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Mobility時代への岐路、Apple、インテル、それぞれの選択

パソコンからモバイル機器への急激な流れのなか、代表する大手の設計および製造の今後の方向性を巡る取り沙汰が喧しくなっている。Appleは、自前のfabを手に入れて自分ならではの半導体を作るか、ファウンドリー委託先をさらに増やすかの分かれ道が見られる。一方、インテルはパソコンの低迷が色濃く表れる業況を発表、モバイル巻き返しにかけてパソコンとのツートッププロセッサ戦略という軸足転換を打ち上げている。肝心の市場では、ハイエンドのスマートフォンの売れ行きが思わしくなく、新興経済圏のGDPの伸び率低下が進むという難しい追い打ち局面を呈している。

≪設計、製造の方向性≫   

Apple社が自前で半導体を作るという動きが、まず次のように伝えられている。

◇Apple Reportedly Buys Into a Chip Fab, Looking to Produce Its Own Chips (7月12日付け Mac Rumors)
→SemiAccurate発。Appleが、自前のsupply chainをコントロールする活動を立ち上げ、自分の半導体を作ろうと求めている旨。

これに続いて、ファウンドリー委託先を今後SamsungからTSMCに重点傾斜していくという動きが専らであったApple社であるが、こんどは新たにGlobalFoundriesを委託先に加えること、そしてSamsungとは14-nmプロセスのA9プロセッサ製造契約を完了した、という目まぐるしい展開が表われてきている。

◇Apple reportedly signs Samsung for next-gen iPhone chips-South Korean electronics giant will supply Apple with A9 chips that will be used in a future iPhone, the Korea Economic Daily reports. -Report: Apple may invest in a GlobalFoundries fab (7月14日付け CNET)
→SemiAccurate website発。Appleが、Samsung Electronics製半導体への依存を減らす1つの方法として、New York北部のGlobalFoundriesのウェーハ製造拠点へのequity投資を行うことを検討している旨。一方、Korea Economic Dailyによると、AppleとSamsungが2015年から、14-nmプロセスでAppleのA9プロセッサをSamsungが製造する契約を完了している旨。

この新たな展開の2件について、以下各紙(誌)の受け取り、表わし方である。

◇Apple, Samsung Reportedly Ink 14-nm Foundry Deal (7月15日付け EE Times)
→Korea Economic Daily発。Samsung Electronics Co. Ltd.が、週末に調印した取引により今後のApple社のiPhonesおよびiPadsに向けて14-nmプロセッサを作る旨。Samsungは、2015年からFinFETプロセス技術でAppleに向けて14-nm A9プロセッサを製造、該A9はAppleのiPhone 7で用いられる旨。

◇Why GlobalFoundries Should Appeal to Apple (7月15日付け EE Times)
→Appleへのプロセッサ供給を巡る交渉に今やGlobalFoundries社が含まれるという憶測がある旨。

◇Apple reportedly signs Samsung for next-gen iPhone chips (7月15日付け CBS News)

◇Apple and Samsung ink deal for 14-nanometer iPhone 7 chips (7月15日付け VentureBeat)

◇Report: Apple goes back to Samsung for iPhone chips (7月16日付け EE Times India)
→Apple-Samsungの関係が、いくつかのメディアoutletsが報じているようにはこじれていない様相の旨。ここ数ヶ月、AppleがSamsungとの結びつきを厳しくして半導体パートナーとしてTSMCの方を選んでいる、とのいくつかのメディア報道がある旨。しかし最新のニュース報道として、Apple社が韓国のライバル、Samsung Electronicsとの連携を更新、としている旨。
The Korea Economic Dailyによると、SamsungがAppleにiPhoneプロセッサを供給するという新しい契約をAppleがSamsungと調印している旨。2015年からSamsungはAppleのiPhone 7で用いられる14-nm A9半導体を供給、該半導体はSamsungの14-nm FinFET技術を用いて作られる旨。

自前fabについて、賛否両論分析が次の通りである。

◇The pros and cons of Apple building its own chips (7月17日付け DIGITIMES)
→Digitimes Researchの半導体アナリスト、Nobunaga Chai氏。Appleが自前の半導体fabで自分のsiliconを作れば、同社にとって直面するリスクの方が利点より大きい旨。しかしAppleがfabをもたなければならないとなると、New YorkのGlobalfoundriesのFab 8か、同じ市に位置するIBMの300-mm(12-インチ)半導体工場、B323のいずれかが、ほかのfabsよりはAppleにとって有利な選択肢となる旨。

