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全地域で増加の5月世界半導体販売高、一方、各地域各様の激動

米Semiconductor Industry Association(SIA)からこの5月の世界半導体販売高のデータが発表され、全地域にわたって前年同月比、前月比ともに増加して、1-5月累計も昨年を上回っている。Gartner社からは2014年のグローバル半導体市場が、2013年から6.7%増$336 billionと予測の上方修正が見られている。同じタイミングでの各社の6月そして第二四半期の業績発表では、まずSamsungの変調という表わし方もある売上げ落ち込みが目立つ一方、台湾勢は過去最高を更新する発表が相次いで、波乱、激動を感じさせている。

≪5月の世界半導体販売高≫

米SIAからの発表内容は次の通りである。

☆☆☆↓↓↓↓↓
○5月のグローバル半導体販売高、全地域で増加−Americasが前年同期比最も力強い伸び;依然2013年をかなり上回るグローバル販売高 …7月7日付け SIAプレスリリース

半導体製造&設計の米国のleadershipを代表するSemiconductor Industry Association(SIA)が本日、2014年5月の世界半導体販売高が$26.86 billionに達し、2013年5月総計$24.69 billionからは8.8%の増加、前月4月総計$26.34 billionからは2.0%増となったと発表した。Americas地域の5月販売高は前年同月比10.6%の増加で、12ヶ月連続の二桁増となっている。月次販売高の数値はすべてWSTSのまとめであり、3ヶ月移動平均で表わされている。

「5月のグローバル半導体市場は、Americas地域の引き続く力強さが引っ張って、すべての地域を通して健全な伸びを示している。」とSemiconductor Industry Association(SIA)のpresident & CEO、Brian Toohey氏は言う。
「前年比で販売高はほとんどすべての半導体製品カテゴリーにわたって増えており、DRAMとアナログ製品が引っ張っている。全体として、グローバル市場は1年以上の間毎月伸びを示しており、見通せる将来について販売高は増えると見込まれる。」

前年同月比および前月比で販売高が、2010年8月以来のこと、すべての地域にわたって増加している。前月比では、Asia Pacificが2.1%、Europeが2.1%、Americasが1.8%、およびJapanが1.6%、それぞれ増加である。2013年5月との比較では、Americasが10.6%、Europeが10.1%、Asia Pacificが8.6%、およびJapanが5.3%、それぞれ増加であった。Japanは、約2年ぶりのこと、3ヶ月連続で前年同月比の伸びを示している。

                                【3ヶ月移動平均ベース】

市場地域
May 2013
Apr 2014
May 2014
前年同月比
前月比
========
Americas
4.60
5.00
5.09
10.6
1.8
Europe
2.84
3.06
3.13
10.1
2.1
Japan
2.74
2.84
2.89
5.3
1.6
Asia Pacific
14.51
15.43
15.76
8.6
2.1
 (うち中国)
(7.08)
(7.35)
(19.8)
(3.8)
$24.69 B
$26.34 B
$26.86 B
8.8 %
2.0 %

--------------------------------------
市場地域
12- 2月平均
3- 5月平均
change
Americas
5.32
5.09
-4.3
Europe
2.96
3.13
5.6
Japan
2.81
2.89
2.9
Asia Pacific
14.96
15.76
5.3
$26.04 B
$26.86 B
3.1 %

--------------------------------------

※5月の世界半導体販売高 地域別内訳および前年比伸び率推移の図、以下参照。
http://www.semiconductors.org/clientuploads/GSR/May%202014%20GSR%20table%20and%20graph%20for%20press%20release.pdf
★★★↑↑↑↑↑

久々に中国の内訳データを上記の通り示している。その大きさ、伸びっぷりに改めて注目、今後の激動先行きを占う指標の1つと、昨今の情勢から受け止めている。

上記のデータより分かるように、我が国との差を広げている欧州からは、それを強調する発信が行われている。

◇Europe is tops for chip sales-Europe registers strong growth in semiconductors, data show (7月4日付け Electronics Weekly (U.K.))
→World Semiconductor Trade Statistics(WSTS)発。欧州の5月の半導体販売高が、力強いワイヤレス市場が大方引っ張って、前年同月比10.1%増、グローバルの全体の伸び率は8.8%の旨。データより1月から5月までの欧州の累計販売高は、前年同期比9.6%上回っている旨。

