我が国半導体メーカー・拠点を巡る相次ぐ激動、改めての思い
予定通りの運びではあるが、米国Micron Technology社によるエルピーダメモリの完全子会社化が完了して、DRAM世界トップのSamsung Electronicsにウェーハvolumeでは肉薄する規模のDRAMメーカーがスタートすることになった。圧倒的に少ないマスク枚数、小さなチップサイズでDRAM業界を驚かせたかつてのMicronを思い起こして、いよいよこれから一層絞られたプレーヤー間の新たな業界競合模様の展開である。相次いだ我が国の半導体メーカー・拠点を巡る激動を、そのような目でそれぞれに受け止めている。
≪業界模様の一大変貌≫
"Elpida is now Micron"とMicronの現在のホームページのトップページにあるが、本社工場があるIdaho州の州都、Boiseには1980年代後半から数回訪れたことがある。静かなこじんまりとした印象が残るが、地元紙は期待感を込めて早々と以下の見出しを掲げている。
◇Micron to close Elpida purchase by Wednesday (7月29日付け The Idaho Statesman)
当日の発表を受けて、各紙(誌)の受け止め、表わし方である。
◇Micron Closes Elpida Acquisition (7月31日付け EE Times)
→メモリ半導体ベンダー、Micron Technology社が、日本のメモリ半導体ベンダー、Elpida Memory社を買収する$2.5B取引契約の締結を発表、1年に及ぶ探求やりとりを完了の旨。Micronは水曜31日、Elpidaのequityの100%買収契約を締結、また、台湾のPower Chip Technology社からRexchip Electronics社の24%を買収する別の契約も完了の旨。Micronは今や、ElpidaのRexchipにおける65% stake含め、Rexchipの約89%をもつことになる旨。
◇Micron Seeks Profit Even in Worst of Times With Elpida Deal-Micron wraps up Elpida buy, hopes for consistent profitability (7月31日付け Bloomberg)
→Elpida operationsとともに、十分な規模、十分なリソースが備わった、とMicronのCEO、Mark Durcan氏。
地元紙はやはり一段の期待感の増幅が見られる感じである。
◇Micron gets a 'screamin' deal' with $2.5B purchase of Elpida (7月31日付け The Idaho Statesman)
◇Micron closes Elpida purchase (7月31日付け DIGITIMES)
◇米マイクロン、エルピーダ、全株取得へ (7月31日付け 日経)
→米半導体大手、マイクロン・テクノロジーが30日、会社更生手続き中のエルピーダメモリの完全子会社化が31日付で完了する見通しと発表の旨。昨年7月、マイクロンは総額2000億円でエルピーダ買収を決定、全株式を600億円で取得、完全子会社にし、残りの1400億円は、2019年までにエルピーダに生産を委託するDRAMの対価として払う旨。1年半前に経営破綻したエルピーダはマイクロン傘下のDRAMメーカーとして再建を目指す旨。
さて、落ち着いて見ると、DRAMウェーハvolumeのトップ3社の比較に改めて注目、今後のDRAM業界模様にどう変化が表われるかが的になる。
◇Micron and Elpida announce closing of sponsor agreement transactions (8月1日付け ELECTROIQ)
◇New Micron to see market share surpass SK Hynix, nearly on par with Samsung, says DRAMeXchange (8月1日付け DIGITIMES)
→DRAMeXchange発。Elpida Memory買収終結に伴って、新しいMicron TechnologyグループのDRAMウェーハvolumeが、次の位置づけになる旨。
Samsung Electronics 360,000枚/月
新Micron Technologyグループ 350,000枚/月
SK Hynix 270,000枚/月
社名も「Micron Memory Japan」が候補に挙げられているが、本当に新たなスタートである。
◇最先端DRAM量産、エルピーダ、年内に20ナノ、社名に「マイクロン」 (8月1日付け 日経)
→会社更生手続き中のDRAM大手、エルピーダメモリが、米半導体大手、マイクロン・テクノロジーの支援を受け、年内に回路線幅が20-nmの世界最先端製品の量産を始める旨。従来は25-nmが最高、より微細なチップで高い性能を発揮できるようになる旨。エルピーダは31日、マイクロンの完全子会社になったと発表、「マイクロン」を冠した社名に変更し、外資傘下で再建をめざす旨。