現下の市場では、Apple社からの第三四半期の発注が前四半期比倍増しているという台湾からのsupply chain情報である。

◇IC orders from Apple ramping up-Sources: Apple boosts chip orders for iPad, iPhone (7月17日付け DIGITIMES)
→Appleのsupply chainパートナー筋発。今年の新しいiPadおよびiPhoneモデルの予想される展開に先行して、Appleが、今四半期の半導体発注を第二四半期に比べてほぼ倍増させている旨。iPhone向けの半導体の第三四半期出荷が40M個にこの筋では達している旨。一方では、Appleが、Samsung Electronicsに加えてGlobalFoundriesあるいはIBMをSiファウンドリーとして選びそうという憶測がある旨。

スマートフォン市場の今後に向けての拡大ぶりが以下のように予測されている。中身の内訳はじめアップデートを頻繁に必要としそうな局面を孕んでの今後ということと思う。

◇Other Firms Prepare to Eat Apple's Lunch (7月19日付け EE Times)
→IHS社発。スマートフォン市場は、2012年の712M台から2013年には約897M台へ、2017年までには約1.5B台に倍増、該期間でcompound annual growth rate(CAGR)が15.8%と見る旨。
・≪グラフ≫ グローバルスマートフォン出荷台数:2012〜2017年:B台(Source: IHS)
http://img.deusm.com/eetimes/2013/07/1318969/091809_019021.jpg

一方、PCプロセッサのインテルについて、モバイルに傾斜していく戦略が避けられないなか、内包するリスク、そしてサーバプロセッサの強みで活路を見い出すことについて、次の論調が見られている。

◇Intel's mobile-chip strategy could be risky (7月14日付け The Seattle Times)
→PC販売高が次第に減少、Intelはもはや売上げの伸びを維持するために主要売れ筋半導体に頼ることはできない旨。しかし、アナリストはモバイル市場での足場を強めるのは危険が多いと警告している旨。それはモバイル半導体がPC半導体が売れるのとは1/5でしか売れないためで、Intelがモバイル販売を高めるとしても、その売上げは沈滞あるいは暴落する可能性の旨。

◇Intel Works to Expand Role for Server Chips in Mobile-Intel will mobilize server processors to tackle mobile data traffic (7月15日付け Bloomberg)
→Mercury Research発。Intelがグローバル市場での巻き返しを図ってスマートフォンおよびタブレットcomputersでのプロセッサsocketsを獲得しようとしている一方、モバイルデータセンターで使われるサーバに入るプロセッサについては圧倒的な市場シェアをもっている旨。同社は、ワイヤレス基地局での同社サーバ半導体の使用をテストするために、現在Nokia Siemens NetworksおよびSK Telecomと協働している旨。

この後発表されたインテルの第二四半期(4〜6月)業績は、パソコン低迷の度合いを映し出す厳しい内容となっている。

◇Intel Profit Falls Again on PC Slump-PC woes continue to drag on Intel's financials (7月17日付け The Wall Street Journal/Digits blog)

◇Intel Results Continue to Slide (7月18日付け EE Times)

◇米インテル純利益29%減、4〜6月、PC向け苦戦(7月18日付け 日経 電子版)
→半導体世界最大手の米インテルが17日に発表した4〜6月期決算。売上高が前年同期比5%減の$12.811B(約1兆2750億円)、純利益が同29%減の$2B、減収減益は4四半期連続になる旨。消費者がスマートフォンなどへの支出を優先し、パソコン販売が苦戦、主力のパソコン向けMPUが伸び悩んだ旨。

決算説明会での新CEO、Brian Krzanich氏の率直な弁、そして巻き返しを図る今後の対応戦略が次の通り表わされている。

◇The future is 'ultramobile:' Intel makes the PC persona non grata (7月18日付け PCWorld)
→Intelの新chief executive, Brian Krzanich氏。演説ではnotebooksには言及せず、desktopはもちろんのこと、パソコンについての唯一の言及は誤りを認めて「我々はultramobile PCの流れへの応答が遅かった」との弁、Intelの仕事の1つとして世の中の流れを入念に調べてそれに即応することと認めている旨。
(注) persona non grata=「好ましからざる人物」、外交用語の一つ

◇インテル、モバイル巻き返しへ、年内MPU刷新、PC用とツートップ戦略 (7月19日付け 日経産業)
→半導体最大手の米インテルがパソコンへの依存度を下げる取り組みを加速、5月に就任したブライアン・クルザニッチ最高経営責任者(CEO)が17日、就任後初となる決算説明会にて、モバイル機器向け半導体を主力のパソコン用と同列に位置付ける“ツートップ戦略”を表明、パソコン不振の直撃を受けている「名門」の再浮上は戦略の成否にかかっている旨。最大の経営課題であるスマートフォンやタブレットなどモバイル機器への取り組みについて「『アトム』にこれまでよりも力を注ぎ、『コアプロセッサー』と同等のプレーヤーとして扱う」と説明の旨。