◇Chip Market Growth Moderated in May (7月8日付け EE Times)
→World Semiconductor Trade Statistics(WSTS) organizationデータを引用、European Semiconductor Industry Association(ESIA)発。5月の欧州の3ヶ月平均半導体販売高が、前年同月比10.1%増で世界全体の8.8%増の中で力強い伸びとなっている旨。

ここのところの米SIA発表の伸びが現下の市場の動静を端的に表わしているが、米Gartner社からは本年のグローバル半導体市場について3ヶ月前の予想を上積みする以下の内容である。

◇Gartner Raises 2014 Chip Market Growth Forecast (7月10日付け EE Times)
→Gartner社発。2014年のグローバル半導体市場が、2013年から6.7%増の$336 billionになると見る旨。これは同社3ヶ月前の5.4%増を上回っており、2014年第二四半期の前四半期の伸びが以前の予想を凌ぐものである旨。

◇The iPhone and game consoles will prop up the chip industry this year -The semiconductor industry will see more incoming revenue this year after the new iPhone is released, Gartner says-Forecast: Chip-market growth to come from smartphones, gaming (7月10日付け Computerworld/IDG News Service)


≪市場実態PickUp≫

【IBMの半導体R&D投資】

前回"岐路に立つIBM"を取り上げたばかりであるが、先端半導体、それも7-nmという超先端開発に、向こう5年にわたって3000億円を投資するという発表が行われ、観測含み多々の以下各紙受け止めとなっている。

◇IBM Pledges $3 Billion for Semiconductor Research-Computer Giant's Research Will Seek to Tackle Obstacles to Shrinking Circuitry, Develop Alternative Materials-IBM to invest in chip research, new computing tech (7月9日付け The Wall Street Journal)

◇IBM Wants to Invent the Chips of the Future, Not Make Them (7月9日付け The New York Times)

◇IBM to bet $3 bln over 5 years hoping for breakthrough in chips (7月9日付け Reuters)
→IBMが水曜9日、低迷するハードウェア部門の回復に向けた従来のやり方を一変させるブレイクスルーを見い出す期待、半導体R&Dに向こう5年にわたって$3 billionを投資する旨。

◇IBM PR kills Moore's Law-IBM says Moore's Law is DEAD (as PR team gets busy with the coffin) (7月10日付け Computerworld)

◇IBM DEAL: What's it mean for E. Fishkill? (7月10日付け Poughkeepsie Journal)

◇米IBM、3000億円投資 先端半導体を開発 (7月10日付け 日経 電子版)
→米IBMが9日、ビッグデータやクラウド対応の機器に使う最先端の半導体を開発するため、5年間で30億ドル(約3000億円)を投資すると発表、回路線幅を従来の3分の1程度にあたる7-nmまで微細化、性能向上と低コスト化を進め、競争力を高める旨。IBMによると、現在実用化されている先端半導体の回路線幅は22-nm、今回めざしている7-nm半導体の開発に成功した企業はない旨。次世代の14-nmに比べても7-nmは半分、成功すれば大幅な技術革新になる旨。
IBMの半導体事業を巡っては、傘下の製造部門を外部に売却するとの観測もある旨。一方、ハードの性能を左右する設計部門は本体に残し、付加価値が高い分野に経営資源を集中する戦略を目指している旨。

IBM傘下の製造部門売却の噂が続く中、焦点のGlobalFoundriesの人材採用が憶測に輪をかけている。

◇Things that make you go hmm: GlobalFoundries hires ex-IBM chip fabber-There are rumours it'll buy Big Blue's chip plants-Ex-IBM exec joins GlobalFoundries as chip-sale rumors loom (7月10日付け The Register (U.K.))
→前senior IBM executive、Henry DiMarco氏が、現在GlobalFoundriesの従業員になっており、Albany, N.Y.近くのFab 8製造&開発拠点の設計および建設を監督支援の旨。IBMが半導体製造事業をGlobalFoundriesに売却するという憶測が強まるなかの動きの旨。

◇GlobalFoundries hires former Intel, IBM workers for Malta, NY plant (7月10日付け Albany Business Review)

【Samsungの減収減益】

各地域各様の激動に注目させられているが、何と言ってもSamsungの9年ぶりの減収減益に、世界的な驚きの反応が以下の通りである。

◇Samsung Electronics says second quarter operating profit likely fell 24.5 percent (7月7日付け Reuters)

◇Samsung Sees Phone Rebound After Earnings Miss Estimates-Samsung predicts growth after Q2 decline (7月8日付け Bloomberg)
→Samsungの第二四半期earningsはアナリスト予想を下回ったが、同社は第三四半期は力強いと見ている旨。

