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スマホ・インパクトの陰で、高まる追い上げ、一方、危機感

スマートフォン用プロセッサ受託製造対応が引っ張って、ファウンドリー最大手、TSMCの5月販売高が最高を更新、前年同月比17.2%増と勢いが続いている。そのようななか、インテルからは、モバイルも含めたプロセッサ製品ラインの整備、AMDはゲーム機CPU、Broadcomは市場最高性能の通信用プロセッサの打ち上げと、新たな市場開拓に向けた追い上げが高まってきている。一方、半導体市場、そして世界経済と全体で見ると停滞感が否めないところがあり、危機感の警鐘が随時聞こえてくる受け止めである。

≪盛り返しを求める & 図る動き≫   

TSMCの5月売上げが最高を更新、今後もこの勢いが引き続く予測が見られている。

◇TSMC, UMC post revenue growth in May 2013-Big Taiwan foundries grew revenue for May (6月10日付け DIGITIMES)
→TSMCの5月販売高NT$51.79B($1.74B)、前月比3.4%増、前年同月比17.2%増。5月販売高は新記録、4月および5月合計でNT$101.86B。第二四半期は、前四半期比約17%増、NT$154-156Bを見込む旨。
UMCの5月販売高NT$10.86B、前月比5.7%増。4月および5月合計でNT$21.14B、2013年1-5月累計がNT$48.93B、前年同期比4.2%増。

◇TSMC sales hit record high in May (6月10日付け Focus Taiwan News Channel)

◇TSMC's sales stay strong in May (6月11日付け EE Times)

◇Foundry sales soar amid demand for smartphones (6月11日付け Taipei Times)
→中国でのスマートフォンおよびタブレットの力強い需要から、アナリストはTSMCの引き続く売上げの伸びを予測している旨。

しかしながら、TSMCの総帥、Morris Chang氏からは、特に台湾経済について危機感が次の通り表わされている。

◇TSMC head worried by economic outlook (6月12日付け The China Post)

◇台湾積体電路製造董事長、張忠謀氏―台湾にも「3本の矢」必要(Voice) (6月13日付け 日経)
→台湾積体電路製造(TSMC)の張忠謀董事長(Morris Chang氏)が株主総会にて。「台湾経済の先行きはあまり楽観できない。台湾の実質域内総生産(GDP)は毎年5%前後の潜在成長力があるはずだが、2013年の前年比成長率は2%台にとどまる見通し。半導体需要は好調だが、その他の製品や民間消費が勢いを欠く。日本の安倍晋三首相の『3本の矢』のような大胆な政策が必要だ。転機がなければ台湾は潜在成長力を下回ったままだ。」

半導体販売高も世界全体で見ると、停滞感が否めず、パソコンの低迷をスマートフォンはじめモバイル機器が埋めているものの十分ではない様相がある。先進経済圏で見ても、成長力が鈍化しており、市場を活性化するイノベーション創出を求める報告が内閣府からも出されている。

◇主要先進国、成長力が鈍化=技術革新が復活の鍵 - 内閣府報告 (6月9日付け 時事通信)
→内閣府が8日、海外経済の動向を半年ごとに分析する「世界経済の潮流」を公表、主要先進国の成長力が金融危機以降に鈍化していると分析した上で、「復活」の鍵はイノベーション(技術革新)にあると指摘した旨。2008年の金融危機後、日本や米国、ドイツなど主要先進国の成長率は総じて低下、イノベーションによる生産性を表す指標である全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)の伸びが、危機以前に比べ鈍化したことを主因に挙げた旨。その上で「イノベーション創出はわが国をはじめ、先進主要国の今後の成長のための共通目標だ」とし、民間の活力を最大限発揮させる必要性を強調した旨。