≪市場実態PickUp≫

パソコン低迷の一方、モバイル機器の活況が続く中、PC用汎用DRAMからモバイルDRAMへの生産シフトが行われる状況が推測される。PC用DRAMの不足が伝えられる一方、モバイルDRAMもそう潤沢とはいえない状況があるのか、DRAM価格の上昇が続いており、第三四半期には前年同期比5割増の見方が出されている。

【DRAM価格】

◇DRAM Prices Improving Rapidly (7月16日付け EE Times)
→IC Insights発。DRAM半導体のaverage selling price(ASP)が、今年月ごと上昇しており、現在は2010年10月に見られた水準となっている旨。DRAM ASPsは引き続き第三四半期も上がって、前年同期比50%増、$2.53に達すると見る旨。
・≪グラフ≫ DRAM ASPs四半期推移&予測:2012〜2013年
http://img.deusm.com/eetimes/2013/07/1318936/193719_268453.jpg

◇Big gains forecast in quarterly DRAM ASP (7月16日付け ELECTROIQ)

◇DRAM price rises-IC Insights: Industry consolidation, reduced capex push up DRAM prices (7月17日付け Electronics Weekly (U.K.))

Micron Technologyから久々にという感じ方があるが、業界最先端プロセスノード、16-nmの128-Gビットmulti-level cell(MLC) NAND Flashメモリのサンプル配布が発表されている。業界最小という下りもあり、最近はますますシステム寄りになって引いた感じ方があるが、かつてのメモリ最先端競い合いを髣髴とさせるところがある。

【Micronの先行フラッシュ】

◇Micron Sampling 16nm NAND (7月16日付け EE Times)
→Micron Technology社が火曜16日、16-nmプロセス技術を用いて作った128Gビットmulti-level cell(MLC) NANDフラッシュ半導体のサンプル配布開始、solid state drives(SSDs), removable drives, タブレット, ultrathin機器, モバイルhandsetsおよびデータセンターcloudストレージなどの応用に向けている旨。該半導体は、mm2当たりのビット数が最大、および存在するどのMLCデバイスよりも低コストである旨。該新技術により、1枚のウェーハ上で約6TBが作り出される可能性の旨。

◇Micron unveils 16nm Flash memory technology(7月16日付け ELECTROIQ)
→Micron Technology社が本日、次世代16-nmプロセス技術、業界最小の128-Gビットmulti-level cell(MLC) NAND Flashメモリデバイスのサンプル配布を発表、該16-nmノードは先行するFlashプロセスだけでなく、どのサンプル配布半導体デバイスよりも最先端processingノードである旨。

◇Micron Unveils Industry's First NAND Flash Produced Using 16nm Process Technology.-Micron Reveals World's Most Advanced NAND Flash Memory Chips-Micron samples 128Gb MLC NAND flash made with a 16nm process (7月16日付け XBitLabs.com)

活況といってもいつまでも続くわけがない、という今まで繰り返す見方が、スマートフォンにも及ぶのではないか、慎重な気分にならざるを得ない以下の先行きである。ハイエンドのスマートフォンの売れ行き低調が根源のようであるが、利益率の高いハイエンド領域と爆発的な数量volumeゾーン、どう対応を選ぶか、上記のAppleとインテルの今後の動きに通じるところと思う。

【スマホ市場の先行き】

◇TSMC seeing orders slow down from some clients-Sources: Some TSMC customers reduce orders for wafer starts (7月15日付け DIGITIMES)
→業界観測筋発。high-endスマートフォン販売およびPC市場の低調な状況の渦中、TSMCが、Qualcomm, BroadcomおよびOmniVisionなど主要clientsのいくつかからの発注の速度が低下、最近ウェーハstartsを減らしている旨。スマートフォン、そのhigh-endのものも売上げが失望的になっている一方、PCs需要が依然冴えない旨。多くのbrandベンダーおよびcontractメーカーが、2013年の出荷予測を下方修正している旨。

◇Poor smartphone sales cast shadow on SPIL 2H13 sales (7月18日付け DIGITIMES)
→市場筋発。higher-endスマートフォンの売れ行きが思わしくなく、2013年後半のSiliconware Precision Industries(SPIL)の業績にマイナスインパクトとなる可能性の旨。

◇TSMC expects up to 5% revenue growth in 3Q13 (7月18日付け DIGITIMES)
→18日のinvestors conferenceにて、TSMCのchairman and CEO、Morris Chang氏。在庫調整がIC supply chainで行われ、TSMCの第三四半期売上げは、前四半期比3-5%増に留まると見ている旨。例えば、TSMCのファブレスIC顧客での在庫日数(DOI)が、3ヶ月前に第三四半期末時点で58日と予想したのが、今では71日に達する旨。