◇サムスン電子、4−6月期営業利益7兆2000億ウォン…前年同期比24.5%減少 (7月8日付け 韓国・中央日報)

◇韓国サムスン、大幅減益…スマホ出荷が1割超減 (7月8日付け YOMIURI ONLINE)
→韓国サムスン電子が8日、2014年4〜6月期連結決算の見通しを発表、売上高が前年同期比9.5%減の52兆ウォン、本業のもうけを示す営業利益が同24.5%減の7兆2000億ウォン(約7260億円)と大幅な減益、営業利益が8兆ウ ォンを下回るのは2012年4〜6月期以来の旨。聯合ニュースによると、収益の柱であるスマートフォンの4〜6月期の出荷量が前年同期比10%以上減少する見込み、中国メーカーの安価な製品との競争激化やウォン高による影響が広がっている旨。

◇「巨人」サムスン変調、9年ぶり減収減益、低価格スマホ台頭、先端部品調達も難航 (7月9日付け 日経)

韓国の製造業界も早速敏感な反応の以下の表わし方である。

◇韓国の製造業界は“チャイナパニック”…「日本と中国に押されかねない」 (7月9日付け 韓国・中央日報)
→韓国の製造業界が「チャイナパニック」に包まれた旨。レノボと小米、華為のような中国のIT企業が先端プレミアム製品と洗練されたマーケティングを進め、これまで力を入れて積み上げてきた「メイド・イン・コリア」の牙城が揺れている旨。韓国製造業界の“国家代表”であるスマートフォンについて、サムスン電子とLG電子が超高解像度(QHD)ディスプレイを盾にプレミアムフォン市場だけで善戦しているが、爆発的に大きくなっている中低価格普及型市場では中国企業に押されている旨。こうした現実は8日にサムスン電子が発表した第2四半期業績速報値にそのまま反映された旨。

中国企業の台頭の一端として、華為技術(Huawei)の品質改善状況が以下の通りである。我が国も踏まえ、歴史は繰り返すという局面をまたまた感じさせている。

◇Digitimes Research: Hisilicon AP to give Huawei cost advantage in high-end mobile device market (7月9日付け DIGITIMES)
→Huawei(華為)の子会社、Hisiliconは長年applicationプロセッサを開発、当初の製品は電力消費対性能比が貧弱という問題があったが、Huaweiの戦略的支援およびR&D資源継続投資によりHisiliconの製品が改善されてきている旨。

【台湾勢の最高業績】

対照的に、台湾では過去最高を更新する業績発表が相次いでいる。6月販売高、第二四半期販売高と、SPIL、TSMC、UMCがアップルはじめモバイル機器活況による業績押し上げが顕著な結果となっている。

◇Siliconware sees revenues surge to new high in June-Siliconware says June sales were up 28% year-over-year (7月4日付け The Taipei Times (Taiwan))
→Siliconware Precision Industries Co(SPIL)の6月販売高が最高更新のNT$7.68 billion($256.9 million)、前月比3.51%増、前年同月比28.01%増、第二四半期売上げ総計がNT$21.92 billionとなって、第一四半期比22%増の旨。

◇SPIL scores all-time high revenues for 2nd-quarter (7月4日付け The China Post)

◇SPIL revenues hit new high in June (7月8日付け DIGITIMES)
→Siliconware Precision Industries(SPIL)の6月売上げが最高記録のNT$7.68 billion($256.61 million)、前月比3.5%増、前年同月比28%増。
第二四半期売上げがNT$21.93 billionに達し、前四半期比21.4%増。

◇TSMC Posts Record Quarterly Sales Ahead of New Devices-Apple helps drive TSMC to record Q2 sales (7月10日付け Bloomberg)
→Appleのタブレットおよびスマートフォンの新リリースに向けた半導体受注に助けられて、TSMCの第二四半期販売高が$6.1 billionと最高記録、以前の予想を上回った旨。しかしながらTSMCの中期的な伸びはAppleビジネスなしでは鈍化する可能性、長期の課題としてはコスト要因、IntelおよびSamsungからの競合がある旨。

◇TSMC June revenues down slightly, but 2Q14 sales hit all-time high (7月11日付け DIGITIMES)
→TSMCの6月売上げがNT$60.34 billion($2.02 billion)、前月比0.7%減、前年同月比11.7%増。2014年1-6月累計がNT$331.24 billion、前年同期比14.8%増。第二四半期売上げは前四半期比23.5%増のNT$183.02 billion、同社ガイドの$180-183 billionの上限に達するとともに最高の四半期figuresとなっている旨。