スマートフォンに向けた半導体設計市場についても、ARMの席巻に対して以下の対抗する打ち上げである。

◇Imagination targets ARM's smartphone chip monopoly-Imagination will challenge ARM in smartphone IC designs (6月9日付け The Telegraph (London))
→MIPS Technologiesを買収しているImagination Technologies Groupが、スマートフォンに入る半導体設計についてARM Holdingsへの対抗心がますます高まっている旨。1社で90%のシェアというのは本当に異常、2018年までに30%の市場シェアを目指す、とImaginationのCEO、Hossein Yassaie氏。

スマホに留まらず市場の盛り上げを図る各社の動きが見られており、まずはインテルに対抗、高性能ゲーム機市場に特に注目するAMDである。

◇AMD tips 5 GHz gamer CPU, filling Haswell hole-AMD pushes 5 GHz processor for gamers (6月11日付け EE Times)
→Advanced Micro Devices(AMD)が、初の5-GHz PCプロセッサを出荷、宿命のライバル、Intelに勝って先行の旨。AMDは、今夏システム出荷するeight-core AMD FX-9590を擁してcomputer gamersのひたすら性能を追及する市場を目指す旨。この発表はIntelが次世代プロセッサファミリー、Haswell発表(先週1日1.参照)して数日後のこと、当初は1.7〜3.9-GHzに及ぶ51 versionsがある旨。

Broadcomからは市場最高性能の通信用プロセッサが展開されている。

◇Broadcom hits tera-ops with comms processor (6月12日付け EE Times)
→Broadcom社が、NetLogic買収でテコ入れ、市場最高性能と目される通信用プロセッサを展開、このXLP980は宿命のライバル、Cavium Networksを飛び越えてtrillionネットワークoperations/secを初めて扱えるようになる旨。該28-nm半導体は、160-Gbits/sまでのスループットを引っ張るよう20 quad-threaded, out-of-order MIPSコアを用いている旨。

巻き返しを引っ張るインテルについて、プロセッサ性能がARM設計ベース品を上回るというベンチマーキング結果が見られている。

◇Intel processor outperforms Nvidia, Qualcomm, Samsung (6月12日付け EE Times)
→Allied Business Intelligence社(ABI Research)発。インテルのZ2580アプリプロセッサ、発表前のコード名CloverTrailが、ベンチマーキングexerciseで競合のプロセッサを上回った旨。インテルのスマートフォンア
プリプロセッサは電力消費の大きな低減に成功、ARM Holdings plc(Cambridge, England)からライセンス供与されたARMアーキテクチャーに基づく相当品に今や匹敵、しばしば優っている旨。
・≪表≫ 携帯電話性能の比較 Source: ABI Research
http://eetimes.com/ContentEETimes/Images/news/21030612pcABIcloverTrail1200.jpg

Appleのannual Worldwide Developer Conference(WWDC)(6月10-14日:サンフランシスコのMoscone West)においても、インテルの新プロセッサの高性能ぶりが以下の通り表わされている。

◇New Haswell-based MacBook Airs offer faster graphics, all-day battery life-Apple says 13" model will get 12 hours of battery life on a single charge.-"Haswell" processors will keep new MacBook Airs running all day (6月10日付け Ars Technica)
→Intelの新しい"Haswell"プロセッサを装備したMacBook Air laptopsは、電池の再充電なしで9-12時間動作可能、グラフィックス速度は40%高速になり、low-power状態がよりスマートである旨。


≪市場実態PickUp≫

従来のTSMCからファウンドリー委託先にインテルを加えると発表しているAlteraから、2014年のFPGAs製品展開計画が次の通り表わされている。

【Alteraの2014年FPGAs計画】

◇Altera tips plans for 20, 14nm FPGAs in 2014(6月10日付け EE Times)
→Altera社が、TSMC 20-nmおよびIntel 14-nm技術にそれぞれ基づくmidrangeおよびhigh-end FPGAsを来年サンプル出しする旨。同社は、20-nmプロセスArria 10製品を発表、Intelプロセスを用いるStratix 10について期待するcapabilitiesの概略を述べた旨。

◇Altera Corp introduces Generation 10 FPGAs and SoCs (6月10日付け ELECTROIQ)
→当初のGeneration 10には、Arria 10およびStratix 10 FPGAsおよびembeddedプロセッサSoCsがある旨。