≪グローバル雑学王−263≫

最近でもチュニジアで起こったジャスミン革命を発端とする"アラブの春"が頻発して、エジプトでは今また世界を揺るがす暴動騒ぎが見られているが、

『新・現代アフリカ入門 −−−人々が変える大陸』
  (勝俣  誠 著:岩波新書(新赤版)1423) …2013年4月19日 第1刷発行

より、2回に分けてアフリカ大陸における民主化の経緯をひも解いていく。
様々な争い、旧宗主国の影響など、当初のシナリオとは程遠いそれぞれの「民主化」の実態を辿っている。


第2章 民主化の20年   ≪前半≫

1 経済の自由化から政治の自由化へ

□選挙ブームの20年
・1980年代末から1990年代初頭、各国独立後のアフリカ大陸で起きた第二の地殻変動
 →「民主化」という名の政治の自由化
・この民主化は以降、それぞれ実に多様な紆余曲折の経過
・20年経ってアフリカに出現しているのは
 →リベラル・デモクラシーの教科書的バラ色のシナリオとは程遠い世界
・しばしば暴力に充ち満ちたアフリカにおける民主化の20年
 →相次いだ選挙の栄光と悲惨の20年
・これらの選挙について、以下のいくつかの特徴

□争点なき選挙
・第1:争点が不明確、候補者の個人的資質ないしカリスマ性が投票行動に大きく反映
 →都市の若者層を中心に支持グループ間の暴力事件が頻発

□手続きと資格こそが勝利へのカギ
・第2:選挙の公示に始まって大統領が一国一名に確定されるに至るまで、制度の運用を巡る様々な争いが絶えない
 →選挙結果を巡って大規模な社会不安に陥った例:
 *2000年と2010年のコートジボワールの大統領選挙
 *2007年のケニアの大統領選挙
・第3:選挙権と被選挙権を巡って、国籍が厳しく問われ始めた
 →具体例:
 *ザンビア、1992年の大統領選
 *コートジボワール、1999年の大統領選
 *内戦末期のコンゴ民主共和国
 →今日では誰が本当の自国人なのかというアイデンティティを巡る論争が選挙戦の勝利法の1テクニックないし裏技に

□繰り返される憲法改正
・現代アフリカの憲法の特徴
 →時の権力者が自らの権限を拡大させるために、議会の多数派工作や国民投票でいとも簡単に改憲へ
・政権維持のための政争にうんざりし、政治不信を持つ人々が選挙そのものに関心を示さなくなることも

□選挙をしないと援助がこない
・冷戦後のアフリカの民主化
 →選挙がしばしば欧米諸国の強い圧力と資金援助の下で実施されてきた
  →自国の選挙の実施が、援助外交の取引対象に
・国政選挙が対外従属を強化するプロセスになることへのアフリカ側からの危惧

□選挙では見えない社会のロジック
・市民社会の広範なダイナミズムが不可欠に
 …選挙プロセスに対する広い理解と信頼
  自由な報道
  民衆レベルかつ地域言語でのニュースと解説 など

2 ジンバブエの政治経済危機

□構造調整と選挙
・1980年、多数派黒人による国家として誕生したジンバブエ、旧ローデシア
・民主化が本格的に語られ出したのは、1990年代に入ってからのこと

□社会的混乱から逃げる人々
・公衆衛生制度の破綻、2008年1年間で100万人以上の住民がコレラに感染、4000人以上が死亡
・失業率は8割以上、人口の4分の1とも推定される300万人以上、南アフリカやザンビアなどの近隣諸国に流出
・2009年2月に一応、連立政権が発足
・暴力と経済の崩壊の中で展開したこの国の危機状況をどう説明?
 →1.ムガベ(1980年初代首相就任、2008年5選、現在まで)が南部アフリカ現代史のなかで果たしてきた歴史的役割に対する評価
  2.旧宗主国英国によるジンバブエ土地問題の公約不履行

□南部アフリカでのムガベ像
・ムガベが、アフリカ全体でも数少ないカリスマ的アフリカ人リーダーの1人
・南アフリカの反差別運動に対するムガベ大統領の揺るぎなき支援は、南部アフリカでのジンバブエの評価を確固たるものに
・分かりにくいムガベ独裁に対する欧米とこの地域の間の温度差

□残る英国の公約反故のツケ
・白人入植者の土地問題に対する英国の対応
 →1997年、英国のブレア政権は、土地改革支援の打ち切りを通告、歴代の政権が継承してきた公約を覆した
・ムガベ政権は2000年に、軍人や与党関係者と貧農への再配分を強行
 →貧農への補償なき土地接収自体は支持する、というジンバブエ人は今日でも少なくない
 →南部アフリカ諸国がムガベ政権を支持、欧米諸国が反ムガベ勢力を支持した「民主化のねじれ現象」の背景

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