我が国半導体メーカー・拠点を巡る激動が、他にも次の通り相次いでいる。
まずは、Amkorによる東芝のマレーシア後工程拠点の買収である。
◇Amkor completes acquisition of Toshiba's Malaysian semiconductor packaging and test operations (7月31日付け ELECTROIQ)
→東芝とAmkor Technology社が本日、Amkorによる東芝のマレーシアでの半導体実装拠点、Toshiba Electronics Malaysia Sdn. Bhd.の買収が完了、と発表の旨。
◇Amkor completes acquisition of Toshiba's Malaysian semiconductor business-Amkor buys Toshiba Electronics Malaysia, adding IC packaging, test services (7月31日付け ZDNet)
◇Amkor completes acquisition of Toshiba packaging unit in Malaysia (8月1日付け DIGITIMES)
次に、Spansionによる富士通のMCUおよびアナログ事業の買収である。
◇Spansion completes acquisition of Fujitsu's microcontroller and analog business (8月1日付け ELECTROIQ)
→フラッシュメモリ-ベースembeddedシステムソリューション・プロバイダー、Spansion社が本日、Fujitsu Semiconductor Limitedのmicrocontroller(MCU)およびアナログ事業買収終結を発表、該合意のもとSpansionは約$110Mプラス在庫に約$38Mを支払う旨。
最後は、ルネサスエレクトロニクスの拠点閉鎖が以下の通り進められている。一段の構造改革による早期回復を願う一方、相次ぐ買収、再構築に伴なう余波への対応が、それこそ国を挙げて取り組むべき喫緊の課題にますますなっている、とまたまた改めての思いである。
◇Renesas plans to close major chip plant in Japan - sources-Sources: Renesas to shutter Japanese wafer fab that makes chips for Nintendo (7月27日付け Reuters)
→Renesas Electronicsが、任天堂などconsumer electronics顧客向けシステムLSI半導体を作っている山形県鶴岡市のウェーハ製造拠点を閉鎖、一方、子会社のRenesas Electronics Salesは来る10月1日付けで親会社と合併、他の子会社は統合される旨。
◇ルネサス、鶴岡など2工場を追加閉鎖、改革計画 (8月2日付け 日経 電子版)
→ルネサスエレクトロニクスが2日、主力の鶴岡工場(山形県鶴岡市)など2工場の閉鎖を盛り込んだ構造改革計画を発表、同社は国内に14工場を持つが、昨年7月に発表した計画と合わせ、合計5工場を3年以内に閉鎖する旨。家電向け半導体の生産能力を縮小、自動車・産業機器向け半導体に経営資源を集中させる旨。今回、新たに閉鎖対象となるのはいずれも半導体の回路を形成する「前工程」工場、ゲーム機向けシステムLSIを手がける鶴岡工場、パソコン電源向け半導体を生産する甲府工場(山梨県甲斐市)、滋賀工場(大津市)の一部ラインも閉める旨。
◇Renesas closing game console chip plant (8月2日付け ZDNet)
≪市場実態PickUp≫
我が国では半導体業界の大きな変化を余儀なくされるなか、台湾のファウンドリー、TSMCは、米国New York州で以下の通り人材採用活動を行っている。
IBMのレイオフのタイミング、Apple向けの新しい半導体fabと、いろいろ憶測を呼んでいる。
【TSMCの米国での採用活動】
◇Company recruits for Semiconductor jobs in Taiwan-TSMC comes to region to recruit employees (7月27日付け Poughkeepsie Journal)
→TSMCがこの週末、FISHKILLおよびAlbanyで半導体の世界の人材を求めて採用活動を行っている旨。IBM社がNew York州Dutchess Countyの697人の従業員に9月での解雇通告を最近行っており、TSMCの動きは時宜を得ている旨。
◇TSMC holds job fair in NY, fueling rumors of new US chip fab for Apple (7月30日付け Apple Insider)