◇UMC June revenues hit all-time high (7月10日付け DIGITIMES)
→UMCの6月売上げがNT$12.41 billion($415.01 million)、前月比4%増、前年同月比15.3%増、同社月次最高を記録の旨。6月の力強さから第二四半期の売上げがNT$35.87 billionに達し、前四半期比13.2%増、同社ガイド11-13%の伸びを上回った旨。

【半導体製造装置市場】

SEMICON West(7月8-10日:Moscone Center, San Francisco)が開催され、恒例のSEMIの市場予測では、今年そして来年と二桁%増、立て続けの製造装置市場の伸びを期待するデータが以下の通り発表されている。

◇SEMI Forecasts Back-to-Back Years of Double-Digit Growth in Chip Equipment Spending (7月7日付け SEMI)
→SEMIが本日リリース、SEMI Capital Equipment Forecastの年央版。データ一覧、下記参照。
http://www.semi.org/en/sites/semi.org/files/images/1FForcastMidYearChartForPR20140707_0.jpg

◇Trade Group Sees Better Times for Chip Industry Suppliers-SEMI Forecasts 21% Rise This Year in Production Equipment Purchases by Chip Makers-Analysts forecast robust growth for semiconductor equipment (7月7日付け The Wall Street Journal)
→SEMIの予測。半導体製造装置市場は、向こう2年は着実な伸び、今年21%増の$38.4 billion、2015年はさらに11%増と見ている旨。

◇SEMI forecasts double-digit business growth in 2014, 2015 (7月9日付け ELECTROIQ)
→SEMI発。半導体製造装置市場の2011〜2015年経緯&推移、地域別のグラフ&データ、下記参照。
http://electroiq.com/wp-content/uploads/2014/07/Forecast-graphic-1024x612.jpg

◇Global chip equipment spending looks to double-digit growth in 2014, says SEMI (7月10日付け DIGITIMES)

【ついに3D ICs到来】

同じくSEMICON Westに合わせた議論、発表と思うが、scalingそしてMoore's Lawの技術的、特に経済的な限界説が一層強まる中、ついに、まもなくという3D ICs到来の以下の見方に注目している。

◇3DICs Have Finally Arrived (7月8日付け ELECTROIQ)
→Intel, Samsung Electronics, およびTSMCが、三次元半導体に動いており、半導体業界の残りが3DICsに如何に移行するかは今時点まだわからない旨。Yole Developpementの評価では、外周光センサ、CMOSイメージセンサ、パワーアンプおよび慣性&高周波MEMSデバイスなど3DICおよび3D wafer-level chip-scale packages(WLCSPs)でのTSVsを擁する半導体valueは、2012年で$2.7 billion、2017年には約$40 billionになって半導体市場の9%を占めると見る旨。

◇Stacked Die Are Coming Soon. Really (7月10日付け Semiconductor Engineering)
→今すぐにもという予測の何年かを経て、経済性がついにvertical packagingの方を向いてきている旨。ここ10年の始め以来stacked dieが峠を越えたという多くの予測があるが、その峠を登るに要した時間は大方の予測よりは長くなっている旨。実際、Gartnerによると、TSMCは昨年来stacked die構築が完全にできており、リスク生産が1年ほどで完了見込みの旨。何か非常に基本的なものが14-nmの後変化しており、すなわち1965年以来のMoore's Lawを引っ張るコスト方程式である旨。それ以降は、単にfeatures縮小によって完全統合ASICsを進めることが一層大きく高価になっている旨。それは設計および統合面だけでなく、チップ寸法が増大して歩留りが急落、完全機能半導体製造をずっと高価にしている一方、層当たりのpatterningステップ数が新プロセスノードごとに増えている旨。

◇2.5 and 3DIC for those who can no longer afford scaling... and not only (I-Micronews)
→scalingの継続が大多数のメーカーにとって経済的に正当化するのが困難になってきて、半導体業界は、CMOS置き換えが実行されるまでのcustomizationオプションを提示するのに2.5 / 3D integrationに注目している旨。

装置メーカーからの3D向けシステムの発表も相次ぎ、以下はApplied Materialsの例である。

◇Applied Materials unveils CVD and CMP systems (7月8日付け ELECTROIQ)
→Applied Materialsが月曜7日、2つの新システム、Reflexion LK Prime CMPシステムおよびProducer XP Precision CVDシステムを発表、ともに3Dアーキテクチャーを擁するcomplexデバイス向けの旨。