Yoleからも先般発表されていたが、IHSから2012年MEMS業界ランキング模様が発表されている。STとBoschが首位を分け合う見方となっている。

【2012年MEMS業界】

◇Bosch and STM hold joint honors as No. 1 MEMS suppliers for 2012 (6月11日付け ELECTROIQ)
→IHSのMEMS Competitive Analysis Report発。2012年のMEMS業界、ドイツのBoschとFrench-ItalianのSTMicroelectronicsが、サプライヤ売上げランキング首位の座を分け合った旨。
・≪表≫ 2012年IDM & ファブレスMEMSサプライヤ・トップ20
http://www.electroiq.com/content/dam/eiq/online-articles/2013/06/mems%20suppliers.jpg.png

◇ST, Bosch in dead heat for MEMS market lead (6月12日付け EE Times)
→InvenSense社(Sunnyvale, Calif.)の売上げが2012年30%伸びて$186M、IHS iSuppliが"これまでで最も成功しているMEMS startup"と宣言、しかし急速な伸びにも拘らず2012年のMEMSサプライヤランキングでは同社は13位、該市場が健全な足取りで伸びている旨。

◇MEMS movers-Bosch, ST tied for top spot in MEMS market in 2012, IHS says (Electronics Weekly (U.K.))

◇MEMS Ranking: ST, Bosch emerge joint winners (6月13日付け EE Times India)
→2012年のMEMS売上げ、BoschとSTが約Rs.4,309.78 crore($793M)でNo.1の座を分けている旨。

この第一四半期の世界半導体製造装置billingsが発表されているが、前年同期比32%減と大きく落ち込むデータとなっている。

【2013年第一四半期の世界半導体製造装置】

◇SEMI releases report on first quarter 2013 manufacturing equipment billings (6月11日付け ELECTROIQ)
→SEMIとSemiconductor Equipment Association of Japan(SEAJ)が共同で、月次データを供給するグローバル装置メーカー100社以上から収集したデータ。2013年第一四半期の世界半導体製造装置billingsが$7.31B、前四半期比8%増、前年同期比32%減。
・≪表≫ 地域別世界半導体製造装置billings (USB$)
http://www.electroiq.com/content/dam/eiq/online-articles/2013/06/semi%20figures.png

◇Global 1Q13 fab tool billings and bookings drop from year ago, says SEMI (6月13日付け DIGITIMES)
  
長らくパソコンが引っ張って半導体の応用分野を席巻していたコンピュータ用であるが、現下の市場状況を反映して今年は、通信用が僅かながらコンピュータ用を上回るという見方が出されている。

【コンピュータ用を上回る通信用】

◇Communications IC Market Forecast to Exceed the Computer IC Market for the First Time in History in 2013 -Total communications IC market expected to reach nearly $100 billion this year. (6月11日付け IC Insights)
→システム種別IC使用総計データ:2009年〜2013年(予測)
http://www.icinsights.com/files/images/bulletin20130611Fig01.png

◇Communications IC to overtake computer IC market-IC Insights: Comm chip sales to exceed computer chip sales this year (6月12日付け EE Times India)
→IC Insightsの"IC Market Drivers 2013-A Study of Emerging and Major End-Use Applications Fueling Demand for Integrated Circuits"レポート最新版。notebook computer IC市場の売上げが引き続き低迷、通信用半導体市場が、史上初、PC半導体を上回っている旨。今年の通信用半導体販売高が$99.4B、対してcomputer用半導体販売高は$98Bと見ている旨。


≪グローバル雑学王−258≫

希ガス(rare gas)、不活性ガス(inert gas)という呼び名に長らく親しんでいる感じがある第18族元素について、

『元素周期表で世界はすべて読み解ける 宇宙、地球、人体の成り立ち』  
  (吉田 たかよし 著:光文社新書) …2012年10月20日 初版1刷発行

より、ヘリウム、ネオン、アルゴン、・・・とそれぞれの美しい魅力と貴重な応用に迫ってみる。かつては化合物が知られていなかったために不活性ガス類という呼ばれ方があったが、今日においてはグループの属性を正しく言い表していない、とネット百科事典より認識を改めている。