インテルのモバイル向け半導体およびcontract manufacturingへのスタンスについて、率直に踏み込んだコメントが次の通りである。
【インテルの率直な弁】
◇Intel CFO Says Chipmaker Needs Mobile Product Wins-Intel gets it about the importance of mobile devices, CFO says (7月29日付け Bloomberg)
→IntelのChief Financial Officer、Stacy Smith氏。同社はこれまでスマートフォンおよびタブレットcomputersのsockets獲得ではうまくいっていない旨。結果として同社は、モバイル機器向け低電力半導体の生産に重点化している旨。そのような設計をターゲットにしており、社の全力および製造engineをフルに発揮して実際に重点化している旨。Intelは小さなシェアをもつために市場参入はしない旨。
◇Intel dabbles in contract manufacturing, weighing tradeoffs (7月29日付け The Oregonian)
→Intelは現在までcontract manufacturingについて、ニッチ市場に組して本当に大きい顧客は意図的に避けている旨。同社は、contract manufacturerたるために依然学んでおり、競合に向けて半導体を作ることはしない、としている旨。
本年の半導体販売高について、先行き不安も出ているなか、IDCは7%増と強気な読みを示している。$320Bと、$300Bの大台を大きく踏み出す結果は、ここ数年期待するところではある。
【本年7%増予測】
◇Chip Market Projected to Grow 7% (7月30日付け EE Times)
→International Data Corp.(IDC)からの最新予測。スマートフォンなどモバイルcomputing機器の伸びが大方引っ張って、2013年のグローバル半導体販売高が6.9%増、$320Bに達すると見る旨。2014年はさらに2.9%増の$329B、2012年から2017年にかけてのcompound annual growth rate(CAGR)は4.2%、2017年のグローバル半導体販売高が$366Bになると見通している旨。
◇IDC forecasts worldwide semiconductor revenue will grow 6.9% in 2013 (7月30日付け ELECTROIQ)
◇Chip market to grow 7% in 2013 (7月31日付け EE Times India)
◇Semiconductor revenues to rise 6.9% in 2013, says IDC-IDC revises semiconductor sales forecast upward for 2013 (7月30日付け DIGITIMES)
中国とEUの間のsolar通商係争が最近見られたが、米国そして中国でのpolysiliconを巡る通商の実態が次の通り表わされている。
【polysiliconを巡る通商】
◇Hemlock Semiconductor puts fortunes in hands of U.S. government-Meanwhile, massive Montgomery County plant sits idle -Hemlock looks to U.S. government to resolve polysilicon tariff issue (7月30日付け The Leaf-Chronicle (Clarksville, Tenn.))
→Hemlock Semiconductorが、米国から中国に輸出されるpolysiliconに最大57%課せられる関税問題を、アメリカ政府と中国政府が打開できるよう期待しており、「中国とEuropean Unionの間のsolar通商係争を決着させる両者の最近の合意は、米国政府が中国とのこれら通商問題の互恵打開にもっていく必要性を強調している」(Hemlockの親会社、Dow CorningのJoe Plahutnik氏)旨。
◇As solar panels pile up, China takes axe to polysilicon producers-Global solar panel glut has China's polysilicon producers facing closure (7月31日付け Reuters)
→中国のsolar-grade polysiliconを製造する40社のうち30社までが、世界的なsolarパネルの供給過剰のなか閉鎖に直面している旨。この動きで、中国のpolysilicon生産capacityが100,000 metric tons/年に減る可能性の旨。
≪グローバル雑学王−265≫
コンゴ民主共和国(旧ザイール)を例に、1990年代以降の民主化20年のよじれ現象のルーツを、