◇Applied Materials introduces CVD, CMP systems for 3D architectures (7月10日付け DIGITIMES)


≪グローバル雑学王−314≫

バルカン半島での民族紛争を国際舞台で如何に衆目を浴びるようにするか、その情報戦のテクニックに、

 『国際メディア情報戦』
  (高木 徹 著:講談社現代新書 2247) …2014年1月20日 第1刷発行

より迫っていく後半である。「サウンドバイト」に続いて、「バズワード」「サダマイズ」という3つの戦術キーワードが、ボスニア紛争の事例で如何に展開され働いたか、生々しい推移が以下に表わされている。日本ではPR(Public Relations)が根づかず、メディアの報道を動かせるという意識が少なくとも日本の中にはまだあるのでは、という問題意識が提示されており、小生なりいくつかの例に思い当たるところである。


第1章 情報戦のテクニック −ジム・ハーフとボスニア紛争

2 「民族浄化」の誕生

□バズワードとは何か
・ハーフが好んで使う表現に「ワシントンを動かす三角形」
 →パワーゲームの三極:ホワイトハウス、議会、メディア
・ハーフの特別に優れているところ
 →メディアへの戦略が図抜けている
・バズワード …蜂が「ぶんぶん」飛ぶときの擬声語のbuzzから来た言葉
 →うるさいほどにメディアを騒がす流行り言葉

□「民族浄化」という言葉のパワー
・ハーフがボスニア紛争で行った情報戦
 →白眉と言えるバズワードは「民族浄化」(ethnic cleansing)
・ハーフ曰く、「私たちの仕事は一言で言えば『メッセージのマーケティング』です」
・当時ハーフたちが、メディア向けにボスニア紛争の情報を提供した「ボスニアファクス通信」(電子メールの直前の時代)
 →メガメディアの「急所」に位置するジャーナリストたちに送り続けた

□メディアの誰をおさえればよいか
・こうしたメッセージを送る相手の「リスト」の質
 →PRエキスパートにとって致命的に重要
・見事におさえられていた各社の「デスク」クラス
 →張り巡らされた人脈網は普段からのハーフの努力の賜物

□見事な人心掌握術
・取り上げてくれたプロデューサー、新聞記者などに、ひとりひとり、「礼状」
 →これでもかとばかりの賛辞
 →人間心理が相手の商売である以上、こうした泥臭い努力の積み重ねも重要
・(著者)自身も忘れられないハーフの一言、「あの有名なNHKからですね」
 →普段海外でNHKですと言っても、「それ何?」という顔
 →心の間隙を突く言葉
・インタビューが土曜や日曜であっても、ハーフは一人会社にやってきて対応

□西欧社会の深層心理に訴える
・元をたどれば、第二次世界大戦中に同じバルカン半島で起きた民族紛争にて
 →現地のセルボ=クロアチア語の語彙として生まれた言葉が、「民族浄化」
・欧米人のトラウマを刺激するのに最も効果的な方法
 →西洋史の永久に残る汚点、ナチスのユダヤ人虐殺と同じようなことが起きている、と主張すること
・ハーフは決してセルビア人の行為を「ナチスのようだ」とか「ホロコーストの再来だ」と言って非難することはなかった
 →その代わりに別の言葉である「民族浄化」を採用、繰り返し使うことで、同じ効果を上げた

□言葉の誘惑
・ハーフの「通信」を送られたテレビ局や新聞
 →「民族浄化」というパワフルな言葉の繰り返しは、無視するには刺激が強過ぎた
 →彼ら自身が使いたくなる"魅力的"な「バズワード」が、メディアの人々の脳裏に刻まれていくだけでも十分な効果
・数ヶ月経つと、メガメディアの報道に、この言葉が洪水のようにあふれ出るように
 →20世紀終盤最大のバズワード、「民族浄化」の誕生

3 敵には容赦しない

□サダマイズ
・当時ユーゴスラビア駐在のアメリカ大使、ウォーレン・ジマーマン
 →「我々はミロシェビッチを『サダマイズ』することにした」
・「サダマイズ」→イラクの当時の指導者、サダム・フセインからきている
 →国際社会がほぼ一致して認める現代世界の極悪人の代表格
 →米国務省のみならず、ジム・ハーフがとったPR戦略のまさに中心的なもの
 →ミロシェビッチは、ハーフのあらゆる国際メディア情報戦のターゲット
・最近の例で言えば、リビアの元独裁者、カダフィも
 →以前は典型的な「サダマイズ」の対象として欧米メディアでの扱い