※元素周期表として、理化学研究所 仁科加速器研究センターからの次の例がある。
http://www.rarf.riken.jp/enjoy/images/genso.pdf


第6章 美しき希ガスと気体の世界

□希ガスは満月と同じ美しい軌道をもつ
・周期表の中で縦方向の美しさを代表 …グループ18の希ガス
 →最も外側の軌道は電子がすべて満席の状態
  →元素の外見も満月そのもの、美しいと言える
・希ガスは、原子1個が単独で気体
 →他の原子と反応しないだけでなく、希ガス同士も反応しない

□絶対爆発しない優良気体 ヘリウム
・現在利用されているヘリウムのほとんどは、天然ガスから取り出されたもの
・化合物をつくらず、希ガスであるヘリウムの安全性は百点満点
 →飛行船や気球には、値段が高くても利用せざるを得ない

□研究者たちが恋焦がれた待望の元素 ネオン
・ネオンは、新しいという意のギリシア語「NEOS」が語源
・メンデレーエフが周期表を発見した1869年、希ガスの元素はいずれも未発見
 →その後、イギリスの化学者、ウィリアム・ラムゼーが、ヘリウムとアルゴンを発見
  →周期表に希ガスの列
・ヘリウムとアルゴンに挟まれた2行目の空席
 →ラムゼーが探し続け、感激を込めてネオンという名前に

□花粉症患者の救世主 アルゴン
・アルゴン(Ar) …窒素と酸素に次いで大気中に3番目に多い元素
 →蛍光灯に使われているのは、放電を起こしやすくするため
・花粉症の治療に使われる元素
 →プラズマ状態にして、鼻の粘膜に吹きつけると、短時間に治療

□小惑星探査機はやぶさの陰の立役者 キセノン
・クリプトン →アルゴンと同じように白熱電球に利用
 →アルゴンよりフィラメントが長持ち
  →値段も高く、高級なシャンデリアなど
・キセノン →はやぶさを地球まで届けてくれたエンジンの推進剤
 →グループ18の中で特に重いキセノン、探査機のエンジンにはおあつらえ向き

□ラドン温泉は健康によい?
・希ガスの中で最も重い元素、ラドン(Rn)
 →常温で気体となる最も重い元素、通常は鉱物に
  →鉱物の中に少量のラジウム、これが崩壊してラドンが発生
・昔から、線量が少なく一時的であれば多少の放射線はむしろ健康に望ましいという学説
 →「放射線ホルミシス効果」
 →どちらが正しいのか学会で論争、当分結論は出ない

□声の高さは気体の重さで決まる
・ヘリウムガスはパーティグッズとして販売(酸素が混ぜられている)、吸い込んで声を出すと甲高い変な声が出る
 →ヘリウムが軽い気体ゆえ
 →純粋に、声の高さは気体の重さに左右される
・空気以外に安全に吸える気体は希ガスだけ

□職業ダイバーを支えるヘリオックス
・ヘリウムと酸素の混合ガス、ヘリオックス
 →潜水ダイバーの窒素酔いや減圧症といった症状の防止

□ヘリウムは美しい球体
・ヘリウムは、前後も左右も上下もすべて対称的な完全なる球形
 →電子が定員満席状態、完璧な安定性

□キセノンは理想的な麻酔薬
・安価に入手可であれば、キセノンが代表的な麻酔薬に
・窒素酔いを予防するための気体の条件
 →1.電子の軌道の定員がいっぱいであること、つまり周期表の最も右側にある元素
  2.最も小さい元素、つまり周期表の最も上段にある元素
 →まさにヘリウムのこと
・典型元素の中でも最も縦一列が似通っている希ガス
 →典型元素の中の典型元素

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