉教的行為として称賛、扇動
・ビンラディンの言葉、あるいはその思想がある種の共感を、特にイスラム世界の人々の間に引き起こしてきたことも事実
・「グローバル・ジハード」(世界的聖戦)と呼ばれる考え方を唱導
→世界中から仲間をリクルート、訓練を施し、世界中でテロを起こさせた
→努力と才能の限りを尽くして「国際メディア情報戦」を戦った
□ビンラディンの最大の武器
・2011年5月、ビンラディンはアメリカによって殺害
→実行部隊の海軍特殊部隊、SEALs
・SEALsは、あらゆる資料を確保、その中に「ビンラディンが書いた十七の手紙」
→ほとんど半分が、「いかにメディア戦争を戦うか」について部下への指示、あるいは情勢分析など
・手紙の中で自ら「中央ジハード・メディアセンター」の設置の必要性
・2011年9月11日の9・11十周年の機会
→自分のメッセージを全米に流すにはどうすればよいか、各テレビ局の特徴などについて幹部と検討
→その4ヶ月前の5月、ビンラディンはアメリカに殺された
・オサマ・ビンラディンとは、
→その死の直前まで「国際メディア情報戦」を最大の武器としてきたテロリスト
□謎の組織「アッサハブ」
・アルカイダと表裏一体を成す「アッサハブ」という謎の組織
→アルカイダ系のビデオの多くに、そのアラビア語のロゴ(時に英語で"as-sahab"と入っていることも)が画面右下に
・ビンラディンは、父譲りの財力と、生来のプロデューサー的才能を生かし、アフガニスタンのパキスタン側大都市、ペシャワルに「基地」を作り、大きな力を発揮
→当時の敵はソ連、彼らに勝利し、年月を経たあとビンラディンの敵はアメリカに
□メッセージを世界の空に
・自分たちの行う「聖戦」の正当性の「PR戦略」をより高度に洗練させ、実行するために創設
→アルカイダの国際メディア情報戦部隊「アッサハブ」
→「サハブ」とは「雲」、定冠詞がついてアッサハブに
・「基地」から発し、ビンラディンのメッセージを世界に広めることが使命
□衝撃のビデオ作品
・(著者自身が)アッサハブの存在と、その「作品」に最初に触れたのは、2001年の7月
→9・11の2ヶ月前のこと
・初期の「代表作」として専門家の間で知られるアッサハブのビデオ
→現在でも、アルカイダ関連のニュースが流れるたびに資料映像としてテレビで
→世界中でアメリカに宣戦を布告したグローバル・ジハード主義者の面目躍如という映像
・100分にわたる「作品」の最後
→「アッサハブ・メディアプロダクション」という文字が誇らしげにアラビア語で表示
→暴力行為を称賛、さらなる攻撃を予告、ビデオに自らの制作クレジットを堂々と刻印するディレクターとは何者?
□アルカイダのビデオに映った日本の寺
・「作品」の終わり近く、2001年3月に起きたバーミアンの大仏爆破の模様
→至近距離から捉えた「スクープ映像」
・大仏爆破のシーンの次に、瓦葺きの大きな建物に沢山の人々が三々五々集う映像
→明らかに日本の寺
→浅草寺と思われる