□ハーフの情報力
・ハーフへの取材をもとに、『戦争広告代理店』を(著者が)書いて出版
 →「情報の死の商人」という表現まで
 →講談社ノンフィクション賞を始めとする賞を受賞した
・実はハーフはこの出版のこともとうに知っており、その内容も細かいところまで把握
 →受賞のタイミングで、「おめでとう」ときた

□取材を許したハーフの思惑
・(著者が)そもそも、なぜ番組を作り、本を書くことができたか
 →ハーフが、書簡の数々、演説原稿、メディアに送ったメッセージ、さまざまな事務書類すべてを(著者に)公開
・このケースでは特殊な事情
 →ハーフとクライアントのシライジッチ外相は、その後けんか別れ
 →紛争の混乱の中、正式な契約書も交わされず、守秘義務が存在していなかった
・常に国際的なビジネスを展開するハーフ
 →自らの存在を日本、そして他の国々でもPRする手段として(著者を)利用できるかもしれないと考えたか
・おしつけがましい言葉は一切なく、人間心理を心得た「情報紳士」、ハーフの真骨頂

□ハーフの行為は非難されるべきか
・ハーフのやっていること、倫理的に許されることなのだろうか
 →ハーフは、「やらせ」「捏造」の類はしない
 →当時属していたルーダー・フィン社のフィン社長は、コンプライアンスの考えを先取り、社外の有識者も含めた「倫理委員会」を通した
・この背景に、アメリカのPR業界全体に影を落とした不祥事
 →湾岸戦争でのこと、別の大手PR会社が仕組んだ「やらせ」が暴露
・メディアの特性や人の心を熟知したテクニックで、情報戦を戦う
 →非難すべきことではないのでは

□国際政治の現実
・セルビア側もハーフと同じように国際メディア情報戦に売って出た
 →情報戦に負けることが罪、情報戦自体は当然のこと
 →ハーフにしてやられたセルビア側の首脳さえ、そういう認識
 ⇒現代の国際政治の現実

4 日本ではなぜPRが根付かないか

□「PR」は「宣伝」ではない
・「PR」という概念の本来の意味 …Public Relations
 →メディアや政策決定者、有権者の代表である議会、オピニオンリーダー などあらゆる対象と、さまざまな工夫と努力でコミュニケーションを重ね、世論を形作ること
・「でかい広告を載せるから、と言えばいい」
 →メディアの報道を動かせる、という意識が少なくとも日本の中にはまだあるのでは

□ジャーナリズムの約束事
・ジャーナリズムの現場
 →意図的な情報操作と思える場面に遭遇すれば、必ず戦うという価値観
・質問を制限、質問内容は事前に提出
 →こんなあからさまなやり方でメディアの情報操作ができると思っているとしたら
 →「PR戦略」など日本では成り立たないのは当然

□シンガポールの広報官
・NHKスペシャル「沸騰都市」でシンガポールのリー・シェンロン首相にインタビュー
 →このときの彼を支える官僚スタッフは、三十代半ばの目から鼻へ抜けるような理知的な女性官僚
・彼女は取材が終わるまで、日本語が話せることはおくびにも出さずに英語で通した
 →情報を扱う優秀な官僚というのはそういうことも

□リー首相への「奇襲」
・事前のリストには載せていない質問
 :「シンガポールは『明るい北朝鮮』と呼ばれていることをご存知です か?」
 →一見すると国際的で華やかな都市国家だが、国内では言論の自由やデモ
・集会の自由、選挙制度などの点で、強圧的とも言える面
 →立ち会っていた女性広報官、一瞬こわばらせる顔

□完璧な答え
・リー首相の切り返し
:「もしここが北朝鮮だったら、あなたはここにいられなかったはず」
 「シンガポールは世界で最も開かれた社会」
 →準備なしの質問に対する完璧な答え
 →短く印象的でわかりやすい表現で満ちているリー首相の言葉
・報道のルールを前提としたさまざまな駆け引きを潜り抜けて表現される言葉の数々
 →その現場こそが、現代の国際メディア情報戦の「戦場」

□「銃」より「カメラ」が狙われる
・戦場ではいまや、ジャーナリストが、「銃」を持つ兵士と同じように狙われている
 →2012年、シリアでの山本美香さんの悲劇
 →国際メガメディアでその非人道性を非難されることが目立っているシリア政府を支援する側が、海外のジャーナリストを狙った可能性
・世界の隅々で国際メディア情報戦の影響力はそこまで高まっている

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