『新・現代アフリカ入門 −−−人々が変える大陸』
(勝俣 誠 著:岩波新書(新赤版)1423) …2013年4月19日 第1刷発行
より探っていく。この国の富が独立後半世紀経っても国民・市民にほとんど分配されることがない仕組みを、世界経済と「北」主導の国際的力関係の中で本書は明らかにしている。「独立」は与えるが、富の資源は渡さない、という真の「独立」を成し得ない経過、実態に暇がない感じ方である。
第3章 独立は誰のために
1 早すぎたのか、遅すぎたのか
□キューバン・ミュージックで始まった「独立」
・アルジェリアに次いで、アフリカで2番目の国土、赤道をはさんで広がるアフリカ中央部に位置
→コンゴ民主共和国(1971〜1996年は、ザイール共和国)
→7000万人近い人口、豊かな天然資源からして、本来大国の名にふさわしいはずの存在
・2009年の推計、同国の一人当たり国民総所得は100ドル弱
→世界の最貧国
・1959年1月、ベルギー国王は、コンゴに独立を与えると宣言
→当時のコンゴ人の独立に向けての喜びの歌
→今でも、1960年代のアフリカ諸国の独立を象徴する歌として広く聞かれる
→キューバン・ミュージックのチャチャのテンポ
・1960年6月30日、新しい国のリーダーが出席する独立式典でのそれぞれの演説
→ベルギー国王、ボーデゥアン
…ベルギーの残した諸制度をそのまま活用、性急な改革はしない方がアフリカ人にとって得策
→カサブブ大統領 …"与えられた独立"に感謝の意
□これだけは言いたかった
→ルムンバ首相 …何よりもコンゴ人が自ら多大な犠牲を払って勝ち取った独立であることを強調、屈辱的植民地時代を克明に描写
・旧ベルギー領コンゴの場合の独立
→旧宗主国と西側が開発投資した鉱物資源などのコンゴの富の配分に関しては、アフリカ人の関与はほとんど認めないというもの
□「独立」は与えるが、富は渡さない
・同国最大の鉱物資源、銅の産出地、カタンガ州
→州独立宣言からわずか11日目、特権維持を図ってベルギー軍が、一方的に同州の分離独立宣言
・続く8月9日、ダイヤモンドの主要産地、南カサイ州で独立を宣言
・1965年、冷戦下に西側への奉仕者として絶大な支援を受ける軍人モブツが、クーデターにより全権を掌握
・1961年1月、西側にとって危険人物とみなされたナショナリストのルムンバが、ベルギー当局と米国の了解のもとに殺害された
・1961年9月、事態の収拾に当たろうとした国連のハマーショルド事務総長、飛行機が墜落、死亡
・コンゴ動乱の後のコンゴ
→今日も現代史に名を残す未完の国づくりの典型例として残り続ける
2 欧米を信じたモブツ大統領
□冷戦が独裁大統領を生んだ
・30年以上にわたったモブツ体制下、フランスと米国は、旧宗主国であったベルギー以上に熱心にモブツ政権にテコ入れ
→冷戦下、この国の"スキャンダラスなまでの"豊富な鉱物資源を何としても東側に渡してはならないとされた
→米国とフランスの確執をも超えた西側同盟国としての了解
・コンゴの独立 →コンゴ動乱を経て、親欧米モブツ体制のもとで、欧米によって"外から支えられた"独立
□国家はこうして崩壊する
・政治と経済の破局が同時進行する国が多いアフリカ。以下、ザイール(コンゴ)の例。
・第1の兆し:国家財政の完全なる破綻
→1992年、IMFとの関係はほとんど断絶。世界銀行も1994年初頭に、駐在事務所を閉鎖。
→欧米日からの新たな資金の流入は得られないことを意味
・第2の兆し:公共と名のつく住民へのサービス機能がほとんど停止
・第3の兆し:軍と警察という治安機構が、「合法的」暴力犯罪組織に
・第4の兆し:国内交通網が未発達、領土の実質的分権化が進行
□それでもザイールは残る
・モブツ体制が持続不可能な体制であること
→冷戦崩壊後の1990年代にある程度予想
・2つのモブツ排除のシナリオ
→第1:大都会で準備された反モブツ民主化運動
□森で準備された反モブツ運動
→第2:東部からの反政府武装組織の侵攻
・モブツ体制の崩壊は、意外にも上記第2によって実現
・1997年5月、新政権樹立、国名を「ザイール共和国」から「コンゴ民主共和国」に戻す
・国内が不安定なのに乗じて旧ザイール天然資源の収奪が、周辺国によってあまりに無秩序かつ大規模に実施
・欧米先進国のイニシアチブにより、合法的な枠組みで世界市場に供されるべきというコンセンサスの高まり
・2006年、カビラ政権が誕生、第二の民主的国造りの幕が開いた
・かくして、独立以来の数々の内戦を経て、膨大な国際的支援のもとで、国際社会の一員として再登場することに
□万国は協力してこの国の富を分かち合おう
・コンゴの富は万国が利用できるようにする
→領有権が欧米列強によって認められた1885年のベルリン会議から、2006年に発足したコンゴ民主共和国まで
→果たして何が変わって、何が変わらなかったのか
→世界の大企業が堂々とこの国の好きな富を好きなだけ持ち去る体制
・「独立」とは、自国の富を自国民が、自国民の福祉と産業の発展のために利用する能力と決定権を掌中に収めること
→コンゴは独立国と言えるのだろうか